【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 [2025/11/27]加筆・修正しました。時間経過部分に仕切りを追加しました。


037. ということはDPS測定器のSは?

 夕食を終えてからもラリー達はもう少し仕事を続けることにした。というよりまず現在が夕刻という認識が無かった。

 

サティ「そういえば昼夜一巡が1時間として24回で1日というのは私たちが決めたものだから今が夕刻扱いということなんて共有出来ているはずが無かったわね」

 

スコア「そもそも私など初めて地上に出たのがついさっきだからな。地球時間の1時間ペースで昼夜を繰り返すなんてことすら知らなかったぞ。逆に昼夜に関係なく24時間を1日と認識してはいたが」

 

ラリー「俺んとこはその地球時間で言う24分が1日だったからな。もう2、3ヶ月くらい前に来た認識だったぜ」

 

 ラリーが元いた世界では全ての時間単位が地球に比べ1/60になっており、地球の24分=ラリーの1日、地球の1分=ラリーの1時間、地球の1秒=ラリーの1分、地球の1/60秒=ラリーの1秒となっていた。つまり地球時間で24時間前はラリーにとって60日前だ。

 

トピア「あれ、ということはDPS測定器のSは?」

 

 秒の長さが地球基準の1/60しかないのだったら、先ほど測定したD P S(Damage Per Second)は何だったのかというのは当然出てくる疑問だ。10秒の長さもトピアの感覚では地球基準と変わらなかった筈だ。

 

ラリー「どうも地球時間の(Second)に合ってるようだな。というかDPS測定器(DPS Meter)に限らずストップウォッチ(Stopwatch)なんかも地球時間基準なんだよな。まあ、俺達の世界にはふらっと他の世界から来る奴もいたから、このあたりの道具は多分どっかの地球から流れてきたんだろ」

 

トピア「そういうものですか」

 

 つまりラリーの世界には同じ名称で尺度が60倍違う時間単位が混在していることになるが、そういう物だと言われれば納得するほか無い。

 

サティ「ひとまず、こちらの時間基準で時計合わせしてこれから共有するということで問題ないかしら?」

 

スコア「問題ない。……というか、初めて貴女のかんばせを拝見したが、普段隠すのが勿体なく感じるな」

 

サティ「あら、お上手。でも惑星開拓者(パイオニア)は安全第一なのよ。あなたこそ頭丸出しで大丈夫なの?」

 

 サティもこれから電力網接続の仕事があるので、スコアを適当にあしらってフルフェイスヘルメットをしっかり被った。いつもの惑星開拓者(パイオニア)のフル装備である。

 

スコア「ん? ……ああ、見えないだけで頭の防具は着けているぞ。ラリーもそうだろう?」

 

ラリー「おう、兜がそのまんまだと視界が悪いからな」

 

サティ「……どういうこと?」

 

トピア「あ、不可視化オプションですね?」

 

スコア「そのようなものだが、どちらかというと衣装の部分単位での見た目変更だな。全部外すとこうだ」

 

 言うやいなや、スコアの見た目がギリースーツのような草の生えた緑のフードと、緑の地から紫の棘が生えた上下鎧に変化した。若干毒々しいが、森の狩人っぽい装いである。

 

ラリー「俺の場合は兜の上からこの元の髪型を指定してる形だな。それを外すとこんな感じだ」

 

 ラリーは頭だけ変更していたようで、胸当てとお揃いの山吹色に輝く兜が現れた。

 

サティ「なるほど、本来はそれなりの装備なのね。見た目から全く分からないとは思わなかったわ」

 

スコア「こうすると自分にも見えなくなるからな。視界が良くなるんだ」

 

トピア「サティ姐さんにもライフとかの表示があるメニューの装備欄に頭装備のチェックボックスがないですか?」

 

サティ「……いつの間にかあるわね」

 

 サティがメニューを操作すると、被っていたヘルメットが消えて見えなくなった。触れてみると当たり判定はそのまま残っているので、それに伴い多少髪型が潰れてはいるが。

 

トピア「これで解決ですね!」

 

ラリー「にしてもトピアは何で不可視化してないんだ? 狐のお面とかかなり視界が悪そうだが」

 

サティ「あ、それは私にも分かるわ」

 

トピア「おっ、分かりますか?」

 

 双剣装備を蒸着するたびにわざわざお面をずらしているのだから邪魔な筈だが、トピアがそれを不可視化していないのは何故なのか。そういったラリーの疑問にトピアが答える前にサティがインターセプトしたので、トピアもその答えを聞く姿勢になった。

 

サティ「魔法装備の帽子が師匠とお揃いだからでしょう?」

 

トピア「正解です! 蒸着!」

 

