歩みを進めた十二騎士戦乙女轟雷が存在Xの眼前に立った。存在Xの額には汗が滲んでいる。
ここまで存在Xはただ黙って見ていたわけではない。ゆっくり歩いているのだから、時間をかけてしっかりチャージした全力のバベルの崩壊を撃ち放った。しかしこれが全く効かなかった。神罰たる雷が全く効かないことに存在Xは目を見開いて驚愕した。
そもそも幕を下ろす者システムは電気的エネルギーを当たり前に吸収出来るのだが、これまでは次元力の差によってある程度のダメージを避けられなかった。それを無傷で吸収出来るようになったということは、十二騎士戦乙女轟雷の行使する次元力が存在Xと同格かもしくは上回ったということだ。
存在Xの眼前に立った十二騎士戦乙女轟雷が右の拳を握り、存在Xを殴りつけると、信仰防壁がその拳を阻んだ。しかし幕を下ろす者システムの機界新種細胞と月光蝶が信仰防壁からエネルギーを吸い上げ、更に前腕が回転してドリルのように防壁を貫き、存在Xの頬をしたたかに打った。
十二騎士戦乙女轟雷は美しい女騎士のような見た目ではあるものの構造上は轟雷を元にしたロボットである。ヴァルシオーネのようなものだ。当然戦闘用の機能は損なわれていない。
存在Xを襲う拳は一発では終わらない。拳の衝撃で吹っ飛ぶ存在Xに先回りしてまた拳を一撃。反撃の苦し紛れの杖をかわしながらカウンターで膝の一撃を加えていく。それは戦いと言うよりお仕置きのような様子ですらあった。
第6の魔神パワー:因果律兵器をフル活用してしっかり因果の濁流を突破して超天元突破にもついてきたマジンガーZEROは、もはや自分が手を出すまでもなかろうという顔で腕を組んでそれを観戦していた。
熾天使「無様であるな、存在よ! 力ある者に蹂躙される気分はどうだ!」
戦乙女としてトランス状態のターニャの肩の上で小さな熾天使が景気よく煽り倒した。
存在。旧約聖書の出エジプト記でモーセの前に現れたときに唯一神が自らを「私は在りて在るものである」と称したという。そしてこれが唯一神ヤハウェの名前に繋がっている。つまり本物の存在ならば、存在Xと呼ぶのもあながち間違っていないということだ。何しろみだりに名を呼ぶなというルールにすらしっかり従っているのだから、文句を言われる筋合いも無い。
ついでに言うと理不尽ボスとして有名な全知全能ことユーハバッハの名前もこの聖四文字YHWHもしくはYHVHが語源だ。聖四文字は原語のヘブライ語では一意なのだが、ラテン文字に翻字する際に一対一の対応にならず、Y/J/I、V/Wでバリエーションが出来てしまっている。
で、その有名キャラであるユーハバッハも神として崇められたエピソードがある為、存在Xの信仰に混じることで存在Xも管理下の世界ではそれに近い因果干渉能力を発揮出来てしまっているというからくりがあった。
存在X「む、貴様熾天使! ――そうか、これは貴様の差し金か! 拾ってやった恩を忘れおって、この悪魔めがッ!」
碌に反撃出来ていない存在Xが苛立ちを以て熾天使を罵った。
なるほど、存在Xの配下から反旗を翻した熾天使は、存在Xから見れば唯一神を裏切り魔王サタンとなった堕天使ルシファーの立場とよく似ている。しかも見た目がサタンの化身とも言われる蛇だ。だが、世に伝えられるサタンと熾天使は、実情が大きく異なる。
熾天使「何が恩か、何が悪魔かッ! このククルカン=ケツァルコアトル、貴様に滅ぼされたマヤとアステカの恨みを一日たりとも忘れたことは無いわ!! 貴様を滅ぼすこの日を一日千秋の思いで待っていたぞ!!」
この戦いを実況しているファムとパーキンソン教授の征服者解説により、視聴者も両者の因縁が概ね理解出来ていた。存在Xはあらゆる超常存在を従えているように見えたが、その中には文明を滅ぼして無理矢理従えた者もいたらしいということだ。そうして最側近に裏切られる様はまさにルシファーの逸話のようでもあるが、事情を考慮するとまあ自業自得でしかなかった。
