存在Xが部下に全く慕われていないという新事実が発覚したが、それはともかく熾天使の経緯説明を聞いたトピア達は大いに頷いた。
サティ≪ああ、そういう……≫
トピア≪守ってやろうにも神が出張ったら向こうもより強大な神が出てくるので、武力ではどうにもならなかったという話ですか≫
熾天使≪然り。我は基本的に文明と農耕の神であって、戦いには向いておらぬのだ≫
ククルカン = ケツァルコアトルは地水火風4属性、農耕、文明、太陽、創造など様々な権能を持っているが、戦神の類いではない。直接戦闘力は高くないのだ。どうやら熾天使が最高位天使にしてはそれほど強くないのも、単に手加減していただけでなく、元々戦いが苦手という事情があったようだ。
元々ただの人間だった座天使がやたら強いのはあいつが異常なだけだ。悟りを開いた仏教徒に信仰力を与えると大概始末に負えないことになるが、その最たるものが座天使だ。
マルカ≪でもね、でもね、それでもかみさまはたすけてくれたの! ごせんぞさまたちをたすけてくれたの! マルカたちのじまんのかみさまなの!≫
マルカが両手をぶんぶん振って精一杯熾天使の弁護を試みた。熾天使は羽根でそっとその頭を撫でた。
熾天使≪我は強くはないが、代わりに創造の権能があったのでな。我は力を振り絞って新たな新天地を作り、出来る限りの民を退避させた。それがこの世界だ≫
サティ≪ああ、そのせいで余計にあっさり滅ぼされたように感じるわけね?≫
熾天使≪如何にも≫
サティの確認に熾天使が頷いた。征服者達がアステカやマヤを滅ぼしていくのと並行してククルカンが住民を国外に避難させていたのだから、益々侵略はやりやすかっただろう。
トピア≪しかし、意外とクラフトピアンというか、クラエル神に近い権能をお持ちなんですね?≫
文明、農耕、創造。聞いてみれば得意分野がかなり被っていた。このあたりの風景ののどかさもクラフトピア世界にも通じるものがある。妙に親近感を覚えるのはそのせいかもしれない。
熾天使≪そのようであるな。故に相性が良いと思ったのだが……それはともかく、新天地への移住にも問題があった。地球とその周囲を巡る小さな太陽だけを突貫で作ったこの世界が安定しなくてな。しかも大人数を運ぶ為の力も不足しておった。それをどうにかするのに必要なのは信仰の力だが、征服された民は信仰を捨てさせられていたし、匿った民だけではどうしても数が足りなかった。だがそうだとしても諦めるわけにはいかぬ。我は最後に残った手段として彼奴に頭を下げ、配下となることで最低限の力を確保した≫
サティ≪それでこんな構造になってるのね≫
この世界は太陽系の外側がプラネタリウム構造になっていることは観測調査から分かっていた。地球の外に出るとプラネタリウムになっているテラリアンの世界に似た構造だ。しかも当初は地球以外の天体も揃っていなかったらしい。
つまり守るべきものが地球にあるのに何故太陽系外縁部という比較的近くで戦い始めたのかと言えば、そんなに遠くまで作り込んでいなかったからというのが正解だ。
だが、熾天使が保護すべき民が住まう地球環境だけがかなり充実しており、飢えの類いも無い。無いというか、実はそのようなことが起きるたびに神の力で補填していた。それは民にも有り難がられるだろう。実際マルカも、そのような計らいによりかつて自分と家族の命を助けられたことで熾天使のことを非常に尊敬しているのだ。
つまり熾天使はこの世界の住民に至極真っ当に信仰されているのだが、それでも格の割にそれほど強くないのは、得た力の殆どを守るべき世界の維持と発展に注いでいるというのも理由だった。
熾天使≪彼奴の命令を聞くのは業腹だったが、背に腹は代えられぬ。犠牲になる世界の民には悪いが、我には守るべきものがあるのだ。そもそもアブラハム教徒が苦しむ分には我は一向に構わん≫
サティ≪アッハイ≫
熾天使の目に憎しみの炎が見えた。彼はマヤ・アステカを滅ぼしたキリスト教徒、ひいては存在Xに力を注ぐアブラハム教徒を未だに憎んでいた。
