【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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350. ならば私こそが三千世界(うちゅう)。すなわち天上天下唯我独尊

ラリー「――何だここは? 宇宙?」

 

 ラリーの視界が瞬時に切り替わり、目には星々の輝きが映っていた。足元には地面がある。

 

トリオ「随分と遠くに……いや、恐らくは別の世界じゃの、これは。空間特性が違いすぎる」

 

 後部座席のトリオ工場長が観測データを参照すると、どうも空間の特性自体が先ほどの神域とは違っていた。例えば光速が秒速30万kmを遥かに超えているし、地球重力1Gでの加速度も9.8m/秒2ではない。

 神域が場所によって特性が違うのなら同一世界という可能性もあるが、ともかく環境が変わったことは留意しておくべきだ。工場長は各種センサーを動員して下界とも神域とも違う、超空間に近い現環境の物理定数のチェックを開始した。

 

座天使(ソロネ)「ご明察。ここは()()()()です。あなた方()()には、ここでこの私と勝負していただきます。無論、私に勝ったら出して差し上げますよ」

 

 ラリー達の目の前に穏やかな微笑みを湛えた座天使(ソロネ)が姿を現した。この虫も殺さないような表情で人間を積極的に不幸に陥れようとしているのだから、やはり相手を見た目で判断してはいけないということがよく分かる。

 だがその言葉を額面通りに受け取るならば、ラリー達はそれぞれ上位天使が持つ固有の世界に連れ去られたということだろう。

 

ラリー「神だか仏だか天使だか知らねえが、でけえ面しやがって!」

 

 ラリーが言うでけえ面、というのは比喩ではない。目の前に出現した座天使(ソロネ)は大幅に巨大化しており、轟雷よりも巨大に……どころの騒ぎではなかった。その巨大な顔は地平線の彼方に見えていた。距離からして届いている声は単純な音波ではあるまい。

 

トリオ「こいつは……距離も身長も計測不能じゃと……?」

 

 観測機器が計測上限エラーを起こしていた。物理の基本的な定数から違う所為もあるが、轟雷は宇宙戦闘に対応するため恒星間の距離でも計測可能なのに、これは極めて異常なことだ。

 

ラリー「行くぜェ!」

 

 ラリーは時空勾配推進で轟雷を前進加速させ、光速の壁の違いから秒速30万kmを簡単に越えた。地球規模の惑星ならとうに大気圏外に離脱しているはずだが、まだ足元には地面があった。

 思ったよりも距離が遠いことを察したラリーは、目標を通り過ぎるリスクを懸念しながらも短距離ワープを敢行した。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ラリー「全然距離が詰められねえぞ、どうなってんだこの世界は……?」

 

 一向に振り切れない地面を眺めながらラリーが首を傾げると、トリオ工場長が警告を発した。

 

トリオ「上じゃ! 来るぞ!」

 

ラリー「上? ……何だありゃ!?」

 

 警戒範囲内にはまだ何も検出されていないが、トリオの言葉でラリーは頭上を見上げた。確かに警戒距離の中には何もなかった。しかしそれより遥か遠くからとんでもなく巨大なものがとんでもない速度で迫っていた。

 上から迫るのは地面とは別の平面。まさか惑星同士の衝突に挟もうというのか。いや、惑星ではない。まだ距離があるために分かったが、それは()()()()だった。巨大な右掌が極超光速で迫っていた。この世界の光速が下界に比べ異様に速い為にそれでも視認出来ている。ならば()()()()()()()()()()()()は?

