【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 [2025/10/30]タイトルを微修正、一部台詞を変更、サティがあっさりトレードに応じた事情の説明(独自設定)を追加し、その他文章も増量しました。原木採取の時間効率を考慮して素手からルーニックバレッジに変更しました。時間経過部分に仕切りを追加しました。


005. 金槌が……金槌の音がまだ聞こえる……ッ!

サティ「じゃあまずチュートリアルはスキップして、と」

 

 サティがHUBのコンソールを操作すると、HUBの見た目が露骨に変化した。工作台とコンソールの上を屋根が覆い、コンソールの横にアイテムボックスが設置され、屋根の区画が延長されて電算室兼寝室が形成され、更にその向こうにはバイオマス・バーナー発電機。屋根の上には資材打ち上げ用の小型宇宙船ドロップ・シップまで生えた。

 その様子にトピアが目を輝かせた。

 

トピア「ほわあ、SF……!」

 

 機能的には物品を供えただけでどこかに転送されて納品完了となる時代の祭壇の方がすごいのだが、それはそれとしてトピアはこういうSFメカニズムが大好きなのだ。

 

サティ「これだけで惑星開拓のための最低限の機能が揃うのよ。ここから先はスキップできないけどね」

 

トピア「こちらはスキップ機能自体が無いんですけどね。通常はそういうのが無くても既存のワールドから資材を運び込んでさっさと済ませてしまうので」

 

サティ「じゃあ今回もそうするの?」

 

 サティの問いに対し、トピアは首を横に振って答えた。

 

トピア「いえ、今回は一方通行でしたので、より希少な物を優先して簡単に手に入る物は置いてきました」

 

サティ「そう。用意するのが面倒な資材を優先して持ってきてるのは私も同じね。じゃあお互い資材集めにかかりましょうか」

 

トピア「はい、こちらが最初の段階で必要なものは……そうそう、原木、石、銅鉱石、ケモノ肉でしたね」

 

サティ「こっちは段階ごとに順番を選べるけど、原料としては石灰岩、鉄鉱石、銅鉱石の3つね」

 

 トピアは時代の祭壇に、サティはHUBのコンソールにアクセスして必要な資源を確認した。手順としてほぼ覚えてはいるものの、念のための確認である。

 しかしここでトピアが疑問を呈した。

 

トピア「ん? いきなり石灰岩が要るんですか?」

 

サティ「コンクリートの材料として大量に使うわよ? 何、ここだと意外に希少資源なの?」

 

 尋ねながらも自分で調べた方が早いと判断したサティはいつもの調子でビルドガンの資源スキャナーを起動した。ギョーンという独特の探針音とともに球状の探査範囲が広がっていき、青い光が地面に円を描く。

 

サティ「西の方向、500m以内に2つ、遠くに1つ。普通に石灰岩の層があるわね。問題無さそう……どうかした?」

 

トピア「むむむ、便利な上にかっこいい……」

 

サティ「問題無さそうね」

 

 眉根を寄せるトピアの様子に何か問題があるのかと疑問を呈したサティだが、単にトピアがメカ好きをこじらせているだけと理解したため、これを軽く流すことにした。

 

トピア「アッハイ。従来のセパレートワールドでは石灰岩は『放棄された鉱山』という名前のダンジョンまで採掘しに行く必要がある上に鉱脈ほどまとまった量の入手も出来なかったので心配したんですが、ここの環境では問題無さそうですね」

 

 スルーされて正気に戻ったトピアが説明した通り、どうも旧来のクラフトピア世界とは資源分布の法則も違うようであった。とはいえ、今のところ資源が手に入りやすくなる方向のようなので問題は無い。

 

サティ「ダンジョンとかあるのね。どんな資源があるのか一度見てみたいけど、まあいいわ、作業開始しましょう」

 

トピア「アラホラサッサー!」

 

サティ「何それ、おかしな返事」

 

トピア「1970年代頃から流行ったそうですよ」

 

 トピアが突然背筋を伸ばして肘を大きく上げた妙な敬礼を返したので、サティは思わず苦笑を漏らした。

 ともあれ、この通り和やかな雰囲気で二人の資材集めが始まったのであった。

 

 

◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■

 

 

 幸い必要な資源は近隣に揃っており、ケモノ肉もワニや熊がドロップするので簡単に手に入った。

 トピアは祭壇の手前に同じ石と原木からなる作業台を設置した。この作業台、機能には全く問題が無いのだが、いざ設置してみるとトピアはその見た目が普段以上に気になった。サティの側の工作台があまりに工業のにおいがする先進的デザインなので、相対的にみすぼらしく見えてしまうのだ。炉や鍛冶設備などは熟練と名の付いた上位版が存在しており、最終的に使う事になるそれの見た目がしっかりしているので気にならないのだが、作業台は最初から最後まで石器時代に作ったものを使えてしまうので却って時代遅れに見えてしまう。

