【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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099. まさかこのワタシが知らなければよかったと思う日が来るとはね

 (マイスター)達が状況を見守っていると、トピアがスコアを引っ張って瓦礫の山の中から飛び出した。相変わらず繊細な掘削は出来ないが、パワーだけならトピアの方が上なのだ。

 

スコア「ぶはっ!」

 

トピア「無事ですかラリーさん!?」

 

 しかも飛び出して真っ先にラリーの心配をするあたり、相当な余裕ぶりである。

 

ラリー「……っつあ! ああ、何とかな」

 

 至近距離の爆発に吹き飛ばされたラリーは、空中でセレスチャルスターボード(Celestial Starboard)を出して体勢を立て直し、墜落を免れていた。ラリーの全身には大分焦げ目が付いていた。

 少なくないダメージを負ったラリーは早速ハイライフポーションを飲んだ。ファンタジー回復アイテムさえあれば怪我の対処はこんなものである。

 

トピア「ラリーさん通信機壊れました?」

 

ラリー「ん? そうらしいな」

 

サティ≪無事で何よりよ。通信機くらいならまた作ってあげるわ≫

 

スコア「ふう……どうにか機能停止には成功したか」

 

トピア「あ、光の輪はどうなりましたか工場長?」

 

トリオ≪どうにか大陸内で止まったぞい≫

 

 工場長からは光の輪が広がった範囲の地図が送信されてきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

トピア「セェーフ!」

 

 トピアは両腕を左右に広げてセーフ判定を下した。

 

サティ≪どうにかなったようね≫

 

マイン≪……それで、この始末はどうしてくれるのだアヌビス神?≫

 

テクス≪ああ、責任追及もしっかり覚えてたんでござるね≫

 

トピア「それなんですけど多分この仕掛けを作ったのは権能的に見て女神的存在(クラエル・ザ・グレート)の方では?」

 

サティ≪あー、あの……≫

 

トリオ≪話に聞くアレか≫

 

ラリー「そういうことか」

 

スコア「察するにBETAがどういう存在かよく理解してなかったということか?」

 

アヌビス神≪XX,XXX. XX(まあそうなのだが、気付かなかった我にも責任はある。すまなかった)≫

 

 アヌビス神は素直に頭を下げた。ほぼ完全に上司のやらかしではあったが、この中では一番の上役であり、事情を知る立場でもあったので責任はあると認めたのだ。

 

トピア「私も状況から気付いてもおかしくなかったのに特に疑わずに工程を進めてしまいました。申し訳ありません」

 

 続いてトピアも頭を下げた。落ち着いて情報を精査すればこのような事態になる予想は出来たはずなのだ。

 

サティ≪気付かなかった責任まで追及すると私たちもってことになるわね≫

 

トリオ≪有用な設備に目がくらんでしまったのう≫

 

マイン≪……チッ、仕方あるまい。次は無いからな≫

 

テクス≪しかし丁度通信手段が整ってて良かったでござるな。無かったら対処がもっと遅れてたでござるよ≫

 

トピア「ですよねえ。サティ姐さんいつもありがとうございます」

 

サティ≪いいのよそんなことは≫

 

アヌビス神≪XXX. XXX,XX(しかし不味いことになったな。あの塔はこの世界を安定させる足がかりでもあったのだが、土台ごと破壊してしまうとはな)≫

 

 そろそろ解散かというところでまたアヌビス神が重要情報をぶちまけた。(マイスター)達の空気は凍った。

 

サティ≪つまりBETAにエンチャント技術を渡す引き換えに援軍を呼べたかもしれないってこと?≫

 

マイン≪他のクラフトピアン共を呼べたとして、戦力バランス的にはどうなのだ?≫

 

トピア「いやあ、確かに心強い援軍ではありますけど、流石にリスクの方が大きすぎると思いますよ。師匠ならそれでも何とかしてしまいそうな気はしますが」

 

テクス「凄まじい信頼感でござるな」

 

ラリー「トピアの師匠どんだけすげえんだよ」

 

サティ≪教化機能を封じて世界を安定させる機能だけ使うわけにはいかないのかしら?≫

 

アヌビス神≪X,XX. XXX. XX(いや、教化によって安定させる機構なのだから不可分だ。それ以前にどうやってもう一度塔を復旧するかが問題だ。仕方ない対処ではあったがな)≫

 

トピア「ああ、それで土台を破壊しようとしたときに何か言いたげだったんですね」

 

スコア「そうなると当面世界間の接続は出来ないということになるな」

 

トリオ「まあ元々援軍無しで戦う予定だったんじゃから、現状の方が予定通りじゃろ」

 

ラリー「そう言えば塔をぶっ壊しちまったけど肝心のLv8設備製造能力は健在なのか?」

 

トピア「あっ」

 

 これで折角到達したワールドLv8が帳消しとなればこれまでの苦労が水の泡である。トピアは改良型作業台を取り出して確認を始めた。

 

サティ≪あら、作業台のデザインが変わったのね?≫

 

