色々と常識が食い違っている事を認識したトピアとサティの二人であったが、ひとまずトピアはワールドレベル5『産業の時代』に到達、サティはTier1と2のマイルストーンをコンプリートして軌道エレベーターの建設準備に入った。
FICSITの工作台は一人で並列作業が出来ない為、この作業はトピアも一緒に手伝う事になった。
ここで何故自動化しないのかという疑問が湧いてくるが、初期から使える発電施設はバイオマス・バーナー発電機だけで、HUBにも小規模版が付随しているこの発電機は燃料投入を自動化できないため工場施設だけを自動化してもどうしても半端になってしまうので、Tier3の石炭発電機が使えるようになるまでは割り切って手作業で乗り越えるのがセオリーなのだ。
いや実はクラフトピア産のアブソーバーを使えば燃料を吸引投入すること自体は出来なくもなかったのだが、バイオマス燃料の大元が木材や葉っぱであることから伐採の自動化に無理があったのだ。この問題も木こりの目利きのお陰で木材の在庫が潤沢にあるので何とかならないこともないが、色々計算し直して計画を練り直す手間を掛けるくらいなら序盤くらいは二人がかりの手作業という力業で片付けてしまった方が早いという判断であった。
さて、実はここまでで既に何回か日が昇って沈んでを繰り返しているが、そのサイクルは地球時間で1時間であった。なので自転周期を1時間、それを24回繰り返して1日という地球基準の時間単位がそのまま採用された。つまりはライフサイクル準拠である。自転周期が短いと1時間程度の仕事でもやってる間に暗くなるのが難点だが、短いスパンで加熱と冷却が繰り返される為寒暖の差が少なくなるのは利点であった。
そうして作業をこなしたことで、トピアが待ちに待ったイベントがやってきた。
トピア「いやはや軌道エレベーター……軌道エレベーターですかあ。私、軌道エレベーターなんて見るの初めてなのでわくわくしますね!」
サティ「私は毎回建ててるから珍しくもないんだけどね」
地上と衛星軌道上を低コストで結ぶ軌道エレベーターの建設と物流開通はFICSIT社の惑星開拓におけるプロジェクト・アセンブリの要である。文明の促進が仕事であるトピアにとっても歓迎すべき一大イベントだ。最初の軌道エレベーターがFICSIT社のものになることで経済的には美味しいところを持って行かれるかもしれないが、そもそも
これまで幾つもの軌道エレベーターを建設してきたサティにとってこのイベントは今更珍しい物でもないが、他とは比べものにならないくらいの大がかりな施設である事は間違いない。これから軌道エレベーターの建設を開始すると聞いて覿面にキラキラした目を向けるトピアの様子に、軌道エレベーター建設請負人とも言えるサティも悪い気はしなかった。殆どの場合たった一人で惑星を開拓することになる
なお軌道エレベーターの建設はチュートリアル終了時点で解放されており、建設した軌道エレベーター自体がその後の納品ルートになるので、巨大建築物であるにもかかわらず材料がコンクリート、鉄板、鉄のロッド、ワイヤーといった基礎的なものばかりであり、要求量が多いとは言えこれだけで組み立てているのだろうかと感じられる。しかしこれはプロジェクトにおいて毎回利用が不可欠な為に省力化・最適化が進んで、ビルドガンでの建設実行における専用の加工プロセスが組み込まれた結果であり、内部的には基礎素材から大分複雑な加工をしている。
また、プロジェクトフェーズごとの納品品目も軌道エレベーターの構造に関わるものが主体となっており、地上からの見た目は変わらないが、実際は先に触れたようにフェーズごとに段階的に軌道エレベーターの建設を行っている。
現在はマイルストーンのTier2まで終わった所で、次のTier3に上がるための納品ルートとなる軌道エレベーターの建設を行う運びとなったのだ。
サティ「赤道からの位置関係、重力、自転速度、地盤の強さ、湖からの距離を勘案して、この辺りがいいわね。建設開始」
ブループリントのホログラフを見ながら慎重に位置を検討していたサティが決定ボタンを押すと、いつものように下から上へ橙色の輝きが走り、しかしいつもとは桁違いの巨大な構造物が構築され始めた。
まずは3つの巨大な爪を有する基部が構築され、爪を大きく開くとなんと上空からシャフトが降りてきた。3つの爪がそのシャフトを掴み、結合を安定させるとシャフトに沿って上から展望台のような円盤状施設が降りてきて停止。基部の関節部分から蒸気と余剰熱量を噴き出して動作が停止した。
一連の正常動作を確認できたサティがトピアを振り返ると、トピアは滂沱の涙を流していた。
サティ「……どうだったかしら? ご期待に添えた?」
トピア「デ……」
サティ「で?」
トピア「デカアァァァァいッ! デカルチャー!!」
予想以上の反応に若干引いたサティが控えめに尋ねると、トピアはジェットパック全開でエレベーターシャフトに沿って上昇しつつ、両手を挙げて叫び始めた。
サティ「ちょ、どこ行くの!?」
