ロジスティクスに関するテクスの新たな提案にサティだけでなく
思った以上に注目されたテクスは、一つ咳払いをしてから話を続けた。
テクス「Techにはストレージデバイスという代物があるのでござるが、これにはTechに従属していないブロックを吸い込んで、指定した
トピア「つまり収納専用のクラウドストレージみたいなものですね」
サティ「そう聞こえるわね」
テクス「そのクラウドストレージとは何でござる? 名前は似ているでござるが」
トピア「これですね」
トピアは机の上、テクスとマインの前にクラウドストレージの実物を出してみせた。見た目は雲の上に乗った宝箱である。
テクス「見るからにクラウド……ストレージでござるな?」
マイン「ジョークグッズではないのか?」
実物を見たテクスとマインは怪訝な表情をしていた。何しろ見た目が見た目なので仕方ない。
トピア「見た目は冗談みたいですが、どこのクラウドストレージにアクセスしてもアクセスした個人によって同一のアイテムを出し入れできるという代物です。普段はインベントリに入れておいて持ち運ぶのが普通の用法ですね」
テクス「なるほど、機能もストレージデバイスによく似てるでござるな。しかしTech用ならともかく個人用インベントリなどそれがし持ってないのでござるが?」
マイン「我もだ。コアと建設可能ユニットにしか付いておらん」
トピア「ああ、乗り物や拠点の方にインベントリが付いてるタイプですか……そんなときはあれですね、スコアさん。余剰在庫あります?」
スコア「あるぞ。人数が増えることを見越して昨日多めに作っておいたからな」
スコアがオクタリンのかばんとオーブランタンを出してテクスとマインの方に滑らせた。
トピア「流石の手際ですね」
スコア「フフ、それほどでもない」
マイン「我の台詞を取られた気がするのだが?」
テクス「それで、これは何なのでござる?」
マインが軽くアイデンティティの危機を訴えたが、誰も取り合っていなかった。
スコア「1枠999個までスタック出来る20枠のインベントリを備えた鞄だ。オーブランタンの方はついでだな。地下拠点の周囲は暗いところが多いが、電力いらずで明るく照らしてくれるぞ」
テクス「ほう、便利なものでござるなあ」
トピア「というわけで、クラウドストレージもお二人に差し上げますので、オクタリンのかばんに入れてご活用下さい」
テクス「承知」
マイン「フン、貰っておいてやろう」
ラリー「おう、ついでだ、買い足しておいたからこいつも持ってけ」
ラリーがテーブルの上に
サティ「準備がいいわね」
マイン「豚の貯金箱? こんなものを何に使うのだ?」
ラリー「トピアのクラウドストレージと同種のアイテムだ。1スタック9,999個で40枠あるぜ」
テクス「これも魔法のアイテムでござるか」
トピア「クラウドストレージは初期16枠の1枠400個ですから、容量は豚の貯金箱の方がはるかに大きいですね。一緒に使う場合はクラウドストレージの方はエンチャントアイテムやスタック出来ないアイテムを入れるのに向いてます。それで、脱線しましたけど、ストレージデバイスをロジスティクスに使うという話でしたね?」
トリオ「いや、話は分かったぞい。嬢ちゃん達の魔法の外部インベントリと違ってあくまで機械的に認証しとるけえ、ストレージデバイスでTechインベントリに入れて遠隔地のTechインベントリからラインに流す形で自動化ラインに組み込みようがあるっちゅう話じゃな?」
テクス「ご明察でござる」
説明を工場長に取られてしまったテクスだが、むしろ話が早くて助かるという態度であった。
サティ「なるほど、Techインベントリ自体を時空倉庫にするプランね……でも土台無理だと思ってたということは、何か重大な問題があるのよね?」
テクス「7つほど問題があるでござるな」
マイン「多いな」
スコア「土台無理と言うだけのことはあるな」
