【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 [2025/10/31]一部の台詞を変更しました。台詞の間の描写を大幅に増量しました。畑のスタックを説明だけでなく実演するように変更しました。


006. あれは壁力ですね

 次にまた装いを変えてつるはしを担いで鉄と銅の採掘に出かけたトピアは、露出した鉱石の塊だけでなく鉱脈をつるはしで叩き割るという人外の膂力を見せつけ、瞬く間に万単位の鉱石を収集していた。これも強力なつるはしの作り方を師匠に習ったお陰らしいのだが、多少の非常識はスルーし始めたサティもこれには抗議せざるを得なかった。

 

サティ「原理はともかく鉱脈が枯渇してしまうと困るのだけれど?」

 

 FICSITの採鉱機は設置すれば半永久的に鉱石を掘り続けることが出来るが、設置前に枯渇してしまった鉱脈はその限りではない。なので先ほどの森林資源の有効利用とは打って変わって刹那的稼ぎに特化したような採掘の仕方をされては困るのだ。これでは今後の継続的採掘ペースががた落ちしてしまう。

 

トピア「その点は心得ていますとも」

 

サティ「……と言うと? 何か考えが?」

 

 全く悪びれる様子が無いが、態度からしてトピアはサティの都合を承知の上で鉱脈を枯渇させたようなので、サティはひとまず説明を聞くことにした。

 

トピア「はい、そちらの半永久的に掘り続ける採鉱機も素晴らしい代物ですが、こちらも似たようなものがありまして、ワールドLv5から製造可能な人工岩盤は、枯渇した鉱脈を復活させることが出来ます」

 

サティ「そうなの?」

 

トピア「しかも復活させる鉱脈は枯渇前に何が採掘出来たかに関係なく鉄や銅など10種類から任意に選べます。なので敢えて汎用の枯渇鉱脈をキープしておく運用まであります」

 

サティ「それはそっちの方がすごくないかしら?」

 

 なるほど、似たようなものでも継続的に集め続けるのではなく一旦枯渇するまで採掘してから復活させるという手順ならば、トピアのやりようにも頷ける物がある。しかも復活の際に鉱物の種類を変更出来るのならばある意味で上位互換とすら言える。

 

トピア「すごいかもしれませんけど、枯渇するたびに手動で復活させる必要があるので完全自動化には向いてないんですよね。あと石灰岩の人工岩盤は製造方法が分かっていないので、石灰岩はそちらで採掘をお願いします」

 

サティ「まあうん、とりあえず挽回不能な問題はしっかり回避していることは分かったわ。それよりもこれって生産計画の根幹に関わるような情報だから、選べる鉱脈の種類を詳しく教えてくれないかしら?」

 

トピア「そうですね……下位素材から順番に石、砂、銅、鉄、銀、チタン、金、硫黄、ボーキサイト、レアメタルの10種です」

 

サティ「へえ、山に集中しがちなボーキサイトや量が足りないことが多い硫黄をどこでも採掘出来るのも便利だけど、レアメタルがあるなら実質的にはもっと種類が増えそうね」

 

トピア「……はい?」

 

 意外なことにトピアの反応は明らかに理解が及んでいないものであり、表情もそれを裏付けていた。なのでサティは更に詳細を尋ねる必要があると判断した。

 

サティ「うん? ……ちょっと待って、貴女レアメタルをどう使ってるの?」

 

トピア「そのまま素材にしたり他の金属との合金にしたりしてますが?」

 

サティ「は? レアメタルって47種類の元素の総称の筈なのだけれど……ベリリウム、チタン、コバルト、パラジウム、白金、タングステンや希土類17種もこの中に入ってるはずよ?」

 

トピア「えっマジで? この世界独自の金属じゃなかったんですか?」

 

サティ「マジのマジマジよ。……現物が手に入ったら私の知ってるレアメタルと同じものなのか、分子分析機(M. A. M.)にかけてみた方が良さそうね。本当に独自物質という可能性もあるし」

 

トピア「現物が5個だけならありますよ? さっきドラゴンがドロップしたのですけど」

 

 トピアはインベントリからレアメタルの現物を取り出してみせた。外見は薄緑色の金属に見える。

 

サティ「これがそうなの? 本格的な解析にはちょっと足りないけれど……」

 

 信頼性のある結果を得るためには、分子分析機(M. A. M.)に投入するサンプルにもある程度の量が必要なのだ。トピアが取り出した鉱石片だけでは微妙に足りない。

 

トピア「そうですか? 足りなければ人工岩盤でも設置出来ますが」

 

サティ「あら? 既にあるの?」

 

トピア「はい、ワールドレベル以前に素材の調達機会が限られるので各種400個ずつ持ち込んでいます」

 

 人工岩盤は材料の問題で大量生産が難しい資材の一つだ。特に硫黄以上で要求される隕石の欠片(小)~(大)はその名の通り空から降ってくる隕石からしか採取出来ない物であり、滅多に手に入らない。