 次の瞬間に上下の平面が打ち合わされ、間にあった空間が押し潰された。もし遙か彼方から見たならば、それが座天使(ソロネ)が巨大な掌を打ち合わせただけだと分かるだろう。目を半分閉じた座天使(ソロネ)の表情は全く変わっておらず、羽虫を潰すがごとき気軽な動作であった。

 つまりラリー達の轟雷は短距離ワープを駆使してもまだ座天使(ソロネ)の掌の上から脱していなかった。その様子はまさにお釈迦様の掌の上の孫悟空だ。

 しかし座天使(ソロネ)が掌を開いて戦果を確認してみると、そこに潰れた轟雷の姿は無く、やや遅れて掌の上に轟雷が再出現した。

 

ラリー「っぶねえ!」

 

座天使(ソロネ)「ふむ、一時的に別空間に逃れましたか。科学技術というのもなかなかやるようですね。――ですが、無駄なこと」

 

 座天使(ソロネ)は一旦攻撃をやめると、巨大な右手の人差し指と親指で輪っかを作って印を結んだ。

 このハンドサインには仏教的に二通りの解釈があり、来迎印(らいごういん)もしくは摂取不捨印(せっしゅふしゃいん)と呼ぶ。前者の来迎印(らいごういん)は臨終の際の迎えを示し、後者の摂取不捨印(せっしゅふしゃいん)は何者をも見捨てないという慈悲を示すものだ。つまりこれは、抗い続けて敗死するか負けを認めて慈悲に縋るかを選べという降伏勧告だ。

 しかし仏教に疎いラリーには全く通じておらず、賄賂でも要求しているのかと首を傾げていた。冠婚葬祭で仏教になじみ深い日本人でも大半は仏像のハンドサインの意味など知らないだろうから当然だ。一方スペースヒロシマと付き合いのあるトリオ工場長は何らかの仏教的な意味のある印であることまでは分かっていたが、そこまでだ。

 座天使(ソロネ)はその反応に構わず言葉を続けた。

 

座天使(ソロネ)「あなた方は幾つかの銀河を制覇して自信を持っているようですが、最初にここは()()()()だと言った筈です。悟りの境地において全てのものは一つ。ならば私こそが三千世界(うちゅう)。すなわち天上天下唯我独尊。悟りも開いておらぬ人間がどうこう出来る相手ではないのです。世俗にこだわらず解脱せよとは、これでも親切で言っているつもりなのですよ?」

 

 そう言って微笑む座天使(ソロネ)の額の第3の目が開眼して輝くと、後ろに曼荼羅が浮かび、胴体からは副腕がにょきにょきと生えてきた。その数は4本や6本どころではなく、もはや数え切れない程であった。まるで千手観音のようだ。

 そしてその数え切れない程の腕の半分程が異空間に突っ込まれた。これではワープ回避しても超空間で別の腕に迎撃されてしまうだろう。まさに腕力の飽和攻撃だ。

 

トリオ「いやはや、我こそ宇宙と来たか。本物かどうかはともかく、仏の最上位だけあってスケールがでかいのォ」

 

 天使の9位階と同じように仏にも十号というランクがあり、下から数えると仏世尊(ぶつせそん)天人師(てんにんし)調御丈夫(じょうごじょうぶ)無上士(むじょうし)世間解(せけんげ)善逝(ぜんぜい)明行足(みょうぎょうそく)正遍知(しょうへんち)応供(おうぐ)もしくは阿羅漢(あらはん)如来(にょらい)となる。これらのうち、工場長が覚えているのは如来(にょらい)阿羅漢(あらはん)だけだが、釈迦がこの中で最上位にあたる釈迦如来であることは知っていた。

 一方ラリーは仏のランクなど知らないが、座天使(ソロネ)が兎に角常軌を逸した存在であることだけは理解した。

 

ラリー「これで第3位天使とか冗談きついぜオイ」

 

 下級から中級で音速から雷速に上がったので、光速で動くくらいは想定していたが、主天使(ドミニオン)以下の中堅層とはスケールがあまりにも隔絶している。ランク詐欺ではなかろうかとラリーは訝しんだ。

 実の所、その疑念は的外れではない。座天使(ソロネ)は元人間で最下級天使からのたたき上げだから昇進が遅いだけで、自分の世界に引きずり込んだ場合の単純な強さなら他の上位天使に勝る。これは信仰力の多寡ではなく、修行によってここに辿り着いた為に悟りの練度が異様に高いことに起因していた。神や天使の中でも俺は宇宙だと宣言して本当に宇宙と同化出来るような出鱈目な存在は実は少ない。

