カミールがコンソール上の建築実行ボタンを押すと土台中央の紋章が輝き、そこからまずは真上に伸びたブレードが、続いてジャイロスコープのような構造物が、更にその下から上端部がラッパのように反り返った円筒状の構造物が、ネジのように反時計回りに螺旋回転しながらせり上がってきた。土台から立ち上っていた光の柱は単なる目印だったのか、塔の出現とともに消失した。
トピア「……なるほど塔ですね」
カミール「これは塔だねえ」
とはいえ塔の屋上部分は土台から11m程の高さで止まっていた。建築を3段階目まで進めれば更に下の方まで引きずり出される形なのだろう。となれば塔は壊れていたのではなく地下に仕舞ってあっただけではなかろうか。
トピア「次の納品は何ですか?」
カミール「『ぼろ布』×10、『羊毛』×10、『革』×10だね」
トピア「分かりました」
言うやいなや走って行ったトピアは、ものの5分ほどで全ての必要素材を揃えてきて、取り出した作業台でわらをぼろ布に加工した。上空からの観察でどこに何があるかを把握していたのだ。
トピア「今度は私が納品しても良いですか?」
カミール「ああ、構わないよ……クラフトピアンっていうのは仕事が早いんだね」
トピア「まあこれが本業ですから」
トピアが納品を実行すると、やはり塔の続きが螺旋回転しながら引きずり出され、土台から55mほどの高さになった。
トピア「では次の納品は……うん?」
『銅鉱石』×20は分かる。しかしもう一方の『小さな設置たいまつ』×5はどういうことなのか。記憶が確かならば小さな設置たいまつが作成可能になるのはワールドLv2からで、しかも材料には同じくワールドLv2から製造可能な鉄のインゴットもあったはずだ。ワールドLv1状態の
トピアが疑問に感じながらもまずは作業台にアクセスして今回持ってきていない家具作業台を作ろうとすると、その作業台の製造可能アイテム一覧の中に目的の『小さな設置たいまつ』が並んでいた。しかも材料に鉄どころか一切の金属が必要なく、原木とぼろ布だけで作れるようになっている。
トピア「ああ、なるほどそういう」
どうもシームレスワールドのクラフトシステムには色々と調整が入っているようだった。思えば精錬所も以前とは全く違う施設になっていたものだ。
カミール「どうしたんだい?」
トピア「いえ、小さな設置たいまつは以前はワールドLv1で製造出来るものではなかったんですが、変更されたようなので大丈夫です」
カミール「以前? よく分からないが、問題は無いんだね?」
トピア「はい」
トピアは手早く小さな設置たいまつ5つの製造をスタートさせ、付近に露出している銅を採掘すると塔のコンソールに納品した。実行と同時に何かレアアイテムを入手した時の効果音がトピアの耳に入ってきた。
今回も塔の続きが螺旋回転しながら引きずり出され、土台から100mほどの高さになった。
塔が最後まで伸びきると、ジャイロスコープ状の構造物に周囲から光る何かが集まり、中央に圧縮されて一度周囲を白く染めるほどの閃光を放つと、青く輝く光球として安定した。なるほど、あれはあの光球を保持するためのものらしい。
トピア「あー、分かりました。これ電波塔みたいな施設なんですね」
カミール「電波塔? それ詳しく聞いてもいいかな?」
聞き慣れない言葉だったのだろう、塔を見上げていたカミールがトピアの方を振り返って問いただした。
トピア「いや、多分あれが文明を広く普及させるための装置で、地形に阻害されないように塔の頂上という位置に設置されてるんですよ」
カミール「……なるほど辻褄は合っている。興味深い見解だね」
トピア「あと建設開始前の光の柱の頂点の輝きとあの光球の高さが大体一致してるので、塔の位置だけでなく塔の高さの目印にもなってたように見えますね」
カミール「そうだな」
トピア「それで、塔の完成と同時に『ギーザ台地の進化のカギ』というアイテムを入手してたんですけど、これ何でしょうね?」
トピアは黄色い鍵を取り出してカミールに見せてみる。
トピアは先ほどのレアアイテム入手音が何だったのかを確認すべく、会話しながらインベントリの中を確認していた。
すると『素材』と『テイマー』の間に『だいじなもの』というカテゴリが増えており、そこに『ギーザ台地の進化のカギ』というレジェンダリアイテムが加わっていたのだ。
カミール「進化のカギ? それが時代進化に必要なアイテムという説があるね。とはいえ誰も入手したことがなかったし、別の説もあるけど」
カミールの答えでこれが何なのかは概ね判明したが、進化のカギについて語るカミールの表情は何故かやや不満そうであった。
