鉱脈を巡って始まりの砂漠に赴いたトピア達三人は、ここで一つの問題に直面した。ガラクサイト鉱脈に採鉱機を設置すると、最初は景気よく掘り始めるのだが、時間とともに徐々に速度が低下していき、最終的にはエラーを吐いて止まってしまうのだ。短時間で停止に至るわけではないので、トピア達は一通りのガラクサイト鉱脈に採鉱機を設置した後の点検でこれに気付いた。
サティ「全く予想してなかったわけじゃないけれど、S.A.M.鉱石と同じような症状が出てしまったわね」
トピア「原因は何なんです?」
サティ「エラー通知からすると採掘に使っている超硬ドリルの摩耗よ。耐摩耗コーティングをしていて多少の摩耗は自力で修復する筈なんだけれど、ガラクサイト鉱石が想定以上に硬すぎるのね」
スコア「ガラクサイトが硬すぎるのがここでも悪い方に響いたか」
鉱石は基本的に金属の塊ではなく特定金属の含有量が高いだけで隙間があるので、どんな鉱石であれ採掘出来ないことはないのだが、それはそれとしてその成分主体となる鉱物があまりにも硬いとドリルの摩耗が無視出来ないレベルになるという話であった。
トピア「単純にドリルをもっと硬い素材に変えるわけにはいかないんですか? それこそガラクサイトのドリルとか」
サティ「そうね……まず基本的にはFICSITの機材は自分で仕様外の部品に交換して運用するようには出来てないのよ。具体的にはエラー警告が出るようになるし、ビルドガンでの回収も不可能になるわ」
スコア「逆に言えば基本を外せば出来るのか? 例えば設計データの方をいじるとか」
サティ「なかなか鋭いわね。普通は使わないけれど、こういった想定外に対応するためのツールがFICSITにはあるのよ」
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三人はポータルでユグドラシルに戻ってHUBの端末室に集まった。
サティ「これよ」
画面にはEEL:Equipment Expansion Libraryというタイトルのウィンドウが開かれている。ライブラリには既に『Blueprint Designer EX』と銘打たれたデータが一つ入っていた。
そこから新規作成を選んで改造元にする機材として採鉱機Mk.2を選択すると、その詳細がCADのように表示された。
トピア「これ設計編集ツールも付属してるんですね。大分親切ですねえ」
スコア「そうだな。って、分かるのかトピアさん?」
トピア「言語が全面的に英語なのが面倒ですが、操作自体はMOD制作より余程簡単そうですね。それとは別に物性や設計についての知識が必要そうですが」
トピアは英会話は壊滅的だが、英文自体はある程度読めるのだ。元日本人なので。
サティ「これでドリルの材質を中心に設計を変更していくわよ。それに伴って変更される要求資材の設計データも一緒に作ってしまいましょう。注意点は基本的にFICSITの規格を無視出来ないという所よ。互換性は当たり前として、対環境性能なんかもね」
トピア「あー、FICSITのビルドガンで建造したのにFICSITが保証する対環境性能を無視してたら問題になりそうですもんね」
スコア「そういうことか」
三人で協議しながら仕事を進めると、仕様の把握から設計変更まで1時間程度で解決出来てしまった。ついでにガラクサイトの自己修復ドリルという専用部品も製造品目ライブラリに加わった。流石に鋼鉄のパイプのように汎用部材からビルドガンでの建設時に加工出来る範囲を超えていたのだ。
サティ「採鉱機Mk.2改として単純にドリルを入れ替えただけだけれど、今までより摩耗が酷くなることは無いでしょ。自己修復が上手く働くかは未知数だけれど、暫くガラクサイト採掘専用で運用して様子を見てみましょう」
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ガラクサイト用の採鉱機をMk.2改に入れ替えて、ここまでの作業で正午になったため、昼食を挟んで午後の仕事となった。昼食は例のエンチャントルーレット付きサンドイッチだった。
