【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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354. 文明の恩恵に与る者は意識せずとも炎を信仰しておるものだ

 当面の熱量攻撃に対する防御は出来たわけだが、あくまで防御態勢が整っただけで、智天使(ケルビム)を倒す算段が立ったわけではない。

 ファムのファインプレーで既に信仰力の供給がかなり制限されている筈なのに、智天使(ケルビム)はそれをものともせずに燃え盛っていた。轟雷の周囲の熱を吸収してもまだまだ外気温は上がり続けている。

 そこでスコアは一計を案じ、新たな武器を取り出した。

 

スコア「今し方の防御膜、()()に纏わせることも出来るか!?」

 

テクス「お安いご用でござるよ!」

 

 スコアが久々に取り出したのは片手剣のルーンソング2Mだ。凍結攻撃があまり効かないのであれば、これに常温超伝導光電変換膜を纏わせて損壊を防ぎながらダイレクトに斬りつけようという話であった。

 テクスがナノマシンに追加の命令を出し、轟雷本体と同様にルーンソングの刀身が根元から剣先に向けて黒く染まっていった。

 元々手にしていたファントムスパークの方には既に同じ処理を施してあり、ルーンソングのコーティング処理中もスコアはこちらを使って戦闘を継続していた。外気温は現在10万度だ。

 

テクス「処置完了でござる!」

 

スコア「よしッ! 受けてみろ!!」

 

 スコアの轟雷は兵装担架にファントムスパークを収納しながら時空勾配推進で加速、ルーンソングを水平に構えて智天使(ケルビム)に突撃した。無論、凍結の攻撃属性を付与して可能な限りの信仰力を込めている。

 突撃した轟雷はすれ違いざまに智天使(ケルビム)の首をあっさり切り離し、反対側に突き抜けた。

 

スコア「――何ッ!?」

 

 手応えの無さに不審を抱いたスコアは折り返して智天使(ケルビム)の背後からもう一度迫り、今度は頭上から股間まで真っ二つにした。しかしこれでも手応えが無い。

 

智天使(ケルビム)「――ふむ、それで終わりかね?」

 

 往復の攻撃を終えたスコア機が距離を取って様子を見ていると、4つに切り離した智天使(ケルビム)が何事も無かったかのように元通りにくっつき、背後のスコア機に振り向いた。

 

テクス「何と、不死身でござるか!?」

 

スコア「少なくとも、固形の実体が無いのは確かだな。正中線上に制御中枢がある構造でもなさそうだ」

 

テクス「となれば、存在自体が炎の塊……イフリートは厄介でござるなあ……いや、あれ本当にイフリートなんでござるかね?」

 

スコア「分からん。フェニックスにしては鳥らしくないしな」

 

 智天使(ケルビム)は全身が燃えているという特徴からして何かの炎の神か精霊、或いはそれを模した偽者であろうということはまず間違いないのだが、完全に特徴に一致する伝承上の存在が見つからないため、匠衆(マイスターズ)では暫定的識別名称としてイフリートと呼んでいるだけなのだ。

 スコア達は別に回答を期待していたわけではないのだが、智天使(ケルビム)は平然と答えを返した。

 

智天使(ケルビム)「イフリート……それにフェニックスか。それらも間違いではないな」

 

スコア「何?」

 

 流石にイフリートとフェニックスが同一視されているという話はスコアも聞いたことがない。どういうことかと困惑の色を見せた。

 

智天使(ケルビム)「殆どの人類の文明が火の行使から始まる故に、文明の恩恵に与る者は意識せずとも炎を信仰しておるものだ。つまり我は様々な炎の神を統合して成立した存在だ。例えばこれはスルト由来のものだな」

 

 言うなり、智天使(ケルビム)は右手から棒状の炎を生やした。いや、棒にしては持ち手に鍔がある。つまりは北欧神話の炎の巨人スルトに由来する炎の剣だ。智天使(ケルビム)はその場から初めて動き始めると、炎の剣を大きく振りかぶってスコア機に振り下ろした。その剣速は雷速を遥かに超えているが、()()()()()()()()ならば対応は可能だ。

 スコアはこれをコーティング済みのルーンソングで打ち払いつつ、轟雷本体は炎の剣の軌道から退避させた。本体に当たり判定が無いのだから、炎の剣も押しとどめるのは難しいのではないかと判断したのだ。

