一方、こちらは熾天使に飛ばされたトピア達。その全周囲には黒い背景と輝く星々が広がっていた。
トピア「おや、宇宙……?」
見た感じ、宇宙空間であることはすぐに分かった。しかしそれだけでは殆ど何も特定出来ていないし、どこの世界の宇宙なのかというのも問題だ。
サティ「星図によると、太陽系外縁部、オールトの雲の外側ね。神域から別の世界に飛ばされたのかしら? それにしてもどこの?」
サティが観測情報からどの年代の太陽系なのかをまず探っていくと、目の前に熾天使が出現した。
熾天使「調べるには及ばぬ、ここは我が世界」
トピア達の前に姿を現した熾天使は、翼の生えた蛇という容姿はそのままにサイズが轟雷の3倍、650mほどになっていた。
トピア「……つまりはここから出たければあなたを倒して行けと?」
分断してからそれぞれ幹部と戦わせるという趣向なのだろうとトピアは理解した。状況からしてラリー機とスコア機も別の世界に飛ばされた可能性が高いので、そうなると存在Xの前に残っているのはターニャ機だけだろう。存在Xは腐っても一派の至高神なので、なるべく早く決着を付けて戦力を集中させた方が良さそうだ。
熾天使「……まったく面倒なことであるが、是非も無し。かかってくるがいい、勇者よ!」
トピア「ふむ……? では、行きますよッ!」
なんか微妙にやる気が感じられないなと疑問に思いつつ、トピアの轟雷は元々保持していた魔導銃剣2Mを兵装担架に収納すると、ヒルデブラント型の原始的な水晶の槍2Mを取り出して構え、直線加速を開始した。長槍突撃だ。
これに対し熾天使はその場を動かずに障壁を張ることで、長槍突撃を斜めに弾こうとした。
しかしトピアの轟雷は障壁の直前で急激に方向転換して障壁にほぼ垂直に接触し、これを容易に貫いた。
熾天使「むおッ!?」
熾天使は目を見開いて驚きながら、慌てて蛇の身体をよじって長槍突撃を回避した。
トピアの初手の長槍突撃は見た目は流星衝に似ているが、スキルの類いではない。しかし時空勾配推進システムによる突撃速度が亜光速に達しており、威力でも雲耀の太刀や神雷の3.05×1042Jに匹敵するという殺意満点の攻撃だ。
槍を固定して突撃する長槍突撃は武器や手足を振りかぶる必要が無いので剣術や体術より亜光速域での制御が簡単で、本体をぶつけるわけではないという点で体当たりよりは安全なので容易にこの威力を出せるのだ。勿論衝突事故を起こしたら体当たりと変わらないことになるので槍を扱う技量は必要だが、幸いトピアのメイン武器は元々槍だ。
バーティカルターンについては、用語自体は『電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム』が由来だが、匠衆で実現したそれはワープ技術の応用で空間を曲げることで全く減速せずに速度ベクトルを曲げる機能だ。匠衆はαナンバーズ所属のVR達には既に接触しているが、これはその接触以前に実装していた機能なので、名前と効果が同じというだけで技術的には全くの別物である。
なおαナンバーズに所属している3体のVRのうち、テムジン747Jのチーフとアファームド・ザ・ハッターのハッター軍曹はαナンバーズに所属して以来機体から降りたことがなく、フェイ・イェンKnに至っては人格を持った原初のVRの一体、ファイユーヴそのものであるため、とりあえず降りてもらって機体を調べるというのはそもそも出来ない話であった。
トピアはそのバーティカルターンを更に2回繰り返してカカッと180度折り返し、再び長槍突撃を敢行した。
熾天使は今度は最初から回避するつもりであったが、それでもギリギリになってしまい、反撃の機会を逸した。
どういうことかと言えば、バーティカルターンのお陰で減速が発生しないために長槍突撃を繰り返すたびに威力と速度が増して益々手が着けられなくなるというシナジー効果が発生していたのだ。そういう意味ではドラゴンフォールに似ているとも言えるが、あれとは桁が大分違う。
更にエンチャント効果で運動エネルギーや光速の壁と無関係に速度2倍の補正がついているため、トピアの突撃速度は既に光速を越えていた。こうなると光学観測では熾天使からトピアの現在位置が分からなくなるのは勿論、トピアからしても熾天使の正確な位置が分からなくなるので、亜光速~超光速戦闘用のシステムとして二重空間超越レーダーで捉えた位置情報が轟雷の視覚情報に同期してトピアに伝えられている。