 なので。

 

トピア「作業台と工作台のトレードを提案します!」

 

 案の定トピアがおかしなことを言い始めていた。

 トピアの性格を何となく理解し始めたことでこの展開が予想出来ていたサティは、ため息を一つ吐いてからトピアを宥め始めた。

 

サティ「待って、隣の芝が青く見えてるんでしょうけど、それとんでもないファンタジーアイテムよ?」

 

 逆にサティから見るとトピアの作業台はとんでもない代物であった。何しろ製造数を指定して作業を始めてから作業者当人がその場を離れても作業が勝手に進むので、複数設置するだけで簡単に並列化して作業速度が何倍にもなるのだ。製造可能な物も時代の進行に合わせてどんどん増えるのでその面でも問題は無い。しかもクラフトピアワールドの手工業設備は全てそういう仕様であるらしい。

 ところがトピアはこのサティの意見を力強く肯定した。

 

トピア「なればこそです!」

 

サティ「なればこそ?」

 

 今度は何を言い出すのかと首を傾げるサティに対し、トピアは自説を展開し始めた。

 

トピア「そちらは作業台の性能が気になる。こちらは工作台の素敵性能が気になる。このトレードは互いに利があるとは思いませんか?」

 

サティ「……いや、私はそんなの気軽に供与していいのかって聞いてるんだけど?」

 

トピア「問題ありません、業務を共にする我々はもっと互いのことを知るべきなのです」

 

サティ「貴女が構わないと言うのなら私から言うことは無いのだけれど……」

 

 気軽に機材を供与してはいけないというのはFICSITという企業に属するサティの側にも言えることだ。だが基本的に単独、もしくは少人数で仕事をすることになる惑星開拓者(パイオニア)の裁量範囲は案外緩かった。いちいち上司に判断を仰いでいては業務に差し支えてしまい、惑星単位の開拓作業などいつまで経っても終わらないのだ。

 FICSITの規則として、現地協力者にFICSITの機材を使わせることについては惑星開拓者(パイオニア)の裁量に委ねられているし、いちいち正式な契約を交わす必要も無い。機材供与については制限が付くが、こちらも条件によっては惑星開拓者(パイオニア)の裁量範囲内で可能となっている。そもそも末端の惑星開拓者(パイオニア)が使う道具には流出して困るレベルの最先端技術は使われていないのだ。

 これには過酷な開拓惑星で迂闊な惑星開拓者(パイオニア)が事故死してその所持品が紛失することは珍しくないという事情もあった。たとえ社員が規則を遵守していてもそうなってしまっては意味が無いのだ。しかし持っていない物は流出しようがないのだから、規則で縛るよりも所持技術を制限した方が遥かに確実という話であった。全く世知辛いが、その代わりに現場の裁量を大きくすることで開拓作業がスムーズになるので、惑星開拓者(パイオニア)にとっても悪い話ではないのだ。

 ともあれ、今回の場合は理想郷の建設者(クラフトピアン)が所持する魔法の作業台という未知のテクノロジーとの引き換えになるため、トピアが言うように技術交流の名目が立つ。これならば十分以上にFICSITの利益になるため、わざわざ規則違反を犯さなくても機材供与は可能であった。むしろサティが提供する物の価値が低いために申し訳ない気分になるくらいで、サティが渋っているのはこちらが理由であった。サティは惑星開拓者(パイオニア)の中では良識がある方なのだ。だがトピアが是非にと言うのであれば断る理由は無い。

 色々考え込んではいるが結局拒否をしていないサティに対し、トピアはそれを同意と見なした。

 

トピア「問題が無いのならば取引は成立です」

 

サティ「後で文句を言われても知らないわよ?」

 

 結局トピアにサティが押し切られる形でクラフトピアの作業台とFICSITの工作台を1台ずつ交換することになったのだった。

 

 

◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■

 

 

 早速各々で使用感を試してみたところ、すぐに問題が発覚した。

 クラフトピアのクラフトシステムには道具を使わず手作業でのクラフトと、それぞれの製造設備を使ったクラフトがある。そしてそのどちらも、時代の進行に応じてレシピが増えていく。クラフトピアの作業台も製造設備の一種なので、作業台特有のクラフトメニューが存在するわけだが、FICSITの工作台はクラフトピアの製造設備ではないので、クラフトピア作業台相当の製品を製造することが出来ないのだ。ガイドに従えばFICSIT規格の製品を製造することは可能だが、それはトピアの作業に直接使えるようなものではない。よくよく考えれば分かりそうなものだが、期待した分だけトピアは落胆した。

