055. いよいよどこからツッコめばいいのか分からんぞ
シームレスワールドで
水色の流線型ボディに大きな一つ目、短い手足、短く円錐状に伸びた太めの尻尾。そして頭の上にはクラシカルウィッチハット。言わずと知れたトピアの師匠である。彼(?)は椅子に腰かけて短い腕で本を掴み、時折ページをめくっている。読書中ということだ。指も無いのにどうやって、とは考えるだけ無駄だ。
システムメッセージがワールドへの来客を告げ、そこにもう一つの人影が追加される。転移の祭壇の前に現れたその人物は師匠と違って普通の人型だが、顔を隠した……体格からして恐らくは男。黒いフルプレートメイル、アサルトドラゴンメイル♂に身を包み、頭を丸ごとジャック・オ・ランタンマスクで覆っているため、髪や肌の色すら分からない。その男がこのワールドに入ってきてすぐに師匠を見つけて話しかけた。
南瓜頭「やあ『師匠』。今日は倉庫番かい?」
師匠「……君か。君に師匠と呼ばれる謂れは無いのだが、弟子入りでもしに来たのかネ? いや分かった、その恰好からして反省を促すダンスでも身につけたいのだろう?」
南瓜頭に黒い装束。師匠から見ればその装いはダンサー以外の何者でもなかった。なお服が緑だとテロリスト判定だが、世界によってはこちらも踊り出して大活躍するらしい。
師匠はやおら立ち上がると腰を捻り短い手足を機敏に動かしてダンスらしき動きを示す。可愛いのだが、手足が短すぎて原型が分からず、人間が参考にするのは難しそうだ。
口ぶりからして二人は知り合いのようであった。
南瓜頭「ははっ、それはまた今度にしておこう」
南瓜頭は掌を前に出して拒否の意志を示す。
それを受けて師匠は踊るのをやめ、相手に椅子を勧めた。
師匠「それは残念だネ。まあ座りたまえ」
南瓜頭「失礼する」
南瓜頭が座るのに合わせて師匠自身も座り直し、在庫にあった二人分の緑茶をテーブルの上に出した。材料の都合で特にエンチャントはかかっていない普通の緑茶である。
南瓜頭「悪いね」
師匠「それで、何も習う気が無いのなら師匠呼ばわりでわざわざ話しかけてきたのは単なる挨拶かネ? それとも……我が弟子のことかな?」
南瓜頭「やはりあの子の『師匠』だ。話が早くて助かるよ
師匠→九十九「世辞はいいヨ。早く用件を言いたまえ、ステーク君」
南瓜頭→ステーク「私の代わりにあの子がベータテスターに選ばれたと聞いた。すまない、私の手際が悪かったせいだ」
ステークは改めて立ち上がり、九十九に対し深く頭を下げた。
九十九「君の代わりに? ……そうか、候補の一人目は君だったか。だが勘違いして貰っては困るネ。我が弟子は
整理すると、最初の候補がステーク、その次に選ばれたのが大蔵 九十九、その推薦で選ばれた三人目がトピアということになる。
しかし弟子を推薦した以上その責任は師匠が負うものだ。九十九はそう言っているのだ。
なお情報が3日遅れなのはステークが他の
ステーク「いや関係無くはないさ。あのシームレスワールドは
九十九「君の仇敵だと? 確か君の出身は……」
ステーク「ああ、噂に上っている通り、BETAに侵略された地球だよ」
そう、彼こそがマブラヴ世界を滅ぼしたと噂されている
ステークが言い放った言葉に、九十九の物理的には存在しない脳裏に女神的存在の言葉が蘇る。
――あなたはシームレスワールドのベータテスターに選ばれました。
九十九「つまり
侵略者の正体を知った九十九はトピアと殆ど同じ反応を示していた。やはり師弟であった。
ステーク「だから私が悪かったと言っている」
九十九「責任の話はもういいヨ。そんなことより、君は一体何を知っていて何をしようとしているのかネ?」
面白全部で弟子を危険なBETA世界に送り込んでしまったことを知った九十九は、自身の判断を悔いるよりも今後のための思考を回し始めた。さしあたって目の前の男から情報を吸い上げるのは必須だろう。
ステーク「……そうだね、今更隠したところで状況は良くならない。初めから話そうか。そもそもあなたたちが理不尽に攫われてきているのだって元を辿れば私のせいかもしれない」
九十九「そこからか? 幾ら何でも背負いすぎではないかネ?」
ステーク「あれは私が偉大なるクラエル神に
九十九「攫われたの間違いじゃなく?」