トピア「なるほど……? ところで上を見上げている間にここにあったコンソールが消えてるんですけど、この後どこから操作するんでしょうね?」
時代進化をするならまだ操作が必要なはずだが、肝心のコンソールが目の前から消えてしまったのだ。視線を誘導してその隙に事をなす手際はまるで手品のようだが、それはそれとしてここから一体どうしろと言うのか。
カミール「あっ、本当じゃないか! ……いや待てよ、確か塔では本来コンソールパネルが頂上にあったという記録もあるんだ。問題はこの高さだが……」
頂上までの高低差はおよそ100mである。よじ登るにはかなり辛い。
トピア「ふむ……ちょっとてっぺん見てきますね」
トピアはジェットパックを起動して塔の頂上まで飛び上がった。クラフトピア産ジェットパックは水平移動はあまり速くないが、上昇速度ならなかなかのものだ。
カミール「キミ、飛べるのかい!?」
叫ぶカミールの声もあっという間に小さくなっていく。そして頂上に辿り着いたトピアは、光球保持機構の真下に目的のコンソールを見つけた。
トピア「本当にこんな所に移動してますね……しかしこれ、アクセスが悪化してるだけでは?」
疑問に思いつつもトピアは一旦降りて下で待っているカミールに報告することにした。落下ダメージ無効化の162mには足りないので、普通に空中ジャンプで落下速度を殺しての着地だ。いや空中ジャンプが出来ることを常人は普通とは言わないのだが。
トピア「コンソール、てっぺんに移動してましたよ。どうやって移動しましょうか?」
カミール「やっぱりてっぺんにあったのかい? キミだけなら問題は無いのだろうけどねえ」
あんな所に時代進化のためのコンソールがあっては、初期状態の
と、そこに塔の中に入って何かを調べていたカミールから声がかかった。
カミール「あっ、これ土台の中央が何かアクセス出来る様になってるよ。『起動する』って何だろ……うわっ!?」
トピアがそちらを振り向くと同時に土台のうち塔の内部にあたる部分に橙色の光る魔法陣が出現し、その魔法陣はカミールを乗せて塔の頂上めがけて上昇していった。
トピア「あっ、これエレベーターですね」
トピアも塔の中に入って確認してみたが、設備があるのはいいとして、目印が何も無いのが酷い。
そこから見上げれば、驚いてへたり込んだカミールがそろそろ塔の頂上に到達するところだった。
ただその頂上の真ん中には移設されたコンソールがある。このままだと挟まりそうだ。飛び上がっても間に合いそうにないと判断したトピアは短い言葉で注意を促すことにした。
トピア「上ー!」
カミール「えっ、ええっ!?」
言われて頭上に障害物があることに気付いたカミールは、既に避けられるような距離と体勢ではないことに悲鳴を上げかけたが、対応しかねている間に魔法陣は屋上に到達し、なんとカミールはコンソールにそのままめり込んだ。
カミール「お……おぉ? どうやらこれ、実体ではないようだね」
トピア「ご無事でしたか。ふむ、ここの一方通行の床も興味深いですね」
塔の屋上は床が透明になっており、その上にコンソールが載っているのだが、床は下から上への通行だけが出来るようになっているようだった。
トピアはジェットパックによる上昇でその床を抜け、再び屋上へ到達していた。仮に床を通れなくても山ほどある窓から一旦外に出ればいいという計算だ。
カミール「まさに古代文明の遺産だねえ。驚いたけど」
あわや事故死かという状況に見舞われたカミールは、まだ膝が笑って立てないようだった。
何はともあれ、コンソールの前に二人が揃ったので時代進化に必要な手順の確認である。
コンソールにアクセスすると、選択肢が『ファストトラベル』と『時代進化』の二つに変わっており、時代進化を選択すると次の時代で解放されるクラフトのサンプルと、時代進化に必要な納品アイテムが表示されていた。
解放されるクラフトの中にはレガシーではワールドLv1から作成できていた家具作業台もあり、やはり小さな設置たいまつは家具作業台を前提としないアイテムと位置づけられているようだった。
また、家具作業台と鍛冶屋、石の炉の形状が大幅にリニューアルされているのもそうだが、防具屋という従来無かった施設が追加されていた。説明によると従来の帽子屋が消滅して鍛冶屋の一部業務も引き継ぎ、頭装備と体装備の作成に使うものらしい。
装備類には銅の両手剣、銅のリング、銅のアミュレットといったものが追加されているが、逆に鉄製品は見当たらない。流石に鉄を使わないことは考えにくいので、次の時代に持ち越されたのだろうか?
