トピアとカミールは竜の鱗を得るためヤーデン草原北部のボスステージへと向かった。
ガンマが円形フィールドに接近すると、カミールの情報通りに赤い鱗の怒れるドラゴンLv.50が現れた。
トピア「おや、これは珍しい」
カミール「何がだい?」
トピア「いえ、私の知る限り『怒れる』ドラゴンというのはLv.60から89の個体しかいなかったもので。Lv.50の個体は初めて見ますね」
カミール「そういうものか」
トピア「いや、思い出してみると他もおかしかったような? 確か今まで遭遇した既存ボスは『青き』冥界の使者Lv.20、『立派な』キングモノLv.30、『荒野の』リザードガンナーLv.30、『紅眼の』リザードエクスキューショナーLv.45、『凍り付かせる』フェンリルLv.55、青空のグリフォンLv.35……ああ、レベル30区切りだったのを20区切りにすると丁度一致しますね。多分そういう法則に変更されたんでしょう」
カミール「つまり『怒れる』ドラゴンは従来Lv.60から89だったのがLv.40から59になった、という認識で正しいか?」
トピア「ですね」
要するにレベルと名前の区分が以下のように変更されたと仮定すればこれまで遭遇したボスキャラの名前もレベル依存の法則性が成り立つということだ。
青き冥界の使者Lv.20:Lv.30~59→Lv.20~39
立派なキングモノLv.30:Lv.30~59→Lv.20~39
荒野のリザードガンナーLv.30:Lv.30~59→Lv.20~39
紅眼のリザードエクスキューショナーLv.45:Lv.60~89→Lv.40~59
凍り付かせるフェンリルLv.55:Lv.60~89→Lv.40~59
怒れるドラゴンLv.50:Lv.60~89→Lv.40~59
トピア「それはともかく、ドラゴン討伐用装備に切り替えます」
ドラゴンは頭以外のダメージ軽減率が高い上に飛行能力があるため、槍で狩るのが少々面倒な相手だ。ガンマの誘導機銃でも倒せそうだが、どのみちドロップ回収のために降りなければならないので、トピアはキャノピーを開けて立ち上がると右掌を上にかざし、左拳を腰に引きつけて「蒸着」と呟いた。
これに伴いトピアの装備品が一斉に変更される。
左手に不安定な 秘宝を抱く 悉く欲する マッド・ エンチャントテーブル。
右手に不安定な 空回りな マッド・ ファーヴニルの 鉄の魔触媒。
頭部に不安定な マッド・ ファーヴニルの 早食いの クラシカルウィッチハット緑。
服は不安定な 空回りな マッド・ ファーヴニルの エレメンタルローブ緑。
背中に不安定な 万物流転の 焼尽の ファーヴニルの ジェットパック。
補助ツールに不安定な 空回りな ファーヴニルの 早食いの 灰の戦闘ツール。
フックに金天に舞う 紅眼の 赤眼の クラーケンの リスのフック。
光源に金天に舞う 紅眼の 赤眼の クラーケンの オーブランタン。
鞄に金天に舞う 紅眼の 赤眼の クラーケンの オクタリンのかばん。
アクセサリ1に不安定な 昂り爆ぜる マッド・ ファーヴニルの グリフォンテイマースカーフ。
アクセサリ2に不安定な 伝説の マッド・ ファーヴニルの グリフォンテイマースカーフ。
アクセサリ3に雪の妖の 紅眼の 赤眼の クラーケンの モルファのリング。
アクセサリ4に雪の妖の 紅眼の 赤眼の クラーケンの モルファのリング。
トピア「
見える距離にいるドラゴンを刺激しないように、トピアはあまり大きな声での名乗りは控えた。
トピアが自ら作ったMOD由来アイテムである蒸着装置は今後の拡張に備えて8箇所を超える装備品にも対応可能なように作ってあり、今回のような13箇所同時換装も実現出来ていた。
カミール「おおっ、何だいそれは!?」
トピア「魔法戦闘用装備です。では行ってきます」
目の前でトピアの装備が瞬時に変更されたのを見てカミールが驚きの声を上げたが、トピアは微笑みながらも素っ気なく返して地上へと飛び降りた。
地上に降りたトピアはいつも通りバトルヒムLv6(Max)、『マナサイフォン』Lv6(Max)のバフをかけると横たわっているドラゴンに接近、『ボールライトニング』Lv6(Max)を発動した。
しかしボールライトニングの発動までには若干のタイムラグがある。外敵の接近に目を覚ましたドラゴンは素早く飛び上がると咆哮を上げた。
予測を外されたトピアはこの咆哮の直撃を喰らった。ダメージは0だが、行動不能の状態異常に陥ったのだ。
トピア「!?」
トピアはドラゴンが息を吸い込んだのは見ていたが、次の行動が空中からのファイヤーボールと見越して、弾速の遅さから歩いてでも回避が可能であると考えて回避アクションを使わなかったのだ。ドラゴンの行動パターンを知っていたからこそ発生した失策だ。
