カミールとファムに惑星が球体であることを説明しなければならなくなったトピアは、まずは現状表示されている地図から赤道が一周していることを説明することにした。
トピア「ああ、この形式の地図では平面に見えますよね。でも両端にH01があるのが見えますか? あれが丁度中心点から裏側ですよ」
カミール「うん? 円筒形なのか?」
トピア「まあ正距円筒図法に変換してありますからね。工場長、新人二人が惑星の形をよく知らないようなので、分かりやすいように衛星写真そのものを表示してもらってもいいですか?」
トピアは何も考え無しに説明を後回しにしていたわけではない。ここには衛星写真があるのだ。
トリオ「ふむ、ええぞ。まずはこれが表側じゃな。この会議室は中心付近のコアベースにある」
トリオ「そんでこっちが裏側。見ての通りハイヴまみれになっとるの」
トリオが視点をぐるりと回して星の裏側を見せた。
カミール「丸い……?」
ファム「ええっ、世界は神によって平たく作られたのではないのですか?」
アヌビス神「XXX(それは昔作った世界の話だ)」
ファム「そう……なのですか」
普通は天動説の人間に地動説を説明するには水平線などの例を出さなければならないが、目の前にいる神の一言によって二人は概ね納得させられたようだった。
教義そのものを完全否定するわけではなく、間違ってはいないがあれは古い世界に対する説明であって今の世界には対応していないのだと言われたのだからまだ受け入れやすい方だろう。
折角なので二人にはBETAがどういうものなのかスパイダートロン視点の映像を見てもらった。
つまりこれはファムの『敵』の認識の上書きを意図したものであり、効果はそれなりにありそうだった。カミールは巻き添えであるが、好奇心が強いので何であれ新しいことを知れたことに文句は無いだろう。
トピア「で、最初の問題は距離で、西海岸からでも12,000km以上あるんですよね」
ラリー「
サティ「それで初動が間に合って24番ハイヴを潰せたとしても、10番ハイヴとの間に戦線を抱えることになりそうなのがもう一つの問題ね?」
トリオ「そうじゃの。正直自動防衛の準備が整っとらん」
テクス「幸い想定した防衛ラインにはまだ遠いゆえ、下手に対応するよりは放置して開戦準備に力を注いだ方が良さそうな気がするでござるな」
トピア「というわけで、現状での対処はしないという意見が多いようですが、今すぐ対処した方が良いという意見の人はいますか?」
トピアが意見を募るも、即座に対処すべきと主張する者はいないようであった。
トピア「では当面監視に止めるということで。ああ、いざというときに間に合わないのは困るので、手が空いた人が防衛ライン近くにポータルを設置してくるのは先にやっておくべきですかね? 候補はさしあたって私かスコアさんでしょうか」
スコア「そうなるな」
サティ「じゃあ工場長、続きをお願い」
トリオ「そうじゃの。まず物資規格コンバータが完成した。カンパニーに対応する都合上10m×10mサイズになっておるからここに現物は持ってこれんが、こういう外観じゃ」
トリオはディスプレイに物資規格コンバータの写真を出した。
トリオ「このコンバータの入力側と出力側にコンベアを接続して電源に接続すると、変換対象を自動的に判別して出力側の物資単位に変換するようになっておる」
写真が切り替わり、実際にカンパニー規格のコンベアからFICSITのコンベアへインゴットを変換して出力している映像が映し出された。
トピア「これは便利ですね」
サティ「むしろ製造ラインの連携には必須と言える代物ね」
テクス「これをわずか1日で用意するとは流石工場長でござるな」
マイン「ふん、褒めてやろうではないか」
トリオ「まあ対応すべき品目が基本的なものばかりじゃったからの。次に兄ちゃんに頑張ってもらって稼働状態に持っていった宝石樹園がこれじゃ」
画面が切り替わり、宝石樹園の様子が映し出される。ダイヤモンドの木が育ち次第建設ロボットに刈り取られて代わりにダイヤモンドのどんぐりが植えられていくというシュールな光景だ。
トピア「もう稼働開始したんですか!?」
スコア「見事な手際だったぞ」
トリオ「まだ小規模じゃがの。問題点を洗い出してから本格的な規模に拡張するつもりじゃ。必要な物資の買い付けに人力が必要な部分は引き継ぎ嬢にやってもらっとる」
トリオの言葉に応じて引き継ぎ嬢のファムがぺこりと頭を下げた。
なるほど、
ラリー「
トピア「早速上手く人材リソースを使ってるようですね」
これにはファムを連れてきたアヌビス神も一安心である。
サティ「そうそう、継続して仕入れる方が重要だから、相場を大きく超えない限りは値切らなくていいからね? 資金は余るほどあるから」
ファム「……承知しました」
信仰心が篤すぎるファムは放っておくと聖戦協力を理由にとんでもないダンピングをかましそうな気配があったのでサティが釘を刺した。
トピアとカミール、そしてアヌビス神はナイスフォローと心の中でサティに称賛を送った。
トリオ「ダイヤのインゴットへの加工に嬢ちゃんの熟練の炉が必要じゃが、数が足りんからあとで増設してくれ」
トピア「分かりました」
ラリー「用地確保は俺が忘却の遺跡全部掘削し終わったからな。あとは好きに拡張してくれ」
トリオ「うむ、助かる。次にレーザーの改良じゃが、ランサーの基礎技術とイグナイトのエネルギー収束特性、エルダイトのセンサー応用、それからFICSIT製スーパーコンピュータの演算能力が大きく役立ちそうじゃ。まだ現物は出来とらんが、大分完成形が見えてきたぞい」