熾天使「ええい、賢しらな!」
トピア「恐縮です!」
文脈からすると明らかに良い意味ではないのだが、トピアが勝手に褒め言葉として受け取ったことで熾天使の気勢が僅かに減じた。無論宇宙世紀流レスバトルから学んだ知見だ。
なおここは宇宙空間であり、音が伝わるわけもないのでトピア達は既に音声とは別のもので会話をしている。故に超光速戦闘中に喋る暇があるのかという心配には及ばない。
トピアがまたバーティカルターンして3度目の突撃軌道に入ろうとすると、熾天使の羽根や鱗から変じた無数の飛翔体が進路全てを潰すように襲い掛かった。飛翔体はトウモロコシ、魚、蜥蜴、ハゲワシの4種類の混成となっており、数が多い。ざっと1,000以上はあるだろう。
トピアが弾幕を迂回せずに細かいバーティカルターンで隙間を抜けて突進しようとすると、そこに第二波弾幕が展開された。しかもやり過ごした筈の第一波弾幕がターンして追尾してきたため、第二波との挟み撃ちになった。おまけにトウモロコシは石のつぶてを、魚は氷結弾を、蜥蜴は火炎弾を、ハゲワシは風の刃をフレンドリーファイアを無視して連射し始めた。どうもあれらは属性付きの攻撃端末らしく、伊達に複雑な形をしているわけではないようだ。
無数の攻撃端末による飽和攻撃の完全回避は不可能と見たトピアはまずは被弾を最小限にしながら普通のバリアで受けてみると、これが初弾から貫通した。装甲で止まり軽傷で済んだが、どうやら信仰力による魔法・物理無効がかかっているようだ。バリアに信仰力を込めればそこで止めることが出来たが、数千発も同時に受けたらどうなるか分かったものではない。
そして熾天使の攻撃はこれだけではなかった。
サティ「正面! 小さいけど惑星並の質量よ!」
トピア「はい!」
無数の攻撃端末で轟雷を囲んだところに熾天使本体が直径200mほどの小さな恒星を生成して発射した。小型だが惑星並の質量を持つそれが亜光速で飛翔しており、明らかに危険なレベルの攻撃力があるのでトピアは他の攻撃を被弾してでも回避しようとしたが、4種の攻撃端末がバリアに貼り付くことで回避を阻害された。しかも貼り付きながら攻撃も続いているのでバリアにも負荷が掛かっている。
トピアは先ほどから攻撃端末にはディストーションレーザーを浴びせているが、1つ1つに天使クラスの物理・魔法準無効化防壁があるようで、碌に効いていない。レーザーは筋力も魔力も関与せず自分で狙ってもいない射撃武器なので、信仰力も込められないのが神や天使と戦う上での難点であった。完全無効化防壁ではないにしろ1発719PJの8kg対消滅弾頭ですら致命傷にならない天使クラスの防壁で守られている以上、それより遥かに威力が低い2.08GW程度のレーザーが有効なダメージを与えられる筈がない。
信仰力を込めた頭部魔導機関砲なら簡単に撃墜出来るが、これは頭を標的方向に向けなければいけないので攻撃端末を迎撃する為に熾天使から視線を外す必要があるのが問題だった。
分身を生成して迎撃するなど他の迎撃手段もあったが、どれもこれも今やるには遅すぎる。
更に先んじてAWFを張られているため、ワープ回避も不可能だった。
かくなる上は、とトピアは一つ札を切って迎撃を試みた。
トピアがGSライドを唸らせて轟雷の右腕を振りかぶると、握った拳の指関節がロックされてナックルガードが装着された。そして高速回転を開始した右前腕を、トピアは右ストレートを打ち放つように前方へ射出した。
トピア「恒星爆砕ッ! ブロウクンッ! スマッシャーッ!!」
熾天使「ごはッ!!?」
射出されたブロウクンスマッシャーは宣言通りに小型恒星を爆散させ、ついでとばかりに熾天使の胴体を貫通して上下二つに分断した。そのまま大きく弧を描いてオールトの雲の小惑星を複数爆散させながら戻ると、轟雷の肘関節へと再接続された。
トピアとしては少し不安があったが、小型恒星の熱や熾天使本体の信仰力による右前腕部の損傷は僅かであり、修復装置によりすぐに回復出来た。轟雷には強力な自己修復能力があるが、戦闘が高速化すると修復に必要な時間が相対的に長くなってしまうので、修復に長い時間を要するような損傷を負わないように気をつける必要があるのだ。