有効射程距離25バ身   作:sabu

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12/28 『天翔るウマ娘』

 

 ディクタストライカ。

 右脚の筋断裂と関節炎。約4ヶ月ほどの休養。

 

 シンボリエウロス。

 両脚の筋膜炎。約2ヶ月ほどの休養。

 

 それが公表されたのは、阪神JFが終わってから1週間ほど経ってからだった。

 

「まぁ……妥当と言えば妥当ではありますね」

「……………」

「ごめんなさい。2月ほどよろしくお願いします」

「当たり前です。それとレースの結果に口出ししないと言いました。まずはこれからの話をしましょう」

 

 上がり3F32.5秒は流石に無理が祟った。

 筋膜炎。重い筋肉痛と表現すれば分かりやすいかも知れない。

 最初の1月は安静で、残りの1月は軽度の運動から慣らし、経過を見て2ヶ月と言ったところである。

 

 ウマ娘の生涯としてみたら、これくらいの不調は結構ある。

 判断によるが、怪我と故障……にはギリギリ入らないくらい。

 実際、走るレベルの高負荷な運動が厳禁なだけで一応歩けはするし、日常生活に大きな支障はない。クラシック三冠に狙いを定めているウマ娘は基本、春から始動するのもあり次走には間に合う。

 怪我を許容して良い理由にはなり得ないが。

 

「ディクタストライカは、残念でしたね」

「でもダービーには戻ると言っていました。だから必ず、来ます」

 

 ——あー……こりゃ多分皐月賞は無理だな。

 ——………………。

 ——ただダービーには間に合わせる。いや……間に合う。そこで待ってろ。

 ——はい。

 

 病院のベッドの上。包帯巻きになった片足が紐で吊り下がっている。

 痛々しい。ただディクタストライカは、そういうものを感じさせずに言った。

 

 筋断裂と関節炎。

 シンボリエウロスのそれよりも明らかに重い。

 筋肉の繊維が一部断裂し、更に関節部が炎症しているのだ。

 しばらくは脚を動かす事が難しい。そんな容態である。

 

 上がり3Fジュニア級世界最速を叩き出していながらシンボリエウロスの方が脚にダメージがないのは訳がある。

 才能や実力、筋肉の質や適性、普段のトレーニングの差など細かい部分はあるが、まず前提は走り方の差だ。

 

 800m。

 30〜40秒を超えた全力疾走。

 無呼吸で筋肉に保存出来るエネルギーを使い果たしても尚走る事を継続したディクタストライカは極端な話、筋肉が餓死しながら走っていたに近い。

 対しシンボリエウロスは、本当に意味の分からない速さの末脚を出してはいるが、きっかり600m、上がり3Fからの加速で済ませている。

 その差がレース後の消耗と脚へのダメージの差を明確に分けた。

 

 シンボリエウロスは約2ヶ月の休養だが、経過によって回復は早まる可能性はある。

 ただ恐らくディクタストライカにはない。

 約2ヶ月と約4ヶ月。数字以上に、この差は大きい。

 

「領域、か」

 

 そして、そんな怪我を生み出せるほど走行中に限界を超えさせるものがある。

 ディクタストライカの怪我が大きくなったのは、間違いなくそれだ。

 確信がある。自分もそうなのだから。

 

 ——エウロス。お前が思い出した"それ"は領域と呼ばれている。

 

 切り出すのが少し怖くて、今まで黙っていた。すまない。

 口火にそう呟いて姉は言った。今まで具体的な名前だけは知らなかった世界の話を。

 

 領域。

 時代を創るウマ娘が踏み入るという、限界の先の先にある世界。

 自らが知らない豪脚すら使えるほどにパフォーマンスを向上させる固有の切り札。

 

「そんなものが、本当に実在すると?」

 

 ディクタストライカとのお見舞いを済ませた病院からの帰り道の車内。

 シンボリエウロスの呟きに、樫本理子が訝しげに反応する。

 

「名前すら知りませんでしたか?」

「……………都市伝説的なオカルトとして、名前だけは。領域(ゾーン)とも呼ぶと」

「なるほどゾーン状態だと。確かに言い得て妙ですね」

 

 感覚は研ぎ澄まされ、周りの景色や音などが意識の外に排除され、驚異的な集中力とそれに比例した結果を出せる。

 それがゾーン状態と呼ぶもの。

 人類のアスリート選手に良く起こり得る現象であり、ゾーンは実在するものである。

 

「まぁそういうものなのでしょう。

 ルーティン……特定の手順を踏んで、意図的にゾーンに入るなんてのも普通の話です。

 ゾーンに入ると疲れを感じなくなり、代わりにゾーンが切れた瞬間、一気に疲労が噴出するというのも良く聞く話です」

 

