3日目の朝の会議。スコアの報告が終わり、次はラリーの番である。
ラリー「俺は
トリオ「む、ゴブリン軍団? じゃったら多分もう撃退したぞ?」
トリオの意外な発言に注目が集まる。
ラリー「……いつの間に?」
トリオ「夕飯の後じゃの。レーザータレットを設置したのはその時じゃ。魔導師みたいな奴が屋内にテレポートしてくるのが大分面倒じゃったが、携帯レーザー防御システムの敵じゃなかったわい。んで帰ってきた嬢ちゃんがタレット前のドロップ回収システムを整えて次に備えておったら丁度ブラッドムーンが発生したというわけじゃ」
携帯レーザー防御システムとは工場長が身につけているパワーアーマーMK2に搭載しているモジュールであり、これは同じモジュール規格に対応したスパイダートロンに搭載されているのと全く同一のものだ。当然攻撃力も同じ10.3倍で、1発当たりのダメージはこの世界基準で3,090。これを12基も搭載してそれぞれが秒間4.8連射するのだから、現状のライフが120の
この携帯レーザー防御システムが敵を見つけた瞬間に消し飛ばしてくれるため、トリオは数分で敵が脅威に値しないことを判断するとそのまま仕事に戻ってしまったほどだ。やはり自分が開発したレーザーの威力が弱いのではなくBETAがおかしいのだとトリオは確信した。
ラリー「それは確実に
サティ「地下掘削では一番の腕前だから負担が大きいわね。引き続きお願いしたいけど、地下世界というのは?」
初出の言葉についてサティが問い質す。
ラリー「
サティ「そう、溶岩まみれの……地獄……バイオーム?」
トリオ「うん? どっかで聞いた話じゃの?」
二人がトピアを振り返ると、トピアは勢いよく立ち上がり、テーブルに手を突いた。
前傾姿勢で2つの果実が揺れるのを、スコアが顔を赤くしつつ凝視していた。
トピア「ラリーさん、その地下世界の探索、ついていってもいいですか!?」
ラリー「俺は構わねえけど……急にどうした?」
急に鼻息を荒くしたトピアにラリーは困惑した。
サティ「地表に地獄バイオームが見つからないせいで仕事が進まなくて困ってたのよ、その子」
トリオ「てっきりBETAに既に飲み込まれたもんかと思っておったわけじゃ」
スコア「なるほど、それでがっかりしてたら実は地下にあったという話か」
ラリー「まあまだ
トピア「いえ、言われてみれば普通地獄は地下のイメージなので、これは盲点でした。同じ溶岩地帯にあるはずのボスラッシュダンジョンも見つかれば言うこと無いですね」
セパレートワールドの地獄はアヌビス神殿がかなり高いところにあるので、上に天井があるイメージが無かったのだ。
トリオ「良かったのう」
トピア「はい!」
満面の笑みで頷くトピアはやる気を滾らせていた。
ラリー「俺からは以上だ」
サティ「じゃあ次はトピアの番ね」
トピア「はい。私の昨日の業務は午前中がポーション製造ラインの構築、午後は主にサティ姐さんの護衛でしたが、真紅領域の地下探索でマイスターの四人目と五人目をお迎え出来たのが大きな成果ですね」
トリオ「真紅領域とやらが衛星観測でも目立っておったので助かったの」
サティ「普通地下にいたら見つからないものね。しかし二人の来た時期を考えると、残り二人ももしかすると既に来ているかもしれないわね。工場長、衛星監視では何か見つかった?」
トリオ「いや、今のところ無いのう。また地下かの? 或いは単に活動規模が小さすぎて見つかっておらんということも考えられるが」
ラリー「全部で七人のマイスターだっけか? まあ見かけたら声をかけておくぜ」
サティ「ラリーは活動領域が一番広いから、見つかる可能性はそれなりにありそうね」
トピア「次に、昨晩のブラッドムーンで大量に回収出来たドロップ品なんですが、未知のアイテムが幾つかあってですね」
サティ「ああ、あの回収システムの成果ね……」
襲撃を逆手に取ってタレットで片っ端から迎撃し、コンベアとコンテナでしっかり回収していたやつである。
トピア「まずこの何というか、赤い雫みたいなやつなんですが、ラリーさん知ってます?」
トピアが取り出したのは、白い器の上に乗った赤い雫状の塊であった。ゼリーのようにも見えるが、美味しそうな匂いはせず、むしろ生臭く感じるので食べ物ではないだろう。
ラリー「ああ、そいつは
スコア「おまっ!? トピアさん、それは使わないでくれたまえよ! 少なくとも牧場の改築が終わるまでは!」
トピア「アッハイ分かりました」
ブラッドムーンで拠点に甚大な被害を受けたスコアにとっては呪いのアイテムも同然であり、止めるのも必死であった。