 いつものポーズでトピアが蒸着をキメると、頭の上には魔法使いの三角帽子が載っていた。トピアはその帽子のつばを摘まんで誇らしげに胸を張る。

 

トピア「こちらが師匠とお揃いの! クラシカルウィッチハット緑です!」

 

 その際、特にお揃いであることを強調して宣言したのは言うまでもない。

 

ラリー「おっ、それが魔法装備か。どんな魔法を使えるんだ?」

 

トピア「攻撃のメインはボールライトニングで、たまにライトニングボルト、サモンメテオ、フロストマインなどですね」

 

ラリー「やっぱ複数使えんのか……おいどうしたスコア? 妙に黙りこんで」

 

 大地の冒険者(テラリアン)が使う魔法は基本的に魔導書などの武器に付随するものであり、会得するものではない。従って魔法の種類を変更するには武器を持ち替えなければならないという不便がある。しかしトピアはDPS測定の際にバトルヒムその他の魔法やスキルを装備変更無しで使っていたので、そこに差違があることをラリーは認識していた。

 一方スコアが何やらしかめっ面で黙り込んでいるので、ラリーはその様子を訝しんだ。

 

スコア「何でもない」

 

 何でも無いと言うが、スコアはラリーでも気付くくらいに眉をしかめていた。どうもトピアの師匠への入れ込み方が想定以上に重いと分かってきたからだ。

 とはいえスコアは大人であって男子小学生ではない。トピアが明らかに好意を寄せている師匠を感情的に貶めるような真似をすれば自分の方が嫌われることくらいは理解していた。つまり師匠の足を引っ張らずにその好感度を超える必要があるというこれまで以上に高いハードルを認識したのだ。むしろ師匠を称えまくった方が簡単に好感度が上がりそうなのが複雑であった。

 

スコア「それよりも仕事を再開するぞ。私は第3の巨獣の領域の調査を始めるがラリーはどうする?」

 

ラリー「第3? 封印が解けたのか?」

 

スコア「どうもそうらしい」

 

ラリー「そうか。俺は不浄(The Corruption)の隔離に動きたいんだが……距離があるのか?」

 

トピア「ここから東に300kmくらいですね」

 

ラリー「300キロっつうと……200マイル弱だな? セレスチャルスターボード(Celestial Starboard)なら2時間ちょいで着くな」

 

 300kmを2時間ちょいで移動出来ると聞いて、サティが興味を示す。

 

サティ「かなりの高速移動手段があるのね。どんなの?」

 

ラリー「こういうのだぜ」

 

 ラリーの足元に星形の板が出現すると、それに乗ったラリーが縦横無尽に飛び回り、一通りのデモンストレーションの後に元の場所に降りてきた。

 

ラリー「……と、こんな感じなんだが」

 

トピア「それ魔法の箒よりも速くありません?」

 

ラリー「そうなんだが、制限時間無しで飛ぶにはアクセサリ枠が一つ潰れる上に直線移動以外は結構操作が難しくてな。初心者には箒やUFOの方がお勧めだぜ」

 

サティ「UFO……?」

 

ラリー「ああ、速度性能は箒の方がいいんだが、座り心地が良くねえからな。UFOは少し遅いがシートにしっかり座れるから楽なんだ」

 

 サティが疑問に思ったのは魔法文明アイテムに何故突然UFOが出てきたのかということであったが、それはそれとしてラリーの返答は有益な情報であった。

 

トピア「もしかして、それ全部乗ったまま戦闘出来るんですか?」

 

ラリー「勿論だぜ?」

 

トピア「となると空戦の自由度はそちらの方がかなり高そうですね。そのスターボードでなくても幾つか余分に用意出来ると助かるんですが」

 

 トピアは大地の冒険者(テラリアン)の空戦自由度の高さを知り、顎に手を添えて考え込み始めた。

 続いて、理想郷の建設者(クラフトピアン)が使うグライダーやジェットパックのような物すら無く、基本的に地面を走るしかなかったスコアも興味を示す。

 

スコア「それは複数手に入るものなのか?」

 

ラリー「別に数は限られてねえぞ。ただ手に入れようとするとどれもこれも肉の壁(Wall of Flesh)の討伐後になるな。んで肉の壁(Wall of Flesh)を討伐すると新しく浸食領域が増えて今まで以上の勢いで広がり始めるもんで、先に今ある不浄(The Corruption)を処理した方がいいと俺は思うんだが」

 

トピア「ああ、それはその順番の方がいいですね。お任せします」

 

 そういう事情ならば今ある侵食領域を先に隔離しておかないとあとで大変なことになりそうだと判断したトピアは、そのあたりの判断を識者であるラリーに一任することにした。

 