トピア「はい、新型の改良型作業台です。この作業台は新方式レシピ専用でレガシーレシピを使えないので、結局レガシーの作業台も併用することになりますが……あ、ちゃんとありましたよ重要設備4品目!」

 

テクス≪苦労を無駄にせず済んだでござるな≫

 

トピア「あと皆さんがいるところまで教化が広がっていたので、もしかして皆さん新レシピ限定で作り方が分かるようになってたりしません?」

 

サティ≪……アラ本当≫

 

トリオ≪妙な感覚じゃの≫

 

 トピアが問いかけてみれば、やはり教化範囲内にいた人員は全員シームレス方式のクラフトが可能になっていたようであった。

 

マイン≪まあいい、兎に角作れるんだな?≫

 

トピア「はい。ただ実際に作るには、多くのものに材料として要求されているハイミスリルをまず探す必要があるんですが」

 

ラリー「けどこの島に新しいエリアが出現したわけでもねえんだろ? 次は地下か?」

 

トピア「まあ何となく探し方は分かります」

 

トリオ≪じゃあ任せてええかの?≫

 

トピア「はい、皆さんご協力ありがとうございました!」

 

 トピアは通信会議を終了し、ラリー達と一緒に魔法の鏡(Magic Mirror)でコアベースに戻った。

 三人とも大分汚れてしまったのでそれを洗い流すためだ。

 

 

 

ラリー「じゃあハイミスリル探し頑張ってくれ」

 

スコア「何かあったら遠慮せず呼んでくれたまえ」

 

トピア「はい、お忙しいところありがとうございました」

 

 簡単な入浴の後、トピアはコアベースのポータル前でラリーやスコアと分かれ、自身もポータルを通ってギーザ台地の塔へと戻った。

 なおコアベース側にもギーザ台地側にも壁とアクチュエーター(Actuator)を設置済である。

 

トピア「やあ、カミールさんも()()()で」

 

カミール「……ああ、お陰様でね」

 

 トピアはギーザ台地の塔で待機していたカミールに簡単に挨拶すると、まずコンソールから次の時代の情報を確認した。教化騒ぎで後回しになっていたことだ。

 製造が解放されるアイテムにも到達条件にも「Coming Soon」と書いてあり、グレーアウトした解放アイテム一覧は空欄、同じくグレーアウトした納品要求も★×14『未知の素材』×9999と明らかに仮置きの表記になっていた。つまり現時点においてワールドLv9は存在しないということだ。

 

 概ね予想通りの結果確認を終えると、トピアは通信機がオフラインになっているのを確認した上で、改めてカミールに向き直った。

 

トピア「それでカミールさん、ハイミスリルのある所についてご存じでは?」

 

カミール「()()知っている。さっき広がったあの不思議な力が各地に新たな鉱石を生み出す力を持っていたようだよ」

 

トピア「ああ、ラリーさんの所と似たような方式でしたか」

 

 ラリーの所も祭壇(Alter)をハンマーで潰すたびに世界のどこかに新たに鉱石が発生するという不思議仕様であり、丁度似たような感じだ。

 となれば、教化の発動自体はどのみち必要だったということで、その範囲が大陸内程度で収まったのは狭すぎもせず広すぎもせず、偶然ながら丁度いい結果であったかもしれない。

 

カミール「……と、古文書に書かれていたのを思い出した()()()()()()。何ともまあ、自分が信じられなくなるね。()()()()()()()()()()()()?()

 

トピア「()()()()()()()()()()()()であろうことは最初からですね。決め手は教化で受け取った情報量が他の人より明らかに多かったことです」

 

 まずカミールは不自然なくらいに理想郷の建設者(クラフトピアン)にとって有益な情報ばかり持っていたし、最初から他の住民よりも思考の水準が高かった。それだけなら学者だからの一言でも一応説明は付くのだが、カミールよりやや遅れて教化を受けたファムや他の(マイスター)達は気がつけば情報を受け取っていたという感じであり、カミールほど劇的な変化が無かったというのが決定打だ。

 先ほどサティ達の反応を()()してみたところ普通の教化を受けた人々は知識が増えただけで女神的存在を崇めるようになったりもしていないので、BETAを教化したら心を入れ替えて仲間になるという線も無いだろう。危ないところであった。

 

カミール「そうか……ワタシはついさっき知ったよ。まさかこのワタシが知らなければよかったと思う日が来るとはね」

 

 目を閉じてため息を一つ。

 好奇心旺盛なカミールには珍しい表情であった。

 

カミール「よりによってだよ、未知を探究する考古学者であるワタシの頭にあらゆる既知を直接刻み込むなんて、神の意志だとしてもあんまりだと思わないかい? これではワタシは何を探究すればいいんだ? ファムじゃあないがこれでは失業だよ」

 

トピア「あー、つまりゲームの攻略中に突然クリアデータに差し替えられた感じですか。ご愁傷様です」

 

 特に好奇心旺盛なカミールにとっては遺憾の意を表明せざるを得ない事態であろう。

 

カミール「しかもどういうわけかあのときのワタシはそれが光栄なことだと心の底から思っていたんだ。壊してくれて正直助かったよ」

 

