最終的に10m×15mの1戸を東西方向に7つ並べ、これを南北に4セット並べて28戸を1フロアとする地下集合住宅にすることが決まった。東西通路は南、北の2本、南北通路は階段スペースを兼ねた西の1本である。
集合住宅部分で4階建て112戸、コアベースの基礎フロア0階を含めると5階建てとなったわけだが、配線と配管の都合で住居の高さ3.6mとは別に天井裏も1グリッド分の3.6mのスペースが取られ、1階あたり7.2mの構造となった。こうなると階段で上るのが若干大変であったが、上下移動用のエレベーターの持ち合わせが無いという問題が発覚した。
ラリー「上下移動なら
ロープはテラリアンにとって坂道や階段に劣らぬポピュラーな上下移動手段である。ロープ伝いに昇ってくる敵がほぼいないというのも便利なポイントだ。
スコア「いや常識的に考えてロープを登るのは階段より大変だろう」
トピア「上向きの人間大砲を設置すればエレベーター替わりになりますよ。ダッシュ床を壁に貼るというのもありますね」
ラリー「おお、何だそのアスレチック、面白そうだな!」
当然アスレチックの一種であることは否めない。多少の高低差なら三段ジャンプなどで移動した方が早いというのも原因だ。
トピア「まあ着地にそれなりの空中制御技能が必要ではありますが」
スコア「やはり万人が使うには厳しいな。サティさんはどうなんだ?」
トピアがラリーよりもトンチキな移動手段を提案したことにスコアは内心困惑していたが、それを表に出さずに大分マイルドな言葉で却下した。
サティ「FICSIT社員の利用が前提の施設は、ホバーで移動するから上下移動用設備自体がそんなに要らないのよね」
前提としてFICSITの施設は工場なので住宅には向いていない。それにFICSIT社員は電力さえ引いてあればホバーパックで自在に移動出来るので、概ね配線が這っている柱に沿って上下移動する。エレベーター要らずの原因である。気が向けば梯子や階段くらいは設置してあるが、あくまでおまけである。
トピア「そのホバーってビルドガンを左右セットで持ってないと操作出来ないんですよね?」
サティ「そうね。あとはハイパーチューブというのもあるわよ?」
トピア「どんなのです?」
名前から機能が分かりそうで分からないため、トピアは素直に質問した。
サティ「人間が通る太さのチューブの片側に吸い込み口がついていて、そこに入ると排出口まで自動で運んでくれる移動用設備よ。一人で使うなら両側に入り口をつけて双方向チューブにしてもいいけれど、複数で使うなら正面衝突を避けるために片側通行にした方がいいわね」
スコア「すると0階から各階への直通で往復8本……いやこの方式は階層が増えるとまずいな。階段のように直接上下の階層へのチューブにして8本の方がいいか」
サティ「そうね、今後の拡張を考えるならその方がいいと思うわ」
トピア「ちなみに消費電力はどんな感じです?」
サティ「入り口1つにつき10MWだから、上下片側通行を全部設置すると8つで80MWね」
問題はやはりFICSITの例に漏れず、消費電力がメガワットということであった。
スコア「移動用設備にそんなに使って大丈夫か?」
サティ「距離に関わらず一定の電力という強みはあるのだけれど、短距離だと逆に割高に感じるわね。まあ全体の消費電力からすると大した消費ではないわよ?」
何しろ最終的には80TW近く必要なので、その100万分の一になる80MW程度はもはや誤差である。ただし一般的エレベーターの消費電力は10kW前後なのだが。
スコア「採用出来なくもないがやはり電力が気になるな。かくなる上はポータルか?」
ラリー「ああ、直接拠点の外に出られるような出入り口は作らない方がいいぜ。ブラッドムーンなんかの時に勝手に開け放たれて犠牲が出る」
テラリアンの世界の住民は基本的に危機管理という概念をどこかに置き忘れている。襲撃の最中でも勝手に扉を開け放って外出しては扉を開けっぱなしで勝手に死んでしまうのだ。そのため、一度誘致した住民は基本的に家屋の中に監禁しなければならない。
扉を勝手に開け放って犠牲を出すという点においては、たとえ密室から脱走したとしても扉を勝手に開けたりはしないクラフトピア世界のペットや家畜、回転のこぎりにも劣る。それはそれで密室からどうやって脱走したんだという話にはなるが。
スコア「お前の所の住民は一体どうなっているんだ?」
ラリー「俺に言われても困る。俺だって対処に苦労したんだぜ?」
ラリーの言い分はそれに苦労させられた側の体験談である。
スコア「そうか。……しかしそうなると、ポータルを設置するのも不味いな。上下移動だけでなく外出も出来てしまうからな」
ラリー「ふーむ、じゃあ仕方ねえな、
サティ「えっ、まさかの転移装置? 他にもあったの?」
ラリー「いやこいつは