 ただ人間の超集中状態であるゾーンと、ウマ娘のそれは何か違う趣きを感じる。

 何ならシンボリエウロス本人は、

 

 ——自らが知らない豪脚……あぁこれウマソウル由来の奴だな。

 

 くらいの認識をしているが、樫本理子にそこまでの説明はしなかった。

 樫本理子がオカルトに懐疑的なのもあるがただ単純に、シンボリエウロスは領域にあまり魅力を感じていない。

 

「えぇ。貴方の場合それよりも優先するものがあります。頼る必要はないでしょう」

「はい」

 

 領域に踏み入る。

 だがそれはあくまでも一時的だ。

 最初から最後まで……要はレース全体の趨勢を変えるものじゃないし、体力の消耗も大きい。

 レース中に体力を消費するだけなら良いが、怪我や故障に繋がる可能性もある。

 

 領域とは、限界の先の先に到達する為のもの。

 

 限界を超える、と言えば聞こえは良い。

 だが本来限界とは超えてはならないものである。

 限界を超えた代償に、壊れる。

 限界という名の安全圏よりも外側に行って戻れる保証などない。

 

「(だからと言って必ず壊れる訳ではない事は、皆が証明している。多分、私の姉が特に。後は……幼少期の私)」

 

 思えば、幼少期の自分は危ない事をしていたのだろう。

 だから樫本トレーナーが止めた。

 

 幼少期で力が伴っていない。

 だから自らの才能で自らの脚を踏み砕くほどの力はなかったが、あのままを続けていたらどうだったか。

 

「(限界の先の先を引き出しても自壊しない領域がある……或いは壊れ易くなるだけで、必ず怪我に繋がる訳ではないのかもしれない。もしも使いこなし制御出来るのなら、或いは)」

 

 ——どうやって?

 

「(……領域には条件がいる。逆に言えば状態さえ満たせば領域に入れる。つまり己と向き合って成立させる状態を知り、理解し、そういうレースをすれば使いこなせる)」

 

 その事は感覚で理解していた。

 条件も何となく分かる。

 

 だがそれでも、領域は限界を超える為のものだ。

 壊れなくても疲労は溜まる。擦り減る。だとするなら未来の競走人生の前借りに等しい。……筈だが、断言するには情報が足りなかった。

 

 ウマ娘の神秘の中で、代償や崩壊の事は考えるのは徒労なのかもしれない。

 しかし厳しい現実は、いつだって目の前にある。

 神秘と現実。その天秤の釣り合い。或いは狭間に、きっと領域がある。

 文字通り、未知の領域。

 

「(そもそも条件があるとするなら、前提である条件が変われば領域は異なる。

 故にウマ娘個人個人によって領域の種類や性質は異なるし、私と同じと考えない方が良い。代償に必ず壊れるとも考えない方が良い。きっとこれは、何処まで行っても固有の技術だ。

 ………条件が変われば、領域は異なる。ならば個人が別種の領域を複数持ち得る事も——)」

 

 そこまで考えて、シンボリエウロスは脱力と共に思考を止めた。

 領域には分かっていない事が多すぎる。

 停滞を良しとせず新たな可能性を模索する必要は勿論分かるが、何でもかんでも可能性を広げる行為は別に美徳でもなんでもない。ただ見境がないだけだ。

 

 まずは、基本と基礎。勝利する為の土台を。

 そしてそこまで行ったら新たな方向に発展させていくより、領域が介入してもどうしようもないくらいのレース展開で封殺すれば良い。

 自分にはそれが出来る。

 何なら領域を切り札とするウマ娘に、領域に踏み入れさせないレースをさせて破綻させるのも有効だろう。

 

 私が、領域を頼る必要はない。

 私には領域以外に頼れるものが沢山ある。

 勝ち方は、選べる。

 

 誰よりも深い深度の領域を持ち、その性質に於いてもほぼ完全に的を射ていた筈のウマ娘は、特に何の未練もなく領域への拘りを捨てた。

 

「(風も音も光も消えた世界。空を飛ぶような感覚。アレを知っているのは、未来永劫私だけで良い)」

 

 捨てた上で——必要に駆られたら躊躇いもなく無慈悲に使う。

 自分が敷いたレース展開の檻を破って来た者に敬意を込めて。

 領域に対するスタンスはそれくらいで良い。

 

 ただ、だからこそ。

 

「私が負けるとするなら、それでもたった一つの勝ち方を貫いた者に破れるのでしょうね。阪神JFでそれが良く分かりました」

 

 ディクタストライカは当然として、もう一人いる。

 