肝心の時代進化条件であるが、『クローバー』×1、『台地のムーンストーン』×1、『アイアンウッド』×1、『台地の古代人形の破片』×1となっている。いずれも全く聞き覚えの無いアイテムだ。
先ほど入手した進化のカギは使わないらしい。
トピア「この進化に必要な条件に提示されてるものなんですが、どういったものかカミールさんご存じないですか?」
カミール「持ってる」
トピア「お?」
カミール「丁度全部1つずつ持ってるよお……。やっぱりワタシの研究は正しかったってことだよねえ?」
見ればカミールの瞳からは嬉し涙らしきものが滲んでいた。
どうやら進化のカギとは別の説として特産素材で時代進化を行うというものもあったらしく、カミールはそのために素材を集めておいたようなのだ。
トピア「そんなことまで研究で分かってたんですか。……ではどうぞ」
トピアは身を引いてカミールに操作を促した。
カミール「い、いいのかい? キミの使命なんだろう?」
トピア「いえいえ、ここまで研究してきた人の手柄を横取りなんて出来ませんよ。それに
カミール「それじゃあ遠慮無く……ぽちっとな!」
そのボヤッキーフレーズも古代文明の資料に紛れてたんだろうか、などとトピアが疑問を抱いている間にログが流れ、時代進化の達成が確認できた。
トピア「おめでとうございます。時代進化成功です。この世界で初の時代進化達成者は貴女です」
カミール「そ、そうかい? ワタシが初の? いやあ……照れるねえ」
トピア「それでコンソールの表示はどう……おや?」
コンソールには次のワールドLv3への到達条件が表示されていた。要求されているものは全く同じアイテムで量が増えており、『クローバー』×5、『台地のムーンストーン』×20、『アイアンウッド』×20、『台地の古代人形の破片』×5となっていた。
カミール「ああ、ここのギーザ台地でもう一段時代を進められそうだとは思っていたんだ。量は多いけど同じものでいいんだね」
トピア「さっきのはどこで手に入れたんですか?」
トピアもこのギーザ台地を上空から大雑把には把握しているが、クローバーやらの分布までは把握できていない。
カミール「実はワタシ一人で集めたものじゃないんだ。このギーザ台地の特産品だから、ここの住民達に協力してもらってね。だが案ずることは無い。文献によると、この塔には地域の特産素材の産出地を示す機能があるらしい」
トピア「お、本当に特産素材の分布が表示されるようになってますね」
特産素材の分布だけでなく未発見のワープポータル、再起の剣、遺跡といったものが表示されるようになったので地図がごちゃついている。
情報がごちゃついているのはギーザ台地の範囲内だけなので、それぞれのエリアの塔を完成させるとそのエリアの情報が全て開示されるのだろう。
また、塔自体も正式にマップに表示されるようになり、それぞれの名前が判明した。
カミール「だろう? ……今ファストトラベルの地図を開いてたかい?」
トピア「……ファストトラベルの地図にも表示されてますね」
カミール「なるほど確かに。というか、『にも』っていうのはどういうことなのさ?」
トピア「個人のマップ表示能力ですけど、あります?」
カミール「無いねえ。ああ、確かに『MAPに表示される』って記述が文献にあったけど、そういうことだったのかい。すごいねクラフトピアンの権能は」
権能を持っていない現地住民が素材を集めるのは、リアルタイムで地図を確認できない分だけ辛そうである。
なお七人の
トピア「あと楔の塔とは別のカテゴリの遺跡として『はじまりの遺跡』というのもマップに表示されるようになったんですが、どういう所なんでしょう?」
トピアの目の前にいるのは考古学者なので、知っている前提で質問をぶつける。
カミール「始まりの遺跡と言えば、ギーザ大地の西にある遺跡だね? 外からは大きな門だけが見えていて、それを潜ると全く別の場所に出るという代物だよ」
トピア「全く別の場所? 転移門ですかね?」
カミール「いや、私が見るに、あれは地上のどこでもないね。全く別の空間だよ」
トピア「とすると……ダンジョンっぽいですね」
レガシーワールドのダンジョンも、入口の空間の歪みを潜ると全く別の空間に飛ばされるという構造だったのだ。
カミール「ああ、そう呼ぶ人もいるね」
トピア「なるほど。じゃあ私は素材集めに行ってきますけど……ここから降りる手段って何か持ってます? 空中ジャンプとかグライダーとか」
カミール「……無いねえ、どうしよう」
一方通行で塔のてっぺんに来てしまったカミールは途方に暮れた。クラフトピアの時代進化システムは現地住民が実行しようとするとやたら厳しいものであった。
シームレス版初期には時代進化に進化のカギを実際に使っていたのですが、バージョンが進むと突然仕様が変わって特産素材を納品する形式になったので、この世界の考古学者や神学者の間では諸説入り乱れて混乱しています。