【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 [2025/10/31]台詞の間の描写を増量しました。


008. 伝説の 小麦畑で育った 伝説の 小麦を加工した 伝説の 小麦粉から 伝説の パンを作ってご覧に入れましょう

 神を神とも思わないどころか神だと分かっていてなお御無体な扱いをする理想郷の建設者(クラフトピアン)にサティは呆れたが、それはそれとしてそろそろ腹の減る時間であった。

 

トピア「まあそれはともかく、一段落という事でご飯にしませんか? 食料の持ち合わせはあります?」

 

サティ「そうねえ、HUB備え付けのフードプロセッサとスーツの栄養補給機能なら正常動作してるけど……」

 

 サティの言葉の濁しぶりから、その続きをトピアは察した。サティが用意出来る食事はきっと美味しくないのだと。そこでトピアは自前の食材を使って食事を提供することにした。腹が減っては仕事は出来ぬ。

 いや理想郷の建設者(クラフトピアン)は空腹によるスリップダメージをピラミッドなどの自動回復施設で相殺すればずっと何も食べなくても死にはしないのだが、1つでインベントリを1枠占有するピラミッドなどわざわざ持ってきていないし、改めて建造するには時代を進めた上で多大な資源を要求されるので、現状では普通に食事をするのが妥当である。

 

トピア「ふむ……分かりました、ではこちらの 伝説の 小麦畑で育った 伝説の 小麦を加工した 伝説の 小麦粉から 伝説の パンを作ってご覧に入れましょう!」

 

サティ「伝説の……何ですって?」

 

 わざわざ四重に伝説がついていることにサティは首を傾げた。

 そうしているうちにトピアが持ってきたのは、一見普通の小麦粉であった。あの7段重ねた魔法の小麦畑から無限に生える小麦を加工したもので、元々はワールドレベル5に必要なバイオエタノールの材料になるので作っていた物であった。

 トピアはサティの疑問に答えながら小麦粉の加工を開始した。

 

トピア「はい、あの 伝説の 小麦畑のすごいところは、100%の確率で 伝説の エンチャントがついた小麦を無限に生み出せるところです。そしてその小麦をあちらの調理用なべで加工した 伝説の 小麦粉を別の鍋に投入して、 伝説の パンに加工します」

 

 トピアは大量生産ラインで小麦の加工に使っているものとは別の新しい調理用なべを設置すると、そこに小麦粉を豪快に袋ごと放り込んだ。普通に考えるとどう見てもパンを作る光景ではないのだが、これも魔道具の一種なのだろうとサティは辛うじて自分を納得させた。

 

サティ「ツッコんでもキリが無いから聞かなかったけど、その加工風景も大概よね」

 

 小麦を小麦粉に加工する工程からして、実った状態のままの麦穂を鍋にぶち込んだら袋入りの小麦粉が出てくるのだ。ツッコみ始めたらきりが無い。

 

トピア「そうですね。ともあれ、材料の全てに 伝説の エンチャントがついているので、このように100%の確率で 伝説の パンが出来上がります」

 

 つまり複数の材料を組み合わせて何かを作る場合、その材料の一部にしか特定のエンチャントがついていないならば、完成品にそのエンチャントがついている確率は100%ではないということになる。

 斯くして出来上がった 伝説の パンであったが、それを見たサティは理解出来ずに首を傾げた。

 

サティ「見たところ何の変哲も無いフランスパンのようだけれど?」

 

 そう、ご大層な名前の割に見た目は本当にただのパンなのである。一体これのどの辺りが伝説なのか。まあ食べてみれば分かるのかもしれないが。

 そんなサティの様子を見て数秒思案したトピアはその疑問の原因に思い至った。

 

トピア「あー、あー、なるほどなるほど。なんか話が通じてないと思ったら、付与されているエンチャントが直接見えませんか。ではこれでどうでしょう?」

 

