【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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356. いやまあ、まだ全然使いこなせてはいないんでござるがね!?

 電力と魔力、今回の場合はそれに加えて信仰力で幕を下ろす者(デウス・エクス・マキナ)システムは運用出来るわけだが、一つ問題がある。月光蝶も機界新種細胞も現段階では()()()()()()()()()()()()なので、敵味方の判別がつかず轟雷そのものを侵食しようとするのだ。

 そのため、特に本体に常に接触している機界新種細胞はある程度過熱させておいて常温超伝導光電変換膜が熱を吸収するという形で侵食を防いでいる。温度差でエネルギーポテンシャルの障壁を作っているわけだ。機界新種細胞の温度が必要以上に低下すると常温超伝導光電変換膜が熱の綱引きに負けて物質昇華されてしまうので要注意なのだが、周囲がこれだけの焦熱地獄であれば好都合というものだ。

 また、その外側では機界新種細胞が月光蝶ナノマシンとの綱引きで侵食を食い止めている。この辺りの共食い現象が解決すればもっとエネルギー吸収効率が上がるのだが、幕を下ろす者(デウス・エクス・マキナ)は今組み合わせてでっち上げたばかりのシステムなのですぐに解決するのは無理だ。機能しているだけでも褒められて然るべきだろう。

 

 徐々に巨大化しているというのも智天使(ケルビム)の錯覚ではない。これは増殖する機界新種細胞を放っておくと厚みばかりが増して、つまり轟雷が肥満体型になって動けなくなってしまう為、機界新種細胞の体積に合わせたサイズに機体を成長させているのだ。

 普通に考えると原子核パスタ製のフレームが大きくなる筈はないのだが、またナノマシンが仕様外で頑張ってフレームを拡張していた。幾ら高性能だからと言っても大分無理をさせており、本来水や水銀、マナを生産するのに使われる轟雷内部の仮想実体化装置では月光蝶の分も併せて汎用ナノマシンを大量生産していた。幸いエネルギーは周囲に多すぎて困る程にあるのだ。

 そうして機界新種細胞の面積と体積が増える程に、月光蝶ナノマシンの増産が進む程に、熱の吸収効率は更に上がっていき、智天使(ケルビム)の世界から加速度的に熱が奪われていった。

 

智天使(ケルビム)「これが文明を灰にする力……人間はそんなものすら使いこなすというのか……!!」

 

テクス「いやまあ、まだ全然使いこなせてはいないんでござるがね!?」

 

 使いこなせているかと言えばそんなことはない。今以てテクスがシステムを監視しながら応急処置を繰り返しているのを見れば分かる通り、現行の幕を下ろす者(デウス・エクス・マキナ)はエンジニアがつきっきりでないとまともに動かすことも出来ないのだ。研究を進めればもっと上手く使うことも出来るだろうが、今はこれが精一杯だ。研究開発に携わる(マイスター)としては不満が残る所である。

 というか、そもそも文明を守護する側の匠衆(マイスターズ)としては文明埋葬システムへの対抗策を得る為に月光蝶や機界新種細胞の研究解析を始めた筈なので、その研究解析も十分ではない内にそれらを合成強化して自ら使う羽目になるとはテクスも考えていなかった。

 

智天使(ケルビム)「ムハハハ愉快愉快ッ! ……ならば我が力! 全て持っていくがいいッ!!!!」

 

 最大出力の炎の大剣を叩き付けても突破出来ないのであれば、もはや残る手段はただ一つ。智天使(ケルビム)はこの世界にある熱量の全てを自身に集中させ、短距離転移で轟雷に組み付いた。エネルギーの圧縮・集中によって智天使(ケルビム)本体の温度が兆の桁に達し、それと引き換えに世界が絶対零度で凍りついた。

 更に智天使(ケルビム)は全身を炎の剣同様にして自らの全エネルギーを積極的に轟雷へと注ぎ込み始めた。

 要するに熱量の一点集中により貫通力を増したということであり、これは戦力集中の原則にも適った行動ではあるのだが、自らの存在維持に必要な熱量まで構わず吸収させているあたり、捨て身の行動であった。

 

スコア「これが智天使(ケルビム)の底力……! 伊達ではないな!」

 