 まあトピアの場合は共有ワールドとロールバックを活用した複製で隕石の欠片や人工岩盤を増やしてしまったため何とかなったのだが、その手はこの世界では使えないので、事前に用意したのをインベントリ枠一杯に詰め込んで持ち込むのは妥当な判断である。

 

サティ「それはでかしたわ! ……でも現状では安定電力供給が無くて本格的な分析は厳しいからもう少し待ってくれるかしら? 必要な時になったらお願いするから」

 

トピア「お安いご用です! 他の良く分からない物質が入手出来たらそれもお願いしますね」

 

サティ「分かったわ」

 

 トピアのこのお願いしますには明らかに独自物質であろうアダマンタイトなども入っていた。何しろアダマンタイトは現状硬いのが分かっているだけで未だに用途が確立していないのだ。

 また、クラフトピアの産物にはダイヤのインゴットや黒曜石のインゴットなどという不思議アイテムが控えており、これらもサティの常識に大きな負荷を強いるのが確定していた。

 

 

◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■

 

 

 さて、そんなこんなでサティがTier2の一連の納品をこなしている頃にはトピアはLv4の納品を終え、当面の目標のLv5に挑んでいた。それは異様な光景であった。

 トピアはハムスターの回し車を巨大化したような設備の中に入ってひたすら走り続けており、時折試験管に入った黄色い液体をがぶ飲みしていた。更にトピアは一定時間走ると一旦設備から飛び降り、排出された電池を回収していた。つまりは驚きの人力発電である。

 発電ならHUBに付いているバイオマス・バーナー発電機でも可能なのだが、時代の祭壇に納品要求されているものは電池なのでその製造設備が無いと駄目なのだ。そして問題の人力発電機には電源入力端子といったものは無いので、結局走るしかないのだ。

 で、問題はその原始的とも言える発電方式ではなく、どれだけ走ってもトピアに疲労した様子が無いことだ。サティはそのことについて眉根を寄せて問い質した。まあ遮光バイザーに隠れて表情は見えないのだが。

 

サティ「ねえ、それって何かヤバイ薬じゃないの?」

 

トピア「これですか? ただの『小さなスタミナポーション』ですよ? 20秒間全くスタミナ消費無しで動き続けられるだけの薬です」

 

 トピアは走りながら黄色い薬の入った試験管を見せびらかして説明した後、20秒のタイミングを見計らってまた一気飲みしてみせた。サティは益々顔をしかめた。

 

サティ「一般的にはそれをヤバイ薬って言うと思うのだけど?」

 

トピア「割と常用してますけど副作用は無いので大丈夫です!」

 

サティ「常用してるものなのね」

 

 科学文明の常識では疲労を知覚させないなどの人体に相当な無茶をさせるものに違いないのだが、どうも魔法由来の(ポーション)はその限りでもないようだ。サティはとりあえず常識の齟齬に折り合いを付けて追及をやめることにした。今後自分で飲むかどうかは最低でも分子分析機(M. A. M.)にかけて成分分析の結果を見てから決めることにするが。

 

トピア「まあ手軽に電池を作ろうと思ったら普通はスタート地点付近の敵味方識別の無い人達がポップする地点に設置して力尽きるまで走らせるんですが、今回見当たらないので」

 

サティ「えっ何それ怖い」

 

 トピアは桟橋に視線を巡らせるが、相変わらずチュートリアル用兼発電用人員が現れる様子は無い。

 

トピア「住民利用発電は公式のTIPSにある手法ですし、ポップする人達は放っておいても無限に蘇るので大丈夫です!」

 

サティ「それはそれで意味が分からないわ」

 

 ここで言う公式のTIPSとは、セパレートワールドでワープ移動した際の待ち時間でどこからともなく通知されるTIPSのことだ。恐らくは女神的存在(クラエル・ザ・グレート)が作った文面が配信されているものと思われる。そんな住民活用法を推奨する女神的存在(クラエル・ザ・グレート)は相変わらず碌でもないが、実際に使っているトピア達理想郷の建設者(クラフトピアン)の倫理観も大概である。

 相変わらずゲーム的すぎるクラフトピア世界の法則と意味の分からない倫理観に呆れたサティは、一旦トピアから視線を外してため息を吐いた。しかしサティが目をそらしたその先にはもう一つの問題がある。小麦畑だ。

 

サティ「で、あっちもあっちで意味が分からないのだけど、まずあの小麦は何であんな速さで無尽蔵に生えてくるの?」

 

 サティの視線の先ではスプリンクラーが刺さった畑から目に見える速度でにょきにょきと小麦が生えており、それを回転式の刈り取り機が一定時間ごとに刈り取っている。速さだけならまだ分からなくもないが、最たる問題はそのサイクルが種まき無しで続いていることだ。

 