ラリー「おう。んじゃ俺は不浄(The Corruption)領域の端っこに簡易拠点を作ってポータルを設置したらコアベースに転移で戻るからよ。またな!」

 

 それだけ言い残すと、ラリーは文字通り流星のように飛び去っていった。

 

トリオ「ん? 住居用スペースの掘削はええのか?」

 

トピア「あっ……まああちらも急ぎですし、電力網の敷設も終わっていないので、明日でいいでしょう。今でも最悪ポータルで避難くらいは出来ますし」

 

サティ「じゃあ私たちはコアベースから地上への電力網接続に行きましょうか。トピア、案内と護衛と結界敷設をお願いね」

 

トピア「はーい」

 

スコア「では私も失礼する」

 

トリオ「おう、儂はもう少しで環境対策システムの研究が終わりそうじゃけえそっちの改修作業をやるわい」

 

トピア「お、早いですね」

 

トリオ「この後にゃレーザーの減衰問題をどうにかする一大研究が待っておるからの。それが終わらんと防衛も何も無い以上、もたもたしておられんわ」

 

 トリオとしても従来の自動迎撃レーザーで簡単に防御を突破出来ない突撃(デストロイヤー)級には大きな危機感を抱いており、対策を急ぐのは必然であった。

 かくして(マイスター)全員が夕食後の残業を開始した。生きるか死ぬかの戦い故に、労働基準法などというものは無いのだ。

 

 

◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■

 

 

 その後、宣言通りにトピアとサティはコアベースから地上へ電力網を接続し、ユグドラシルからの豊富な電力がコアベースに無事届くようになった。ついでにサティが各所に坂道を設置したため、歩いて上層に登れるようになった。

 折り返してコアベースに戻ったサティ達が業務終了でポータルから帰ろうとしたところをスコアが呼び止めた。採掘に関する相談ということなので、欠伸をしているトピアを先に帰らせて、サティが話を聞くことにした。

 

スコア「端的に言うと、第3の巨獣の領域、始まりの砂漠で新素材ガラクサイトの鉱脈を見つけた」

 

サティ「更に新しい鉱石を見つけてくるとはねえ」

 

スコア「これまでも新しい領域に進出するたびに何かしら見つけていたからな。多分あるとは思っていた」

 

サティ「それで、使い道は?」

 

スコア「とりあえずガラクサイト製の作業台を作ってみたことで、作れそうなものの見当はついた。まずは今まで通りつるはし、シャベル、釣り竿、壁、床、橋、フェンス、フェンスゲート。見込み強度はサンゴより上だ」

 

サティ「うん、ちょっと待って、ガラクサイトってマンガンスピネルのことじゃないの? 何でサンゴより……サンゴ……そもそもサンゴの硬さもおかしかったわね」

 

 サティはマンガンスピネルにしては物性がおかしいとツッコもうとしたが、鉄より遥かに上とされるサンゴの位置づけがそもそもおかしいことを思い出して今更だと思い直した。ファンタジーを相手にするには細かいことにこだわりすぎると本質が見えなくなることがあるので、このくらいの柔軟さが必要だ。

 

サティ「まあいいわ、ともかく素材的には上位の鉱石なのね?」

 

スコア「いや、硬すぎてしならないから弓用途ではオクタリンの方がましなくらいだ。近接武器はルーンソングよりやや強いが、誤差程度だな。まず防具はオクタリンより1段階強力なものを作れそうだ」

 

サティ「じゃあ今後も主力はファントムスパークなのね?」

 

スコア「あれとルーンソングは遺物を集めて作ったワンオフ品だからな。まあトピアさん方式の精錬をするには1つしかないというのが足を引っ張るが。だから精錬前提ならオクタリンの弓やガラクサイトの剣は選択肢に入る」

 

サティ「その観点で言うとトピアやラリーが作れる弓は選択肢に入らないの?」

 

スコア「それがな、弓というカテゴリに限ればどうやら三人の総合でもファントムスパークが一番攻撃力が高く、その次がオクタリンの弓らしい」

 

サティ「思った以上に強いのねファントムスパーク」

 

 DPS勝負で惨敗していたため、ファントムスパークには強いイメージが全く無かったサティであるが、実は武器が弱いわけではなかったらしい。なお銃よりも弓の方が遥かに強いのはエンチャントなどの仕様としてサティは既に受け入れている。大丈夫だ、科学にはまだ数の強みがあるし、レーザーという発展の余地もある。

 

