[2025/12/31]加筆・修正しました。
サティ「じゃあ次は私ね」
トリオの後をサティが引き継いだ。今回からだが、二度手間を省くためにこの会議は影響範囲が広い順に報告を行う流れとなっていた。
折角ディスプレイがあるのでサティはそこにマイルストーンの一覧を表示した。
サティ「まず昨日の夕方に軌道エレベーターの納品フェーズ3を終わらせたことでマイルストーンのTier7と8が解放されたわ。それで納品物が既に揃っていた『ボーキサイト精製』を終わらせて、アルミ工場1号を建設、近隣の銅鉱脈も利用してアルクラッド・アルミシートの生産ラインが確立出来たわ」
トピア「確か最上位ロジスティクスの建材ですよね?」
サティ「ええ、それで他の納品に必要な無線制御ユニットのラインは昨日作っておいたから、あとはスーパーコンピューター、溶融モジュラーフレーム、電磁制御棒、冷却システム、ターボ・モーターのラインを作っていけばマイルストーン納品に必要なものが全て揃うわ。あ、クイックワイヤーとガスフィルターのラインはフェーズ3達成前に可能だったからもう作ってるわ」
スコア「他の仕事が無ければ今日中に終わりそうな気配だな?」
トリオ「マイルストーン解放が一通り終わったらビルドガンの複製のために組み立て指揮システムの現物を頼むぞい」
サティ「まあこうやって仕事はまだまだ増えていくわけだけれど。あとカンパニーの設備改修もね。納品フェーズ4は急ぐ必要が無いし、納品物の大半も持ち込んでいるからどうにかなるでしょう」
テクス「なかなか大変そうでござるな」
サティ「ただそろそろ電力が心許ないから、『航空力学』と『先進的なアルミニウム生産』まで進めたら一旦希釈燃料発電所の建設に入るわ」
トリオ「大分工場の建設が進んだからの。既存の電力の8割くらいは使っとる」
トリオ工場長やサティが進める仕事は、大体の場合電力の確保と工場設備の拡充を交互に繰り返すことになる。つまりはこれも予定の範疇ということだ。
サティ「石炭発電所をアップデートしたり増設したりはしてたんだけれど、マインやテクスが使う電力も考えるとそろそろ電力の桁を上げないと限界よね。あとこの星の鉱脈や油脈は基本中純度で統一されてるようだから、今後は中純度一つ単位にして67並列10GW、これにサーマルポンプでの採掘速度を反映して176並列26.4GWの希釈燃料発電所を1単位にした方が良さそうね」
サティがこれまで基本単位としていた267並列40GW発電所は中純度油脈4つ分=高純度油脈2つ分に対応した発電所である。これまでの業務ではこれを1つか2つ建設出来れば軌道エレベーター納品フェーズ4までの全ての電力をまかなえていたのだ。サーマルポンプの採掘速度を加味すると、今回の中純度油脈2つ分だけでも従来の必要電力をほぼまかなえることになる。なおカンパニーのシステム安定性の低さを考慮してそれぞれ多めの蓄電装置群を設置する予定だ。発電が止まった状態で1時間もたせるとして、100MWh(=360GJ)蓄電装置×264基。蓄電装置の資材コストは発電機に比べると大分安いが、もう少し安定すれば10分相当の44基まで減らしても良い。
サティ「次に地下鉱脈への採鉱機設置だけれど、トピアとスコアに同行してもらって一通り終わらせたわ。それで、ガラクサイト採掘でドリルに摩耗問題が出たから機材の設計を変更して超硬ドリルをガラクサイト製にした採鉱機Mk.2改を現在試験運用中よ。採鉱機Mk.3に差し替える際には同様にガラクサイトドリル装備にするつもり。それでマイン?」
マイン「何だ?」
サティ「地下の狭い空間にカンパニー製のドリルを設置するのは流石に無理よね?」
マイン「狭さにもよるな。まずドリルを設置するための広い空間が必要であることは分かるだろうが、それ以前にコアユニットが自由に飛行出来る程度のスペースが必要だ」
このコアユニット・ガンマは幅が広いので一見短く見えるが、実際の全長は20m近くある。つまり普通の航空機の長さを短くするのではなく幅を増した形で、幅も長さと同じ20m近くあるので、幾らホバリングか可能とはいえ地下洞窟で飛ばすのはかなりの無理がある。