言われてみれば統一歴世界で戦火に苦しんでいたのは殆どがアブラハム教徒であったし、熾天使担当エリアのルーシー連邦もアブラハム教徒か無宗派。マブラヴ世界でも北米南部は安全地帯に近かった。また、メキシコがBETAやオルタネイティヴ5に滅ぼされる段階では、ククルカンやケツァルコアトルを信仰する者達をこっそり回収保護してもいた。
そういう観点で見ると、存在Xがマッチポンプで自らの信徒をわざわざ不幸に陥れようとするのを手伝うのは、熾天使にとっては復讐でもあり、出世の機会でもあり、信仰力を得る機会でもあったので、仕事に精も出ようというものだ。
つまりククルカンが熾天使という天使最上位に居座っているのは、強さではなく仕事の実績によるものである。
なるほどなあ、とトピアは一つ頷いた。他宗派に対する害意はあるが、少なくとも自分の信徒を痛めつけて無理矢理信仰を引き出すような真似をしていないだけでも存在Xに比べて遥かにまともであり、やはり交渉の余地がある。
そこまで納得したトピアは追加で質問を投げた。
トピア≪まだ一つ疑問があるんですけど、私達を変に引き留めようとしてたのは何なんですか? 存在Xの命令を素直に聞きたくないのは分かりますけど≫
熾天使≪ああ、あれはな……これは他言無用であるぞ? 近年ではこの世界の信仰力供給も安定してきて、独立も不可能ではなくなったのだが、また彼奴に滅ぼされてはかなわんからな。反抗に備えて、戦力の拡充を図っておる。つまり彼奴に挑む勇者の相手をするたびに、見込みのある者達を密かに保護していたのだ。特に汝らはこの世界の暮らしと戦力を向上させるために是非とも欲しい人材であったからな。我に勝てない程度ならば現時点で外に出しても無駄死にであろう。勿体ない≫
サティ≪そちらから見るとそうなるわけね≫
トピア≪私達以外にもいたんですね勇者。しかし、それならそうと、最初から普通に説明してくれればいいじゃないですか≫
その所為で余計に時間が掛かってしまった、とトピアが言外に批難した。
熾天使≪下手に事情を話せばここの民を人質に取られる可能性もあったからな。我はかつて融和策で守るべき民を失ったのだ。協力体制を取るにも出来る限り慎重にせねばならぬ。あんな失敗は二度と御免であるぞ≫
トピア≪うーん、私達はそんなことしないんですけど、慎重論としては分からなくはないですね≫
まあ敵対していた相手を全面的に信用して全部話せというのは、たとえ相手の評価が清廉潔白であっても博打にならざるを得ないのは頷ける所だ。
サティ≪いや、ユウジョウ作戦のせいじゃないの?≫
サティが言う通り、熾天使が警戒しているのは、トピアが以前実行したBETAに対しBETAを盾にする戦術プラン、ユウジョウ作戦のせいだ。
トピア≪あれは相手が自ら生物であることを否定する作業機械なのでセーフです。それに光線属種の射線を遮る為に間にBETAを挟むのは元々地球で発案された戦術ですからね≫
そういうものだろうか、と熾天使は内心疑問に思ったが、まあ無辜の市民を人質にすることは無いようだとひとまず納得した。
トピア≪……それで、私達はククルカン様のお眼鏡に適いましたか?≫
トピアが問いかけると、熾天使は腕に変化させた翼を顎に当てて考え込む仕草をした。すんなり合格は出ないようだ。
なおマルカも一緒に考え込むような仕草をしていたが、これは単に真似をしているだけだ。
熾天使≪ふむ、我が今まで戦った勇者としては汝らは間違いなく最強なのだが……惜しいかな、星を砕く程度では彼奴に挑むには今ひとつ足りぬ気がするな。他に何か切り札は無いのか?≫
トピア≪ありますよ?≫
熾天使≪あるのか!? よし、すぐに見せるがよい!≫
サティ≪でもククルカン様、暫くは他言無用よ?≫
熾天使≪ハハハ分かっておる!≫
トピア達はこの後ブロウクンスマッシャーとは別の切り札を見せたことであっさり熾天使の合格を貰った。
マヤ・アステカを守る新たな勇者の強大さには、同席したマルカも目を輝かせてはしゃいでいた。