[2025/10/31]一部の台詞を変更しました。台詞の間の描写を増量しました。時間経過部分に仕切りを追加しました。
食事がつつがなく終わり、建材を製造できるようになったのでまずは湖上に拠点用の床を敷き詰めようという段になって、二人は早速次の問題に直面した。
トピア「ブロックの規格が合いませんでしたか」
サティ「考えてみれば当然のことよね」
規格ブロックの幅・奥行き・高さがクラフトピアシステムでは5m×5m×3.6m、FICSIT社の規格では8m×8m×1ないし4mだったのだ。これでは何も考えずに床パネルを敷き詰めたり壁パネルを立てたりしてもぴったり隙間を埋める事は出来ない。
得意分野の違う
サティ「単位がメートル法でまだ良かったわ。最小公倍数を取って40m×40m×18mをブロックエリアの最小単位にするのがさしあたっての解決策ね。他の面子が来たらそれはその時で考えましょう」
トピア「了解ー」
ここにヤード・ポンド法や或いはそれ以外の未知の単位まで混ざると目も当てられないことになりそうだが、今ある問題ではないので二人はそれに実際に直面してから対処することにした。
気を取り直してトピアは『SFの平らな屋根』で8枚×8枚のパネルを1単位とした区画造成を開始する。トピアがSFシリーズの床ではなく屋根を使っているのは、床のデザインには今ひとつ清潔感が無いからだ。材料はどちらでも同じ量の鉄のインゴットであり、デザインで選んでも全く問題なかった。
一方でサティはFICSIT標準床で5枚×5枚のパネルを1単位とした区画造成を開始した。こちらは原料がコンクリート、つまり元を辿れば石灰岩である。このようにFICSITでは大量の石灰岩を使う為、石灰岩が乏しい従来のセパレートワールドの環境ではまともな進捗は望めなかったと思われる。
クラフトピアシステムでは空中に床を置いても完全に固定できるしFICSITの建材も一時的にでも地面と繋がっていれば似たような事は出来るのだが、流石に構造上の不安を覚える為、サティはそれとは別に湖の中に柱を立てる事にした。ワールドシステムが不安定と聞いているトピアもこれに同意し、トピア側の床下にも同じ柱が立てられることになった。
主柱、床、転落防止柵、仮の天井が一通りできたところで、サティはHUBを移設した。チュートリアルを省いてHUB施設が完成した状態のため、これで拠点の中に作業台と資材打ち上げ施設、バイオマス・バーナー発電機20MW×2と寝床2人分が揃う。
翻ってトピア側の外壁部材は5m×3.6mのフレームに大きなガラスがはまったトピアお気に入りの建材、その名も『SFな窓』を並べていた。何がお気に入りかというと、ほぼ全面ガラスという見通しの良さやデザイン性は勿論の事、この建材、どう見ても巨大な透明部材がはまっているのに何故か鉄のインゴットだけで作る事が出来るので材料を用意するのが簡単なのだ。クラフトピア世界は摩訶不思議である。
トピアは時代の祭壇を移設した後で木材や藁からベッドと机・椅子を作り、備え付けていた。最低限7人分の寝床は必要で、寝室は男女別にしたいし、それとは別に全員集まって話が出来る部屋も必要だ。トイレも人数からして最低2つは必要だろう。いやいっそ寝室を全員個室にしてそれぞれトイレをつけた方がすっきりしていいかもしれない。拠点が使えるようになるまでにかかる時間が不明であった為、トピアは予めトイレを部材として持ち込んでいるので改めて作る必要は無かった。
加えて風呂場も必要だ。風呂は最悪1日くらいは我慢できるのですぐ作る予定として持ち込んでいない。インベントリの建材枠はギリギリだったのだ。風呂も個室につけてしまおうとトピアは考えた。
そんなわけでまずは自分が満足な部屋を作って、それと同じ広さで他の6人分を用意するプランとした。バス・トイレの部屋を区切って整備、ベッドを備え付け、ベッド付属の布団がよくないので羊毛布団と入れ替える。棚も幾つか備え付けておく。そしてベッドの上に置くべきものに思いをはせたとき、肝心な材料が足りないことに気づいた。
トピア「材料の調達に行ってきます! 1時間くらいで戻りますので」
サティ「えっ、行ってらっしゃい?」
サティは完全武装のトピアが彼方へ猛然と走り去っていくのを呆気にとられながら見送った。
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それから一昼夜明け、つまり1時間でトピアが帰ってきた。
トピア「只今戻りました!」
サティ「おかえり……何それ?」
見ればトピアは満面の笑みであり、両腕でぬいぐるみを抱えていた。それは丸くて青くて大きな一つ目で鼻や口が無く、そして三角帽子を被っていた。
トピア「特製師匠ぬいぐるみです!」
サティ「はい?」
トピア「私の! 師匠です! 可愛いでしょう!」
サティ「うん、そうね?」
ぬいぐるみをずずいと差し出しながら同意を求めるトピアの圧力に負け、サティは反射的に頷いた。まあ丸っこくて可愛いと言えなくもないだろう。それにしてもこれが師匠とは?
