朝の会議室。どうにか七人目の枠に入ったらしきマインが問いかける。
マイン「それで、我が率いるこの軍団は何という名前なのだ?」
引き続き縛られたままにも拘わらず既にリーダー気取りのマインに呆れつつ、
トピア「いや率いられてるつもりはないですが、はて名前……さしずめ神聖クラフトピア帝国といったところですかね?」
サティ「サティスファクトリー惑星開発公社じゃないの?」
トリオ「ファクトリオ工業第1支社じゃろ」
ラリー「テラリア冒険団じゃねえのか?」
スコア「コアキーパー探検隊」
テクス「テラテック資源開発はどうでござるか?」
マイン「決まってないのならマインダストリー騎士団でいいだろう」
ものの見事に全員の意見が分かれてしまった。コンセンサスが全く形成されていない。
サティ「そうね、七人集まったことだし、そろそろ正式に決めましょうか」
マイン「ならばそろそろ我が縛めを解くが良い」
サティが仕方なく音頭を取ろうとすると、マインが解放を要求した。仲間として会議に参加させるのなら確かにそれが正しいのだが、
トリオ工場長はトピアに視線を向けて問う。
トリオ「嬢ちゃんどうなんじゃ、この騎士かぶれ信用出来そうか?」
トピア「うーん、今は点滅もしてないですし仲間という認識のようですね」
トピアが言うのはいつものマップマーカーのことである。敵対時はこれが点滅していたのだ。マインの居所を見抜いて迷わず本拠地施設に突入出来たのもこれが原因だ。
テクス「自分の傘下に収めたつもりなのではござらんか?」
トピア「かもしれませんが、まあ会議後にまた判定してみましょう」
マイン「貴様ら何の話をしているのだ?」
トピア「まあそれは後で」
トピアがマインの縄をほどいてテーブルにつかせ、改めて組織名を検討する。
トピア「他の人の案で良さそうだっていうのあります?」
マイン「無いな。皆自分のことばかりではないか」
テクス「そこもとが言うなオブザイヤーでござるよ」
中でもマインは自分の名前を入れているので特に自己主張が激しく、即座にテクスのツッコミを浴びることとなった。
スコア「しかし言わんとすること自体は分からんでもないな。全体を表す名称にすべきか」
サティ「全員に共通することと言えばあれよね」
トピア「
トリオ「なるほど、ええんじゃないかの?」
トピアが
マイスターズとは、ドイツ語ではMeisterは複数形でもMeisterのままなのだが、それでは匠達の集団と伝わらないため、集団であることを強調すべく英語の形式でsをつけたものである。
……と、他の
トピア「では今後我々は
マイン「ではその代表を我が務めさせて――」
サティ「じゃあ全員にフリップを配るから
マインの言葉を遮ってサティが全員にフリップを配り始めた。いわゆる投票用紙である。
マイン「無駄なことを。実績からして我が代表に相応しいことは確定的に明らかであろう」
テクス「だと思うのなら投票でそういう結果が出るはずでござろう……あ、代わりの椅子、かたじけないでござる」
サティの膝に座っていてはそれぞれの記入が出来ないのでテクスは自分の席に座った。しかし他の皆と同じ椅子では高さが合わないないので少々姿勢が辛い。それに気付いたトピアが子供用にも使える高さがある『おしゃれなスツールB』をその場で作って交換した。
サティ「そんなに嫌なら別に貴女だけ投票を辞退しても構わないけれど?」
マイン「……ふん、仕方ない参加してやろう」
ごねても不利になるだけと理解したマインが黙ったので、暫くはフリップに書き込む音だけが会議室に響いた。
サティ「では一斉に出しましょう。はい」
開示された記入内容は以下のようになっていた。
トピア:サティ姐さん。いつも冷静な判断で頼りになるから。
サティ:トリオ工場長。マイスターとしての技量が間違いなく一番だから。
トリオ:トピアの嬢ちゃん。発起人に一番近い。正直代表とかやりとうない。
ラリー:トピア。俺より強いから。
スコア:トピアさん。人柄が素晴らしいから。
テクス:トピア殿。自称騎士より強くて温和なので。
マイン:このマインこそが相応しい。立場を上げたくて上げるんじゃない。上がってしまう者が
サティ「姐さん……? まあいいわ、過半数の得票を以てトピアに決まりました。宜しくね代表?」
トピアはこれまでも「姉さん」ではなく「姐さん」と呼んでいたのだが、初めて文字表記されたことでサティはその事実に気付いた。
トピア「アイエエエ代表!? 代表ナンデ!?」
マイン「異議ありィ!! これ絶対ニンジャの仕込みでしょう!?」