トピア「性能はどのくらい上がりそうですか?」
トリオ「レーザー防御システムと同等の変換効率で射程10kmを下回ることはまず無いの」
スコア「完成形と言うだけあって軽く最終目標値をクリアしそうだな」
テクス「やはり本格的に防衛ラインを構築するのはこれが出来てからにした方が良さそうでござるな」
マイン「我が
トリオ「いやこれはレーザータレットに使う場合の完成形じゃ。そのカンパニーのトキソピッドに乗せる分には射程が35km程度必要というのがネックでの。そこはG元素の効果に期待しておる所じゃ」
トリオがスコアに視線を送った。スコアが頷いたので、BETAの還元実験は順調なのだろう。
サティ「ああ、高さが100m前後あるなら地平線までの距離が伸びるものね」
テクス「それが35kmということでござるか」
ラリー「やっぱでかすぎるのもそれはそれで扱いにくいもんだな」
トリオ「そういうわけじゃ。まあトキソピッド自体の性能は悪くなくてな、スパイダートロンのノウハウもある程度流用が効くし、改造のベース機として非常に優秀じゃの。実作業はこれからになるが、想定通りの改造で射程以外は要求性能に達しそうじゃ」
ディスプレイにまずはトキソピッドの現状の性能が映し出される。
そこに主機関載せ替え、ターボ・モーターによる関節強化、フレームと装甲の
完成すれば発電力150MW、平地での最高移動速度220km/h、耐久値25,000,000ライフ、
斉射DPSの計算は主砲の全方位長距離レーザー砲25基×0.8MJ×秒間4.8発=消費電力96MW、96MW×変換効率75%=72MW=7,200,000DPSである。他文明由来技術の導入により従来の変換効率61.8%から75%前後まで向上すると見込まれているということだ。
なお主砲以外にもミサイルなどの武装はあるので実際の攻撃力はもう少し上がるが、工場長方式のレーザーは一点収束の熱量で融解させて装甲を抜くため相手の防御力をほぼ考慮しなくて良く、他の武装と一緒に計算するのはあまり意味が無い。
マイン「フッ、当然だ」
テクス「主力機動兵器ほぼ決定でござるな」
トピア「150MWということは、携帯核融合炉200基搭載ですか?」
トリオ「うむ、1つか2つのでかい核融合炉を搭載するプランの方が発電効率はええんじゃが、分散配置した方がダメージコントロール的には優秀じゃし既に使っておる核融合炉モジュールをそのまま使えるけえ、いっそ携帯核融合炉を大量に配置するプランになったわけじゃ。元々の15MW動力炉を撤去したらびっくりするほどスペースが余ったからの」
スコア「なるほどな」
トリオ「それから通信機能は色々試してみたが、カンパニー製も悪くないものの、やはりFICSIT製が一番安定しとるの。こっちをベースにするというか、このままでも殆ど問題無さそうじゃ。後は規格対応じゃの」
トピア「流石信頼と実績のFICSIT製ですね」
マイン「チッ」
カミール「何だかわかりやすい人だな?」
トピア「でしょう?」
マイン「おいィ聞こえているぞ?」
カミール「おお、聞こえていたか。ガンマの性能は素晴らしいな?」
マイン「それほどでもない」
謙遜の言葉を吐きながらも明らかに満足そうなこの表情。
トピアに助言された通りにガンマを褒めただけなのだが、マインがどういう人物なのかは参加したばかりのカミールにもあっという間に把握されていた。
トリオ「んでそのFICSITの組立指揮システムの現物が入手できたことで、ビルドガンの複製に一応成功した。現物はこれじゃ」
工場長が取り出したそれは右手用のもので、サティが使っているビルドガンよりは若干大型で重そうであった。
トリオ「ぱぱっと作って機能の再現は出来たが、同等の小型化まではおっつかんでの。しかし基本的には改装後のガンマに接続して使うことを想定しておるから重さはそれほど気にならんはずじゃ」
テクス「これをぱぱっと作ったんでござるか……」
トリオ「妥協の産物じゃからな」
テクス「妥協……とは……?」
スコア「工場長の技量を常識で測るのはやめた方がいい」
テクスがショックで宇宙猫になりかかっていたのでスコアがすかさずフォローを入れた。
サティ「ともあれ、多数のインフラを作っていく過程で、人手が足りない時にこれを使って手伝ってもらうことになると思うわ。それ以外には資源の探索に使えるわね」
トピア「FICSITの設備は部品状態でインベントリに入ってるからビルドガンが無いと手伝いようもなかったですからね」
トリオ「あとはアレじゃな、姉ちゃんのブレード・ランナーズの改造を最低限は終わったぞい。携帯核融合炉2基と6連装レーザー防御システム搭載じゃ。モジュールスロットは最低限しかないがの」
サティ「十分よ。助かるわ」
6連装レーザーということは3,090×4.8×6=88,992DPSほど出ることになる。襲撃で押し入ってくるモンスターの中で一番耐久値が高い
トリオ「他には対環境性能の監修をしたくらいで、システムの安定化や統合建設システム、BETA着陸ユニット迎撃システム、大型核融合炉の設計などは全くの手つかずじゃ」
トピア「いや十分すぎるでしょう。半日でどんだけ働いてるんですか」
サティ「ラリーだけじゃなく工場長も大分タスクが集中してしまってるんだけど、困ったことに誰にも代わりが出来ないのよね」
工場長は今日も働きづめであったが、圧倒的な技量と体力を以て仕事をこなしており、その上で当人が平然としているので全く悲壮感が無かった。