さて、強化型モンスタープリズムで存在Xを捕獲したわけだが、このモンスタープリズムのサイズは身長180cmの人間に対して片手で持てる長軸15cm程度、つまり頭頂高21.5kmの三重轟雷用のものは1.8kmほどある。なかなか巨大だが、先ほどまで宇宙よりでかいサイズで戦っていたのに比べればまだまだ小さく、普通に運搬が可能だ。
仮に十二騎士戦乙女轟雷が超天元突破三位一体存在Xを捕獲したとすると、用いられるモンスタープリズムのサイズは長軸125億光年に達する。もっと小さいサイズのプリズムを使えば良いのではないかという考えについては、これは普通に無理だ。何しろモンスタープリズムで捕獲可能な相手の大きさには限界があるので、兵装担架インベントリ同様にある程度収納物に合わせた大きさが必要なのだ。プリズムの100倍程度の大きさのものは入らなくもないが、1,000倍になるともう完全に無理だ。だから縮小出来ても精々天元突破十二単轟雷用のものが限界ギリギリだ。これでも長軸4億1700万光年になる。
こんなものを持ち帰っても置くところが無いし、料理に加工出来ても食べきれない。最後に分離してくれて助かったと言えるだろう。
インベントリに入れてそこから削除してしまえば問答無用で消せるのだが、存在Xが内包する膨大な次元力を丸ごと捨てることになるのでそれは流石に勿体ない。これだけあればマブラヴ確率時空の時空震を沈静化させるのにも有効に使えそうなのだ。脱走対策として念のため次元力で封印もしてある。
とりあえずこの存在Xを封入したモンスタープリズムを加工するための魔法の調理用なべを用意するべきだなとトピアは考えていた。それを少しずつでも純夏や協力してくれている神々に食べさせて次元力の足しにする算段だ。
或いはモンスタープリズムのまま次元力を抽出する装置もあるのだが、こちらは封入されている当人に抵抗される為か抽出速度が遅く、脱走の可能性も残り続けるという難点があった。神域での戦闘で天使達を捕獲して活用していたのはこちらの方式だ。
撤収準備を進めながらトピアがそのプランを説明すると、やはり存在Xが人型であるためか人肉嗜食のイメージが強いらしく、スーパーロボット軍団でも過半数が嫌そうな顔をしていた。しかし食肉加工の時点で原形を残さないのだから、見た目の共食いテイストは無くなるはずだ。大丈夫、京塚料理課長を信じろ。いや、京塚料理課長もいい迷惑かもしれない。
しかしここでそれとは別のプランがAGから上がった。
AG≪次元力を取り込むならもっといい方法がありますよ! 装置で抽出する方式に近いプランですが、ワタシの『高次生命体結晶化装置』でZクリスタルに加工するのはどうでしょう? 丸ごと取り込めばスフィアの特性を持たせて今後存在Xに集まる信仰まで収集出来るようになりますし、その原理上、新たな存在Xが生まれるのも阻止出来ますよ≫
それは御使い討伐のためにありとあらゆる手段を模索していたAGの執念が籠もったようなプランであった。
クロウ≪お前御使い用にそんなの作ってたのかよ。えげつねえな。ていうか、何で使わなかったんだ?≫
AG≪やだなあ、御使いを捕獲する機会なんて無かったじゃないですか≫
クロウ≪……それもそうだな?≫
アドヴェント達御使いとの戦いで御使いを捕獲出来たためしなど無く、捕獲が前提の装置など使う機会が無いのは必然であった。
トピア「うーん、いいですね。非常に良いですねAGさん! 是非採用したいのですが、そのプランって実現するのにどのくらい掛かりそうですか? 」
その丸っこい造形に反してAGの声はあまり可愛くないのだが、提案自体は非常に魅力的だった。そのZクリスタルを純夏の手元に置いておけば、今後彼女が次元力の不足に悩まされることは無くなりそうだ。
AG≪工期に関しては、既に装置の実物はありますので、あとは1.8kmのモンスタープリズムに対応してスケールアップした装置の建造にどのくらい掛かるか次第ですね≫
トピア「工場長?」
トリオ「使われておる技術レベル次第じゃが、スケールアップ設備と建設ロボットを使えば、最短1時間。モンスタープリズムからの加工検証に少しかかりそうじゃが、それを含めても2日はかからんじゃろうな」
相変わらず匠衆技術本部は頼もしい限りである。トピアは満足げに頷いた。
トピア「それで行きましょう。ではAGさん、求める対価はいかがなもので?」
AG≪対価に関しては、そうですねえ……具体的なところはうちのFICSIT本社と協議していただくとして、Z-BLUEに対して時空修復に必要な分のZクリスタル供与は確約していただきたいですね≫
甲児≪AG、お前……≫
ジ・エーデル・ベルナルとしては故郷世界を玩具にしていたAGがまともに故郷を案じることを言い出したので、その発言に成長を感じて胸を打たれたのは甲児だけではなかった。