テクス「いやどう見ても困惑してるでござるが?」
スコア「逆に自分こそが相応しいというあの自信はどこから出てくるんだろうな?」
ラリー「分からん。さっぱりわからん」
トリオ「はて、立場が勝手に上がってしまうのが
マイン「貴様ら口を慎むがいい! 我が怒りの炎に焦がされて悲惨な末路を迎えたいか!?」
マインがあまりに騒ぐので、トピアに投票していないサティが状況説明を試みる。
サティ「あのねえマイン。貴女実績はあるのかもしれないけど信用が無さ過ぎるということを少しは理解した方がいいわよ?」
マイン「信用だと? 愚かな、メイン盾である
サティ「貴女、出会い頭に殺す勢いで喧嘩を売ってきて負けた挙げ句にその後も自分こそが一番だと言い張ってる人を見てどう思う?」
マイン「そんなうるさいだけの哀れなザコはバラバラに引き裂いてしまうべきだな」
サティ「これ全部貴女の行状なんだけど」
マイン「なん……だと……!?」
どういうわけかマインは目を見開いて驚いていた。全く自覚が無かったようだ。
テクス「あ、さては客観視という概念を知らなかったでござるな?」
マイン「いや、しかしあれはニンジャの卑怯な騙し討ちにやられただけだ! 実力で負けたわけではない!」
サティ「はいそれ。相手が卑怯なら負けても仕方ないなんて言い訳をするような人に意志決定は任せられないわ。負ければ滅亡なのよ?」
マイン「うっ」
相手は一切の交渉が成立しないBETAである。クリーンファイトなんて概念は存在しないし、負けても言い訳の余地は無い。
サティ「あと貴女を代表にしてこの戦いに勝ったらこの星をネームレス・カンパニーの支配圏に入れるつもりじゃない?」
マイン「……勿論そのつもりだが?」
その返答にサティはため息を吐いた。
サティ「あのねえ、あらゆる炭素生命体の希望の星にして伝説に残る英雄がそんなせこいことしてどうするのよ」
マイン「あらゆる炭素生命体の
サティがマインの自尊心をくすぐる方向で説得を試みると、マインはあっさりそれに乗った。思った通りに自己顕示欲が強い。
サティ「というわけで、貴女はちゃんと自分を客観視して信用を――」
トピア「待ってくださいサティ姐さん、それ以上はいけません」
そろそろ説得も終わろうかという段になってトピアが割って入った。
サティ「何よトピア、何か問題でも?」
トピア「野生のブロンティストにまともな客観視能力を与えてしまったらブロンティストとしての完成度が著しく低下してしまいます! これは文化的損失です!」
サティ「ブロンティストが何なのかは分からないけれど……いやなんとなく分かったけれど、貴女はマインに何を求めているのよ?」
トピア「勿論面白さです!」
トピアの脳内師匠がそう言っている。だからトピアもそうする。人生には
大真面目な顔でそんなことを言い出したトピアにサティはため息を吐いた。
サティ「……って言ってるけどどうするマイン?」
マイン「我が面白いだと……?」
予想外の評価ベクトルに、全く自覚が無いマインは困惑していた。
マイン「まあいい。代表の座は暫く預けておいてやろう。まともに出来ないようだったら引きずり下ろしてやるからな?」
トピア「いつでも受けて立ちますよ!」
マインは引き下がったが、それでも捨て台詞は欠かせないようだった。
サティ「そう言えば工場長は何で代表やりたくないの?」
トリオ「そりゃあおめえ、代表の仕事の分だけ物作りの時間が減るじゃろ? ドワーフの間じゃあ代表職なんぞ毎度押し付け合いよ」
トピア「あれ、じゃあファクトリオ工業第1支社というのは?」
トリオ「儂は本社の工場長じゃけえ、支社の代表なんぞやらんわい」
サティ「ああ、そういう意味の……じゃあトピア、代表就任挨拶宜しく」
トピア「ハワッ!? え、えーと……スゥーッ! ハァーッ!」
トピアは一旦チャドー呼吸で落ち着いてから、
トピア「このたび
言葉を一旦句切ったトピアが自信ありげな笑みを見せ、碧眼を怪しく輝かせる。
トピア「何故ならここには一人でも環境を変えるほどの
トピアが右拳を握って腰に引き絞り、大きく息を吸う。
トピア「大量ーッ!」
匠衆「生産ーッ!!」
トピアが突き上げた拳に事前打ち合わせも無く
トピア「ありがとうございました!」
会議室に拍手がこだまする。ここに
それを見守るアヌビス神の表情はまさに後方師匠面であった。彼がいつからここにいるのかと言えば、実は朝に工場長が報告を始めた時点で既にいた。分体を得たアヌビス神は今や自由であり、
これにて第2章終了です。幕間を1話挟んで第3章に入ります。