サティ「エアブラストドリルの場合、それに加えてコンクリートの遮蔽カバーまでつけることになるから尚更ね。というわけで、天井までゴームの周回路でも30m、他はそれ未満しかない地下の資源採掘は引き続きFICSIT製の採鉱機で賄っていく予定よ。あと地上の狭いスペースや密集資源鉱脈もね」
マイン「我が
例えば鉛鉱脈・銅鉱脈・鉛鉱脈と密集して並んでいてその上にエアブラストドリルを設置した場合、鉛2鉱脈単位だけを採掘して銅の方は採掘されないことになる。だが銅を挟んだ鉛鉱脈それぞれにエアブラストドリルを設置して隙間の銅の部分に幅8mのFICSIT製採鉱機Mk.3を設置すれば、設置スペースと電力が余計にかかる代わりに採掘速度も落とさず両方を採掘することが可能になるわけだ。
スコア「要するに適材適所だな」
スコアの総括に
サティ「次にこのコアベースの集合住宅建設ね。私の担当は主柱と電力整備で、発電はスコアが製造出来る発電機をメインとして、予備で基幹電力にも接続出来るようにもしているわ」
トリオ「燃料要らずで50kW発電出来る奴じゃの?」
サティ「ええ、それを各階4つずつ設置したから1戸あたり7.14kW、生活電力には十分なはずよ。それで昨日のうちに引っ越しが終わったけれど、新しく入った二人は部屋割りの希望はある? 無ければマインが私の隣、テクスは工場長の隣になるけれど」
サティは壁面ディスプレイに部屋割りの図面を表示して二人の希望を尋ねた。
テクス「特にはござらん。部屋を貰えるのなら十分でござるよ。……ああ、家具が大きすぎると困るでござるが」
マイン「ふん、この我に相応しい部屋なのだろうな?」
サティ「調度品については基本的に全部屋同じだけれど、カスタマイズは可能らしいから希望があったらトピア、ラリー、スコアの誰かに言ってね」
テクス「承知」
マイン「いいだろう」
特に厄介なマインの同意を得られたことで、更にサティが次の報告に移る。
サティ「あとは他の仕事と並行して進めていた解析だけれど、ざっくり言ってしまうと全部何らかの既存元素の……テクスが言う所の同
テクス「まあそうなるでござろうな」
サティ「まずレアメタルは元素表のレアメタルグループの同元体の混合物と言えるわね。これ自体が天然の合金なのだけれど、混ざった状態での他の金属との組み合わせによって複雑に特性を変えるようになっていて、例えばチタンと合わせるとニッケルのような特性を発揮して形状記憶合金のようになるわ。各元素の分離は出来なくはないけれど、分離しても同じ特性が出ない場合があるから混ざったままの運用にする方が良さそうね。ただ、トピアが使っている炉以外では成分割合の調整が難しくて、レアメタルだけのインゴットにも出来ないのが運用上の問題ね」
トピア「元のレアメタルと同じともクラフトピア固有の鉱物とも言いがたい複雑な感じですね?」
サティ「そうね。ただリンデンベルガー量子置換の対象が基本1元素指定だから、混合物の半永久採掘は若干調整が難しいのが難点ね。原油という混合物に対応してるから出来ないわけではないけれど……マインの方はそのあたりどう?」
マイン「そのような縛りは無いな。スラグでもスクラップでも全く問題は無い」
サティ「じゃあレアメタルの採掘も今後はカンパニー製のドリルに任せた方が安定しそうね」
マイン「フフ、任せておくがいい。頼るべきはニンジャではなく
ラリー「これが無ければ普通に頼れるんだがな」
自称謙虚な
サティ「次は真紅石ね。これはルビー、つまりアルミナの同元体と言えるものね。アルミナだと靱性が期待出来なかったけれど真紅石は武器に使える程度の靱性を発揮しているわね」
スコア「宝石の類いだったのか。何かに使えそうか?」
サティ「ガラクサイトがほぼ全面的に上位互換だからちょっと難しいわね」
スコア「そうか、まあ特性が分かっただけでも良しとしよう」
サティ「次にオクタリン。硬度はガラクサイトに劣るけれど靱性はピカイチね。既にガラクサイトと組み合わせて工場長が使ってるわ。ガラクサイトはその逆で、現在最も硬度が高い鉱物ね。ダイヤモンド以上よ。FICSITの採鉱機でもドリルをガラクサイト製に交換する必要があったから、もし地下採掘をする機会があったらマインのドリルでも摩耗が問題になるかもしれないわ」
