【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

50 / 387
 [2025/12/17]加筆・修正しました。


050. まさか残り二人の(マイスター)が宇宙から降ってきて早々に喧嘩してる感じですか?

 4日目の朝、方針会議の時間。場所は改装されて食堂兼会議室と化したスコアの元自宅である。

 会議開始早々にトリオが挙手した。

 

トリオ「今日は儂から始めさせてもらう。衛星観測で重要な報告があるんでの」

 

 衛星観測は重要な情報源だ。反論は特に無く、トリオはプロジェクターで地図を投影した。

 

トリオ「まず従来のものと別の大規模な赤の森、紫の森に加え、新たに白の森が出現した。これは予定通りでええんじゃな?」

 

 地図には新たなキャプションが追加されており、東2,000kmに赤の森2、西1,500kmに紫の森2、そして西2,500kmに新たな白の森が加わっていた。例によっていずれも赤道上に綺麗に並んでいた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ラリー「ああ、昨日の夕食後っていうタイミングは事故だが、今日の午前中にはこうなる予定だった」

 

サティ「隔離や浄化はどうにかなりそう?」

 

ラリー「そうだな、この後半戦の侵食領域は侵食が速い上に地下世界(The Underworld)の深さまで続いてるのが厄介で、手作業で隔離するのはなかなか苦労するんだが、こっちも迅速に対応すれば問題はねえ。最終的にはスチームパンカー(Steampunker)が販売する環境変更液(Solution)テラフォーマー(Terraformer)に装填してぶっ放せば一気に浄化が進むはずだぜ」

 

サティ「そのスチームパンカーは見つかりそうなの?」

 

ラリー「後半戦に入ったことで破壊可能になった祭壇(Alter)をハンマーで破壊すると、これをトリガーにしてメカニカルボス(Mechanical Boss)という分類の3種のボスが夜間に確率で出現するようになる。こいつらのうち1体を撃破すると、拠点の空き部屋にスチームパンカー(Steampunker)が引っ越してくる。ランダム出現の確率的に、遅くとも今日中にはそうなるだろ」

 

 ラリーが言う「今日」とはこの星で一昼夜が巡る60分のことではなく、地球と同じ24時間のことである。流石に24回も夜が来れば1回もメカニカルボス(Mechanical Boss)が出ない筈はないということだ。

 

トリオ「ふむ、とりあえず何とかなりそうじゃな。次に、石の城のような建造物が2箇所見つかった。一つはこの大陸の西の端、ユグドラシルから3,300km、もう一つは湖の東側から突き出した半島の先端じゃ。どっちかが兄ちゃんが言ってたダンジョンかの?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 トリオが衛星観測写真をそれぞれ拡大してみせると、そこには確かに石のブロックで作られた城のような建造物があった。湖の方の建造物はかなり老朽化しているように見られる。

 

ラリー「おっ、これは……西の端の方が多分そうだな。あとで行ってメカニック(Mechanic)を解放してこねえとな」

 

サティ「テレポーターの設置が捗るわね。あれ上手く使えば長距離自動輸送に使えそうだから助かるわ」

 

トリオ「そうじゃの。最後に3つ目。つい先ほど、この西の端のダンジョンの近くに3つの落着物があった」

 

 

【挿絵表示】

 

 

トピア「えっ、まさかまたBETAの着陸ユニットですか?」

 

トリオ「いや、1つは普通の隕石でな。あと2つは……映像を見てもらうかの」

 

 地図から切り替わり、現場のリアルタイム映像が映し出された。そこに映っていたのは、東西二つの陣営に分かれての弾丸、ミサイル、ビームの応酬であった。いやこの表現は正確ではない。射程の差で東側が一方的に押していて西側は殆ど反撃出来ず、後退を重ねてかなり離れた所に新しい陣地を築きつつあるようだ。

 戦場に存在するのは全て機械の機動兵器やタレットであり、人の姿は見えない。また、戦線から離れて安全領域となった東寄りの領域には採掘機械や工場らしきものが設置されている。

 

スコア「これは一体?」

 

トリオ「儂もよう分からんのじゃが、特徴から見て異なる2つの科学文明が争っておるように見えるの」

 

サティ「西側は細かいブロック構造、東側は巨大タレットが特徴的ね」

 

 宇宙から降ってきたらしき明らかに特徴が異なる未知の文明勢力が2つ。そうなると思いつくことは一つだ。

 

トピア「まさか残り二人のマイスターが宇宙から降ってきて早々に喧嘩してる感じですか?」

 

サティ「その可能性は高いわねえ。距離も遠いし、どうしようかしら? 時間をかけると西側が潰されてしまいそうに見えるけれど」

 

スコア「来て早々に軍隊レベルの戦力を展開出来るのは頼もしいんだが……状況を説明すれば説得出来るか……どうしたラリー?」

 

 どうしたものかと悩む(マイスター)達の中で、ラリーがおもむろに挙手して注目を集めた。

 

ラリー「説得は知らんが、海岸線までの距離なら何とか出来るぜ」

 

スコア「何とか、ってどうするんだ? セレスチャルスターボードでも24時間かかる距離だぞ?」

 

 セレスチャルスターボード(Celestial Starboard)の水平移動速度は83マイル/h=133.576km/h=3,205.824km/dayである。

 

ラリー「いや、これを使う」

 

 ラリーが懐からシェルフォン(Shellphone)を取り出し、ボタンを操作するとその姿が立ち消えた。

 

サティ「消えた!? ……いえ、転移したのね?」

 

トピア「そういえばあの携帯電話っぽいのに限定的な転移機能があるって言ってましたっけ……言ってましたよね?」

 