サティが暫く見上げていると、ジェットパックの持続限界で器用にシャフトにしがみついたトピアはそこから更に連続壁面垂直三段跳びという変態的機動で登り始めたが、やがて体力も尽きて自由落下を始め、そのまま全く減速せずに華麗にヒーロー着地を決めた。
トピア「いやあ興奮しました。感動しました。あれだけ昇っても上端が全く見えませんでしたよ。これは素晴らしい物ですね! 思い切ってベータテストに参加した甲斐がありました!」
サティ「山猿じゃないんだから高い施設があるからってよじ登らなくても。というかそんな高度から自由落下して無傷な貴女の方がどうかしてると思うけど?」
普通ならば骨折どころか墜落死間違いなし、原形を留めるかも怪しいくらいの高度から落ちてきたにもかかわらず、トピアは平然としているのだ。
トピア「いやいや、基礎技能としてヒーロー着地を身につけている
サティ「クラフトピアンって一体何なの……」
サティから見た
トピア「それからそれから、アヌビス神殿を見下ろすほどの巨大建築物の偉容にはバベル的な冒涜性をも感じますね!」
サティ「うん?」
そう、軌道エレベーターは隣のアヌビス神殿の権威を貶めるが如く、更にはるか上空までまっすぐ伸びている。
言われて初めてサティはその浮島が神殿であることを知った。何しろ下から見る分には岩の塊が浮いているようにしか見えないのだ。岩の塊が浮いていること自体既に普通の景色ではないが、
サティ「え、あの浮島って神殿なの? 何の神様を祀ってるところ?」
トピア「あれはアヌビス様のおうちですね」
アヌビス様のおうちときた。そもそも神殿は神の家、という解釈もあるにはあるが、ファンタジーの住民であるトピアのそれはもっとダイレクトな意味であるようにサティには感じられた。アヌビスと言えば確か古代エジプトの神だったか。それが実在したとして、何故この星にアヌビス神がいるのかはやはり謎だが。
サティ「……もしかして神官じゃなくて本物の神様がいたりする? ここの管理をしている神様なら、本格的に開拓する前に挨拶くらいはした方がいいかしら?」
トピア「いえ、アイサツは先に済ませましたし、ノーマルのアヌビス様はこちらから攻撃しても反撃しないくらい温厚ですので大丈夫です。むしろLv6以降に時代を進める為にはノーマルじゃない方を探す必要があるんですが……」
上空のアヌビス神殿から見える範囲にはその生息域が見当たらなかったというわけである。
サティ「先に? ああ、そういう……まあ問題無いならいいんだけど」
言われてみればトピアとの初遭遇は上空からドラゴンへのフリーフォールプレスだったことをサティは思い出した。位置関係から見てもあれは上空のアヌビス神殿から飛び降りてきたところだったのだとサティは理解した。
これで納得したことからも分かる通り、アイサツのニュアンスが両者で大分異なっている。サティの理解としては通常の挨拶だが、トピアの言うアイサツとはこれまでの行動を見れば分かる通り忍殺のそれに近く、どちらかと言うと睨みをきかす為の殴り込み、カチコミに近いものである。サティはまだまだ
ともかく仕事前に挨拶回りをする程度の気配りはできるのかとサティは若干トピアを見直しかけたが、冷静に考えると「こちらから攻撃しても反撃しない」と確認したことがある時点で配慮も礼儀もあったものではなかった。
そしてトピアの次の言葉もそれを裏付けるものだった。
トピア「まあ仮に怒らせたとしても最悪ドッグフードで懐柔できますし」
サティ「それって本当に神様の扱いなの……??」
一般的に考えれば神どころか人間の扱いですらないだろう。だがアヌビス神自身がドッグフードを好んでいるので、お供え物としては普通に喜ばれるのだ。ドッグフードの材料にホットドッグが混ざっているのでもしかすると人間が食べても美味しいかもしれない。
但しドッグフードの容器はバケツであり、そのバケツでアヌビス神にぶっかける形で使用する。どう考えても無礼千万なのだが、何故これで喜ばれるのかは実際に使用している
それはそれとしてしっかり効果があるので、アヌビス神を分身させればその全員にぶっかけることで1つのドッグフードバケツで分身数倍の効果を発揮出来る、などと効率を追求するのが
ならばトピア達
トピア「クラフトピア世界で戦える相手では地獄のダークアヌビス神が一番強いので多分れっきとした神ですよ」
つまり世界で一番強いので確かに神だろう、と認めた上でこのぞんざいな扱いをしているのである。
サティ「いやいや何で気軽に神と戦ってるのよ」
トピア「何故ってとても有益なアイテムをドロップするので。これは倒せるものなら倒してみろという
などとトピアは主張するが、このように勝手に受け取ったつもりの言外のメッセージというのは、往々にして受け取る側にとって都合のいい解釈でしかない。
サティ「罰当たりじゃないの?」
トピア「ええ、とても罰当たりですので、罪業カウントで殺意が高まるのか倒すほどにどんどんレベルが上がっていきますね。レベル上昇に従ってドロップアイテムの量も増えるので、むしろ短期決戦で倒せる範囲でレベルが高い方が助かりますけど。そこを丁度いい塩梅に調節するのがお供え物のドッグフードというわけです」
サティ「自分の罪の数すら利用するとはたくましいというか何というか……」