 その予想は正しく、炎の剣はルーンソングに断ち切られながらもすり抜けていった。当たり判定が無いにしても簡単に断ち切れるものなのだな、とスコアは思ったが、そう甘いものではなかった。

 

スコア「むッ!?」

 

 見れば、一度交差しただけでルーンソングの刀身が熱で歪んでいたのだ。これは異常なことだ。超雷速の交差でほんの一瞬接触しただけにしては熱エネルギーの移動量が多すぎる。火炎放射器を高速で振り回すよりもまっすぐ押しつけた方が熱いのは考えれば分かるだろう。同様の熱量兵器であるビームサーベルなどもチャンバラの見栄えを気にしなければ振りかぶる意味は全く無いのだが、まあそれは置いておこう。

 つまり炎の剣を断ち切ったのではなく、炎の剣の機能として標的と接触した瞬間に炎の熱量を可能な限り叩き込むようになっているから接触部分の炎が消えたのだろう。それを前提としているから雷速を超えるようなスピードで振り回しているのだ。流石は神話に謳われるスルトの炎の剣であった。

 

スコア「あの炎の剣! 触れるだけで不味いぞ!!」

 

テクス「炎の神の必殺武器は伊達ではござらんなぁ!!」

 

 熱の移動方法が物理を無視しているので、実際の温度が3000億度を超えているかどうかは不明だが、常温超伝導光電変換膜を破壊可能な攻撃であることには変わりない。

 その輻射熱を受けてか、周囲の温度も既に100万度を超えている。原子爆弾が至近距離で常に炸裂しているような環境だ。こちらの焦熱についてはまだまだ耐えられるが、状況は明らかに悪化していた。今や炎の剣だけでなく、逃げ場を塞ぐように灼熱の火山弾も降り注ぎ始めていた。恐らく火山の神由来のものだろう。ギリシャ神話ならヘパイストス、ハワイ神話ならペレの権能だ。普通の火山弾の温度は摂氏千度前後だが、わざわざ降らせるからには周囲の気温である100万度より安全である可能性はほぼ無い。

 しかし、スコアは炎の剣も火山弾も完全回避してしっかり反撃していた。元々狭い地下洞窟でサバイバルをしていたスコアにとってはこのくらいの狭さと弾幕はどうということはない。問題は一体アレをどう倒したものかということだ。ルーンソングを修復して追加で何度か斬りつけたが、やはり全く効いた様子が無い。

 

 ガンバスターのバスタービームやマジンガーZERO謹製冷凍ビームは絶対零度という物理の限界を超えているが、それでも摂氏マイナス1億度だ。バスターマシン90号キャトフヴァンディスのバスタースマッシュはその更に1万倍、摂氏マイナス1兆2千万度に至るため単純な熱量ならば対抗が可能に見える。しかしこれはトップレス能力を前提とした物理無視能力なのでスコア達には使えない。じっくり研究すれば魔力で代用出来るのかもしれないが、わざわざ交渉してから招いて研究に協力してもらうような時間は無かった。

 仮にキャトフヴァンディスをパイロットごとここに連れてきたとしても、技の発動前に瞬時に融け落ちてしまうのではなかろうかという懸念がある。何しろ量産型ガンバスターであるシズラー(ブラック)は摂氏1,600度、外圧15,600tpmでも戦闘不能になるくらいのダメージを受けるのだ。どちらかというと圧力でダメージを受けていたような気がするが、このtpmという単位の正体は実は不明なので、どのくらいの圧力だったのかスケールが分からない。

 

テクス「しかし文明を守護するそれがしらが文明信仰を敵に回すとは、訳の分からん事態でござるな!?」

 

スコア「そうだな、こちらが文明の保全を頑張る程に相手が強くなってしまうのでは……んん?」

 

 スコアの頭の片隅で何かが引っかかった。文明信仰を敵に。つまりは文明を否定するもの――。

 

スコア「それだッ!!!!」

 

テクス「何がでござ――アレを使うんでござるか!!?」

 

 テクスはスコアの予想外の食いつきに怪訝な表情をしたあと、その真意に気付いて驚愕の表情を見せた。

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