トピア「信じがたいとは思いますが、水さえあれば種まき要らずで高速かつ無尽蔵に小麦が生えてくるのがクラフトピア世界の一般的な小麦畑です」

 

サティ「あれが一般的……食糧問題とは無縁そうね。じゃあそれはいいとして畑からコンベアまで小麦を運んでいるのは何の力なの?」

 

 水さえあれば無尽蔵に増えるなど、クラフトピア世界の小麦はキノコか何かなのだろうかと呆れるばかりだが、それをあえて呑み込んでサティは次の問題点を指摘した。

 ベルトコンベアが小麦をコンテナに運んでいるのは見れば分かるが、畑からそのコンベアまで小麦をどうやって運んでいるのかがさっぱり分からない。見たところ人力でも機械力でも風力でも磁力でも傾斜による重力でもなく、刈り取られた小麦が不自然な挙動で畑からコンベアに水平移動しているのだ。アレは一体何の力によるものなのかということだ。

 

トピア「あれは壁力ですね」

 

サティ「かべりょく」

 

 意外ッ! それは壁力!

 それはサティがこれまでの人生で一度も聞いたことの無い謎の力だった。理解出来ないのはむしろ当然であった。

 トピアはサティの気の抜けた復唱に頷きを返すと、更に説明を続けた。

 

トピア「方向を揃えた床の上に畑を置いて、畑の端にめり込ませる形で薄い壁……今回の場合は木の壁ですね。あれを配置すると、畑の上に落ちているアイテムを移動させる力が壁から離れる方向に向けて発生するのです。故にこの法則を発見した先達の理想郷の建設者(クラフトピアン)は、この力を壁力と名付けました。ああ、古代壁力学会によると当初はめり込ませる形ではなかったそうですが、現在の環境ではそうなっています」

 

 床の上に畑を置くというイメージがまず分かりづらいと思うが、ここで言う畑とは、煉瓦を並べて作った枠に土を敷き詰めた花壇状のオブジェクトである。面積は1つあたり5m×5mの25m2になる。

 

サティ「古代壁力学会?? ……やっぱり意味が分からないけれどこれも魔法やマナの力なのかしら?」

 

トピア「いえ、これは魔法の畑が他のオブジェクトと干渉した結果発生している想定外の動作なのですが、実用上便利なので意図的に残されているようです。何しろこれ、風力よりも遙かに負荷が軽いんですよ」

 

サティ「想定外動作、そういうのもあるのね……」

 

 魔法なら仕方ないという理屈で何とか納得しようとしたサティは、魔法ですらないという追い討ちに困惑した。だが、実はまだ続きがあるのだ。

 

トピア「付け加えると、このように」

 

 一体何を考えたのか、トピアは一旦発電機から降りると畑の上に畑を出して縦に積み重ね始めた。最初の物と合わせて合計7段畑だ。段々畑ではない。達磨落としのように鉛直に積んだのだ。

 

トピア「畑を縦に積み重ねると、7枚までは枚数倍の収穫量が期待できます。こちらは直列農法と呼ばれてますが、省面積で便利ですよね」

 

サティ「うん? うん……うん」

 

 あまりに意味不明な事態にサティはフリーズして生返事を繰り返した。

 原理的にも意味不明な上に、縦に積んだ畑のビジュアルインパクトが強すぎたのだ。

 

トピア「どうしました?」

 

サティ「……ああ、すまないわね、理解しがたい情報を立て続けに放り込まれてちょっとばかり処理がオーバーフローしてしまったわ。……それで一言言いたいのだけれど」

 

 サティは頭を振って何とか思考プロセスを再起動すると、めげずにツッコミを開始した。

 

サティ「貴女たちは畑を積むとかいう変態的発想が一体どこから出てくるの? 畑は乾電池じゃないのよ?」

 

 畑を縦に積むとは一体何事か。かつて共産主義の原理になぞらえて密植を推奨し農地を荒廃させたルイセンコ農法も吃驚の暴挙である。しかもこちらの直列農法は単純に省面積になって単位面積あたり最大7倍の収穫が可能だという。

 畑を平面上に並べる従来のやり方が並列農法だとするならば縦に積むのは確かに直列農法であり、そういう類いの概念ならば垂直農法というものが既に確立されている。だがそれだってフロアを分けて日光と空気を取り入れるための隙間くらいは確保するものだ。その隙間すら無く、まるで乾電池を直列接続して電圧を上げるかのようなこの直列農法は壁力同様に想定外動作の匂いが漂っており、説明されても全く意味が分からないものだった。

 

トピア「いやあそれほどでも」

 

サティ「あと変態は褒め言葉じゃないのよ?」

 

 また人力発電機を回し始めながら何故か嬉しそうに照れているトピアとこれまで以上に理解が及ばない奇天烈な理想郷の建設者(クラフトピアン)の常識に、サティは頭を抱えるのだった。

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