今回からVS智天使となります。
スコア「眩しッ!? ――警告音!? 何だ!?」
テクス「機外温度異常! 摂氏――6千度!? 恒星にでも突っ込んだでござるか!?」
原因はすぐに分かった。単純にとんでもなく暑いのだ。
轟雷の光学情報系が明度を自動調整しているが、見れば周囲には炎とプラズマしかない。いや、炎もプラズマの一種なのでプラズマしかないと言っても差し支えない。その眩しさは、肉眼で直視すれば失明するだろう。
摂氏6千度と言えば太陽の表面温度と同等であり、物質元素の1気圧下の融点や沸点は
・銀:融点962℃、沸点2,162℃
・金:融点1,064℃、沸点2,857℃
・銅:融点1,085℃、沸点2,571℃
・鉄:融点1,536℃、沸点2,863℃
・チタン:融点1,666℃、沸点3,289℃
・タングステン:融点3,407℃、沸点5,555℃
・レニウム:融点3,180℃、沸点5,596℃
・炭素:昇華点3,642℃
程度なので、この温度に晒されれば自然に存在するおよそ全ての物質が融けるどころか蒸発してしまう。
しかし決戦兵器である轟雷にとっては、6,000℃程度は実は全く大したことがない。自然界に存在しない上にファンデルワールス力を強化して固めてある原子核パスタ構造材ならば、修復装置と組み合わせればこの程度の温度には普通に耐えられる。
とはいえ常に熱ダメージを受け続けるのは面白くないので、テクスはまずバリアで熱を遮断した。
それで一息ついたところに、腕を組んだ
再び姿を現した
まあ
しかし問題はその大きさではない。
テクス「外気温度、1万度を突破したでござる!」
そう、まず温度が上がり続けているというのが問題だ。更に言うとこの空間はかなり狭く、1辺1.5km程度しかないのでこの熱が届かない空間というのが存在しない。対象を焼き殺す為にそうしたのだろう。遠距離攻撃主体のスコアの長所を潰す意味もあるかもしれない。
スコアは試しに空間境界面にファントムスパーク2Mを撃ち込み、次に轟雷で蹴りを入れてみたが、境界面を突破出来そうな見込みは全く無かった。そこに壁があるのではなく、その先に世界が存在しないのだ。ここがレガシークラフトピア世界と同様のセパレートワールドであることをスコア達は認識した。
スコア「チッ! 手早く倒してしまえばいつまでも耐える必要は無いだろう!」
テクスはファントムスパーク2Mを引き絞り、
ファントムスパークが放つ光の矢は先ほど
続いて弱点狙いで心臓部、関節部や7つの目玉、角なども狙ってみるが、一向に効果が無い。既に凍結の矢の威力を見切ったのか、避けようともしていない。
テクス「10万度突破! ええい、ナノマシンの制御を貰うでござるよ!」
スコア「む? 分かった、やってくれ!」
防御にまで気を配る余裕がないスコアは即座にテクスの申し出を許可した。
流石にこのまま外気温が上がり続けると、バリアと修復装置にエネルギーを注ぎ込みすぎて戦闘に支障を来すようになる。しかも10万度の時点で通常の10万度よりも不自然にバリアの負荷が大きい。つまりなにがしかの補正がかかっている。
信仰力によらないマナによるエンチャント補正、或いはスキルや術式によっても攻撃力が上昇するのだ。相手は信仰力の塊のようなものなのだから、そういったことが出来ると見るのが当然だ。ただの炎やプラズマではなかろう。
状況を座視出来ないと判断したテクスが講じた次の手段は、ナノマシンの仕様外使用だ。
轟雷の装甲表面を覆うナノマシンは、通常は誘電体多層膜の対応周波数調整、反射角度調整、そして修復の補助をOS統轄下で自動的にやっている。テクスはこれらの仕事を一旦休止させて、誘電体多層膜から常温超伝導光電変換膜への組成変換を実行した。誘電体多層膜は特定周波数のレーザーを反射するものだが、常温超伝導光電変換膜は幅広い帯域の電磁波を光電効果で電子の流れに変換するものだ。
光電効果を利用したものの身近な例としては、太陽光電池が挙げられる。現代のこれは電磁波エネルギーから電流への変換率が精々40%だ。その残り60%のロスが熱として蓄積される。しかしFactorio工業製の太陽電池やTech用の太陽光電池は、元々90%を超える変換効率を誇っていた。これらをベースとして、G元素グレイ9を利用して常温超伝導化し、ロスを限りなく0%に近づけたものが常温超伝導光電変換膜だ。これは縮退炉の炉心にも使われており、ブラックホールの蒸発に伴い発生するガンマ線や赤外線を吸収して電力へと変えている。
但し誘電体多層膜と常温超伝導光電変換膜に構成元素の互換性はほぼ無いので、元々あった誘電体多層膜の上に新たに常温超伝導光電変換膜をコーティングしたというのが実態だ。このためにナノマシンで装甲表面から仮想実体化装置を繋ぐ経路を作り、必要元素のリレー運搬をさせた。そして変換された電流の行き先を作る為に常温超伝導配線で電力系へと接続した。これで全ての熱攻撃を電力補給に変換する経路が出来上がったことになる。
その結果、轟雷の表面が真っ黒に染まるとともに表面温度が急激に低下した。光学センサーは流石に塞ぐわけにはいかないので、そのあたりは省エネ・省面積バリアで防御している。
テクス「これで
スコア「助かる!」
扱うエネルギー量が多いだけあり、縮退炉の炉心耐久温度は太陽表面温度より遥かに上のレベルだ。太陽表面から上の温度を並べると以下のようになる。
・太陽表面:6千℃
・原子爆弾リトルボーイ(広島型):62.8TJ、中心温度100万℃
・太陽中心核:1500万℃
・水素爆弾ツァーリボンバ:209
・
・
まずリトルボーイとツァーリボンバでエネルギー量に3,330倍ほどの差があるが、温度は400倍程度にとどまっている。これは原子爆弾と水素爆弾では爆発の原理が違う為に反応速度やエネルギー密度が変わっているためだ。同じエネルギーでも一点に集めれば温度は高くなるが、拡散すればある程度低くなるということだ。原子爆弾の時点で金属が蒸発してプラズマ化する温度なのだから、中心部のエネルギー密度が多少下がったところで問題は無い。
これらに対し
その1000億℃ですら耐えられる素材はそうは無いのだが、常温超伝導光電変換で変換効率を限りなく100%に近づけることで赤外線やガンマ線などの全ての電磁波を吸収して素子の温度上昇を食い止めており、そこを構造強化と常時修復効果で補っている。それでも常に炉心温度1000億℃に耐えるのは厳しかった。
最新型の縮退炉Mk.2は炉心サイズがMk.1の3/5になっている。つまり熱を受け止める炉心の内面面積はサイズを2乗して9/25で、処理すべき熱量は25/9 = 2.78倍になる。常温超伝導光電変換膜直前での温度は2780億℃だ。厳密にはケルビン絶対温度で話をするべきだが、この桁になると273度程度は誤差だ。
この処理熱量増大問題を解決する為に炉心の基礎構造材が原子核パスタにアップデートされている為、常温超伝導光電変換膜と組み合わせれば緊急出力時の2780億℃にギリギリ耐えるどころか恒常的な運用が可能になっていた。つまり実質もっと余裕がある。
元々原子核パスタ構造材で構成されている轟雷の表面は現在その縮退炉Mk.2の炉心と同等になっているので、まあ3000億℃程度までは余裕で耐えられるということだ。