ステーク「ああ、私は世界を救っているつもりだった。そのためには必死だったよ。そして遂にやり遂げたと思った。だがクラエル神に現実を突きつけられて絶望したよ。
九十九「ふむ……? まさかとは思うが、
九十九の推測にステークは深く頷いて言葉を続ける。
ステーク「ああ、そもそも誰でも最初は素顔を晒しているのにどうして誰も私の顔を知らないと思う? 答えは
九十九「……当然そういうことになるか」
仮面装備が手に入るまで一切他の
九十九「しかし事情が分かっているなら意見くらいはしなかったのかネ?」
ステーク「勿論進言したさ。むしろ恨みを買っていて逆効果だって。でも、存在Xとかいう神の一派が同じ方法論で成功していると言って聞き入れていただけなかったよ」
九十九「ここでまさかの存在Xか……」
予想外ではあるが、ある意味納得出来る名前が出てきて、九十九は思わず天を仰いだ。
ステーク「知っているのか九十九さん?」
九十九「存在Xというのはあれだヨ、人の世に干渉して大戦争を煽ることで
ステーク「よりによってそんなのを手本にしていたのか……」
あまりの惨状にステークも頭を抱えた。
九十九「しかも人々の不幸が神の仕業だと露呈したら信仰心が下がるなんてあの連中ですら理解して……いや、してたか? 自ら通達して戦争の中に放り込んだ例もあったから本質的には理解してなさそうだネ? やはり神という連中はそこら辺に疎いのかネ?」
ステーク「……クラエル神に関しては根が正直者なんじゃないかな。多分」
精一杯のフォローであったが、人の心を理解してないという肝心な点はどうにもならなかった。
九十九「まあいいヨ、ここまでの話はそれで理解するとしよう。じゃあステーク君が行くことを前提としたシームレスワールドにBETAがいるというのも必然なのか?」
ステーク「……あれは全てを救えなかったことを悔いていた私のせいだ。つまりは慈悲だよ」
九十九「慈悲だと? それはあれかね、自身の第一の信徒の心残りを果たさせるために、
ステーク「いや、そういう訳ではないんだが……実態としては全く違うとも言い切れないな。だが途中でBETAに阻害されて不安定化したことで、
九十九「いよいよどこからツッコめばいいのか分からんぞ……」
最初の成功体験から信仰を得られる条件を勘違いして無駄に恨みを買い、ならばまず信徒に恩寵をもたらそうとしたのか、信仰から得られるらしき力を無駄遣いしまた窮地に陥っている。つまりあの女神的存在は善意も悪意も無いただのアホなのではなかろうか?
九十九「だが一ついいことを聞いた。
ステーク「そうだ。だから私は可能な限り早く、かつ可能な限りの武力を携えてあの世界に行かなくてはならない。今日はそのための協力をお願いしに来た。先に行ったトピアを助ける事にも繋がると思う」
一通りの説明を終えたステークは、今度は謝罪ではなく協力を頼むために再び頭を下げた。
九十九「ククッ、そいつは素敵だ。面白くなってきた」
ステーク「面白い? 今面白いと言ったのか?」
予想外の言葉にステークは思わず頭を上げた。
九十九「それはそうだヨ、滅多に助からないマブラヴ世界を救っちゃうなんて最高に
人間の形をしていない九十九の表情は通常良く分からないのだが、それでも隠しきれないほどの愉悦が滲み出していた。
ステークは神の代わりに頼った相手が悪魔の様に思えてきて若干後悔し始めたが、あのトピアを育てた師匠なのだからと今一度自分に言い聞かせることにした。そもそも言ってること自体は間違っていないのだ。ただでさえ手が足りないのに動機が気に入らないから助ける事を認めないだなんて、無用な贅沢もいいところだ。
九十九「それに君は一つ勘違いしているヨ」
ステーク「と言うと?」
九十九「我が弟子はもはや吾輩に助けられるほど弱くない。そうでなければリスクも良く分からない世界への派遣要員などに推薦するものか。吾輩自ら伝授した
トピアは九十九にとって手ずから育て上げた可愛い弟子であり、かつ自慢の弟子である。もはやただの保護対象ではないのだ。親馬鹿気味なのはご容赦いただきたい。
ステーク「だといいけどね」
九十九「まあそれはそれとして、やるべきことはやっておこうじゃないか。わざわざ準備を怠って苦戦するのは
ステーク「感謝する。まずは――」
斯くして、トピアのあずかり知らぬところで次の段階を見据えた準備が進められようとしていた。
次回から第3章です。