さて、ターニャやマインが甲児達と暢気に談笑しているように見えるかもしれないが、実際のところはそこまで油断してはいない。存在Xに大ダメージが入ったことで時間停止が解除された為、ターニャは重轟雷の両腕を一旦インベントリに回収し、三重轟雷と同スケールで再生成した英霊軍団を追撃に向かわせていた。存在Xには標準の魔導ビームが通用しない為、こちらは氷結攻撃で集中砲火している。
これに対し、存在Xは目立った損害を受けていないが、割れた月に落下していくだけで碌な反応を見せない。時間停止が解除されたことも考慮に入れると既に死んでいるのではなかろうかとも思える挙動だが、敵首領の撃破は死体撃ちしてでも確実に確認するべきだ。
そこで、ターニャ自身は兵装担架から三重轟雷の頭頂高とほぼ同じ長大な対物ベルカライフルを取り出して構えていた。このライフルに込められているのは実弾だ。
普通の銃撃は信仰力防壁のせいで存在Xに全く効かない上にエンチャント補正も得られないが、このライフルは統一歴世界由来技術による術式封入弾頭を用いることでその問題をクリアしている。原子核パスタ製の
ターニャは死体撃ちではありませんよという対外アピールを兼ねて、引き金を引きながら攻撃の宣言をした。
ターニャ「くたばれ存在Xッッ!!!!」
これで死体撃ちではないことは伝わっただろうが、殺意が漲りすぎているのであまりイメージ戦略上の意味は無かったかもしれない。
そもそも憎き存在Xの顔面をライフルで打ち砕いてやりたいというのはターニャが前世から抱えていた強い欲求なのだ。口から憎しみが溢れてしまうのは必然であった。
斯くして射出されたとどめの貫通術式弾は、存在Xの顔の手前で防壁と拮抗して食い止められ、最終的に噛み砕かれてしまった。軌道制御からの再攻撃を警戒したのだろう。
存在X「やれやれ、死体撃ちとはマナーがなっていないな」
ターニャ「死んだふりだろうがッ!!」
マイン「フン、案の定か」
存在X「この創造主にここまでのダメージを与えたことは褒めてやろう。だがそれもここまでだ」
死んだふりがばれたことで、存在Xは瞬時に傷を修復した。こぼれ落ちる血は立ち消え、左肩から右脇腹に掛けての傷は跡すらも残ってはいない。まるでヘルカッターで元々何のダメージも負っていなかったかのようだ。存在Xの耐久力を兼ねる信仰力を探ってみると、実はこれも致命傷と言える程には減っていない。だから十中八九死んだふりであろうと判断したわけだが。
では存在Xは死んだふりまでして何を狙っていたのかというのが問題だ。
まず考えられるのが迂闊にとどめを刺しに行ったところへのカウンターであり、このためターニャ達は近接攻撃は控えていた。
次に援軍を期待しての時間稼ぎという線もあるが、これは
他にも色々考えられなくはないが、どうも存在Xはこの状況から簡単にひっくり返せるつもりでいるように見える。
などと考えていたところで、ターニャ達の前に不自然なものが横切った。
ターニャ「鳩……?」
それは真っ白な鳩であった。いや、ただの鳩ではない。まず宇宙空間を平然と飛んでいることもおかしいが、それ以上にサイズ感がおかしい。存在Xを普通の人間に見立てたときの鳩くらいのサイズがあるのだ。普通の鳩の1万倍くらいはでかいだろう。
ターニャはそれを警戒して試しに貫通術式弾を撃ち込んでみたが、固形の実体は無いようで、貫通しても何のダメージにもなっていなかった。
そして次に、欠けた月の地表、裁判所があったあたりから何かが浮き上がった。十字架……いや、金色の十字架に磔にされた人間の石膏像だ。確かに法廷の奥にそのようなものがあった覚えがある。全体的にキリスト教様式の建物だったのでそういう飾りだろうとスルーしていたが、考えてみれば、神の法廷なのに聖者とはいえ人間を祀るのは不自然だ。