ラリーが早々に
ラリー「いやー、あのガスマスクめっちゃ助かるわ。普段捗らねえ
トピア「職場環境として最低最悪でしたからね、あそこ」
スコア「あれは酷かったな」
ラリーが笑顔で報告した通り、仕事が捗った理由はトピアの提案で導入したFICSIT印のガスマスクであった。
むしろガスマスク無しでもあの環境で仕事を一日で終わらせる見込みだったことに、トピア達は畏怖を感じた。
ラリー「
トピア「そうですね、後回しに出来るなら後でもいいと思います」
後回しにした方が手間が少なくなるのならそれはむしろ時短である。
サティ「それで、区画は上と下どちらに広げるの? どっちにしろ地下だけれど」
ラリー「そうだな、俺のお勧めは上だ」
スコア「理由は?」
ラリー「ここが大体海抜-1,500ftなんだが、
サティ「なるほど、直接的な襲撃が来ない安全深度の範囲はここから上方向に余裕が大きいのね」
トピア「溶岩地帯ギリギリまで掘ったら大分暑そうなので、実際の下方向の余裕は300より狭そうですね」
スコア「総じて上方向の方が良さそうだな。それで天井側を掘削するとして、どの程度の広さにする?」
スコアが現在のコアベースの平面図を示して判断を問う。
そこには以下のように寸法が記入してある。
・自宅家屋:18m×15m
・自宅敷地:26m×33m
・住居区画:79m×71m
・拠点全体:152m×156m
ラリー「まず1室の広さとして奥行き×高さで240ft2以上は外せねえ条件だぞ。天井の高さはどうだ?」
サティ「3.6~4mね。22.3m2の条件からすると奥行きは最低7m~6mになるわね。パネル規格に合わせると最低土台一つ分、8m×8mになるかしら?」
トピア「マンションの単身用間取りで55m2が標準的だと聞いたことがありますので、64m2ならそれよりは広いですね」
スコア「とはいえ実用上は少々狭くないか? 一室に2人以上住む可能性もあるのだから、2パネル分くらいは確保した方が良いのでは?」
トピア「まあ多少広めにしておいた方が余裕があっていいんじゃないでしょうか。もう少し欲張ってクラフトピアの床6パネル分で150m2なら風呂・トイレを仕切った部屋割りがさくっと出来るので作業時間の節約にはなりますね」
パネル規格の整数倍以外の所に床や壁を置こうとすると微調整に難儀するので、多少スペースが余っても整数倍の方が遥かに施工が早いのだ。
そもそも55m2で十分とするのは土地が足りていない日本の事情によるものだ。大金を支払って土地を購入する必要が無い上に作業時間がむしろ減るのであれば、少しくらい広めに作った方が良い。
サティ「そうねえ、FICSIT規格は工業用だから、8m間隔の区切りだと微調節が効きにくいのよね。じゃあ建物の建設はトピアに任せるとして、1階あたりの敷地を一人あたりの面積150m2で割ってみましょうか」
新住居を現在のコアベースの上に掘削建造するとして、その敷地をどの区画に合わせるかという問題がある。その検討として、サティが手元のビルドガンで簡単に計算した結果が以下のものだ。
・自宅家屋:18m×15m÷150=1.80戸
・自宅敷地:26m×33m÷150=5.72戸
・住居区画:79m×71m÷150=37.4戸
・拠点全体:152m×156m÷150=158戸
実際は10m×15mのブロック分けになる上に廊下や階段、配管も必要なのでもう少し戸数が減るだろうが、大まかなスケール感は分かる。
スコア「これは住居区画分で決まりだな」
ラリー「1階あたり30人程度住めれば100人前後でも3階か4階で収まるものな。拠点全体だと1階分でも余るし、牧場にも高さが要るなら増築用に取っておいた方がいいだろうな」
サティ「あとは内装に決まりがあるんだったかしら?」
ラリー「そうだな、部屋がしっかり床と天井と壁か窓で囲まれていて、出入り口が必要なのは当たり前として、机、椅子、照明がそれぞれ最低一つ必要だ。勿論実用上はベッドや棚、洗面台、風呂、トイレもあった方がいいが、これは後回しでもいい」
