ダンジョンを出たトピアはカミールを連れて今度こそ台地の塔に戻った。ガラス越しに見えるポータルは既に起動しており、その内側には時空の歪みが渦巻いていた。
トピアは改めて台地の塔のコンソールに向かい合い、ワールドLv3で製造可能になるものを確認した。
まず鉄製品。やはり従来のLv2からLv3に繰り上げになっていたようだ。
『精錬所』。新しいタイプの2ボックス仕様だ。レガシーではワールドLv4で解放だったので解放時期が少し早くなったようだ。
『エンチャントテーブル』。従来ワールドLv7で解放されるものだったが、大分早期に解放されるようになった模様だ。また説明文を見るに、やはり武器以外にもエンチャント出来る新型のようだ。
『ビーストグライダー』。性能に関する記述が一切無いので断定できないが、基本のグライダーとは形状が全く異なっており、恐らく性能が高いのではないかと思われる。
時代進化UIに示されるのは『注目の新アイテム』9枠、『新アイテム』22枠であり、全部が表示されているわけではない。最終的にはどの設備で何を製造出来るようになったのか確認する必要があるが、今必要なのは各時代で何を作れるようになったのかではないので、ワールドLv8に到達してからでも良いだろう。
ところでこのUIって時代の祭壇と殆ど変わってないな、とトピアが何となく思ったところで、彼女はそれに気付いてしまった。
トピア「あ、これ時代の祭壇から流用してそのまんまなんですね」
カミール「どうしたんだい急に?」
トピア「ほらこの左上の。『時代の祭壇』って文字がそのまんま残ってるじゃないですか」
カミール「……本当だね」
表記ミス発見である。流用の痕跡があからさまに残っているくらいなのだから、やはりこの楔の塔は時代の祭壇が原型になっているのだろう。
この非常時にそんな実用上影響の無いところをつっついている暇は無いが、こういうミスを見つけると中身は大丈夫なんだろうなと心配になってくるものだ。ただでさえ新旧アイテムやエンチャントが混在しているのだから。
しかし仕事を進めない理由にもならないので、トピアは時代進化を実行した。
短いログが流れ、ワールドLv3、開拓の時代が始まった。
カミール「これでもうワールドLv3か。時代が進むのは早いものだね」
トピア「序盤は要求が簡単ですからね」
カミール「いや、私たちだけじゃダンジョンはクリア出来ないし、素材を収集するにもどれだけかかっていたことか」
トピア「まあ次を確認しましょう」
トピアが再度コンソールにアクセスする。まずはワールドLv4で解放されるものの確認だ。
次は銀製品が解放されるようだ。
『小さなキュアライフポーション』なるものが製造可能になるらしい。割合回復はありがたいが、肝心のその割合が記載されていない。また材料に紅蓮のハーブがあるので、紅蓮のハーブの種が採取できるようになっていない限りは量産が難しそうだ。材料を辿っていくとワールドLv7で上位の『中容量キュアライフポーション』が解放されるようだが、材料から辿れたことから分かるように、これも紅蓮のハーブが材料に含まれている。
『バードグライダー』。やはり性能が記載されていないが上位装備なのだろうか?