テクス「まあ聞くでござる。まず1つ目、Techインベントリゆえ、Tech規格ブロックしかインベントリに入らぬのでござる」
現状のTechインベントリでは資源もTech規格ブロック形式に圧縮して格納している。これも一種の規格化であり、何が幾つ入っていると正確に管理するのには便利なのだが、運用上の問題としてTech規格ブロック形式ではない中間部品も格納することが出来ておらず、つまりTech関連の範囲内でも流通全てをTech規格ブロックフォーマットに合わせることが出来ていない。
トリオ「そのあたりはTechインベントリの解析と転用をする際にどうにかしようと思っておるが、まずは調査が必要じゃの」
テクス「しからば2つ目、先ほども触れたでござるが、インベントリ1枠あたりの上限が未だに分かってないでござる」
トリオ「それも一緒に調べておくかの。科学由来の機能なら拡張も不可能ではないはずじゃ。ついでに正確な数字が表示できるようにするべきじゃろう」
幾ら沢山入っても、数字の表示上限が999+では在庫が分からなくて困るのだ。
テクス「3つ目、Tech AIにはインベントリから物を出す機能が付いてないでござる」
これは人間によるTech操縦によってインベントリからブロックを出すことは出来るが、AIによるTech操作で同じ事が出来ないということだ。
トリオ「まあコントロールユニットを参考にしてAIを改造するしかないじゃろな」
テクス「2つ続けて行くでござるが、4つ目、入れる方はともかく出す方の認証にそれがしの個人認証情報が必要でござる。5つ目、この
トピア「この2つは、個人認証情報を拡散したくないということですか?」
テクス「でござるな。非常事態ゆえ最悪そのまま使ってもよいでござるが、これまでの実績が帳消しになりかねんでござる」
マイン「おい貴様、この我がこれだけ協力しているというのに今更それは無いのではないか? バラバラにされたいのか?」
マインが不機嫌さを隠さない視線でテクスを睨む。
サティのビルドガンやマインのコアユニットの運用にも企業管理下のそれぞれの認証情報が関わってくるため、確かに今更と言えば今更の話である。ただし数が限られるそれらは後で回収できるが、生産ラインそのものに組み込むとなれば完全な回収は難しい。
テクス「だから最悪使って良いと言っておるでござろうに。GSO以外の未使用のライセンスで認証できれば話は早いのでござるが……いや、今後の見通しを考えるとGSOのライセンスを手放すのが一番被害が軽いでござるかな? 資源とライブラリさえあれば他の企業のライセンスでいくらでもやり直せるでござるな?」
自身の考えを整理したテクスはあっさり掌を返した。GSOライセンスは最初に使っていたから惰性でそのメインとして使っていたが、何しろGSOライセンスは一度倒産した残滓同然の組織が発行した物であるからして、元々他の企業に認められるための実績でしかないのだ。
トリオ「まあその辺りは当人が考えてくれい」
テクス「承知つかまつった。次に6つ目、先に触れた通り安定性にかなりの問題があるゆえ、これをロジスティクスの中心に据えて停止してしまった場合に生産ラインへの影響が無視できないでござる」
サティ「重大な問題よね」
トリオ「これも調査結果次第じゃの。インベントリのシステムだけ切り離せれば、どうにか出来そうな気配はあるんじゃが」
テクス「最後に7つ目、Techの通信可能距離がほんの数百メートルしかなく、それ以上離れるとAI駆動のTechが勝手に停止してしまい、ストレージデバイスも一緒に停まってしまうでござる」
トリオ「なるほど、それで通信を改善出来れば、というわけか」
サティ「ストレージデバイスだけが停まるなら物資のやりとりに距離制限があるのかと思うけれど、まずAIの方が停まるのが問題なら、電波通信が原因のように見えるわね」
