ファムに泣きつかれたトピアは、兎に角事情は分かったので困惑顔を引っ込めてニタリと笑ってみせた。
トピア「おやおや、今何でもするって言いましたぁ?」
ファム「ひっ」
カミール「おい」
トピア「……というのはまあ冗談ですが、実際の所人手は不足しています。しかしよく分からない人を雇うわけにもいかないので……カミールさん、単刀直入に伺いますがこのファムさんってどんな人ですか? 」
カミール「どんな人? そうだねえ、頭が固い教条主義の自称神の使徒ってところかな?」
ファム「カミールさん私のことをそんな風に思ってたんですか!? 私がカミールさんのことを神を冒涜する胡散臭い自称学者だと思ってたからってそれは酷くないですか!?」
カミール「キミこそワタシのことをそんな風に思ってたのかい!?」
トピア「いやあ、人間の内心って分からないものですね。悲しいことです」
カミール「キミ台詞と表情が一致してないぞ?」
トピア「仕様です」
二人の仲違いを悲しんでますと言いたげに二人の間に割って入ったトピアであるが、表情を見るとどう見ても笑っており、二人の内心暴露を楽しんでいたことは間違いない。そしてそれを隠そうともしていなかった。
トピア「そんな敬虔な信徒であるファムさんに耳寄り情報なんですが、今私達は神の意向で侵略者を討滅するための作戦準備をしています。手伝ってみる気はありますか?」
ファム「つまり異教徒狩りですか!? 任せてください!」
ファムは胸の前で両拳を握りしめて鼻息荒く言い切った。その見た目だけは可愛かったのだが、発言内容と全く噛み合っていなかった。
侵略者の撃退というフレーズから即座に異教徒狩りという発想が出てきた挙げ句、無用なやる気をみなぎらせるファムに対し、トピアは即座に心の距離を取った。そうでなくても元日本人のトピアとしては宗教にどっぷり浸かっている人間は苦手なのに、他者の信条を認めない排外主義者など関わりたくもない。しかも任せてくださいとは何事だ。まさか経験があるのだろうか。
いや、そもそもトピアが仕掛けた台詞と表情が一致しないジョークを同類のもので返した可能性もあるのではないか。だとすればなかなかのやり手だ。
トピアは軽くため息を吐いてから補足説明を試みた。
トピア「いえ、異教徒ではありません」
ファム「異教徒狩りではない? では異端審問ですか?」
ファムは可愛らしく首を傾げ、鞭を振るうようなジェスチャーでそう聞き返した。やはり見た目と発言内容が乖離している。
どうしてその方向から離れないのか。そして更なる闇に呑まれようとするのか。だがジョークの返礼だとするとなかなかの天丼だと言わざるを得ない。
トピアは視線でカミールに確認を試みた。首を横に振るその様子からして、残念ながらジョークの類いではないらしい。
ならば本気の発言だという前提で返答しなければならない。トピアは頭痛を覚えながら言葉を続けた。
トピア「それも違います。むしろ異文明の仲間と協力して、あらゆる生命体の敵であるBETAと戦っています。これは非常に重要なことなので先に申し上げておきますが、強大なBETAと戦うのにこの機会に邪魔な奴を消そうなどと足の引っ張り合いをしていたら諸共に滅ぼされることになりますので、そのような真似は厳に慎んでいただきたく」
何しろ足の引っ張り合いはMuv-Luv世界の人類が高確率で滅亡する最たる原因であった。明らかな外敵を目の前にしながら人類同士で醜く争う様は色々な世界の地球の中でも特に酷く、アトリーム星人でなくても見放したくなるともっぱらの評判である。
カミール「そうだぞ。ワタシも協力に際してかのアヌビス神に直接お言葉を賜ったんだからな。何でも敵認定して足を引っ張るような原理主義者は引っ込んでてくれ」
距離を取る方針を察したのか、ここでカミールが援護射撃に入った。
お言葉を賜ったと言ってもお互い自己紹介しただけだった気がするが、カミールの中では既に神に使命を賜ったのと似たようなことになっているらしい。いや、ファムが羨ましがるだろうと思って敢えてそう聞こえるように言ったのか。先ほどのファムの言い様からして、普段から異端疑惑でもかけられていたのかもしれない。
ファム「えっ、カミールさんだけずるいです!」
カミール「ずるくない。ワタシは既に研究成果で貢献しているからね! ワタシ自ら時代を1段階進めることも出来たんだぞ!」
カミールは例の左手で右肘を支えるポーズで自信満々に薄い胸を張った。眼鏡をクイクイしている所から見て、多分知性アピールなのだろう。どちらかと言うと可愛らしさの方がアピール出来てしまっているが。