ターニャの頭の中でピースがはまった。存在X、十字架の聖者、鳩。――
存在X「
存在Xが掌を上に向けた両腕を左右に伸ばして叫んだ。それに応じて存在X周囲から十字架の聖者、鳩までを含む球状の範囲が文字が刻まれた輝く防壁に包まれ、光以外の何物をも通さなくなる。
その球状防壁の中で存在Xの肩に鳩が止まり、それは融合して巨大な翼となった。
次に存在Xの額にGストーンのように十字架オブジェがめり込み、磔にされた聖者が目を見開くと、存在Xの頭上に
そして十字架オブジェの人形が十字架から両手を解き放ち、大口を開けて怒りの形相で両腕をクロスすると、どういうわけかターニャ達の機体頭上から大量の水が降りかかった。
甲児≪何だこりゃ!?≫
ターニャ「奴め、一体どこの懺悔室から来た!?」
ターニャが指摘したように、どうもあの磔の聖者にはひょうきん懺悔室のザンゲの神様のイメージが混ざっているようだ。当時人気番組だった所為で信仰に混ざってしまったのだろうか。
そして水をぶっかけられたのは三重轟雷とマジンガーZEROだけではなかった。
ラリー≪今帰ったぜ……って、なんだこの水?≫
トリオ≪状況はどうなっとるんじゃ?≫
このタイミングで丁度帰ってきたラリー達の轟雷も懺悔水の被害に遭っていた。
機体の見た目は普通の轟雷だが、何やら未修復の部分が目立ち、それなりの無理をしたような形跡が見られた。
マイン「無事戻ったようだな。状況は――」
スコア≪すまない、遅くなった≫
テクス≪火責めの次は水責めでござるか?≫
トピア≪只今戻りました! お、ZEROさんがいますね! 救援感謝します!≫
サティ≪どうやらみんな無事のようね。これどういう状況なの?≫
マインが説明を試みると、タイミングがいいのか悪いのかそこに他の面子も一斉に戻ってきて全員が水を被っていた。スコア機はサイズが半端に大きくなって金色の装甲に虹色の粒子を纏っており、トピア機は外見上は至って普通だ。
やはり全ての戦線で
マインの語り口は客観性に問題があるので、実際の経緯説明はターニャがする事になった。念話で繋いで一瞬である。
テクス≪なるほど、大ダメージは与えたものの、三位一体合体でパワーアップ中の模様、というわけでござるか≫
球体防壁に覆われた存在Xは、光っていて形がはっきり見えないが、防壁の半径増大と共に本体のサイズも徐々に増していっているのは明らかだった。
また、
欠けた月はすっかり水に覆われて地表が見えなくなっており、それどころか巨大な水球に成長し、周辺の宙域を侵食しつつあった。ただのバラエティ演出にしては規模が大きすぎる。
サティ≪これもしかして、ノアの方舟の大洪水じゃないかしら?≫
ノアの方舟。ノアが方舟に家族と家畜を乗せて大洪水を生き残ったという、旧約聖書・創世記にある話だ。
マイン「……なるほど、実際に
存在Xの意図を推察していたマインが一つの結論に達した。この神域を管理する存在Xならば、神域の宇宙全体を水で埋め尽くすことも不可能ではなさそうだ。
テクス≪ああ、この調子で全部が水で埋め尽くされると確かに
スコア≪じゃあ丁度攻撃が来ないようだし、今のうちにこっちもやるしかないな≫
甲児≪やる? 何をだ?≫
ラリー≪決まってんだろ?≫
トピア≪合体です! ――
トピアがいつもの合体キーワードに一つ足して宣言すると、トピア機の足元に
これがトピアが
ひょうきん族の放送終了が平成元年なので、平成後期(アルカディア連載開始が平成24年、商業書籍版開始で平成25年)に電車に轢かれたサラリーマン・デグさんが幼少の頃にギリギリ見ていたか或いは存在くらいは知っていたという想定です。