ファム「しかしあのククルカン様、先ほどまでは人間に対しても大分御無体なことを仰っていましたが、あれは演技だったのでしょうか?」
パーキンソン「ああ……演技もあるだろうが、反旗を翻す機会を窺うにも存在X配下としてその意向に沿った仕事はせざるを得ないだろうからね。だから意向に従う体で主にアブラハム教徒が不幸になるように振る舞っていたのではないかな。何しろ存在Xを崇めて直接マヤ・アステカを滅ぼした張本人なのだから、手心を加える理由が無い」
パーキンソン教授は白い口髭をいじりながら事もなげに答えたが、ただでさえ信仰の危機だったアブラハム宗教関係者は、更なる追い討ちに益々顔を青くした。存在Xの意向を神の意志として肯定すると自らを恭順派レベルに貶めてしまうというだけでも大問題だというのに。
ところで熾天使ことククルカン=ケツァルコアトルは何もしていないのに口だけでイキっているように見えなくもないが、実際のところそうでもない。超天元突破三位一体存在Xを圧倒する力を持つ十二騎士戦乙女轟雷は、彼の助力あってのものなのだ。
どういうことかといえば、第3次スパロボZで語られたように、『獣の血』『水の交わり』『風の行き先』『火の文明』を経て最後に『太陽の輝き』へと至るという真化への道は、マヤのカレンダーが元になっている。これは現代地球に残るマヤのカレンダーと同じものではないが、少なくともスパロボZ世界では、ククルカンが主神を務めるマヤ文明では人間が真化に至るプロセスを熱心に研究していたのだ。だからククルカンは既に真化の入口に立っているターニャを更にもう一歩後押しして亜神である戦乙女へと押し上げることが出来た。
トピアが時間を使ってまでククルカンと手を組んだのは単に敵が同じだからというだけが理由ではない。真化融合のプロセスがマヤ文明で研究されていたという情報を師匠から聞いて知っていたので、だったらマヤ文明の主神を味方に付ければ大いに力になってくれるのではないかと期待したのだ。そしてそれは見事に当たったわけだ。
更に言うならば、ターニャを含む全ての理想郷の建設者は元々亜神の卵である。
ターニャが七圏守護神に勧誘されて条件を吟味していた時のことを覚えているだろうか。あの中で、理想郷の建設者だけに不老特性がついていた。あれはただのサービスではない。
そもそも創造神たるクラエル神の配下である理想郷の建設者は、不老で創造の力を持っていて更にセパレートワールドの管理までやっている。小規模ながらクラエル神から多くの権能を引き継いでいると言っていい。これはクラエル神が将来一大勢力を築く際に従える従属神の候補として想定していたからであった。仏教に比べると大分ハードルが低いが、全ての理想郷の建設者がクラエル神に解脱者と見なされているのは伊達ではないのだ。クラエル神は自身の信仰にも事欠いていた割に意外と夢がでかかった。まあ、夢がでかすぎて赤字になっていた訳なのだが。
現在ターニャにはアヌビス神を通じてクラエル神の加護が戻っているが、そうでなくとも不老を含めた亜神候補体質は加護と関係なくそのまま残っている。理想郷の建設者だけが最初にキャラメイクの機会が与えられるのはこの体質変更のついでだ。ターニャはその名声があまりに惜しい為に例外的にキャラメイクの機会が無かったが、体質が変わっているのは同じだ。
今回もこうした師匠の教えが悉く役立っていることで、トピアの中では師匠の偉大さがとどまるところを知らなかった。いや、ここまで悉く当たるとなればもはやトピアの妄想ではなく、実際にもすごいのかもしれない。