 追加で取り出したスーパーダイヤモンドチェストにトピアは出来たてのパンを放り込み、サティに中身の確認を依頼した。

 クラフトピア由来のチェストは、アクセスしたときに内容物の個別詳細にアイテムの名前とエンチャント名が表示される様になっているのだ。チェストには最低ランクの木のチェストですらどう見ても容積以上の物が入るようになっており、これは外部インベントリとも言える一種の魔道具である。

 ただしFICSIT社の貯蔵箱やコンテナも超科学による空間圧縮で同様の機能を発揮するので、サティにとっても意外に馴染みがあるものであった。

 

サティ「パンの前に黄色で 伝説の と出るけどこれがエンチャント?」

 

トピア「そうです。黄色は5段階あるうち最上位のレジェンダリ級の強力なエンチャントです。次にパン自体の効果と 伝説の エンチャントの消耗品効果を確認してみましょう。パン自体では満腹度回復20、ライフ回復10、マナ回復10、スタミナ最大値25増加の効果がありますが、 伝説の エンチャントの消耗品専用効果には何と書いてありますか?」

 

サティ「[ライフ回復:250][マナ回復:250][満腹度回復:250]と書いてあるわね」

 

トピア「はい、なのでそれを単純に加算する事で普通のパンに比べて満腹効果が13.5倍、ライフ回復効果とマナ回復効果が26倍にもなります。どうぞご賞味あれ」

 

 トピアは鍋から新しく出来上がったパンを2つ取り出して片方をサティに差し出し、残った方のパンに安全を保証するようにかぶりついた。

 

トピア「んっふ~、 伝説の 味~!」

 

サティ「どういう味なのよ……。というか私、服装をどうにかしないと食事が出来ないから一旦ボックスに入れておいてくれるかしら?」

 

トピア「りょ」

 

 トピアが椅子に座ってマイペースに 伝説の パンを咀嚼していると、サティがヘルメットを脱ぎ、次いで安全服の上側を脱いで腰に巻き付けるのが見えた。この状態でもヘルメットは襟の後ろ側と繋がって落ちないようになっているようだった。

 中の服装はFICSITのロゴがプリントされたTシャツで、顔立ちは金髪碧眼の北欧系。ヘルメットを被る際に邪魔にならないようにか髪はトピアよりも短く、付け加えて述べるならば胸は豊満であった。

 

サティ「んー、このくらいの気候なら安全服の環境調整も必要ないかしらね」

 

トピア「うはー、リアル北欧美人きたこれ」

 

サティ「……貴女も似たようなものじゃない?」

 

 着席したサティがそう指摘するが、確かに見た目だけで言うのならトピアもミディアムボブの金髪碧眼の美少女と言って差し支えない容姿である。いやトピアの方が更に整っているまである。あくまで見た目だけなら。

 しかしトピアは申し訳なさそうな表情で反論を述べた。

 

トピア「残念ながら、容姿設定のデフォが金髪碧眼だったのでそれをベースに見た目を設定しただけで、私の中身はコテコテの日本人なのです」

 

サティ「ああ、だから日本語しか話せないわけね……それにしても何でもありね魔法」

 

トピア「魔法というか権能というか……それはそうとサティ姐さんも素で日本語を話せたんですね?」

 

 トピアとしてはサティはヘルメットの自動翻訳機能で日本語を喋っていると思っていたので、ヘルメットを脱いでも普通に日本語で話せているのは意外であった。

 

サティ「いいえ、貴女の目の前で言語パックを()()()()()()したでしょう?」

 

トピア「頭の方に直接? それはすごいですね」

 

 自分の頭を指さしながら語るサティによると、どうも人間に言語パックをインストールする技術が確立しているらしい。超科学すごい。素人目にはちょっと魔法と区別が付かず、クラークの第三法則を実感せざるを得ない。

 

サティ「さて、 伝説の パンとやらの味は……ん、これはなかなか……いや、すごくいいわね? 味の傾向は普通のフランスパンなのに味のエッジが際立っていて満足度が不自然に高い感じ? さくさくの外皮ともちもちの中身のコントラストもいいわね。……これ変な薬は入ってないわよね?」

 

トピア「それがエンチャント効果です」

 