線路を引いて列車を走らせる手間を考えればそれでも十分凄いものなのだが、その線路に該当するものすら要らないポータルがあるので、相対的に価値が下がっている感がある。
テレポーターを0階、1階、2階、3階、4階まで全部繋いで0階から1階に転移しようとしたときにその直前で4階から0階への転移を実行されると入れ替えで強制的に0階から4階に移動してしまい使用者が混乱するなどといった問題はあるが、その代わり切断事故や合体事故が無い安心設計であるというのもポイントが高い。
サティ「じゃあ今回出口含め5つ使ってもらうとして、そのメカニックを早期に保護出来るように協力しましょうか」
ラリー「そうしてくれると助かるぜ。あいつがいれば
スコア「それは私も助かるな」
最終的には各階にテレポーターを設置してスイッチの選択で任意の階に移動出来るようにすることが決まった。
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仕様が確定したことで工事は順調に進んだ。まず現行の施設に土砂が降り注ぐのは不味いためコアベース住居区画0階の上に集合住宅1階床下部分の床を設置する。これは電源・配管用の床下スペースである。それが終わると掘削用の装備を身につけ
天井の掘削が終わったら1階床下部分を綺麗に掃除し、トピアが階段を設置して4階までの床と床下兼天井裏を一気に組み立てていく。その階段の位置にあわせてラリーが
床と天井が出来たら引き続きトピアが仕切りの壁と扉とトイレを設置していく。立地が地底であるため窓の類いは無い。部屋の形成に合わせてサティは床下兼天井裏にコア由来発電機を設置して配線を行い、各部屋の天井や床に貫通する電源ソケットを設置していく。また予備としてコアベースまで来ている基幹電力網とも電源スイッチを挟んで繋いでおく。家具の類いは机と椅子とベッドとカーペットをスコアが、洗面台と浴槽をラリーが設置していった。
最後にトピアがネームプレートを貼り、天井の照明をサティが設置して施工完了である。汎用の電源は部屋の隅の床にソケットボックスが生えている形だ。FICSIT規格品だと工業用のソケットしか無かったため、これは工場長謹製である。既にプロジェクターなどの電源として使っているものだ。
地下集合住宅全112戸が完成したことで、
かくして、
……という名目でスコアがまんまとトピアの部屋の正面に陣取ったわけだが、トピアの隣は姉貴分のサティがキープしているのでまあ大丈夫だろう。
また、その流れでラリーの配置がスコアの隣に決まったためトリオがその隣に入り、北側が女性陣、南側が男性陣という配分になった。
そしてトピアがユグドラシルの自室から新しい部屋に私物を運び込むために往復すると、その部屋には見知らぬ白髭の人物が居座っていた。
トピア「ホワッ!? 不審者め、名を名乗るがいい!」
トピアは反射的にカラテの構えを取った。目の前の不審者は味方の識別マーカーがついていないので、少なくともマイスターではない。
不審者「おおっとお嬢さん落ち着いて、私はガス、見ての通りの商人ですよ」
トピア「商人? 白髭で……帽子を被った? なんか聞いたことありますね? ラリーさーん! もしかしてこの人がお捜しの商人では?」
目の前の自称商人の特徴がラリーに聞いていたものと一致しているため、トピアはとりあえずラリーを呼んだ。
トピアが大きな声を上げたため、スコアもつられてやってきた。
ラリー「おっ、
スコア「そうか、そっちもこんな感じか。うちのケイヴリング商人も条件を整えたらどこからともなくやってきて密室にいつの間にか入居してたからな……」
トピア「どこからともなくってこういう感じなんですか!?」
思えばクラフトピアの来客用テーブルシリーズも突然来客が出現する仕様なのだが、少なくともテーブルを設置していない部屋に勝手に客人が入ってくることは無いので、トピアはこのような状況を想定していなかった。プライバシーの侵害も甚だしいが、考えてみれば来客用の部屋と自分の部屋を同じ仕様で作っているのだから、どちらもラリーの言う客を呼べる最低限の条件を満たしており、どの部屋に出現してもおかしくないのだ。だからと言って今更来客用の部屋よりも自分の部屋のグレードを下げるのも憚られる。
なお今のところトピアは来客用テーブルの類いを作っていないが、商人スミスは呼べても肝心のファーガスを呼べないのがその原因だ。
ラリー「爺さん、とりあえず
不審者→商人ガス「毎度」
商人ガスは何事も無かったかのように部屋を出て階段を上っていった。
トピア「そういえば日本語通じましたね?」
ラリー「
トピア「便利な魔法ですねえ」
この後立て続けに入居者が発見され、
ラリーに言わせるとどうもそれぞれ人間関係の相性があるらしく、居住バイオームの好みもあるのだが、この先戦争になることを考慮すると色々な地方に住まわせるのは危険なため、集合住宅内になるべく相性を考慮した配置で分散させた。
なお狼の獣人のような姿の