そう言えば石器時代に眼鏡があるわけがないのだが、アレも遺物なのだろうか? オーダーメイドでなければレンズの度が合わないはずだから、実は伊達眼鏡だったりするのか? 或いは視力を自動補正する魔道具か? トピアは訝しんだ。
ファム「ええーっ、カミールさんみたいな穀潰しの学者もどきが??」
カミール「誰が穀潰しだ! キミだって今は無職なんじゃないのかい!?」
ファム「私はクラエル神の
トピア「あっ、じゃあお仕事は要りませんね。それでは貴女の前途をお祈り申し上げて失礼します。いやあ神様へのご奉仕は大事なお仕事だから仕方ない、仕方ないなァ!」
ファム「えっ」
カミール「じゃ、そういうことで。お仕事頑張ってくれたまえ」
トピアはカミールの誘導に引っかかったファムに体よくお祈りの言葉を告げて厄介払いすることにした。
ファムは罠に嵌められたことに気付いて呆然と立ち尽くした。
トピア「それで、商人スミスが見当たりませんが、どこにいるんでしょうね?」
カミール「ん? そこで露店商をやっているのがスミスだぞ?」
トピア「んん?」
トピアが見るに、露店商をやっている人物は三人いる。
布の屋根がついた露店にポテトを並べている、鞄を背負った白髪白髭の男。
屋根の無い露店に装備品、ポーション、野菜、壷を並べている、鞄を背負った白髪白髭の男。
屋根の無い露店に書物や巻物を並べている若干紫がかった黒髪黒髭の男。
困ったのはどれもトピアが知っているスミスとは一致しないということだ。
トピアが知っているスミスは編んだ白髭に禿げ頭、恰幅が良くて大きな鞄を背負って行商している男だ。
職業と名前が一致しているのに同名の別人なのだろうか?
トピア「ちょっと私が知ってる商人スミスと違うようなんですが、結局三人のうちどの人がスミスなんでしょうか?」
カミール「あのポテト取引をしているのと、装備品他色々を取り扱っているのがそうだぞ?」
トピア「……二人ともスミスなんですか?」
カミール「そうだが?」
どうやら白髪白髭の人物の見た目が全く同じに見えるのは気のせいではなかったらしい。
トピア「……クラエル・ザ・グゥゥレイトォッ!!」
カミール「!?」
突然シリアル食品のマスコットキャラのような発音で叫び始めたトピアに、カミールは肩を震わせて後ずさった。
デザイン変更はまだ分かる。だが同じ肩書き、同じ名前、同じ容姿のスミスを目の届く範囲に別々の役割で並べてしまうのは幾ら何でも手抜きが過ぎやしないだろうか。最低限の人間扱いが出来ていないのではあるまいか。しかも周囲の人間もそれが異常だと思っていない。
いや、よく考えてみればトピア達
カミール「急に神の偉大さを称え始めて一体どうしたんだい?」
トピア「失礼、神の叡慮があまりにも偉大すぎてちょっと混乱してしまいました」
カミール「そうなのかい……?」
幸いカミールにも神を罵倒したようには伝わっていない。トピアがこのクラエル・ザ・グレートという呼び方を選んでいるのは、そういう利便性も理由にあるのだ。
自らを律したトピアは、まず向かって左側、農産物を扱っている方のスミスの露店に寄ってみた。
農産物商人スミス「何か買っていくかい?」
トピア「ドーモ、まずは商品見せてくださいな」
農産物商人スミス「おう」
商品一覧を見ると、ポテトの種芋、種もみ、農園、植物プランターの設計図、井戸の設計図、EXPポーション100mlといったものが並んでいた。
但し値段の単位が『ポテト』だった。
トピア「通貨がポテト……?」
集落の女性「あら、初めて見る顔ね? 農業は物々交換が基本よ。彼はあなたが育てた作物を、農業に役立つアイテムと交換してくれるわ」
カミール「ポテトの種芋なら向こう側の店でゴールドで買えるぞ」
話をまとめると、つまりゴールドで種芋を買って、種芋を育てて、育った芋で次の種芋や他の農業関連製品を買うというシステムになっているらしい。
そのあたりを理解したトピアは、今度大量生産した農産物を持ち込んで大人買いすることを決めた。ラインナップの中ではEXPポーションというのがそれなりに使えそうだが、容量が書いてあるということはもっと上位のものがありそうだ。
トピア「ポテトの持ち合わせが無いのでまた今度にします」
農産物商人スミス「おう、また来てくれよ……何だ、冷やかしかよ貧乏人め」
後半の台詞はぼそっとした独り言であったが、トピアには聞こえてしまった。だからと言って暴力に訴えるトピアではない。まあそれ以前に普通は用も無いのにポテトを何十個も持ち歩かないだろとツッコむところだが。
トピアはきびすを返して反対側のスミスの露店にずかずかと歩み寄ると、メニューも見ずに言い放った。