 それはそれとして折角だからとトピアはFICSITの工作台で試しにあれこれとFICSIT製品を作ってみたのだが、これ自体にも難点が存在した。加工音が案外うるさく、作業が終わるまで作業台の前を離れられないので、終了後に加工音が耳に残ってしまうのだ。慣れていないトピアは暫く金槌ループ音の幻聴に苛まされた。

 

トピア「金槌が……金槌の音がまだ聞こえる……ッ!」

 

サティ「慣れればどうってことないわよ?」

 

 見ればサティは平然とした様子で部品加工を続けていた。どういうことなのかと疑問に思ったトピアは疑問をそのままぶつけることにした。

 

トピア「一体どうやって慣れたんですか? 何かコツが?」

 

 或いはサティが一向に脱ごうとしないヘルメットに十分な防音機能があるのかもしれない、とトピアは考えたのだが、サティは静かにサムズアップしてトピアの予想を下回る回答をした。

 

サティ「そのうち金槌の音が聞こえるのが当たり前になるから気にならなくなるわ」

 

トピア「それは慢性化しているだけでは!?」

 

 まあ慣れ方も色々である。

 

 ところでこれは実際に使ってみるまでサティにも分からなかったのだが、サティがクラフトピアの作業台を使ってクラフトピア製品を作ることは可能だった。クラフトピアの設備はマナによって動作してはいるが、操作にマナは必要無いようなのだ。

 これに対しトピアは少し意外そうな表情をした後、理想郷の建設者(クラフトピアン)以外にも使えるのなら人数を活かした流動的リソース配分が可能になると喜んだ。

 

 

◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■

 

 

 FICSIT製の先進的な工作台を自分の作業に使えないという結果に落胆したトピアであったが、騒音の問題を熟練の惑星開拓者(パイオニア)でも全然解決できていないという現実から諦めが付き、早々に切り替えて作業は進んだ。しかし原木収集に勤しむトピアの様子は、サティにとってはまた常識外のものであった。

 作業用に軽装に着替えたらしいトピアが手元から光弾を10発ほど高速で連射し、それが樹木に当たるとどこからともなく大量の原木がドロップ、ドロップを回収してからまた光弾連射、それを樹木が倒れるまで繰り返していた。問題は明らかに元の樹木の体積よりも大量の原木が採取出来ていることだ。

 

サティ「それどうなってるの? ドロップアイテムだからそうなるの? それともそういう魔法?」

 

トピア「これですか? んー、両方ですね」

 

サティ「両方?」

 

 サティのオウム返しに振り返って頷きを一つ挟み、トピアは饒舌に語り始めた。

 

トピア「ええ、元々1本の樹木から得られるドロップの原木はそれなりに多いのですが、今は樹木に攻撃するたびに元の入手数と無関係に確率で原木がインベントリに追加される生活スキルTier2『木こりの目利き』Lv3をつけているので、大ダメージ単発よりも最低ダメージを連発した方が入手数が多くなります。そう考えるとこの低威力の10連射光弾、ルーニックバレッジLv6は原木採取に最適なのです。これは1つの樹木から可能な限り大量の資源を得るという森林資源活用法でもあり、これを師匠に教わったときは私も目から鱗が落ちたものです。更なる改良版では間に樹木の回復を挟むことで無限に原木を採取できるので、ある程度近場に樹木を残しておくべきですね」

 

サティ「……ええ、気をつけておくわ」

 

 師匠自慢が出来てご満悦のトピアであったが、サティからするとツッコミ所が多すぎて困る話であった。ワニから鉄鉱石がドロップする世界で今更質量保存だの何だのと言っても仕方の無い話であろうが、あまりにもゲーム的すぎる。しかし通常の物理法則と違っても独自の原理や計算式が存在してその最高効率を追求した結果がこれのようなので、非常識だからとわざわざやめさせる意味も無い。

 

 話している間にも原木のドロップは続き、在庫はそろそろ1万に到達しようとしていた。原木は木炭用も含め今後割と大量に使うので、トピアは結局スーパーダイヤモンドチェスト一杯の19,200個までこの作業を続けた。

 ところでトピアの作業用軽装というのはバンダナ、Yシャツ、スラックスまでは分かるのだが、何故か背中にどう見ても伐採作業には使わないであろうグライダーのようなものをくくりつけており、異彩を放っていた。そのグライダーは何なのかとサティは尋ねたかったが、確かにジェットパックよりは軽いであろうし、これまでの経験からしてまた奇天烈な回答が返ってくる気がしたのでひとまず作業の進行を優先することにした。

 そもそもの話として、ジェットパックもホバーパックも無しに目の前で軽々と3段ジャンプしていることの方が余程不自然なのだから、それに比べれば大した問題ではないのだ。

 

 二人の仕事はまだ始まったばかりだ。

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