スコア「そう言えばなんだが、ガラクサイトはマンガンスピネルだったのか?」
サティ「ええ、マンガンスピネルの同元体よ。あとオクタリンはナトリウムの同元体」
スコア「ああ、それで海に鉱脈があったのか」
トピア「侮れませんね、塩」
塩、つまり塩化ナトリウムが大量に存在する地底海ならではの鉱物なのかと二人は納得した。
テクス「というか地下に海があるのでござるか?」
スコア「実際には地底湖なのかもしれないが、ただの地底湖で片付けるには広大な代物だ。塩分濃度も高いしな」
ラリー「地下世界の環境にも色々あるもんだぜ。
テクス「思った以上に色々あるものでござるなあ」
基本的に地上でしか採掘しない
サティ「話を戻すわよ。次に黒曜石。これはこの星で採掘出来たものとラリーに溶岩から作ってもらったものがあるんだけれど、どちらもこの星の溶岩が元になっているからか、ほぼ同じ物ね。そしてどちらも黒曜石の同元体で、普通の黒曜石と元素はほぼ同じなのに比べものにならないほど靱性が高いわ」
トリオ「普通の黒曜石は叩けば割れるもんじゃからの」
トピア「黒曜石周辺の素材の強さ順がラリーさんのところと似たような並びになってましたが、内容もほぼ同じでしたか」
ラリー「なるほどなー」
ラリーは細かい数字は検算せずに適当に聞いていたものの、解明された原理についてはそれなりに真剣に聞いていた。理解していれば今後何かに使えるかもしれないからだ。
サティ「最後にトピアに作ってもらったダイヤモンドのインゴット。黒曜石同様のダイヤモンドの同元体で、やはり異様に靱性があるわ」
テクス「宝石類の同元体は概ねそうなる傾向があるでござるね。まあ、あんなでかいダイヤ同元体の塊は見たこと無かったでござるが」
トピア「この調子で行くとG元素も同元体の可能性が?」
サティ「そうとも言い切れないのよね。あれやたら特性が把握しづらくて、そもそも元素じゃない可能性すらあるわ」
トピア「と言うと?」
サティ「物質粒子ではあるんだけど、周期表のどこにもはまらないから、原子じゃなくて素粒子かもっていう」
マイン「またずいぶんとひねくれた粒子もあったものだな」
お前が言うなという微妙な視線がマインに突き刺さる。
スコア「常温超伝導特性まであるのに電子を持ってないということがあるのか?」
サティ「それも触媒のように媒介するだけという仮定ね。却って他の元素と組み合わせて使える可能性があるわけだけれど」
トリオ「少量のG元素で常温超伝導を実現出来るとなると、大量生産するレーザータレットに超伝導特性を持たせることも出来そうじゃが……1.5倍程度の変換効率向上ならそれほど優先度が高くはないかの」
工場長謹製のレーザータレットは現状の改良型で電力からの変換効率が外部冷却装置無しで61.8%、有効射程が1.5kmである。その高さから地平線までの距離が5km程度なので、射程200km以上の
サティ「そうね、効率が上がった分だけ省電力になったらそれはそれで助かるけれど、用途を考えると効率が上がった分は射程や威力に上乗せした方が良さそうよね……まあどちらにしろラリーのBETA還元実験結果が出てからになるわね」
ラリー「そいつは仕事の優先順位によるな」
トピア「ラリーさん仕事が多いですからね」
テクス「その還元実験とは何でござる?」
サティ「BETAの製造にはG元素が使われてるはずだけれどBETA自体からはG元素が採取出来ないから、ラリーの方の魔法的現象で材料まで戻すことはできないかっていう実験ね」
マイン「魔法は分からんが、敵地への侵攻によって生じる兵站問題を敵自体の資源化によって解決しようというのは良い発想だ。気に入ったぞ」
マインが白い歯を見せて笑う。敵から収奪するのは侵略者の気性に合っているのだろう。
トピア「ええ、BETAの支配領域に入っても掘り尽くされていて何一つ資源が獲得出来ないのは問題ですからね」
テクス「なるほど、そういうことでござるか」
サティ「と言ったところで私からの報告は以上よ。あ、メテオライトは今分析にかけてるからもうちょっと待ってね」
サティの報告はその仕事の多さの割には簡単に終わった。つまり概ね予定通りに進んでいるということであった。