大型高次生命体結晶化装置の建造に並行して、捕獲済み天使達の処遇に関する裁判が行われた。
存在X一派の神前裁判に対する意趣返しのようにも見えるが、実のところその意義は天使達を罰することではない。前提として彼等は投降したのではなく、殺害よりも手間を掛けて捕獲されただけである。本来なら全滅した時点で命など無く、捕獲されたなら結晶化も当然という身であった。その前提の上で、個別に助命を検討するのがこの裁判だ。
何故わざわざ更に手間を掛けてそんなことをするのかと言えば、これは善意ではなく、存在X管理下の世界を今後誰が管理するのかというのが問題になったからだ。
複数の世界を管理するのは結構な手間であり、七圏守護神達も元々の管理下世界に加えて無数の並行世界を抱えるマブラヴ確率時空の管理サポートまでしている為、正直手に余るというものだった。そのため、頭数がかなりの数に上る元存在X配下の天使達に管理をそのまま引き継がせようということになったのだ。無論今後人間に理不尽を強いないという条件を付けた上でだが。
幸いなことに存在Xの配下でも熾天使として反逆の機会を窺っていたククルカンという例外が既にあり、天使達の中にはククルカンの部下も存在する。実際の戦闘時にはただの敵でしかなかったとはいえ、流石に共闘した相手の部下まで問答無用で皆殺しにするのは不味いという大義名分が立つ。しかし一律で全員解放すると存在Xの仇討ちを企みかねない上にZクリスタルも不足してしまうため、個別審査という形になったのだ。
ただし主犯で強大な力を持つ上に匠衆の親族に危害を加える機会まで窺っていた存在Xには裁判の機会は与えられない。再犯防止の観点から見て残念ながら当然である。
裁判の形式としてはまず安全の為に銀河間の無人宙域に裁判所を設置。その裁判所でモンスタープリズムから一名ずつ一時解放する。そして裁判所の周囲を頭頂高215kmの四重轟雷を主力とする戦力で囲んでじっくりお話をするという圧迫面接のような形であった。しかも真偽を判定する為のリーディングを受け入れられないのならばその時点でアウトとされていた。無論人質を取られないように、モンスタープリズムから天使を出す作業は無人で行っている。
ククルカンはその過剰武力に若干引いていたが、匠衆としても面従腹背で次の戦争の準備をされることだけは断じて回避しなければならないので、そういった事情を考慮したククルカンはこの条件を呑んだ。代わりにククルカンにも裁判への出席と発言が認められたので、確保しておきたい人材をククルカンが説得すれば済む話なのだ。
この裁判の模様は先の戦闘と同じく全世界に放映された。
結果として、元々ククルカンの部下であった者の7割、存在X一派全体では3割が助命を認められた。彼等は存在Xの次に偉大な熾天使の意向ならば復讐をするなという命令も受け入れられるという集団であった。
このセーフ判定の中には元々人類に愛着があった炎の智天使も含まれる。スコア達の実力を認めた彼はククルカンが掲げる今後の方針に大分乗り気であった。
しかしその一方で、仏の座天使には結晶化処分が決定された。存在Xの下で無理矢理働かされていた座天使には情状酌量の余地くらいはあるのだが、そんなことよりも早く人生を終えたいと当人が強く主張したのが決定的であった。元々彼はこれ以上の輪廻や長命を望んでいなかったのだ。仏教系の天使には複数そのような者がいた。彼らは改めて入滅し、見事な水晶仏像となった。
また、長年神前法廷に飾られ、三位一体の部品扱いされた挙げ句に結局存在Xに見捨てられた磔の聖者は、裁判で色々と事情を聞き取った結果被害者側としてセーフ判定となった。これまで結論ありきの一方的裁判しか受けたことがなかったらしい聖者は、この結果に目を丸くして驚いていた。いや現代基準で見るとこれでも裁判の形式を満たしているか怪しいところなのだが。
同じく部品扱いの聖霊は人格が存在しない次元力の塊であり、存在Xの神域世界や管理下世界の物理定数を設定するキーになっているようだった。つまり管理に必要なので、これはククルカンに引き渡された。
なお全員同じ姿をした下っ端の天使や大天使は階級単位で分体と同様の扱いとなっており、全員結晶化しても信仰流入がそれぞれのZクリスタルに分散してしまうので、次元力の継続供給という面ではあまり旨みが無かった。
斯くして生き残りの元存在X一派はククルカンを代表とする『神仏習合』として再編成された。そしてこの神仏習合が七圏守護神と終戦協定を結んだことで存在X一派との戦争は終結となった。
終戦の際にここまで勝敗が明らかであると通常はかなりの賠償が要求されるのだが、ククルカンが元々存在Xの打倒を企図していて途中から匠衆と共闘したこと、処分した存在Xや天使達のZクリスタルだけでも十分な利益となること、そして賠償のしわ寄せが神仏習合管理下世界の人々にのしかかっては意味が無いことから、賠償請求は無しとなった。
まあそもそも信仰と技術力以外は概ね無限に生み出せる匠衆がわざわざ要求するようなものが無かったとも言える。
そういうわけで、賠償ではなく友好の証という体で有償でククルカンが引き続き真化指導をすることになった。神々の数は多くとも、人間を真化させる方法論を会得している指導者は希少なのだ。
終結後、今回の匠衆と存在X一派の戦争は後に『神々の黄昏』と呼ばれるようになった。