何故時空修復に必要なZクリスタルが足りないのかというと、スーパーロボット軍団はマブラヴ世界の窮状を見捨てられずになけなしのZクリスタルからぎりぎりまで使って時空を支えていたのだ。それなりに付き合いが長いAGはそのあたりをまるっとお見通しであった。
AG≪これでも故郷のことは多少は考えてるんですよ? まあ主にワタシの中のエルガン・ローディックがですけどね!≫
ヒビキ≪何言ってるんだ、今はそれもお前の一部だろう?≫
AGと特に付き合いが長い、いがみ合う双子のスフィア・リアクター、カミシロ・ヒビキが慈しむようなまなざしを向けていた。彼もまたAGの成長に感動していたのだ。
AG≪いえあの、オチのディメンション・ジョークをそんな真顔で受け止められましても≫
そんなことだろうと思ったぜ、などのツッコミが入ることを期待していたAGは、ウケなかったことに不満を呈した。
クロウ≪お前のディメンション・ジョークにしちゃあキレが足りないぜ。主に下品さがな≫
AG≪ワタシそんなに下品でした!?≫
AGが今更のことを問えば、スーパーロボット軍団の大半の人員が首を縦に振っていた。AGのディメンション・ジョークと言えば悪ふざけとメタ発言とセクハラで出来ているようなものなのだ。
AG≪いやあ、それほどでもー≫
ただしAGの主人格はドMのジエー・ベイベルなので、そのような否定的評価にも喜ぶだけであった。
変態レベルが高すぎて何故それで喜べるのかはトピアにも理解しがたいが、ともあれ本心で楽しんでいるようではあるので、E & E精神からトピアはこれを良しとした。
トピア「ええ、話は分かりました、この世界に助けに来ていただいた分のお礼もありますし、それが不可能な分量でない限りは履行するように書面に残しましょう」
事態の解決は早い程良く、別に無茶な要求でもなかった為、トピアはAGの暫定条件を即座に承諾した。
トピア「……というかあれですよ、この世界の為にそちらの世界の時空修復に必要なZクリスタルを使ってしまったのなら早く言ってくださいよ! 今更そんな一大事を無視すると思われていたら心外ですよ!」
大河「ああ、ぎりぎり足りる計算ではあったし、今までも世話になっていたのですぐには言い出しづらくてな……」
実のところ、それ以上に躊躇われたのは存在Xを料理にすると聞かされたせいであった。時空修復の為にそれを食わされる羽目になるかもしれないと考えていたスフィア・リアクター達は、Zクリスタル化というAGの提案で露骨に安堵の表情を浮かべていた。
この後の匠衆とFICSITとの交渉では、CEOであるカテリーナが交渉の最初に大型高次生命体結晶化装置の建造を承諾した為、速やかに建造が開始された。
カテリーナとしては交渉を引き延ばしてマブラヴ世界の被害を拡大させると多大な恨みを買ってしまうのでまずはそれを避けるために先に事態解決に寄与する姿勢を見せ、それはそれとしてある程度利益を得たいのでじっくりやるべき交渉を後回しにした形だ。
そして更に6時間後、マブラヴ確率時空の純夏達の神域に完成したZクリスタルが運び込まれた。
それは頭頂高22kmの存在Xの水晶彫像のようなもので、それだけなら大仏のようなものとして受け入れられなくもなかったのだが、問題は固定された表情とポーズだ。これが窒息死する人間のような悪趣味なものだったので、それを指差して嗤うAG以外には概ね不評だった。やはりAGはどこまで行ってもAGだった。
AGによると姿形をそのまま残すことで今後の信仰の力を余すことなく収集出来るとのことだったが、かといってあの苦悶に満ちた状態で晒し続けて良いのだろうかというのが問題となった。
そのための再検討会議において、意見を求められたターニャの発言が以下のものだ。
ターニャ「ええ、同じく超常存在に恨みがある身としては、AG氏の態度も感情的には理解出来るものであります。しかし、だからといって復讐を果たした後も未来永劫辱めるのは逆に我々の品格を疑われることになるのではないかという危惧はありますね」
今後神域で生活することになる純夏達もこの意見に繰り返し頷いていた為、存在XのZクリスタルは安らかな眠り顔に再加工されることになった。
実際のところ、ターニャの内心では苦悶の存在X像にスタンディングオベーション状態であった。しかしAGの叩かれぶりを見て踏みとどまったのが評価の明暗を分けた形だ。それでいてAGも過剰に貶めずに理解を示しているあたり、出来る大人の対応であった。
何しろ存在Xに二度と煩わされないという最大の目的は既に達しているのだ。相手を貶める為に一緒に自分を貶める必要がどこにある。精々自分の評価を高めるのに利用してやれば良いのだ。
一番の被害者であるターニャがそのように神妙な態度だったことで、ターニャの意図通りに彼女の評価は高まった。しかし同時に戦乙女信仰も益々強まってしまい、亜神化していない状態でも信仰に引っ張られて時折人格の混濁が起きるという面倒な事態を招いてしまった。