 どうも消耗品効果増強系のエンチャントには、元の食材や料理の中で人間が美味しいと感じる味や食感を強調し際立たせるという都合のいい副次効果があるようなのだ。満足感マシマシである。

 エンチャント効果が食事を通じてしっかり伝わったと理解したトピアは、満足げな笑顔で頷いた。

 一方サティはこのエンチャント効果に早くも学術的な興味を抱いているようだった。

 

サティ「そのエンチャントの効果が物質的もしくは波動的な差違として検出できるのか、そのうちこれも分子分析機(M. A. M.)にかけて対照実験してみたいわね」

 

トピア「それは興味深いですね。こちらにはそんな高度な分析装置は存在しませんし、最終的にエンチャント素材を量産したり選択的にエンチャントを付与できたりするようにでもなれば革新的ですよ」

 

 その実験結果にはトピアも興味津々である。クラフトピアのエンチャントシステムは、基本的に素材がドロップ時に備えていたエンチャントを確率で引き継ぐだけで、必要なエンチャントを自由に付与することが出来ないのだ。

 任意のエンチャントを選んで付与出来るエンチャントスクロールというものもあるにはあるが、選べるエンチャントの種類が限られている上に武器にしか付与出来ないので、大半はやはり素材のエンチャントを引き継ぐしかないのだ。なので基礎性能が高い高級装備でも必要なエンチャントがつく素材が材料に含まれていないので最終的に使い物にならないというケースは珍しくなかった。

 

サティ「既に量産はしているようだけど?」

 

トピア「今回のようにレジェンダリ素材を量産できるのは限られた例ですよ。同じ農業生産でも小麦以外の作物は毎回種が必要な上に種のエンチャントを引き継ぐので畑にエンチャントがついていても無視されますし」

 

サティ「おかしいわね、同じ魔法の話なのに無限に量産されないだけで常識的に聞こえるわ」

 

トピア「かもしれませんね」

 

 元科学文明出身のトピアとしては何が常識的で何が非常識なのかは理解しているつもりである。大体の場合非常識であるほど有用なのでそういったものを積極的に使うだけで。

 

サティ「ま、どのみち分析はするけど最初はマナや未知の物質の検出からでしょうね。大気組成の安全確認は済んだけれど」

 

トピア「安全確認? ……そう言えばしてなかったですね?」

 

 言われてみればそもそもトピア自身は何の確認もしていなかった。あの女神的存在の傘下で複数のワールドを渡り歩いてきた慣れによるものであり、毒・熱・寒さなどポーションで耐性が得られるもの以外には環境上の危険は無いものと見なしてしまっている。油断と言えなくもないが、そもそもガスマスクや気密服の類いが存在していないのでポーションで何とかする以外に方法が無いのだ。

 

サティ「でも遠出するときはまた安全服を着込むわよ。化学防護服とガスマスクの機能を兼ねているからね」

 

トピア「見た目的には勿体ないですね」

 

 トピアの感覚では、優れた容姿を隠すのは勿体ない――或いは地球時代の感覚では理不尽な圧力に屈したと感じるので、なるべく隠したくないと思っていた。

 

サティ「身の安全が第一というのが惑星開拓者(パイオニア)の基本よ」

 

トピア「ご尤も」

 

 トピアの感性は別として、安全性優先というのはトピアにも理解出来る話である。

 大半の極まった理想郷の建設者(クラフトピアン)だって装備の性能と見た目では性能を優先しており、必要とあらば狐のお面やイノシシの頭だって被るのだから全く異論は無い。ただしトピア自身はイノシシの被り物や馬のマスクには流石に抵抗があったので、採用しても頭部装備を非表示にして顔が隠れないようにして使っていた。




 なお実際のシームレスワールドではエンチャント小麦畑からエンチャント小麦が生えないように下方修正されました。
 エンチャント抽出と万物へのエンチャント付与が出来るようになったことで、小麦畑が従来のままだとエンチャント小麦畑で無限にエンチャントの欠片を量産できてしまうから仕方ない……のか?
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