だがドラゴンの行動はそこまでだった。トピアの行動不能状態とは関係なく、設置されたボールライトニングによって雷の精霊の攻撃がドラゴンを襲い、絶命させたのだ。
トピア「……油断大敵ですね。既存のMOBでも行動パターンが変わっている可能性を念頭に置かなければ」
数秒の痙攣の後に状態異常から復帰したトピアが呟いた。
発動さえすれば何があっても自動的に仕留められるだろうとは見越していたが、だからと言って攻撃を受けるつもりはなかったのだ。
従来のドラゴンには開幕の咆哮が無かっただけでなく咆哮という行動そのものが存在しなかったのだが、レガシーワールドから色々と仕様変更があるのだから、MOBの行動が変化する可能性くらいは考慮してしかるべきだとトピアは自身を戒めた。
ドラゴンのドロップ品は幾つかの金鉱石と竜の鱗が2つ。鉱石のドロップにプラチナとダイヤが含まれなくなったが、鱗の数は同じのようだ。
というわけでドラゴンの行動パターンを学習したトピアは、次からの2戦では開幕咆哮を確実に回避アクションでよけることでドラゴンを完封した。野外のボスステージでは普通にアヌビスの免罪符が使えたのは助かった。
これでサティとの初対面時に倒した憤怒のドラゴンのドロップである竜の鱗×5と合わせて11枚になったわけだ。
トピアはユグドラシルに戻って自分で生産しているバイオエタノールの他にレアメタルと石灰岩の余剰在庫を拝借すると、自分の工房に設置してあるレガシー仕様の熟練の炉と熟練の機械工場で装甲板×10を組み上げた。
カミール「ここがキミの工房かい? 興味深い機材が並んでいるね」
トピア「そうでしょう。カミールさん達の言う古代文明そのものですからね」
最初からシームレス仕様で始めたらそもそも作れない機材やレシピも多いのだ。特に未完成版のエンチャントテーブルなどは既にどうやっても作ることが出来ない。幸い持ち込みの在庫が400個あるのでどうにでもなっているが。
カミール「ポーション工場というのも実に壮観だったぞ。人の手を介さずに常に作り続けることが出来るとはな……」
カミールが生まれたこの世界はつい先日まで原始時代同然の文化レベルだったので、自動生産や大量生産という概念自体が無かったのだ。驚くのは当然だ。
なお石斧が主流の原始時代にしては服飾だけ妙に整っていたのはレガシーのクラフトピアから続く謎である。
トピア「とは言ってもうちの熟練の鍛冶屋なんかは妖精さんがブラック労働で動かしてるとか言われてますし、大量生産にかけてはもっと特化した人がいますけどね」
本当かどうかは定かではないが、妖精さんについては説明文に本当に書いてあるのだ。トリオ工場長達のような量産のエキスパートに比べればクラフトピア文明の生産規模はまだまだである。
カミール「古代文明でもかなわない大量生産のエキスパートか……人数は少なくとも実に頼りになるな」
トピア「それが
カミール「了解だ」
トピアとカミールはポータルでギーザ台地の塔へ移動し、そこからファストトラベルでシャルバート氷山の塔へ移動。装甲板と結界の旗を納品して塔を完成させた。完成と同時にトピアはシャルバート氷山の進化のカギを入手した。
そしてトピア達は塔の上のコンソールにアクセスしてカミールと一緒にマップを確認したのだが、問題が発覚した。
カミール「よもやこんなことが」
トピア「……もはや目視で探すしかなさそうですね。時間が掛かりそうなのでまた明日にしますか」
カミール「そうだな」
何が問題かと言えば、ポータルや再起の剣の配置は開示されているのに、素材採取ポイントだけが開示されなかったのだ。これでは苦労して塔を復旧した意味が無い。
トピアは徒労で脱力してふて寝することにした。一応寝る前に新鉱石のサンプルをサティに渡すくらいはしておいたが。
あとアヌビス神の部屋の向かいにファムが部屋をゲットしていたので、カミールはその隣に居座ることになった。
トピア「……いや寝てる場合じゃなかった!」
トピアは寝る前に絶対にやらなければならないことに思い至り飛び起きた。
トピアがモンスタープリズムで捕らえたクラフトピア住民を解放したままにしない理由は、以前に述べたように勝手に溺死するところもそうだが、一番重大なポイントは
トピアは即座にカミールとファムを叩き起こした。
トピア「お二人にはトイレの使い方を覚えていただきます」
ファム「トイレ……とは?」
カミール「何だ知らないのかい? トイレとは失われた古代文明の人々が使っていた施設の一つだ。ワタシも実物を見たことはないけどね」