トピア「いえ、私も注意が足りませんでしたからね。アヌビス様はともかく、()()()は隙あらばああいう真似をするので気をつけた方がいいです」

 

カミール「身を以て知ったさ」

 

 トピアが教化の危険性を周知し塔の破壊を決意したのは第一にはBETAにエンチャント技術を知られると不味いというのがあったが、第二にはカミールの人格が上書きされてしまいそうだからというのもあった。

 確かにカミールは元々神を偉大な存在と捉えてはいたが、それはアイドルくらいの捉え方で、教化が発動してからの態度は大分不自然だったのだ。いやそもそも全体的におかしかっただろうと言えばそうなのだが。

 

トピア「その調子だとこの世界がいつ出来たのかももう知ってますね?」

 

カミール「作り始めたのがそちらの時間で1年前だろう? 古代文明なんかあるわけがないよね。設定上の古代文明を追い求める設定上の考古学者だなんて、キミには道化に見えたことだろう」

 

 カミールは自嘲した。

 しかしトピアは愛想笑いもしていなかった。カミールは予想外の反応に小首を傾げた。

 

トピア「カミールさん、ボスラッシュダンジョンのあの不思議な文面を覚えてますか?」

 

カミール「不思議な文面? ……ああ、『まだキャラクターがいません。キャラクターを作成しましょう!』っていうやつかい?」

 

トピア「はい、あれは明らかに『ダンジョン中断ディスクが存在しません』と書くべきスペースでしたが、代わりに既に他で使われている別の文面が混入していたわけです。つまり」

 

カミール「作成すべきキャラクターとはあのダンジョンを攻略する使命を帯びたキミ達クラフトピアン、ということかい?」

 

 言葉を引き継いだカミールに、トピアは大きく頷いた。

 

トピア「あの女神的存在にとっては私達理想郷の建設者(クラフトピアン)も気軽に作成するようなキャラクターでしかないのです。私には理想郷の建設者(クラフトピアン)になる前の記憶もありますが、そういった記憶が存在しているのはカミールさんも同じです」

 

カミール「それであんな鬼気迫った表情をしていたんだね。何事かと思ったよ」

 

トピア「ああ、お気づきでしたか。そこで、私は二つの言葉に倣うことにしたのです」

 

 トピアがVサインのように左手の人差し指と中指を立て、蟹鋏のように指同士を2回打ち合わせた。

 

カミール「ふむ、それはどんな?」

 

トピア「ルネ・デカルト曰く、『我思う、故に我あり』」

 

カミール「なるほど、過去がどうあれワタシ達は今ここに生きている。大切なことだな」

 

 カミールは深く頷いた。

 

トピア「そしてもう一つ、師匠曰く」

 

 トピアはインベントリからモノぬいぐるみを取り出して同じく取り出したエレメンタルペタソスをかぶせ、顔の前に構えて腹話術のようにぬいぐるみの短い腕をピコピコと動かしながら精一杯の低い声を出して言葉を続けた。何故そんなものを持っていたかと言えば勿論常備しているからだ。

 

トピア「『人生を楽しんだ者こそが真の勝者だ。つまりE&E(エンジョイ&エキサイティング)が重要だ』。ンン、聞いているのかねカァミールくゥん?」

 

カミール「ブフォ!?」

 

 可愛らしいモノぬいぐるみがワカモト調で喋るその様子にカミールは思わず噴き出した。

 相手を問答無用で笑顔にする師匠のパワーを実証できて、トピアも一緒に笑顔になった。存在自体が飛び道具と呼ばれるのは伊達ではないのだ。

 

トピア「ンン、どうしたんだいカァミールくゥん? ハイラァイフポーションいるかァい?」

 

 調子に乗ったトピアの演技はややワカモト調が過剰である。本物の師匠の喋り方はもう少し落ち着いている。

 

カミール「や、やめたまえよ、お腹痛い、クフッ……ハア、ハア……でも、過去が定かではないワタシ達にはぴったりな前向きさだね。キミの師匠はとても素敵な人のようだ」

 

トピア「でしょう? カミールさんもこの世界の研究が楽しくなくなったのなら、いっそ多元世界文明学者にでもジョブチェンジしませんか?」

 

カミール「随分胡散臭い肩書きだね……しかし悪くない。危うく消されそうになったこの好奇心こそがまさにワタシ自身ということだからね。存分に楽しんでいこうじゃないか」

 

 トピアの提案に、カミールは眉をしかめながらも愉快そうに笑った。

 

トピア「その意気ですよ。……で、どうします? これまで通り手伝っていただけますか?」

 

カミール「やるさ。ただし使命だからじゃない。ワタシがやりたいからだ。ここは考古学者改め文明学者のワタシに任せておきたまえ」

 

 カミールはいつもの右肘を左手で支えるポーズで右手を眼鏡に添え、クイクイと動かして知性アピールした。調子が戻ってきたようだ。

 

トピア「フフッ、頼りにしてますとも」

 

 トピアは初めて出会ったときのように手を差し伸べ、カミールはその手を握り返した。




 第4章終了です。次回第5章開始。
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