トピア「いやトイレくらいつけましょうよ」
トピアが眉をしかめてツッコミを入れた。ただしラリーはあくまで人材を呼び寄せる部屋の最低条件を述べているだけで、本当にトイレが必要無いと思っているわけではない。
ラリー「余裕があるなら是非やってくれ。俺はここのところ忙しくて材料を全然集めてねえからな。特にベッドは全く作れん」
スコア「ベッドなら私が用意出来るぞ」
無限に量産できる木材と牧場のドロップで幾らでも集まる繊維で製造出来る上にカラー変更でデザインまでアレンジ出来るベッドはスコアの得意分野だ。
ラリー「じゃあ頼む。それとトピア、万が一にも火災になったりしたら目も当てられんから、建物の床や壁は耐火素材でな」
トピア「了解です。あと、集合住宅としては部屋の前にネームプレートくらいはあった方が良いですね」
スコア「それは必要だな」
トピア「あと、うちの照明あんまり明るくないんですけどお勧めの照明あります?」
トイレとベッドは何とかなるとして、次の問題は照明だ。クラフトピアの照明はトピアが言う通りあまり性能が良くないのだ。
スコア「私は基本的にオクタリンと石灰岩から作る光の床で済ませているが、それで駄目なら壁掛け松明……いや、電球があるな。大分でかい奴で、消費電力を測定した事が無いが」
ラリー「光る壁材、
サティ「ダイヤモンドジェムスパークウォール? 随分景気のいい名前ね?」
ラリー「その名の通りガラスとダイヤモンドを合成して作る壁だぜ?」
スコア「贅沢な」
ラリー「苦労して作った宝石樹園の賜物ってやつだ」
トピア「サティ姐さんの方はどうですか?」
サティ「FICSITの照明は明るいけど最低1MW消費するからやめておいた方がいいわ」
スコア「……いや、一体何がどうなったら照明の消費電力が1MWになるんだ? 家庭用蛍光灯の1万倍を超えているぞ? LEDと比べるなら3万倍だ」
サティ「またぞろ環境対策や耐久性を頑張りすぎたんじゃないかしら?」
メガワット単位の照明と聞いてスコアが疑問を呈するが、サティはさらりと流した。省電力性能が大幅に劣っているのが分かっていて勧めるつもりもないので。
トピア「工場長のところもkW単位だったはずですし、まずはスコアさんの電球の消費電力を測定してみましょうか?」
サティ「というか発電はどうしてたの?」
サティが見たところ、このコアベースにもサティが再整備する前の採掘所にも、大規模な発電設備は存在しなかった。設備の隅っこに簡単な自家発電機のような物はあった気がするが。
スコア「ああ、電気台という特殊作業台で製造出来る発電機があってな。設置面積1m2ほどのコンパクトなサイズの発電機でドリルを動かす程度の電力を生み出すことが出来るんだが、燃料の要求が無く、どうやって発電しているかは私にも分からん。金属のインゴット以外使ってないし、マナか何かをエネルギーにしているのかもしれないな」
サティ「こんな所にもファンタジーが埋まってたのね。じゃあそれの発電量も併せて測定しましょうか」
スコア「宜しくお願いする」
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この後実際に測定してみたところ、コア由来発電機の発電量は50kW、ランプの消費電力は100Wと判明した。どちらも家庭用水準であり、使いやすいのでランプだけでなく発電機も集合住宅の主電源に採用された。
コア由来発電機は従来距離減衰が激しいという難点があったが、これは電線の抵抗が大きいことが原因だった。電線をFICSITのものに変更したところ、あっさり建物全体まで電力が届くようになったのだ。
となればコア由来発電機を大量生産してメイン電力の足しにする事も考えられなくもないのだが、要求される桁に対し発電機の出力が小さすぎ、マナを燃料にしているとすると大量に並べたときに周囲のマナが枯渇して発電が停止する危険もあるため、工業用・戦闘用としての採用は見送られた。