【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

359 / 387
359. 必殺! アステカセメタリーッ!!!!

 それから拳の応酬が続いたが、簡単に決着はつかなかった。どちらも回復力が高い為だ。与えたダメージ自体はトピアの方が多かった。

 まず熾天使(セラフィム)の方がリーチが長い上に、強力な信仰力により被ダメージが大幅に軽減されるというアドバンテージがある。しかし元々が蛇なので、殴り合いには慣れていない。

 これに対し、トピアの方はまずブロウクンスマッシャーとプロテクトスマッシャーの機能を活かして轟雷の両前腕が回り続けていた。これにより常にコークスクリューどころではない回転が掛かった拳が暴れ回ることになる。俗に頻繁に掌を返すことを掌ドリルとも言うが、物理的に拳がドリルのように回転している相手と殴り合うのは普通に危ない。

 また、トピアの構えは截拳道(ジークンドー)スタイルである。イメージ的には李 小龍(ブルース・リー)の構えといえば伝わりやすいだろうか。これは利き手を前に出した攻防一体のもので、相手の動きが見える限りはクロスカウンターのように前腕で相手の拳を逸らしながら最短距離で拳をぶち込むようになっている。無論カウンター効果もあるし、相手の拳を弾くのに左右スマッシャーの高速回転が加わるのだからシナジー効果は絶大だ。

 

熾天使(セラフィム)「なかなかやる!」

 

トピア「それはどうも!」

 

 熾天使(セラフィム)はトピアの意外な拳の冴えに舌を巻いたが、この截拳道(ジークンドー)、やはり師匠に習ったものである。トピアは截拳道(ジークンドー)を理屈とさわりだけ師匠に習ったあと、自己修練して槍の術理にも組み込んでいた。実演しようにも腕が短くて実演出来ていない師匠がとても可愛らしく、思い出すだけでも妄想……もとい、鍛錬が捗るというものだ。

 

 以上の条件から導かれた結果として、傍目には鎧武者が蛇を殆ど一方的にボコボコにしているように見えていたが、それでも時折熾天使(セラフィム)の豪腕が轟雷の頭にヒットしたり熾天使(セラフィム)の尻尾が轟雷の胴体を打ち据えたりしていた。

 

トピア「んんー、ナイスパンチ! ですが、何も事情を話そうとしないのに分かるわけがないでしょうが! 貴方たちの悪い所ですよ!」

 

熾天使(セラフィム)「何もかも口にすることが最善とは限らぬ!」

 

 急いで外に出ないといけない割には悠長に喋りながら殴り合っているように見えるが、こう見えてトピアは熾天使(セラフィム)が存在する為に必要な信仰力を一方的に削っていた。

 熾天使(セラフィム)は身体が千切れても致命的ダメージにならないとはいえ、やはり修復や補填に信仰力を消耗しているのだ。それに引き換え、轟雷は修復装置による修復が間に合う限りは損耗が無い。何しろ縮退炉の燃料になっている水は魔道具で生み出しているし、その動力源のマナは縮退炉と仮想実体化装置で生み出しているのだ。エネルギー保存の法則などとうの昔に置き去りにしている。もうパイロットさえやられなければ殴り合っているだけで勝てる状態だ。しかも一見正々堂々と殴り勝ったように見える。

 左腕の守護の力は攻撃力に倍率を掛ける効果は無いので一見攻撃力が低そうだが、相手の防壁を中和することが可能という意味で非常に有効だった。A.T.(アブソリュート・テラー)フィールドの中和と同じようなものだろう。バリアに勝てるのはバリアだけだとネモ船長も言っている。

 

 それでもある程度の時間をかけていることは間違いない。では何故一気に決めようとしないのかと言えば、熾天使(セラフィム)がどうもトピア達を倒すことよりも引き留めることを重視しているので、その意図が読めず罠を警戒しているのが一つ。もう一つは、熾天使(セラフィム)が明らかに本気を出していないので、下手に危機感を煽らずに本気を出させないまま削り倒した方が結果的に早いと考えたからだ。急がば回れという奴だ。