トピア「在庫全部下さい」
通常商人スミス「は?」
トピア「今ある在庫全部売ってください」
通常商人スミス「……67,600ゴールドになるが?」
トピア「どうぞ。おつりは要りません」
トピアは笑顔で1億ゴールドを積んでみせた。桁が4つほど多いが、桃や戦車を売り続け総資産が1000億の桁に及んでいるトピアにとってはただの端金である。
札束で頬を叩くがごとき振る舞いに、流石のスミスも腰が引けていた。
通常商人スミス「ま、毎度あり?」
トピア「いやはや、今時経済活動に組み込まれていない自称商人がいるとは、嘆かわしいことだと思いませんか?」
通常商人スミス「そう……ですな?」
突然の事態に、通常スミスはトピアの言葉に頷くばかりである。口調にも迷いが見える。
トピアが大仰に肩をすくめて語る経済活動云々の台詞は元々旧スミスの口癖であったが、今回のスミスも相手を貧乏人と侮るようなので性根は同じだろうと当てつけてみた形だ。
農産物担当のスミスはえらい相手に喧嘩を売ってしまったと気付いて目をそらし冷や汗をかいている。
カミール「一体何をやっているんだキミは。人捜しをしてるんじゃなかったのかい?」
トピア「勿論忘れていませんとも。おじさん、鍛冶屋のファーガスって人知りません?」
ちょっとばかり桁が多かったが、今渡したのは情報料込みの金額だ。そういうことにしておこう。
通常商人スミス「鍛冶屋のファーガス? いや、全く知らんなあ」
トピア「そうですか、残念です」
他に成長の石板を得る手段がある上に、商人に金を積んでも情報が出てこない。やはりこの世界にファーガスがいる可能性は低いとトピアは判断した。
トピアは勢いで全部買ってしまった商品の整理を始めたが、そこではたと気付いた。以前は建築物扱いだったランタンが装備カテゴリに入っている。つまりたいまつと同じように装備して使えるようになったのだろう。
トピアはスコアに貰ったオーブランタンを装備していたのでそれほど気にならなかったが、このあたりの夜はやたらと暗いので手に持たなくていい照明器具は重宝することだろう。
詳細を見てみるとランタンは特殊アクセサリに分類されていた。実際装備してみると、アクセサリ枠と光源枠のどちらにも入るようだった。だが冷静に考えると法則的におかしい気がする。
元々の装備分類に準じて、テラリアンの装備ではオーブランタンは光源ペットと同じ枠、アクセサリに元々存在した盾や鞄は余所由来のアイテムでもアクセサリ枠に入ってしまった。ならばランタンがアクセサリ枠に入る
というところまで考えたところでトピアはサテュロスの盾を思い出した。あれはアイテム単体では防御力が10倍表記だったが、装備してもトピアの総合ステータスは従来と同じ等倍表記のままだった。つまりトピアのステータスはレガシー・クラフトピア方式のままだ。そしてそのレガシー・クラフトピアにはアクセサリ枠に照明器具が存在しないのでアクセサリとは別物と判定されたのではないだろうか。
実際の所は分からないが、ひとまず仮説が成立したことでトピアは納得することにした。
ともかく、スミスがどういうキャラだったかすっかり思い出したトピアの中では、スミスが露骨に二人いる雑な扱いについての不満はすっかりどうでもよくなっていたのだった。
それから通常のスミスの隣に露店を構えていた抽出師パラケルススという男に話を聞いてみたのだが、こちらは武器やツールを使い続けて蓄積される精錬値から精錬結晶というものを1回3000ゴールドで抽出してくれる店とのことだった。精錬結晶とは何ぞやと聞いてみると、ランダムなエンチャントスクロールに変化するいわゆる抽選アイテムらしかった。
しかし精錬値の蓄積ペースを考えるとダンジョン報酬のエンチャントスクロールと比べて明らかに割に合わないので、たまに気にかける程度で良いだろうとトピアは判断した。
なおパラケルススの服装は違うが首から上はスミスの色違いでしかなかった。こうなるとやはり単なる手抜きか或いは仮置きである可能性が高く、女神的存在の配慮という可能性は大分低いとトピアは推察した。
集落ではいつの間にかファムの姿が見えなくなっていたが、トピアはしつこくつきまとわれないのならそれはそれで良しとした。
ファムはカミールと違って原作で台詞が3つくらいしかなく、信心深そうという程度しか分からないキャラなので、原理主義的な性格は拡大解釈です。
でもプレイヤーキャラを視認すると完全にロックしてプレイヤーが背後に回っても執拗にガン見し続ける絵面からは、実は結構ヤベー人なのでは感が漂うのです。