流石のトピアも味方の拠点設備を破壊しては冗談では済まないことは分かるので、素直に引っ込めて次のアイテムを取り出した。
トピア「あともう一つ、これも多分ラリーさんがご存じだと思うんですが。金色のコインが入った桃色の箱的な? 何でしょうこれ」
トピアも説明に困っているが、こちらも何と呼べば分からない物だった。
ラリー「おう、そいつもドロップしたのか。ついてんな。そりゃあ
スコア「それも危険なアイテムじゃないだろうな?」
ラリー「安心しろ、こいつは俺も常用してる4つの外部インベントリアイテムの1つだぜ。まあ誰がアクセスしても自分用の拡張インベントリスペースに繋がるっていうものなんだが」
トピア「ああ、クラウドストレージとほぼ同じ仕様ですね。つまりこれに発動を念じると……」
サティ「あら、羽の生えた子豚さん?」
ラリー「そいつが貯金箱タイプの外部ストレージだ。40枠あるぞ」
トピアが念じると、テーブルのやや上に白い羽の生えたピンクの子豚が出現し、そのまま浮遊し始めた。ただよく見ると背中に細長い穴が空いており、貯金箱であることが分かる。
サティ「ねえトピア、これもしかして?」
サティの視線の意味を察したトピアは、羽の生えた豚の貯金箱に3枠1,200個の鉄のインゴットを詰め込んでみた。
トピア「やっぱりこれ1枠に1,000個以上普通に入りますね。多分テラリアン仕様の上限9,999個なのでは?」
ラリー「なるほど、そうなるのか」
トリオ「滅茶苦茶容量がでかいの。ものは幾つある?」
トピア「今のところ1つです。これ欲しい人いますか?」
トピアが問いかけると、ラリー以外の全員が挙手した。無論トピア自身もだ。
逆に挙手していないラリーに注目が集まった。
ラリー「いや俺は持ってるからな? 他にもあと3種類、
サティ「いえ、ラリーには急ぎの仕事が複数あったわね。それにブラッドムーンは任意に引き起こせる様になったのだから、その後にしましょう」
ラリー「分かった。ああ、
共通の拡張インベントリスペース枠、つまり一つの倉庫に対して
サティ「それはどうやって?」
ラリー「空き部屋を整えるとどこからともなくやってくる帽子と白髭がトレードマークの
サティ「240ft2……22.3m2以上ね。了解したわ」
サティはビルドガンに数値入力してft2をm2に変換した。ヤードポンド法滅ぶべし、とラリー以外の全員が思った。
トピア「じゃあ今ある1つはあっちこっちに施工用の資材を持ち運ぶサティ姐さんに持っててもらおうと思いますが異論はありますか?」
トリオ「無いの」
スコア「現状では妥当な配置だな」
サティ「悪いわね」
トピア「まあどうせ牧場をどうにかしたらブラッドムーンを起こしまくって人数分揃えますんで」
スコア「……まあそれは仕方あるまい」
有用なドロップアイテムはトラップと自動回収システムを構築して揃える。そういった原理はスコアの牧場と同じなので、理解せざるを得ないところであった。
トピア「あと代わりと言っては何ですが、お二人にもクラウドストレージを進呈します。16枠拡張インベントリで、例によって1枠4スタック、1スタックにつき100個です」
スコア「ありがたく頂戴する」
ラリー「1枠あたりの容量が少なくても装備品枠が16増えると思えば十分便利だよな。ありがたく使わせてもらうぜ」
クラウドストレージを受け取って使い勝手を試す二人であったが、スコアがふと気付いた。
スコア「今気付いたんだが、実質インベントリの直接拡張になるアイテムというのはもしかして二人とも持ってないのか? このオクタリンのかばんのような」
スコアは自身が身につけている少し発光して見える紫色の鞄を指さした。
トピア「えっ無いですね」
ラリー「まずその発想が無かったな」
スコア「インベントリ枠20、1枠999個で多少の照明効果もあるが、欲しい人は?」
やはりスコア以外全員の手が挙がった。
スコア「分かった。これは4人分程度簡単に製造できるからな。業務の最初に作っておこう。合わせてオーブランタンもな。こっちはただの灯りだが、灯りも持たずに地下を徘徊するのは流石に危ないし、松明で片手が塞がるのも非合理的だ」
トリオ「道理じゃの」
オーブランタンには一応つるはしの威力が上がる効果もあるのだが、これは手元がよく見えることによる副次効果なのか、それとも魔法的な何かなのかは不明である。まあ少なくともマイナス効果ではない。
戦略目標に直接関係ないので誰も意識していなかったが、インベントリを拡張する手段は意外と豊富で、今すぐ増やす手段もそれなりにあるらしかった。これは作業効率的には決して無視出来ないところであった。