顔見せということで現状の
ラリー「ん? こっちじゃ地上に寝室を作って
サティ「……どういうこと? 詳しく話してもらえないかしら?」
うっかり聞き逃すと命の危険がありそうなラリーの言葉に、サティは眉をひそめて聞き返した。
ラリーの方も重要な話と認識しているらしく、無言で頷いてから順序立てて話し始める。
ラリー「いや、この辺りにはいねえのかもしれんが、俺の地元じゃまとまった集団で襲撃してくる上に障害物をすりぬけて攻撃するような奴らが珍しくなかったからな。特に
この重大情報に他の四人は顔を見合わせる。どうやらラリーの地元以外では無い現象のようだ。だがこの世界にはラリーの世界の敵対生物も存在する以上、それらがスポーンしないこの辺りでも完全に安全とは言い切れない。
トリオ「工場施設自体は既に稼働しておる以上、問題は私室をどこに移動するかじゃな」
サティ「HUBは打ち上げの都合上地下には置けないから、私は寝室だけ移動することになるわね」
トピア「ユグドラシルの地下を掘り下げるか、それとも……ですね?」
サティ「流石にこの軌道エレベーターの地盤を掘削するのは強度的にちょっとお勧め出来ないわよ?」
ラリー「強度をある程度保ったまま掘ることも出来なくはねえが、また一仕事になるな」
どうしたものかとあれこれ検討していたところで、スコアが有効な方策を提案する。
スコア「全員でコアベースに来るのなら歓迎するぞ?」
トピア「……いいんですか?」
スコア「増えてせいぜい七人なのだろう?」
スコアとしてはトピアと同じ屋根の下で寝泊まりすることになるのは願ったり叶ったりである。
トピアとしてはスコアの下心を理解しているが、少なくとも了承もなく行為に及ぶような外道ではなさそうであるし、たとえそうなっても自衛できる自信があるので、悪くない提案だ。
ラリー「いや待ってくれ、必要な協力者を併せると実はもっといる」
サティ「協力者? マイスター以外の?」
未だにこの五人以外に人間が見つかっていないのに、他の人員を連れてこられる目処が立っているのかとサティは聞き返した。
ラリー「ああ、完成品のモディファイアを付け替えることの出来る
ラリーは頭の中で一通りカウントしてから、保護対象のカウントだったということを思い出して一旦1人外し25人と計上した。外したのは勿論、無意味に態度がでかくて
しかしその外した住民も含めて全員集めないと
スコア「意外と多いな……」
トピア「うちの世界の住民ももし見つかったら
トリオ「そっちは何人くらいじゃ?」
トピア「確か46人ですが、この世界を攻略するために必要なのはアヌビス神の他には商人スミスと鍛冶屋ファーガスくらいで、スミスは保護というか
持ち込んでいるというのはまあ要するに、アヌビス神同様にモンスタープリズムで捕獲した状態でアイテムとして持ち込んだということである。サティとトリオはそれを理解した上で一旦スルーした。
サティ「そのファーガスというのはどういう役割なの?」
トピア「毎日……恐らくこちらでは1時間に1回、成長の石板を生産します。ペース的にはダンジョンを攻略した方が早いですが、ダンジョン攻略で成長の石板を貰えるのは未攻略ダンジョンの攻略時だけですからね」
サティ「それは……」
トリオ「少なくとも見つけ次第保護が必要じゃの」
既に成長の石板80個によりライフ+1,000の恩恵を得ている四人にとっては、たとえ入手ペースが遅くとも要らないとは決して言えない人材であった。
スコア「まとめるとつまり現状でも40人から80人分程度の住居が必要で、これからまだ増える可能性もあるということだな? その敷地をどうするかだが……」
ラリー「おう、今住居が平屋だよな? 縦に伸ばせばいいんじゃねえの? 俺はそうしてるが」
スコア「そう簡単に出来……いや、この面子なら出来そうだな?」
地中を自在に掘削するラリーに、立体建築物を簡単に用意出来るサティとトピア。家具の用意はスコア自身でも出来るから、不足は無い。