 一体何を意図しているのかが気になるので殴り(はなし)合いで可能な限り聞き出そうとはしているが、必要以上に時間をかけてはいられないので、最後まで喋らないままならそれはそれで仕方ない。

 この一見回りくどいやり方にサティが何も言わないのは既に念話で説明して同意済みだからだ。そのサティもただ黙っているだけでなく、殴り(はなし)合っている間に色々と調べ物をしていたわけだが。

 

サティ「トピア、これ」

 

トピア「ありがとうございます。……ふむ」

 

 サティから調査結果を受け取ったトピアは、熾天使(セラフィム)殴り(はなし)合いながら視界の一部に表示されたそれに目を通して一つ頷いた。

 そしてこれまで調査の為に意図的に散らしてきた位置取りを改め、一方向へ押し出すように動き始めた。

 熾天使(セラフィム)の拳を截拳道(ジークンドー)カウンターで弾きながら押し返し、更に追い討ちで左肘の裡門頂肘、左肩から暗黒カラテ技・貼山靠(ボディチェック)。両手を突き出して白虎双掌打を叩き込み、熾天使(セラフィム)が横に軸をずらそうとするのを捕まえて轟雷を軸に一回転させ、改めて進行方向へ投げたところに追撃のきりもみドロップキックをぶちかました。

 別に元々ボクシングルールでやっていたわけではないので反則ではない。武器や射撃を使っていないだけだ。相手だって尻尾を使っているのだから問題無いだろう。

 

熾天使(セラフィム)「ぬッ、汝らよもや!?」

 

トピア「おや、何でしょう? やっと話す気になりましたか?」

 

 はぐらかしているが、トピアは明らかな意図の元に動いている。熾天使(セラフィム)が特定の方向を庇って動いていたことがはっきりしたからだ。熾天使(セラフィム)が口ごもっている何かがそこにあるのだろう。よって、トピアは熾天使(セラフィム)が事情を喋らざるを得ない状況になるまで追い込むつもりなのだ。

 殴り(はなし)合いとは言っても、トピア達は拳を交わせば相手の人格や意図を見極められるなどという迷信に頼ってはいない。どうも最初から太陽系側を背に庇って動いているように見えたので、より詳細に庇っているものが何であるかを見極めただけだ。

 殴り(はなし)合いながらもトピア達は太陽系の内側へと向かっていく。既に海王星、天王星、土星、木星の軌道を通過して火星軌道まで侵入していた。なお惑星直列しているわけではないので、それぞれの惑星自体は視認していない。

 火星軌道まで入ると、もはやトピアが内側に入って距離を空けてもそれを熾天使(セラフィム)が追いかけてくる状況で、主導権がどちらにあるかは明らかだ。

 

トピア「残念ながら時間切れです。勝手に解答編と行きましょうか!」

 

熾天使(セラフィム)「何を――」

 

トピア「――ほあたぁッ!!」

 

 トピアは一旦右前に構えを取り直したかと思えば、更に回転して全力の左裏拳を叩き込んだ。熾天使(セラフィム)は間一髪これをガードしたが、プロテクトスマッシャーの効果で防壁を中和されている上に拳が高速回転しているので完全に威力を殺せない。反撃を封じた事を確認したトピアは、距離を空けさせずに追撃を連続で叩き込んだ。

 

トピア「ああァ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

 これまでの精緻なカウンター主体の打撃から打って変わって、トピアは速度最重視の左右連打で熾天使(セラフィム)を押し込み始めた。

 截拳道(ジークンドー)というのは実はケンシロウの動きのベースにもなっている。つまりこれは北斗百裂拳……と見せかけて、かけ声の文字はカイオウが使った北斗宗家の連打技、凄妙弾烈(せいみょうだんれつ)の方だ。音声ではそんな細かい違いは伝わらないのだが、今は主に念話で通話している為に何となく伝わってしまっている。