トピアがカミールとファムを呼び出すと、やはり二人ともトイレを理解していなかった。カミールは眼鏡に手を添えて知識でマウントを取っていたが、そのトイレが自分の目の前にあるのにも気付いていないのでトピアから見れば五十歩百歩だ。
現在指導に使っている場所はそのカミールの部屋の個室トイレである。建設の容易さ優先のレイアウトのため部屋の広さが5m×5mもあるので、三人入っても大丈夫なのだ。
トピア「カミールさんの目の前にあるのがそのトイレです」
カミール「えっ、これが幻の!?」
カミールが目の前にある古代文明の産物に漸く気付いて目を輝かせた。とはいえその視線が注がれるのは洋式トイレなのだが。
ファム「偉そうにしてるカミールさんも碌に知らないんじゃないですかぁ」
トピア「いいですか、トイレは文明人が最低限備えるべき礼節にして衛生概念です。まともに使えないようなら神でも追い出しますから覚悟して下さい。これは冗談ではありません。繰り返しますが、これは冗談ではありません」
ファム「何か気迫が違いますね?」
カミール「まあワタシは古代文明の遺産に触れられるなら特に文句は無いが」
よく分かっていない様子の二人にトピアは熱心に指導した。実際アヌビス神にも部屋を献上する交換条件として同様にトイレの躾をしたのだから、出来なければ追い出すというのは比喩でも冗談でもない。
流石に神にはトイレの使い方くらい知っていてほしかったのだが、やはり放っておくと無情にもペンギン村仕様のピンクのアレをドロップするのだ。ピンクのアレは黒色火薬経由でのエンチャントには使えるので従来は放っておいたのだが、拠点に住まわせるとなると話は別であった。
なお黒色火薬の製造過程はピンクのアレを熟成所で硝石にするところから始まるのだが、この熟成所というのが硝石だけでなくバイオプラスチックやバイオエタノール、果てはチーズやバターといった食品の熟成も行う施設なので、トピアは同じ熟成所でも硝石製造用に専用のものを別に用意して使っていた。
トピアが思うにどうやらこのクラフトピア世界はアヌビス神や熟成所に限らずそういった感覚が根本的にずれているようなのだ。徒労で精神的に疲労しているのに人型のペット同然の相手にトイレの指導をせざるを得ないという現状に至り、元凶である女神的存在に対する怒りがトピアの中で爆発した。
トピア「そもそも何でピンクのアレがインベントリの『
突然叫び出したトピアにカミール達は目を丸くしていたが、それはトピアだけではない、
なお二人は風呂も碌に知らなかったのでこの後で続けて使い方を指導することになった。
そこの絵面だけなら大変素晴らしかったのだが、直前までトイレの使い方を知らなかった女達という事実のせいで台無しであった。
翌日、トピアがこの世界に来てから5日目の朝。
朝食を済ませた一同はそのまま会議へと移行していた。
新しく協力者として加わったカミールはトピアの助手としてその斜め後ろに、ファムはアヌビス神の助手として斜め後ろに座っていた。発言は出来るが票決に参加することは無いという形だ。まあ今まで明確に採決を行ったのは代表を決める時だけだったが。
何故こういう形になったかと言えば、連れてきた住民に投票権を与えるとトピアとラリーの発言力だけが無闇矢鱈に強まってしまうからだ。
トリオ「ちと悪い報せじゃ」
開口一番のトリオ工場長の言葉に緊張が走る。
そしてトリオがディスプレイに映した世界地図でその悪い報せの内容が判明した。
トリオ「推定オリジナルハイヴから近い順に既存ハイヴを023までナンバリングしたんじゃが、西南西のここに24番目の新しいハイヴを作り始めとる」
トピア「遂に動き出しましたか……」
それはBETAとの開戦が迫っていることが分かる明確な動きであった。
マイン「とはいえ、防衛ラインにはまだ遠いエリアなのが不幸中の幸いだな」
スコア「あの半島からの上陸は難しくなるが、あの大陸に上陸できるポイントはまだまだあるからな」
テクス「少なくとも火急の事態ではないようでござるな」
そうしたところでカミールがトピアの肩をつついて囁いた。
カミール「トピア、やはりワタシには世界が平面に見えるのだが?」
ファム「私にもそう見えます」
トピアは惑星が球体であるという説明をここでする羽目になったのだった。
レガシーでもシームレスでもピンクのアレが消費アイテムカテゴリに入ってて実際使えてしまうところにポケットペア=サンの強い拘りを感じます。何があっても絶対に使いませんが。
おまけにゲーム内設定でわざわざOFFにしないとプレイヤーキャラまでピンクのアレをドロップするという徹底ぶりです。そんなに好きなの……?(困惑)