サティ「その前に一つ聞かせて。あなたたちの最小ブロック単位は?」
スコア「1mだが?」
ラリー「2ftだぜ?」
スコア「馬鹿な、ヤードポンド法……だと……!?」
サティ、トピア、トリオの三人が天を仰ぎ、スコアが信じられないものを見る目をした。
サティ達はラリーが深度を測るのにftを使っていることから概ね予想が付いていたが、やはりそうだったかという落胆だ。スコアの方はそもそもそういった事前情報も無かったようで、より驚愕が大きかった。
サティ「いや、絶望するにはまだ早いわ。2ftなら60.96cmよね? 掘る担当と建築担当を分ければ、少し広めに掘ってもらってから基礎で調整して建設して、後で隙間を埋めればどうにかなりそうだわ」
スコア「待て、その前にラリー、2ft区切りで作業しているのを60cmに変更することは出来ないか? サイズ的にはほぼ同じだろう?」
ラリー「いやこれがな、俺の道具も経験も全部フィート基準になってるし、そもそもこの世界で活動を始めた時点で
ラリーは繊細な掘削作業が出来る割に単位の融通は利かないようであった。
スコア「駄目か……」
トリオ「結局姉ちゃんの案で妥協する以外に無さそうじゃの」
トピア「仕方ないですね。ではそれで作業を……あ、ちょっと待ってください。お土産があります。こちらへどうぞ」
ラリー「土産?」
サティ「ああ、アレね?」
トリオ「アレじゃな」
スコア「何のことだ?」
トピアが案内する方向を見て、サティとトリオは内容を察した。到着したのは案の定ポーション工場の端にあるコンテナ群であった。
トピア「こちらがポーション工場です。常に自動生産し続けてますので、在庫が枯渇しない程度に幾らでも持っていってください」
スコア「ほう、ポーションの製造を自動化しているのか。大したものだ」
ラリー「効果はどんなもんだ?」
トピア「こちらのハイライフポーションがライフ450回復のクールダウン1秒です」
スコア「回復量もなかなかだがクールダウンが驚異的に早いな? ……おいどうしたラリー」
見ればラリーは目を丸くして固まっていた。
ラリー「……うちの最上位の
スコア「ハハッドンマイ。うちの大回復ポーションは40%回復でクールダウンは5秒だ」
ラリー「うちが一番しょっぱいのかよ」
トリオ「やっぱり色々差が出るもんじゃのう」
サティ「そうねえ」
フルエンチャント料理があまりにもすごいので相対的に霞んでしまっていたが、これでも結構な代物だったようだ。
トピア「ただこのハイポーション系はインベントリに入る量が他のアイテムの1/10に制限されるという難点がありますので気をつけてください」
スコア「分かった、99個だな」
ラリー「999個だろ?」
また何やら認識の違いがあるようで、沈黙が流れた。
トピア「あの、うちのインベントリは1スタックにつき100個の4スタックセットで1枠400個なんですが」
スコア「うちは1枠1スタックの999個だな」
ラリー「俺の所は1枠1スタック9,999個だぜ。昔は99個だったんだが、今じゃ大分使いやすくなったもんだ」
大分どころの話ではない。道理でラリーが尋常ではない速度で掘削した大地が尽くインベントリに入ってしまうはずである。
トピア「うちだと1枠40個しか持てないので微妙な扱いなんですけど、そちらでは大分扱いが変わりそうですね」
ラリー「そうだな、正直すげえぞこいつは。ありがたく貰っておく」
トピア「どうぞどうぞ。次はこちらのハイマナポーションですが、マナ350回復のクールダウン1秒です」
ラリー「これももしかして
トピア「その現象はよく分かりませんが、特に副作用は無いですね」
ラリー「マジか。マナ上限が増えたらようやくマナ300回復の
ラリーはどうにか常識との折り合いをつけたようであった。
スコア「私は元々自分のマナを使うという概念が無かったが、ステータスでマナがついた以上どこかで使うかもしれないな。少しだけ貰っておこう」
