匠達はまず自分達を追ってきた大天使を相手にすることにした。先ほどの裁判所にいた中では最も下っ端で最も数が多い大天使だが、それでも元々100体もいなかった上に、今はTOMによる施設破壊を食い止める天使の指揮を執る為に分散しているので、最初に辿り着いたのは僅か4体だった。
幾ら戦術に理解が無いとはいえ舐めすぎではないかと思える逐次投入ぶりだが、その慢心とも言える自信にも一応の理由がある。絶大な防御力だ。何しろスターリンに防壁の加護を与えたのは他ならぬ大天使なのだ。
まあ存在Xの使いとして存在Xの加護を授けただけなので大天使自身は自由に使えないという可能性もあったが、実際TOMの攻撃では1発あたりの放出エネルギー量が719PJにもなる8kg対消滅弾頭ミサイルですら大天使には効いていなかった。また、宇宙戦闘に比べると距離が近すぎるので、発射後に加速するベルカ砲は大した威力を発揮出来ない。
この防壁の加護は防御力一点特化である代わりに物理攻撃はおろか術式による攻撃すら無効化するというかなり強烈な性能を持っている。これは恐らくルドラサウム世界の魔王や魔人が備える無敵結界並に強力だ。こんな無敵の軍団が地上に押し寄せたら、そりゃあ人間は絶望するだろう。
ただし下っ端の天使には同等の強固な防壁は展開出来ないようで、TOMの攻撃が多少は効いているようだった。それでも小国家単位で吹き飛ばす8kg対消滅弾頭で死なないので、やっぱり対峙した人間は絶望しそうだが。
そうして接近してきた4体の大天使がそれぞれ轟雷に対し攻撃を宣言した。
大天使「背教者どもめ、覚悟するがいい! ゆくぞッ! 超天使アトランタアターック!!」
最初の大天使は双剣を持ってターニャ機に急降下突撃を敢行した。
ターニャは魔導銃剣弐型2Mの魔導刃でそれをあっさり斬り捨てた。
大天使「超天使陽動ォッ!!」
同時に次の大天使はトピア機に突撃すると見せかけて回り込み斬りを行った。その身のこなしは鮮やかだが、陽動なのに自分で宣言してしまっては台無しだ。
当然トピアは回り込まれたのと逆旋回でヒルデブラント……の皮を被った原始的な水晶の槍2Mを振り回して大天使を叩き落とした。
大天使「超天使竜巻ィッ!!」
その次の大天使はスコア機の懐に入ると双剣を左右に突き出して回転し、竜巻を起こしながら急上昇した。
スコアは竜巻の中からファントムスパーク2Mで大天使を射貫いた。
大天使「超天使スピィィンッ!!!」
最後の大天使は頭上に交差した双剣をかざして軸回転しながらラリー機に突撃を敢行した。
まともに受けると面倒だと判断したラリーは、ゼニス2Mのジャグリングで回転軸の横から叩き落とした。
大天使「ばっ、馬鹿な!? 我らの無敵の護りがァーッ!?」
確かに加護防壁には普通の物理攻撃や魔法攻撃は効かない。しかし無敵結界が魔剣カオスや聖刀日光で突破出来るように、ターニャ達にも大天使の加護防壁を打ち破る攻撃手段がある。自分に掛かっている加護を転用して相手の加護防壁を中和することが可能なのだ。まあかつてターニャが惑星争奪戦で使おうとした際には、攻撃を実施する前に相手が降参して逃げてしまったので、残念ながら効能を確認することは出来なかったが、今回実際使ってみて効いたのだから問題は無いだろう。この技術を『加護転換』と呼ぶ。
そしてターニャが加護転換を試し始めたのは既に1年近く前だ。存在Xを警戒している匠達の中でも直接戦う意識がある戦闘班がターニャからその技術を習っていないわけがなかった。先ほど神の力が込められた手錠を壊したのも実は同様の原理だ。
この加護に使われている力、物理でも魔力でもない信仰を元とする神系統の力を何と呼ぶのかをアヌビス神や七圏守護神に問うてみた所、完全に統一されていたわけではないが、やはり『信仰力』と呼ばれることが多いようだった。
この信仰力は使い方によっては魔力同様に使い減りするので要注意だ。燃料ではなくエレニウム95式のように変換装置や触媒として使うと減りにくい。また、加護転換で信仰力を引き出す場合、当然元々の加護の機能の一部が低下するのでそれにも注意が必要だ。
ラリー≪ハッハー! 殴り返されると思ってねえ奴らを殴り飛ばすのはスカッとするな!≫
スコア≪体格差がありすぎてハエ叩きのようになってるがな。だが見た目に寄らず攻撃力がある。なるべく喰らわない方がいいぞ≫
トリオ≪防御同様に攻撃も信仰力で物理を無視しておるんじゃろうな≫
ターニャ「とはいえこちらも防御に加護転換を使うのは並列変換が面倒な上に攻撃力が半端にならざるを得ません」
マイン「複数同時に相手にする状況を考えると、攻撃を受ける前に手早く倒してしまう方が結果的に安全であろうな」
大天使を返り討ちにした轟雷の中でも唯一超天使竜巻を喰らったスコア機は剣先が掠めて少しだけダメージを受けていたが、それも修復装置の作用により数秒で治った。