 

座天使(ソロネ)「おや、漸く神の偉大さを知りましたか?」

 

ラリー「そうじゃねえ、……いや、そうかもしれねえ。でもなあ」

 

 ラリーは大きく息を吸うと、拳を握って啖呵を切った。

 

ラリー「強え奴と戦いたくて来たってのに、相手が自分より強かったら文句を言うほどダサくはねえつもりだぜ!! 相手が強けりゃ強い程ラッキーってもんだろうよ!!」

 

 好奇心でこのマブラヴ世界へと飛び込んできた大地の冒険者(テラリアン)にして邪神討伐者(クトゥルフバスター)のラリー・テアリジックは、元々戦闘狂(バトルジャンキー)の類いだ。それが受け入れられているのは自分よりも強い相手と戦える気概があるからだ。弱い相手としか戦えない戦闘狂(バトルジャンキー)など、恥ずかしいにも程がある。

 

座天使(ソロネ)「そうですか、残念です」

 

 話は終わりだとばかりにあらゆる方向から無数の掌底が極超光速でラリー達の轟雷に迫る。ラリーがこれを回避するべく超空間に退避すると、やはりそこにも迎撃の掌が来ており、強引に通常空間に押し戻された。そして戻ると同時に3つ目の掌による攻撃を喰らった。そこからはまともな回避も出来ず、繰り返し繰り返し無数の掌に打ちのめされて轟雷がお手玉のように舞った。ラリーもくじけずインパクトの瞬間に反撃のゼニス(Zenith)2Mをお見舞いしているのだが、術式で100万倍強化してもなおスケールが違いすぎて薄皮一つ程度しか傷がついていなかった。

 

トリオ「兄ちゃん、流石にもたんぞ!?」

 

 とうにバリアは突破されており、受ける損傷を修復装置で回復させることでどうにかもたせているが、それもいつまでも続くものではなかった。回復も追いついていないし、内部への衝撃を時空勾配推進システムで相殺したとしても完全ではないので、パイロットの方が先に参ってしまう。

 

ラリー「ンヌオオオッ……!! く、空間特性だ!」

 

トリオ「何じゃと!?」

 

 必死に抗戦するラリーの口から零れた言葉を聞き逃さず、トリオ工場長が確認の言葉を返した。

 

ラリー「あいつが言うには()()()()()()()()()筈だ!! 使()()()はずだろ!?」

 

トリオ「ぶっつけ本番――しかもこいつは嬢ちゃん用に調整したモンで、機関出力も人数も全然足りんぞ!?」

 

ラリー「分かってる! だがなあ、システム補助なんか無しでやった奴だっているんだろ!? 俺達が勇者だってんなら、あとは勇気で補ってみせようじゃねえか!」

 

トリオ「ぐ……ええい、やったるわ! 結果は保証出来んぞ!!」

 

 基本的に物理科学が主戦場であるトリオ工場長にとって、勇者算は何ともコメントしがたい概念だ。だがGストーンやGSライドが介在するならば、それは実際に効果があると認めざるを得ない。

 出来ないと言うのは簡単だ。だがやらなかったとして他に勝てる手段があるとも思えない。他にパワーアップ手段が無いわけではないが、この状況で使うのは不可能だ。座して死を待つくらいならやるしかないだろう。工場長も腹をくくった。

 

ラリー「ありがとよ!!」

 

 元からやる気のラリーはそれに歯を見せて応えた。




 生きてた時点で既に天上天下唯我独尊かつ自分が宇宙と一つだと認識出来ていたらしい釈迦に信仰補正が加わり、認識次第でどうにでもなる釈迦専用宇宙を生み出してしまったので、シナジー効果でちょっと手が着けられない御無体な強さになっております。
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