存在Xの信仰の回復を十分に妨げたところで、ターニャは話を切り上げて存在Xに殴りかかった。ただの格闘ではない。この時点で十二単轟雷の前腕までが金色に染まり、虹色のオーラを纏っていた。当然威力を高める為に前腕は高速回転していた。
ターニャ「くたばれぇッ!!」
存在X「効かぬわ!」
実際に存在Xの信仰力防壁を殴りつけてみると、防御力が更に上がっているらしく攻撃自体は弾かれた。だが無意味ではなかった。
サティ「いいえ、防壁の減衰を確認、効いてるわよ!」
マイン「続行だ!」
実際に効果を観測してみると、左の守護のGパワーによる防壁中和だけでなく、幕を下ろす者システムによるエネルギー吸収効果が信仰力防壁に作用していた。つまりターニャ達が存在Xと罵り合っていたのは、幕を下ろす者システムがある程度安定するまで待つ為でもあった。
十二単轟雷のこの攻撃に対し、存在Xもただ受け身に回っていたわけではない。強力な信仰力防壁で攻撃を防ぎつつ、杖を振りかぶって天体を操り、様々な質量物体を十二単轟雷へと降らせていた。
まずは惑星。地球を例とすれば直径12,800km程度、質量5.97×1021tになる。存在Xはこれを現在の光速に準じた亜光速程度で全方位から一斉にぶつけた。
前提として現在の光速は通常の真空中の光速cの100万倍、300兆m/s程度だ。これに対し、十二単轟雷の頭頂高が20光時間 = 144天文単位 = 215億kmなので、180cmの人間に対して11兆9千億倍のスケールである。つまり十二単轟雷の体格からすると、通常の人間で言う所の25.2m/s = 90.8km/h程度の所に光速の壁があることになる。なるほどサイズが更に10倍になると大分動きづらいだろう。
それで、十二単轟雷から見た体感では90km/h以下で降り注ぐ砂粒以下の何かでしかないとはいえ、運動エネルギーを考えると通常光速cの100万倍程度まで加速した惑星規模重量物をぶつけられたとなればかなりの大打撃に見える。しかし実のところベルカ効果と同じく空間の法則をいじった結果である為、光速の壁を遠くした分だけ加速に必要なエネルギーは減っており、元の亜光速と運動エネルギーは変わっていない。
これが相対性理論抜きで光速相当の運動エネルギーであったとすると、エネルギー量は2.68×1041J。地球質量の理論上の総質量エネルギーの半分であり、雲耀の太刀の一桁下にあたる。更に惑星は原子核パスタ構造材よりも遥かに脆いので、実際に伝わる破壊エネルギーはそれよりかなり低い。
そのような轟雷でも出せる程度の威力が出力6.63×1060Wを誇る十二単轟雷に今更通用するわけもなく、バリアだけで難なく防がれていた。
なおここまで空間法則が異なると普通の人間は体調を著しく崩して場合によっては死んでしまうのだが、トピア達は普通の人間ではないので、元々ベルカ航法に耐える為に開発していた生命維持術式と天元突破状態の加速にも耐える螺旋力でどうにかしていた。
その次は恒星だ。太陽を例とすれば直径139万km程度、質量1.99×1027tになる。存在Xはこれも同じく現在の光速に準じた亜光速程度で雨あられのようにぶつけた。
同様に運動エネルギーを計算すると、8.94×1046Jだ。惑星衝突から5桁上がってはいるが、十二単轟雷の前では誤差だ。
では核融合エネルギーはどうかといえば、表面全体でも3.85×1026Wなので恒星衝突エネルギーよりも遥かに桁が低い。
温度で見ても表面で摂氏6,000度、太陽中心核でも摂氏1500万℃程度だ。これに対し、現在の十二単轟雷は全体を機界新種細胞で覆ってはいないが単独で無害な常温超伝導光電変換膜には既に張り替えが完了しており、これだけでも摂氏3000億度に耐えることが出来る為、熱量攻撃が全く効かなかった。
ただし存在Xは恒星をただぶつけるだけでなく、接触と同時に超新星爆発を引き起こした。通常の物理では超新星爆発を起こす恒星には一定の条件があるのだが、存在Xがコントロールしているせいかそのような制限は存在しないようだった。
これは先ほどまでの状態であれば多少はダメージを受けたかもしれないが、先ほどと違って常温超伝導光電変換膜が全体を覆っていた上に幕を下ろす者システムの稼働率が上がっている為に、幾つか同時に超新星爆発を受けた程度ではダメージを受けなかった。
範囲攻撃でセンサーが損傷する問題については、メインセンサーには瞼を追加し、更に全てのセンサーが自動で透過率を可変にして自衛するように工場長がこの場で設計に修正を入れていた。
なお十二単轟雷と一緒に存在Xを攻撃しているマジンガーZEROはセンサーまで含めて普通に無傷だった。もはや防衛王者の貫禄だ。
ならばと次に持ち出してきたのがブラックホールだ。存在Xは十二単轟雷にシュヴァルツシルト半径100光時間、直径200光時間ほどの巨大なブラックホールを投げつけた。
これについては全く効かなかった。何しろシュヴァルツシルト半径から逆算するとこのブラックホールの質量は7.24×1037t程度になるが、これに対し十二単轟雷は自身が観測可能宇宙質量を超える2.40×1051tという遥かに上の質量を持っており、更に自身がブラックホール化しない為の重力制御を当たり前のように行っているのだ。接近するブラックホールの重力を無効化する程度のことは造作も無かった。そして重力を無効化されたブラックホールは既にブラックホールの性質を持っていない。
ターニャは無力化したブラックホールを平然と蹴り飛ばして存在Xに叩き返した。
ターニャ「ははは効かないなあッ!!」
トピア「ブラックホールを存在Xにシュート!! 超! エキサイティンッ!!」
当然のようにトピアが便乗して合いの手を入れた。
存在X「うぬッ、非常識な真似を!」
ターニャ「それはお互い様だ!」
存在Xは投げつけたときと同様に杖を振ってブラックホールを停止させ、頭上に滞空させた。
存在X「まあいい、これだけ集まれば十分であろう」
マイン「フン、やはりそれを狙っていたか」
大技が来る。マインは確認の為にサティに目配せした。
サティ「超空間退避は不可能よ!」
これは互いに逃がさないようにAWFを張っているせいだ。
更に、大技の発動までに存在Xの防壁を打ち破れる可能性が低いことを言外に示していた。
マイン「ならば各員全力防御態勢だ!」
マキューズ「全縮退炉Secondモード全力稼働用意宜し! 稼働率99.9%!」
工場長に代わって縮退炉の稼働率管理を引き受けていたマキューズが現在の稼働率を報告した。何しろ炉の数が多いので、1つの炉の出力を上げるよりも可能な限り多くの炉を正常に稼働させることを優先していた。事故で停止した縮退炉は修復後に再起動するか、或いはブロック単位で入れ替えるという処置だ。
そうして準備を整えている間にも存在Xの杖の先に質量が集まっていき、輝きを増していく。
存在X「受けてみよ、天地創世ッッ!!!!」
それはまさに天地創世。柳田 理科雄計算で1072Jにも及ぶ爆発の暴威が十二単轟雷とマジンガーZEROを襲った。
これまで存在Xが天体を呼び寄せては十二単轟雷にぶつけていたのは、それ自体が攻撃の意味もあるが、神域の隅々から質量物質を集めて擬似的に天地終焉を起こすことで、天地創世に最低限必要な質量を集めていたのだった。