トピア「はい、では次にこちらの小さなスタミナポーションなのですが……反応が薄いですね?」
これまでの2種類のポーションに比べてラリーやスコアのテンションが低いのでトピアは首を傾げた。
ラリー「いや走って疲れるほど柔に出来てねえからな
スコア「代わりに走り始めが遅いだろうが」
ラリー「む、そりゃそうだがお前だってトップスピードが全然出ねえだろうが」
スコア「あれはペース配分というものだ」
サティ「20秒間はどれだけ運動しても全く疲労しないっていう結構ヤバイ効能よそれ。試してみたら?」
サティの勧めにより顔を見合わせた二人がとりあえず試しに飲んでみたところ、ラリーはそれまでより加速が格段に早くなり
スコア「思ったより遙かに有用だな?」
ラリー「そうみてえだな」
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理解が得られたところで残りの状態異常耐性系3種も納品し、メインディッシュの時間となった。
トピア「ではいよいよ注目のメインディッシュの登場となりました。まずは普通に食べてみてください」
ラリーとスコアが着席したテーブルにトピアが差し出したのは、
ラリー「これは……魚料理だな?」
スコア「見たところムニエルか?」
スコアは標準的テーブルマナーで慎重に、ラリーは特に気にせず雑に切り分けてかぶりついた。
直後、二人を衝撃が襲う。
ラリー「こいつは……!」
スコア「異様に美味いな……!?」
サティ「まあ、そうなるわよね」
トリオ「しかも酒に合うんじゃよな、これ」
トピア「やはり師匠の料理の素晴らしさは万人に伝わりますね!」
折角なので歓迎会を兼ねて全員で例のムニエルを食していた。全員の前にトピアが水を並べたが、それとは別にトリオの前には自分で出した 伝説の ワインの 伝説の バイオエタノール割りがある。工場長以外にうっかり飲まれると危ないので勿論事前に注意してある。
ラリー「お前の師匠って伝説の料理人か何か?」
トピア「ふふふ、師匠は師匠です。伝説の 特級の 高級な 上質な ムニエルをとくと味わうと良いのです」
スコア「おい待ってくれ、その口ぶりだとまさか消耗品に4つものエンチャントをつけたのか?」
トピア「そういうことを平然とやってしまうのが師匠のすごいところです。そこに痺れる憧れるッ!」
ラリー「トピアの師匠マジパネエな!」
アイテム1つに必要なモディファイアを付与する手間の面倒さを思い起こしたラリーは、大量の消耗品に付与する作業を想定して戦いた。
トピア「フハハ、私の師匠を好きなだけ称えると良いですよ! ……と、忘れるところでした。一つ聞きたいんですけど、お二人はキャプ食いって出来ます?」
ラリー「いやキャプ食いと言われても分からん」
スコア「どんなのだ?」
トピア「例えばこのパンを」
トピアがテーブル中央の籠に積まれていたフランスパンを手に取ると、そのパンがトピアの顔の前で瞬時に消えた。
トピア「このように瞬時に食べ切ることです」
サティ「いやそれは幾ら何でも無理でしょう?」
スコア「出来るぞ?」
ラリー「俺も出来るぞ」
スコアとラリーが瞬時にパンを消したことでサティの動きが固まった。
サティ「嘘……でしょ?」
トリオ「出来るもんなんじゃのう。侮れんわ人間」
トピア「ほらやっぱり食事バフの概念がある世界の人には出来るものなんですよ!」
ラリー「それはそうとこの料理の回復量えげつねえな?」
スコア「ハイポーション2種それぞれの倍以上の数字が出ているな。しかも
ムニエルを完食した二人がその回復効果に驚きを露わにした。
トピア「というわけで、このムニエルは現状最強の回復アイテムなのです。ここでは製造できないのであんまり常用すると無くなってしまいますが、いざというとき用に400皿ずつ進呈致します。師匠に感謝して大事に使ってくださいね?」
トピアは師匠の偉大さを布教出来た上にキャプ食いが人類に不可能な技能ではないことまで立証出来て、とても満足なようだった。