テクス「ここに来てそんなに死力を尽くされると困るでござるなぁ!!?」

 

 幕を下ろす者(デウス・エクス・マキナ)のシステム維持にかかりきりのテクスが悲鳴を上げた。

 エネルギーは有り余っている為にバリアはまだ保持出来ているが、エネルギーの過剰流入で処理が追いつかず、流石の機界新種細胞も溶け始めた。それをゾンダー由来の再生能力と修復装置が補って修復し、それでも足りなければ内側から機界新種細胞の厚みを増して穴を塞ぐ。また、周囲に散布していた月光蝶ナノマシンを全て智天使(ケルビム)本体にぶつけてエネルギー吸収を試みるも、智天使(ケルビム)本体の熱量はまだまだ尽きない。

 スコアも狭い世界の中で動き回って熱の集中を逃れ、追加の信仰力と冷却の魔法を駆使して過熱を抑えようとしていた。だが智天使(ケルビム)の本体に組み付かれている為に振り切れない。世界が狭すぎて超空間に入ることも出来ない。基本的に超空間は通常空間より狭くなっているために移動距離が短くなるという利点がここでは裏目に出ていた。無論智天使(ケルビム)をまだ倒していないのでこの世界から脱出することも出来ない。そもそも転移出来たとしても密着した智天使(ケルビム)がそれを追跡出来ないとも思えない。

 あまりの熱量に内部への熱の浸透を抑えきれなくなり、空調の冷却限度を超えて轟雷の操縦席まで温度が上昇、スコアの汗が噴き出しては蒸発した。テクスの方は元々環境耐性が高い小人族(ランティノイド)である上に惑星テラテックの灼熱環境に慣れているので、まだまだ平気そうだ。

 

スコア「GSライドは使えないか!?」

 

テクス「既に起動してるでござる!」

 

 勇気の力に応じてGパワーを発揮するGSライドを併用すれば多少の足しにはなるだろうとスコアが問いかけるが、そんなものはテクスの判断で既に起動済みであった。スコアは眉をしかめた。

 

テクス「しかし智天使(ケルビム)の総エネルギーが確実に減っている以上、あとは我慢比べでござるよ! 暑ければこれでも飲んでおくでござる!」

 

スコア「モゴッ!?」

 

 テクスはスコアの口に橙色の液体が入った瓶を突っ込んだ。以前地下世界(The Underworld)の溶岩地獄探索の際にラリーも使ったヘルレジストポーションだ。それを()()()()飲ませた。つまり。

 

スコア「かッ、らァーーーーーーーいッ!!!?」

 

 いつぞやのラリー同様に、スコアが辛さに悶えるのは必然であった。

 ところでヘルレジストポーションの説明文には以下のように書いてある。

 

 しばらくの間耐熱・耐獄炎が上昇する。地獄の中でも最上級の辛さが、あなたを今猛烈に熱血してる! という気分にさせてくれる。()()()()()道端で買ったゲームを全クリして()()()()()()()()()()()()()()()()だが、そのうち胃を保護する赤のハーブの効力が切れる。

 

 元ネタは言わずと知れた『NG騎士(ナイト)ラムネ&40(フォーティー)』の主人公である勇者ラムネスだが、それはともかく本当に説明通りの熱血勇者覚醒効果があったらしく、GSライドの出力がまるで弾丸Xでも使ったかのように急上昇した。

 

テクス「おおっ!? その調子でござるよ!!」

 

 生み出された大量のGパワーにより月光蝶と機界新種細胞の間の共食いが軽減され、幕を下ろす者(デウス・エクス・マキナ)システムに若干の余裕が生まれた。テクスは悶えるスコアを放置して問題解決に注力した。

 そうしている内に智天使(ケルビム)は力を使い果たし、この勝負は決着となった。

 

智天使(ケルビム)「見事……!」

 

 テクス達の前で、もはや吹けば消えてしまう程の残り火となった智天使(ケルビム)が消えていく。

 

テクス「やったでござるよスコア殿! ……スコア殿?」

 

 しかし戦闘中に人機一体を解除するわけにもいかず自分で水を飲むことも出来なかったスコアも瀕死になっており、終わった後でそれに気付いたテクスは少々気まずい表情でハイリザレクションを掛けた。

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