しかし問題はダメージの多寡ではない。天使の身長が普通の人間と同じくらいで、その上司の大天使の身長は名前通りに天使よりやや大きい2.5m~3mほどだ。頭頂高215mの轟雷に比べるとカナブン程度のサイズでしかない。そのサイズ差でバリアまで抜いて轟雷の原子核パスタ装甲に損傷を与えたというのは驚嘆すべき事だ。恐らくは信仰力の影響だろう。そして大天使が轟雷にダメージを与えうるなら、上位天使や存在Xの攻撃力は決して侮れないだろう。
トピア≪しかし、ああ見えてコンバトラーのファンなんですかね?≫
サティ≪言われてみればあんな感じの技を使うロボットがいたわね?≫
トピアですらコン・バトラーVが由来だと思っており、他の誰も気付いていないが、今回の大天使の技は全部ガーディアン・ヒーローズというゲームの天上人というキャラが使っていたものだ。
存在Xが関与し信仰力を貪っている世界の一つに現代日本を含むターニャの出身世界がある為、そこで生まれたガーディアン・ヒーローズのイメージが信仰に混ざったものと思われる。神や天使の能力は意外と信仰に影響を受けているということだ。
これについてターニャは違和感を覚えていたが、彼女もガーディアン・ヒーローズというゲームの存在自体は知っていても、詳しい内容までは知らなかった。
追撃戦力をあっさり返り討ちにした匠達は、多少の後始末をしてから前進を開始した。
天使と大天使の大半がTOMの始末に回っている為、一度に匠達に挑みかかってくる天使達は多くなかった。
天使は大天使よりも防御が薄い為、少しばかりの信仰力を込めれば頭部魔導機関砲でもあっさり撃墜出来た。
大天使は先ほどと同じように、それなりの信仰力を込めた通常攻撃で撃墜可能だ。
神域と地上を移動出来るだけあって短距離転移で突如現れることもあったが、使い方が戦力の逐次投入でしかないので宝の持ち腐れであった。
それより上のランクで、天使階級で言う中位から下位には複数存在しない固有存在もそれなりにいた。
これまでに判明した天使の特徴と階級の対応は、偽ディオニシウス・アレオパギタの『天上位階論』を併せると上から順に以下のような序列になっている。
◆上位三隊
・熾天使:ククルカンやケツァルコアトルに似た翼の生えた蛇
・智天使:7つの目と2つの角を持つ全身炎上マッチョマン
・座天使:どう見ても釈迦
◆中位三隊
・主天使
・力天使
・能天使
◆下位三隊
・権天使
・大天使:金属の鎧と翼を纏った3m程度の天使
・天使:天使の輪と白い翼が特徴的な人間大の天使
これらの内、特徴が空欄になっている主天使、力天使、能天使、権天使に相当する固有天使がそれなりにいたということだ。
何故上位三隊ではないと判断したかと言えば、先ほどの法廷で存在Xと既出の3体以外は裁判官の席に着いていなかったからだ。
中位から下位の固有には、鎧を纏った浅黒い肌の人間のような姿の存在、下半身が蛇のラミアのような存在、骸骨のヴェールで顔を隠した存在、釈迦とは別の複数の仏、クトゥルフのような触手の塊、角と膜状の翼と尻尾が生えた悪魔のような存在、天狗、なまはげ、そしてアヌビス神によく似た存在もいた。
ただしアヌビス神的存在には上半身が裸で顔の上半分をケモミミ仮面で隠したものと服を着て顔の全部を獣の仮面で隠したものの2通りが存在した。匠達は多数に囲まれないように天使を見敵必殺で可能な限り速やかに処理しており、名前を聞いたわけではないので、もしかすると前者はアヌビスモチーフではなかったかもしれない。
固有中堅天使は流石に通常攻撃一発では墜とせず、中でも2体のアヌビス神もどきが案外しぶとかった。これは最近エジプト神話の信仰が高まっているせいかもしれない。
天使の強さについては、まず階級によって戦闘速度に明確な差がある。最下級の天使の時点で音速に達し、能天使からは雷速を超えていた。この速度での戦闘となると、加護転換が出来ても魔導衛士の基準をクリアしていないとついていけない。座天使以上の上位となるとどれほどになることか。
なお下位の天使でも短距離転移は漏れなく使えるので、戦闘中の反応が鈍いだけで移動速度で行軍の足を引っ張ることはあまり無いようだった。
また、中堅天使はある程度サイズが可変で、ものによっては轟雷と同等の200m前後のサイズに巨大化して戦うことが出来ていた。これで信仰力を纏った物理無視攻撃をするので、全く油断が出来ない相手だった。
中堅天使、特に主天使と思われる個体との戦闘では回避しがたい飽和攻撃で轟雷が損傷を受けたので、まとまって掛かってくればそれなりに苦戦しそうだが、強さに自信がありすぎるのかバラバラにしか襲撃が来ないので、回復しつつ各個撃破が出来てしまっていた。
しかし方々に散っている中堅以下と違って存在Xと熾天使、智天使、座天使は状況に関係なくずっと場所を移動していないので、手強そうなのが上から順に4体固まっていて各個撃破出来ないのは厄介だった。
一番各個撃破したいのは幹部連中なのだが、どうせ動かないのならばと切り替えて、匠達は先に中堅以下の天使を全滅させた。下っ端天使は上司の手前逃げるわけにもいかないだろうから、一網打尽にするには好都合だった。特にラッパを持った大天使をこの時点で殲滅出来たのは僥倖であった。