 

 トピアは熾天使(セラフィム)が距離を取ろうとするならばそれを追いかけながら、方向をずらそうとするなら回り込んで、兎に角目的の方向に打撃で以て追い込んでいった。

 熾天使(セラフィム)はいっそ転移して星系外に連れ出そうかとも検討したが、今度はそれを予想していたトピアの轟雷の方がAWF(アンチワープフィールド)を張っていたので、容易ならざることだった。

 

 そうしている内に地球軌道、いや、地球そのものに近づいてきた。

 

熾天使(セラフィム)「そうはさせんッ!!」

 

 熾天使(セラフィム)はガードを固めたまま首を伸ばして轟雷の頭上から噛みつこうとした。するとトピアの轟雷は拳の連打を引っ込めて頭突きで応じ、更に反転サマーソルト、そのまま両足首で熾天使(セラフィム)の首を掴んで体重移動と時空勾配推進で振り回し始めた。

 

トピア「必殺! アステカセメタリーッ!!!!」

 

熾天使(セラフィム)「ウオオオオオオオッ!!?」

 

 アステカセメタリー。キン肉マンマリポーサの同名必殺技のセットアップをややアレンジしたものであり、本来は頭上からの連続頭突きでリングマットにめり込ませた相手を両足で引っこ抜いて空中でブンブン振り回した挙げ句にマットに頭から叩き付けるものだ。空中殺法主体のメキシカンスタイルレスラー(ルチャドール)であるマリポーサの強みが活かされた豪快な技だ。とてもスタイリッシュでカッコイイが、普通の人間に使うと多分死ぬので真似をしてはいけない。

 轟雷で使用した場合、これは体重差を活かした有効な攻撃になる。何故なら体格は熾天使(セラフィム)の方が大きいが、質量は原子核パスタ構造材で出来た轟雷の方が圧倒的に重い。つまり轟雷が熾天使(セラフィム)を振り回すのは簡単だが、熾天使(セラフィム)が轟雷を振り回すのは困難だということになる。相手の足が存在しなくても掛けられる技だというのも都合が良かった。

 トピアの轟雷は足首で挟んだ熾天使(セラフィム)をあらゆる方向に振り回しながら大気圏に突入し、断熱圧縮の炎を纏いながら雷速に近い極超音速でジグザグに軌道修正しながら落下していった。

 

トピア「フィニーッシュ!!」

 

 トピアは近づいてきた地表に裂帛の気合で熾天使(セラフィム)を叩き付け――るその寸前で時空勾配推進を全開にして停止した。

 周囲は今までの流れが無かったかのように薙いでおり、熱帯雨林の樹木一本すら倒れていない。

 

熾天使(セラフィム)「……どういうつもりだ?」

 

トピア「いえ、そろそろ私達の勝ちを認めていただいても宜しいのではないかと思うのですが。何も()()()殺し合うことはないでしょう?」

 

熾天使(セラフィム)「ふむ――」

 

 今の技といい、落着した場所といい、偶然ではあり得ない。色々と調べがついてしまっているようだ、と察した熾天使(セラフィム)が身体を起こしながら対応を検討していると、その返事が出る前に轟雷の足に小さな石が当たった。

 何だろうとトピア達がそちらを注視すると、そこには北米古来の民族衣装を纏った幼女がいて。

 

幼女「ばっ、ばけものめ、かみさまを、いじめるなーー!!」

 

 恐怖に膝を震わせ、涙で顔をくしゃくしゃにしながらも()()()に石を投げつけていたのだった。

 

 ここは一般的な現代地球で言う所のメキシコ。かつてククルカンを祀ったマヤ文明やケツァルコアトルを祀ったアステカ帝国が興り、そして()()()地である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。