 ——メジロワース。

 重度の管骨骨膜炎。約6〜12ヶ月の長期休養。

 彼女はディクタストライカのようなスパートはしてないし、シンボリエウロスのような末脚も解放してない。

 だが彼女は阪神JFに出走したウマ娘の中で最も重度の故障をした。もしかすると選手生命が終わるかもしれないほどの。

 だからと言って怪我に相応しいと称するのは酷く上から目線だが、決死の覚悟と行動がシンボリエウロスの『絶対』を貫き通したのは事実である。

 シンボリエウロスはあの日、メジロワースによって負けかけた。

 

「………何から学んでいきますか」

「全て。脚が疼いて仕方がないので、せめて頭を回したいです」

 

 疼く。ウマ娘として欲求が少し抑え切れていない。

 それは実際に、メジロワースと対面してから強くなった。

 わざわざメジロ家傘下の企業が運営している総合病院まで行って、お見舞いをしに行った時に。

 

 ——ごめん、全然勝てなかった。だからアルダンちゃんに託すね。

 ——………………。

 ——あっ! 私の事は心配しないで! クラシックレースはもう出走出来ないけど……それ以外に走れるレースはあるし、障害レースだってある。

 

 大丈夫。気にしないで。ちゃんと吹っ切れたから。

 そう呟くメジロワースと、聞いていたメジロアルダン。

 何となく踏み入り難い雰囲気のある一室の扉を、勢い良く開けて入って来た闖入者、シンボリエウロス。

 

 ——こんにちは。

 ——あぁ、こん………!?!?!?

 ——お見舞いに来ました。これは花と果物です。どうぞ。

 ——え、あ……ありがとう。……あ、あの。

 ——レース中の接触はお気になさらず。私が悪いので。後私が今巻いている脚のテーピングなども自業自得なので。

 ——あ、うん……はい………。

 

 手短に早く。

 洞察して会話内容を短く。

 そう言う風に喋るシンボリエウロスに、メジロラモーヌとは別方向に尖りながら似たような圧力を感じていた、隣で喋る暇がなかったメジロアルダン。

 及び普通にシンボリエウロスが怖いメジロワース。

 

 ——あの、シンボリエウロス………さん。

 ——はい。

 

 まるで気安い友達かのように、普通にポスッと椅子に座って会話する姿勢を取ったシンボリエウロスに、耐え切れなくなってメジロワースが呟いた。

 

 ——復帰しても多分、もう貴方と走る機会はないと思う。

 ——はい。

 ——だから多分、私は障害レースの方にいくと思う。

 ——はい。

 ——貴方よりずっと長く走ってやる。

 ——…………。

 

 虚を突かれたか、一瞬瞳を開く。

 僅かな間を置いて、シンボリエウロスは堪え切れなかったように、笑った。

 

 ——ハハハ。

 

 体裁は失ってない。

 少し俯いて、手で口元を隠し上品に笑う。

 ただ手の隙間から見え隠れする……獣のような牙だけは隠せていなかった。

 

 ——私の同期に、シンボリクリエンスとシンボリモントルーというウマ娘がいます。

 

 落ち着いたシンボリエウロスは、微笑んだまま続けた。

 

 ——二人とも凄まじく強いです。障害レースという枠組みで、未来永劫塗り替えられないだろう記録を出したり、何十年も越えられない記録を出すだろう子です。間違いなく障害レースの王者になります。障害レース最強ウマ娘の一人に両名が名を連ねてもおかしくないでしょう。

 ——え……え?

 ——そんな二人に貴方が勝つ。そういう未来を期待しています、メジロワースさん。どうやらシンボリとメジロの因縁は、障害レースでも続きそうですね。

 

 待って。待って。ウソでしょ……。

 そういう表情をしているメジロワースにニッコリと告げた後シンボリエウロスは帰って行った。台風のようなウマ娘だった。

 

 メジロワースは知らない。

 今後も長く続くシンボリとの因縁と、波瀾万丈の生涯を。

 そして自分が障害戦線最強格のウマ娘となり、その知識と経験が後のメジロ家全盛期に輝いた三名のメジロの一人、メジロパーマーというウマ娘を救う事も。

 

 ——ア、アルダンちゃん……!! もしかして今のって処刑宣告!? 障害レースに行こうがシンボリ家はお前を狙っているぞって脅し!!!??