 確かにそう聞いた気がするのだが、自分の記憶に今ひとつ自信が持てなかったトピアは、確認のためにサティに問いかけた。

 

サティ「ええ、言ってたわよ。ということはすぐにポータルを置いて……どっちかしら? 戻ってくるのか、仲裁に行くのか」

 

トリオ「仲裁に行ったようじゃの」

 

 プロジェクターの衛星監視映像を見ればラリーが西海岸に仮拠点を設置しており、その後すぐにセレスチャルスターボード(Celestial Starboard)で東へ向かっていた。先ほど発見が報告された西のダンジョンの上空を通過し、一直線に戦場へと向かっている。

 

トピア「本当に西の海岸線まで一瞬で移動したんですねえ」

 

スコア「おい何とかなるのか? 西側はともかく東側は結構な戦力だぞ?」

 

サティ「そこのところどうなのトピア?」

 

 仮拠点にポータルを設置してあるので、ラリー単独で勝てなくても20分あれば応援に駆けつけることが出来る。だがその20分が稼げるのかという話だ。

 

トピア「多分時間稼ぎくらいなら余裕で出来ると思いますよ。小さなマナポーションをありったけ持たせてますから」

 

スコア「マナポーション? つまりこの状況を何とか出来る魔法武器があるのか?」

 

トピア「はい。相手がタレットしか使わない限り、20分どころか1時間でも余裕だと思います」

 

 トピアは地獄から帰る際のポータル起動時間待ちでラリーの魔法武器の実験に付き合ってクラフトピア産のマナポーション、特に小さなマナポーションとのシナジー効果が絶大であると知ったため、昨晩新しく生産ラインを増築したのだ。それを早速使うことになるとは思っていなかったが、小さなマナポーションはハイマナポーションと同じく青のハーブから無限に生産出来る上、生産ペースもハイマナポーションを大きく優越するため、補給の心配は無い。

 

サティ「それは大した物ね」

 

トリオ「とはいえ機動兵器も作ってそうなんじゃよな」

 

 見れば東側の本拠地らしき施設のそばに工場が連なっており、一番小さい側で人型機動兵器を作り始めているように見えた。

 

サティ「あの本拠地らしき施設、どう見ても採掘してる以上の資源を吐き出してるわよね? いちいちタレットを設置しながら追いかけるのも面倒になったから制圧用機動兵器の準備中と言ったところかしら」

 

スコア「折角持ち込んだ資源を人間同士の喧嘩で無駄使いしていると考えると腹立たしいな」

 

トピア「全くですね」

 

 これからBETAと全面戦争になるのだから、資源を使うのならばそのために使うべきなのだ。

 とはいえまだ何の説明もしていないので、そういった目的意識を持っているはずもないのだが。

 

サティ「それで、ラリーが20分稼いでくれるとして、その後どうやって仲裁しようかしら?」

 

トピア「やっぱり人間以外の交渉不可能な外敵に侵略されているという状況を知ってもらうことでしょうか」

 

サティ「そうね、それで納得してくれるなら話が早いわ。喧嘩の真っ最中に乗り込んで初対面で信じてくれるかは分からないけれど」

 

トリオ「そもそもどうやって話を聞かせる? 全周波数帯域で呼びかけても通信規格が合わんかったら意味ないぞ?」

 

スコア「その場合は単純に拡声器を使うか、或いは……」

 

サティ「白旗でも掲げていく?」

 

トピア「文化の違いで白旗が一族郎党皆殺しの意思表示って可能性がありません?」

 

サティ「恐ろしい可能性を考えるわね。絶対に無いとは言い切れないけれど」

 

 文化の違いによるディスコミュニケーションは時に冗談のような、時に恐ろしい結果をもたらすのだ。トピアはそれを伝説巨神から学んだ。

 

トリオ「この分じゃと、軍事力に自信がありすぎてBETAと戦うにも協力者なんぞ要らんと思っとる可能性もありそうじゃぞ?」

 

スコア「あり得る話だが、じゃあどうやって説得するんだ?」

 

トピア「最終的には、(にくたいげんご)でしょうか?」

 

サティ「トピア、肉体言語って言葉をなんか別の意味で使ってない?」

 

 サティの疑問に対し、トピアは無言で微笑んだ。こいつはやる気だ、とサティだけでなく全員が確信した。

 

トリオ「力をひけらかしていい気になっておる奴の頭を冷やすには同じ力、というのもまあ道理ではあるかの」

 

スコア「そうだな、見くびられていてはまともに話を聞いてもらえないし、今後協調するにも無理が出るだろう」

 

サティ「……既に開戦している以上やむを得ない部分もあるかしらね」

 

 相手の印象が悪いせいか、(マイスター)達の意見は武力行使に傾いていた。そもそも先にラリーが戦い始めていた場合、交渉のテーブルがあるかどうかも疑わしい。

 

サティ「でもその場合勝てるのトピア?」

 

トピア「無策で接近すると飽和攻撃で潰されそうな気がしますが、首狩り戦術を使うならどうとでもなりそうですね。ちょっと反則気味な手段ですが」

 

スコア「流石だなトピアさん」

 

トリオ「んじゃ儂も付いていくかの」

 

サティ「大丈夫なの工場長?」

 

スコア「戦えるのか?」

 

トリオ「おう、ここ数日の研究成果を見せちゃるわ」

 

 心配するサティやスコアに対し自信ありげな笑顔を見せて席を立ったトリオは早速出撃準備を開始した。

 

トピア「ところで諍いの原因は何でしょうね?」

 

サティ「また衝突事故が原因だったりしないかしら?」

 

トピア「まさかぁ」

 

 会議室に笑い声が響く。そう、この時は二人も本気でそれが原因だとは思っていなかったのである。




 次回投稿は本日13時01分です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。