トピア「いやはや、なかなかキングモノの出るダンジョンが見つからなくて苦労しました。その分沢山狩ってきたので当分素材には困りませんが」
つまりは寝室に師匠ぬいぐるみが不可欠なのにキングモノの体液という材料が無いことに気づいて全速力でダンジョン行脚してきたのである。ドロップ品の種類が増えすぎてインベントリから溢れ、途中からキングモノ以外の素材は投げ捨てていたほどであった。しかも帰るまで我慢できずに素材をゲットしたその場でぬいぐるみを作り始める始末である。
近くでたまに見かけるMOBモンスターによく似たアレが師匠という言葉からさっぱり状況が飲み込めないサティであったが、やはり
なお人の形をしていない
トピアがその師匠に大分入れ込んでいるように見えるが、頼りになってしかも可愛いのであれば好意を抱くのも不思議ではないとサティは考えた。
ちなみに師匠の本来の装備はクラシカルウィッチハットなのだが、こちらはワールドLv7に到達しないと製造できない装備なのでLv4で製造できて形がほぼ同じエレメンタルペタソスで代用した形である。いや実際にこちらの装備であった頃もあるので代用とも言いがたい。言わば師匠ぬいぐるみクラシックスタイル版である。それはそれでクラシカルウィッチハットを装備した通常版と名前的に紛らわしい。なお杖はどうやってもサイズが合わない上に持たせるのが困難なので、ポーズ固定で飾る個体専用装備である。そう、一つで済ませるとは言っていない。一体何の為に大量の素材を調達してきたと思っているのだ。
サティ「それにしても家具やぬいぐるみも作れるなんて便利ねえ」
トピア「作れないんですか? とはいえこっちだって寝具はせいぜいベッドの色違い2種類と羊毛布団くらいですよ? しかもベッド付属の布団だと中身が藁なので寝心地があまり良くないです」
サティ「HUBで最低限の生活環境が揃ってしまう弊害、かしらね?」
トピア「そういうものですか……宜しければこれどうぞ」
サティ「……お布団?」
サティはトピアが差し出した布団をまじまじと眺めた。見るからにごく普通の布団でしかないのにトピアが自信満々に出してきたということは、恐らく何らかの魔法効果もしくはエンチャント効果がついているのだろうが、サティの目ではその効果が確認出来ない。
トピア「ええ、伝説の ふかふかの 布団です」
サティ「やっぱりこれもエンチャントアイテムなのね?」
布団についているのは、響きからしてもう寝心地が良さそうな予感があるエンチャントだった……のだが。
トピア「はい。まあ試した結果エンチャント効果は全く発揮されないことが判明しましたが」
サティ「えっ、じゃあ何の意味が?」
トピア「高級エンチャントアイテムに包まれて気分よく眠ることが出来ます!」
サティ「……」
効果を力説するトピアに対し、期待を裏切られたサティの目は大分渋かった。
トピア「冗談です。どちらにしろ私の安眠は羊毛布団と師匠ぬいぐるみさえあれば確約されていますので」
サティ「そう」
トピア「あと普通の藁製ベッドは寝苦しいので布団を持ち込もうと考えたときに、ただの布団よりはジョークグッズとしても使えるこれの方がいいかなと」
サティ「うん、まあありがたく借りておくわ」
無駄に手の込んだジョークグッズだと思いながらも、特に悪い効果は無さそうなのでサティはこれを受け取ることにした。普通の布団でもHUB備え付けのベッドよりは幾らかマシであろう。
トピア「あと399セットあるので差し上げますよ?」
サティ「高級ジョークグッズが何でそんなに沢山!?」
トピア「一度しか運べないのならインベントリの枠をフルに埋めるべきだと思いませんか?」
サティ「それは……そうだけど」
確かにインベントリ枠一杯に荷物を詰めないのは勿体ないという感覚はサティにも分かる。
問題は何故そんなに沢山作ったのかという所だ。
トピア「あとは二段構えのジョークにするためです」
笑顔でサムズアップして言い放ったトピアの言葉から、サティは意図せずツッコミ担当にされていたことを理解して形の良い眉をしかめたのだった。