スコア「ファントムスパーク自体は決して弱くない。あくまでゼニスやフルエンチャント装備がおかしいんだ。いや、ラリーの所には攻撃力が低い代わりに一度に5本ずつ矢を撃つようなものはあるらしいが、話に聞く突撃(デストロイヤー)級相手には使えないだろう」

 

サティ「まず隔絶した打撃力か、そうでなければ側面に回る機動力が必要だものね」

 

 正面から突撃(デストロイヤー)級の甲殻を打ち破れる攻撃力の目安は主力戦車に搭載される120mm砲でぎりぎりくらいだ。人力で真っ二つに出来ているトピアの方がおかしい。

 

スコア「話を戻すと、ガラクサイトでは他に移動用のゴーカートと、トラップとタレットを作れそうだが、こいつは性能的に対BETAの前線に置くのは無理だな。牧場用だ」

 

サティ「あら、それはそれでいいんじゃないの? ポータルの目標製造数に対して牧場の規模が足りないでしょう?」

 

スコア「お見通しか。まあ今後牧場を拡張する分には活躍するだろうな。期待してくれていい。そして最後の使い道だが、第3の巨獣ラ・アカールの召喚に使うようだ。ガラクサイトというのはその材料に示されていたインゴットの名前でな。インゴットと言うからには新たな金属であろうと」

 

サティ「なるほどねえ」

 

 遺跡にガラクサイトと書いてあるのならここでの呼び名はガラクサイトで確定なので、マンガンスピネルとの比較をしても無駄だ。

 

スコア「ともあれ、サンプルを兼ねて採鉱機を設置してもらえないか?」

 

サティ「分かったわ。未知の物質はこちらも興味があるからね。でも……」

 

 サティが周囲を確認すると、声を潜めて話し始める。距離が近い。

 

スコア「何だ?」

 

サティ「あなた、このまま帰る条件が整ったらトピアを置いて逃げるなんてことは無いでしょうね?」

 

 そう、スコアだけはコアによって外敵駆除達成とは異なる帰還条件が示されているのだ。その意味で一蓮托生とは言いがたいところがあった。

 だから外敵討滅戦争と直接無関係な巨獣攻略を進め始めたスコアを、サティは警戒していた。

 

スコア「ん? んん? くっ、くっふふはは!」

 

 しかしスコアは意表を突かれたような表情を見せた後、その発想は無かったとばかりに笑い出した。

 

サティ「何? トピアくらいは連れて行ける算段があったのかしら?」

 

スコア「私をあまり見くびらないでほしいな。いざというときには()()()()()()手立てくらいは考えてあるぞ。そのための探索と攻略だ」

 

 サティの想定以上の規模で逃げる準備をしていたことをどや顔で語るスコアの表情を眺めるに、どうやら嘘を言っているような様子は無い。後ろ向きにも感じるが、BETAに勝つつもりでいるサティ達としても負けた場合の備えはあるに越したことはないのだ。

 

サティ「逃げ腰を誇るのもちょっとどうかと思うけれど、まあそれならいいわ。疑って悪かったわね。採鉱機の設置は明日からでいいかしら?」

 

スコア「宜しくお願いする」

 

 一つの誤解が解けた両者が手を振って別れようとしたところで、サティが異常に気がついた。

 

サティ「ねえ、あの水路の水、あんなに赤かったかしら?」

 

 サティが指差すのは、コアベースの遺跡区画と畑との間の水路だ。そこに流れる水が不気味に赤く染まっていた。

 

スコア「は? いや普通の水だったはずだが……?」

 

サティ「真紅領域の水でも流れ込んできたのかしら?」

 

 突如赤く染まった水路の水に二人が困惑していると、ポータルからラリーが戻ってきた。

 

サティ「あらお帰り、ラリー」

 

ラリー「おう、戻ったぜ。……トピアはユグドラシルに戻ったのか? 今ブラッドムーン(Blood Moon)なんだが」

 

 サティとスコアが顔を見合わせ、どうやら今起こっている異常に関してラリーに聞くのが早そうだと判断した。

 

スコア「そのブラッドムーンというのは何だラリー? あの赤い水と関係あるのか?」

 

ラリー「そうだぜ、赤い月が昇って凶暴化したモンスターが拠点に押し入ってくる現象だが、説明は……まだしていなかったようだな?」

 

 サティとスコアの険しい視線から、ラリーはどうやらまだブラッドムーン(Blood Moon)について説明していなかったことを察した。

 

スコア「ユグドラシルに行くぞ。戦闘準備はいいか?」

 

サティ「ライフルと爆弾しか無いけど……トピアが寝てたら運ばなきゃいけないかもね」

 

 ラリーがもたらした情報により、ユグドラシルの危機(?)を救いに行くことにした一行であったが、果たして状況やいかに。

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