『銀の弓』。従来にもあった名前の装備品だが、名前も性能も全くの別物になっている。この時点で
『掘削機』。見た目は以前のままだが、完全な自動化にはモジュールが必要と書いてある。ドロッパーが無いと鉱石を吐き出せなくなったということだろうか? やはり隙あらば弱体化を差し挟んできている。
時代の傾向は概ね掴んだので、次は納品の品目だ。『マンドラゴラ』×5、『丘陵のエメラルド』×20、『古代木』×20、『丘陵の古代人形の破片』×5となっている。植物、鉱物、木材、遺物の破片という構成は変わらないようだが、この辺りにある特産素材ではない。丘陵とついていることから、隣の楔の塔があるミルウィン丘陵との関連性が窺えるが。
トピア「この特産素材ってミルウィン丘陵のもので合ってます?」
カミール「そうだね、これは隣のミルウィン丘陵のものだ。ここから北東、光の柱で言うと一番左手前、あの廃城の辺りだよ」
トピア「なるほど分かりやすいですね。ありがとうございます」
つまり基本的には近場にある楔の塔を順番に引きずり出していく形になりそうだ。まあ順番が違ったとしてもどうせ後で使うだろうから問題は無いのだが。
トピア「……いや、そうでもない?」
トピアは気付いた。ここ台地の塔でミルウィン丘陵の特産素材を使った時代進化が可能ということは、ダンジョンさえ見つけてしまえば実は2つ目以降の塔の復旧は必要なさそうな気もする。
目的とされている文明の普及にこの台地の塔一つで足りるのかは分からないし、そもそも未だに使っていない進化のカギを今後使うとすればワールドLv8への到達時ではないかとトピアは考えた。つまりワールドLv8で進化のカギを一斉に要求される可能性があるということだ。
しかしこの仮定でも最後に要求される可能性があるだけなので、もしダンジョン遺跡の位置が先に分かるのなら塔の復旧は後回しにしても大丈夫ということになる。そして目の前には都合の良いことに考古学者がいる。
カミール「何だい、何か分からないところでも?」
分かりやすいと礼を述べた直後にそうでもないと意見を翻して考え込み始めたトピアの様子を見かねて、カミールは何か教え方が不味かったのかと声をかけた。
トピア「カミールさん、つかぬ事を伺いますけど他のダンジョン遺跡の位置って分かります?」
カミール「勿論だよ、私を誰だと思ってるんだい?」
カミールは左手で右肘を抱え、右手で眼鏡を上げる例のポーズで知性アピールをした。
トピア「さっすが考古学者! 有能! 知性派!」
カミール「そ、そんなに褒めても何も出ないぞ? まいったなあ」
トピアが素直に褒めそやすと、カミールは決めポーズのまま覿面に照れていた。褒め言葉に大分弱そうだとトピアは察した。
トピア「では次のミルウィン丘陵のダンジョン遺跡に向かう……前に、近くの集落の案内をお願いしても宜しいですか?」
カミール「任せておきたまえ! フィールドワークで見聞を広めてきたワタシは、ここの集落に限らず大抵の集落には顔が利くからね!」
トピア「それは頼もしい。では参りましょうか」
トピアは先だって設置していた下り階段の続きを次々に設置していった。そして湖の水面に近づくと床に切り替えて湖上にまっすぐ集落までの道を敷いていった。
カミール「改めて見ても便利だね、クラフトピアンの権能っていうのは」
トピア「重宝してます」
などとトピア達が軽く雑談しながら湖上を歩き集落に辿り着くと、一人の少女が跪いていた。栗毛のポニーテール、青い上着に茶色の膝丈スカート。同じく茶色のストッキングに小麦の模様がオシャレポイントだ。背丈は恐らくトピアより若干高いくらいで、起伏はカミールよりはあるように見えた。いや問題は容姿ではなく何故跪いているのかだ。
困惑したトピアは隣のカミールに相談しようとしたが、カミールは当然のような顔で頷いていた。いや、どうすればいいというのか。
少女「私は引き継ぎ嬢のファム。クラエル神より『古代の遺物』を受け渡す使命を帯びています。あなたは間違いなくクラエル神の使徒とお見受けしました」
ファムと名乗った少女がちらちらと塔の方を見ていることから、トピアは事情を察した。なるほど、突然塔を建ててその頂上から空中に階段を設置して降りてきたのだから、間違いなく只者ではないだろう。それで関係者と確信して急ぎ駆けつけたわけだ。
レガシーワールドの住人であった受付係ファンと名前が似ているが、関係者だろうか?
少女→ファム「その上で『古き時代の使者』でもあるならば、引き継がれし遺物をあなたの手に……と言いたいところでしたが、既にお持ちのご様子」
ファムと名乗った少女が次に注目しているのはトピアの装備だ。特に建設の書から持ち替えた 灰燼に帰す 不死殺しの 炎の悪魔の 危険な ヒルデブラント改+99を食い入るように見ている。この世界、この時代にこんなものがあるはずがないからだ。トピアがヒルデブラントを左右に動かすとファムの視線はそれにがっちり追従してくる。AIM力が高そうだ。
なるほど、このファムは本来『古き時代』から引き継いだ
ファム「つまり私の唯一の仕事が無くなってしまったんです! これでは失業です! 何か仕事を下さい! 何でもしますから!」
ファムはすました表情を崩して泣きっ面で事情をぶちまけると、トピアにすがりついて仕事を催促し始めたのだった。