テクス「ゆえに、通信問題が解決できるならば検討の余地くらいはあるのではと思った次第でござる。実際どうでござるかね?」
問題点全てを挙げ終わったテクスが一同を見渡すと、一様に難しい顔をしていた。
スコア「……なるほど、実現できれば素晴らしいが実際は問題が山積みだな」
トリオ「まあ色々とやることが山積みじゃが、これだけリターンがでかければまず調べてみるくらいの価値はあるじゃろ」
サティ「かなり重要な研究になりそうね。私も手伝えるところは手伝うわ」
ラリー「役割が被るテレポーターロジスティクスの方はどうする?」
設置の簡単さを見ればTechインベントリとストレージを使ったロジスティクスの方が上位互換のように見える。ただし問題は実現性と安定性だ。
サティ「ストレージロジスティクスの方の実現性がまだ分からないし、リスク分散の意味もあるからそのまま進める方向でお願い」
ラリー「分かった。……うーん、通話だけなら
トピア「あーそうですよ、そのシェルフォン! あれどんな機能で西海岸まで移動したんですか?」
トピアが指摘した通り、ラリーは会議中に突如消えたままここまで説明をしていなかったのだ。
ラリー「あー、あれは統合前で言うと
スコア「またピンポイントな機能だな。今回は助かったが」
サティ「他にも移動機能はあるの?」
ラリー「
テクス「何か苦労してそうでござるな」
ラリー「まあな」
心底嫌そうなラリーの表情からは、
トリオ「とりあえず魔法の鏡だけでも全員持っておくと良さそうじゃの。ダイヤモンドがあれば作れるんじゃったな?」
ラリー「ああ、
トリオ「スーパーダイヤモンドレンズの生産もあるし、鉱脈を作るか宝石樹園を作るか迷うところじゃの」
トピア「工場長もラリーさんもどっちも仕事が多いですからね」
サティ「ダイヤモンド鉱脈でちょっと思ったんだけど、ダイヤモンドって基本的に炭素でしょ? 採鉱機のリンデンベルガー量子置換で同じ元素を集めても途中から黒鉛になったりしないかしら? アヌビス様、そこの所どうなの?」
アヌビス神「X(む)」
サティに問われたアヌビス神は、数秒考え込んだ後に首を横に振った。
アヌビス神「XX. XXXX(正直我にも分からん。無限採掘を前提としているわけではないからそういう可能性もあり得るとは言える)」
サティ「となると報酬の無駄遣いは痛いから宝石樹園の方が良さそうね。あとでまたラリーの仕事の優先順位を相談しましょう」
ラリー「分かったぜ」
トピア「思ったんですが、魔法の鏡で確実に退路を確保しておけるなら、いっそハイヴ攻略の際には直接乗り込んで機動兵器を操縦するのも有りでは?」
ラリー「有りだな」
スコア「確かにその方が遠隔操縦よりも根本的に信頼性が高いな」
テクス「それがしにとっては今までと変わらんでござるな」
サティ「待って、迎撃ならまだしも中枢突撃はちょっと……」
トリオ「ちとリスクが高すぎるかの」
確かに直接操縦ならば通信状況に左右はされないが、やはりBETAのまっただ中に乗り込むのに抵抗があるメンバーもいるようであった。
マイン「当面の対策として直接操縦でのハイヴ攻略に抵抗がある連中だけ防衛に残す、或いはハイヴの外での残敵掃討に回すという線が妥当であろうな。我も指揮の役目が無ければ攻撃側に回っても構わんのだが……」
マインも直接操縦での中枢突撃をやらない方針のようだが、それは危険性ではなく指揮に差し支えるのが理由であった。感情が表情に出やすいマインがこうも残念そうにしているからには、本当に怖じ気づいたわけではないのだろう。
トピア「そうですね、とりあえずそういう役割分担にしましょう。通信関係が十分に強化出来たらまた考えるということで」
やはりハイヴ攻略には自然と戦闘班三人が組み込まれることになったが、そこに気軽にテクスが加わっていた。サティが心配そうな視線を向けていたが、当人は争いに慣れているからか全く平然としていた。