神である存在Xが信心無き者達を裁くという開始時点の体裁においては『最後の審判』や『最終戦争』のような筋書きであったが、その罪状の内容があまりにも理不尽であり、なおかつ最終的に人間の方が勝ったので、同じ終末戦争でも大半の神が滅ぶ神々の黄昏の方が妥当であろうとなったのだ。
マブラヴ確率時空の時空震は無事沈静化された。この世界の管理神となった純夏達、七圏守護神と協力者、そして戦乙女に集まった信仰と存在X一派から作ったZクリスタルで必要な次元力が無事集まり、武と純夏がその使い方をある程度理解したためだ。二柱で権能を行使する場合、メインの管理神である純夏がパワーと起動を、ステークとして魔法の修行を積んだ武がバランス制御を担当すると上手くいくようだった。
スパロボZ世界の時空修復に必要な分のZクリスタルも無事補填され、次元力の自動継続供給という利子を付けて返せた程であった。
一週間後、2002年11月5日の火曜日。トピアが使命を受けて380日目にBETAの殲滅が実行された。
マブラヴ確率時空に残ったBETAを完全に絶滅させるのは、当初は並行世界を有限な数に絞らない限り不可能とされていた。そして実際のところ、純夏が神になって時空震への対処を始めた時点で全ての並行世界が分岐しない設定に変更されていたため、定義上一応有限ではあった。しかしこの時点で残った並行世界の数は、有限と称するにはあまりにも多すぎた。
純夏達がこの世界を分岐しない形に切り替えたのは、管理の手間がこれ以上増えても対応しきれないからだ。つまりもっと少なければその方が良いのだが、更に減らす為に無理に統合すると人間とBETAの生息域が重なって人的被害が増えるし、統合にもある程度の力が必要なので、ひとまず時空震対処の方が優先されていた。
また、BETAと無関係に統合による人口増で食糧難や住宅難、交通事故が起きる可能性がかなり高かった。天の川銀河周辺ならば匠衆がフォロー出来るが、宇宙は天の川銀河周辺以外の方が遥かに広いのだ。
それで膨大な数の並行世界がそのまま残っていたわけだが、純夏が次元力の使い方を覚え、なおかつ十分な力が溜まったことでBETAの殲滅に関してはより簡単な解決法が実現した。
武「よし、今だ純夏!」
純夏「んぬぬぬ……BETA絶滅ビーーーーーーーーーーーーーム!!」
武と純夏が手を繋ぎ、繋いだ手から虹色の光が迸っていた。それを目の前に表示している球体状にまとめた全並行世界に向けて振り下ろすと、膨大な次元力があらゆる並行世界を横断し、全てのBETAを消滅させた。ついでにほぼ同種であるGAMMAと労働力も滅んだ。
つまり、そんな都合の良いものは無いと机上の空論扱いされていた『全ての並行世界のBETAを滅ぼすビーム』が武と純夏の成長により発動可能になったのだ。存在Xが使っていた因果操作攻撃を戦乙女が解析し、それを更にアレンジしたものだが、その効果をあらゆる並行世界に及ぼすとなると、世界を管理する神でもなければ行使出来ない。
因果操作攻撃なので消滅したBETA達は元々いなかったことになるのが普通だが、そうすると人々が何と戦っていたのか分からなくなり状況が混乱してしまう為、記憶がそのまま残るように色々と調整が必要だった。そのせいで必要な次元力は3倍に増えたが仕方ない。
救われた人々は神の奇跡に感謝を捧げ、一部は夫婦初めての共同作業を祝った。そう、このBETA絶滅ビームの見た目はケーキ入刀そのものだったのだ。
GAMMAと労働力も滅んだとなれば退化したウルジマルク人の滅亡もいよいよカウントダウンに入ったわけだが、一部の並行世界には退化しておらず自力で生活可能なウルジマルク人が存在していた。
これをどうするかが新たに問題になったわけだが、実際話を聞いてみれば彼等は労働力に頼り切っておらず、つまりBETAこと理想郷の建設者を野放図に送り出してほったらかすような真似をしていなかった。理想郷計画発動前の時点で分岐していたのだ。
ここで分岐したウルジマルク人の大半は資源の枯渇と内乱で滅亡していたが、彼等はそれを乗り越えて2億年命脈が続いた希有な例だ。実際に彼等が資源問題をどう解決したのかと言えば、何度か内乱と分裂で滅びかけながらもそこで文明水準がリセットされた機会を活かしてG元素の大量消費をやめ、そのまま持続可能な牧歌的生活を続けていた。彼等はむしろ贅沢三昧の歴史を辿って退化した並行世界のウルジマルク人の姿にショックを受けていた。
ならば彼等に責任を問うのは筋違いであるということで、BETAを送り出した方の退化ウルジマルク人を保護せず見捨てることを条件に匠衆への加盟を認めることになった。彼等としても突如出現した謎の生物が同族だと言われても実感が無く、むしろそいつらに原始人呼ばわりまでされているので、迷惑を掛けてばかりの連中を助ける義理など全く無かった。
彼等が何故匠衆加盟を急いだかというと、並行世界統合の影響で彼等のウルジマルク本星にBETAが射出した資源パッケージが無尽蔵に送りつけられており、GAMMA絶滅と同時にその資源パッケージが隕石として降り注ぐことが確定していたからだ。そういう意味でも退化ウルジマルク人は厄介者以外の何者でもなかった。
当初想定していたのとは大分違う形だが、ここに人類と珪素生命体との和解が果たされたのだった。