 ——えっと……多分違うんじゃないかなと……。

 

 ついでに、シンボリエウロスを精神的に焚き付けた事も知らないまま、メジロワースは震えていた。

 

 

×        ×         ×        ×

 

 

 阪神JFから1週間経って何かが大きく変わる事はなく、中央トレセンでは新年前の忙しさに包まれていた。

 時期を考えると、大体の生徒が帰省準備を進めている頃合いである。

 名門生まれのウマ娘であれば、家で貴族のパーティーさながらの忘年会があるかもしれない。

 

「落ち着いたか?」

「ずっと落ち着いてはいるよ。ただ何となく欲求を持て余しているだけで」

 

 そして、その貴族さながらの筆頭格二人。

 姉と妹は、忙しなさを感じさせず生徒会長室で対面していた。

 

「いや、そちらではなくてだな」

「……あぁ。メディアとか取材とかの話なら大丈夫。トレーナーの力もある」

「なら良かった。こういう時にURA関係者がいるのは力強いな……あまり公然と言う事じゃないが」

 

 ——『天翔るウマ娘』

 シンボリルドルフの手元にある新聞の見出しには、大きく評されていた。

 当然、妹の事である。

 

 ジュニア級、6戦6勝無敗。

 ジュニア級、重賞レース最多記録更新。重賞レース連勝記録更新。

 ジュニア級、上がり3F及び2F、世界最速。

 

 規格外にもほどがある。

 もはやシンボリエウロスは、大地を駆けるウマ娘ではない。

 走り方。勝利の仕方。戦績の強さ。そして速さ。

 その全てが、空を飛んでいるに相応しい。

 彼女は天を翔ると、世間が認めたのだ。

 

 鉈の切れ味。暴風。と来て三つ目。

 大地弾む豪脚。天衣無縫。ターフの偉大なる演出家。のミスターシービーにタメを張る事が出来たという訳だ。

 要はそれくらいに世間の注目度は高い。メディアや取材はこぞって来る。

 そこにシンボリ家の忘年会もあるし、年度代表ウマ娘の贈呈式……通称『URA賞』も控えている身だ。

 

 はっきり言ってシンボリエウロスは今非常に忙しい。

 トレーニングを行う時間は確実に削られている。

 その忙しなさを感じさせないのは、勝者の責務としての自覚があるのと現在休養中であるのが重なっている為だが、姉は妹が気掛かりだった。

 自らの忙しさを棚に上げて。

 

「姉上は?」

「私か? 私はまぁ日常坐臥いつも通りと言ったところだな」

「そっか。じゃあ……気にしない事にする。姉上も私の事を気にしなくて良い。だから今から私に頼み事をしても大丈夫」

「………困った。お見通しという訳だ」

「困る事なの?」

「いや——いや困る事じゃないさ、うん」

 

 シンボリルドルフは、意外と気分が弾んでいる自分に気付いた。

 頼りたい時に躊躇がないどころか此方の戸惑いすら踏み越えて力を貸してくれる存在がいるのは、案外嬉しい事なのだと。

 それはそれとして、自分の事をもっと頼って欲しいとも思っていた。姉としてのお節介だった。

 

「それで、頼み事は?」

「ん、あぁ。……その前に一つ話を聞いて欲しい事があるんだが……地方から中央に行くウマ娘の人数をエウロスは知っているか?」

「…………………」

「エウロス?」

「いや、うん。何でもない」

 

 例えるなら——あぁなるほど………と言った表情を一瞬だけ見せて、エウロスは答える。

 

「一年で凡そ400。今の時代は」

 

 地方から中央に行って活躍するウマ娘は非常に珍しい。

 だが地方から中央に行く事自体は、凄く珍しい事ではない。

 地方転出してから中央復帰する元中央ウマ娘も含めたら、更に数は増えるだろう。

 時代が進み、とある"芦毛の怪物"を狼煙に地方と中央の交流が盛んになればこの総数は引き上げられ、最終的に1000を超える数になる。

 

 地方のウマ娘が中央に移籍して初勝利出来る確率、約9%。

 この数字が向上する事はないが。

 

「地方で、中央にスカウトしたいほどのウマ娘がいた?」

「……あぁ」

 

 故にそれは然程、特別と言う訳ではない。

 地方から中央に来て活躍出来たら特別だが、地方で一騎当千の活躍をして中央の扉を開く者と、実力を見出されスカウトされるウマ娘の合計は数百に登る。

 言葉を大きくして言う事ではないが、毎日中央を去るウマ娘はいるのだ。当然、その代わりも。

 

 強いて言うなら、あのシンボリルドルフがスカウトに動いたところが特別だが、多分シンボリルドルフが動くレベルなら普通に別口からスカウトが行っただろう。

 ある意味、シンボリルドルフは保護に動いたと呼ぶ方が適切かもしれない。

 

 全てのウマ娘に幸福を。

 シンボリルドルフは、生徒会長としての権力の使い方を知っている。

 強権ではなく、守護の。

 

「じゃあスカウトすれば良いと思うけど……どうしたの」

 

 そのシンボリルドルフが、何を悩んでいるのか。

 まぁ"あのウマ娘"の事なんだろうなぁ……と半ば確信しつつやんわりと聞けば、姉は口を開いた。

 

「スカウト自体はしているんだ。ただ……2ヶ月ほど進展がない。返事も芳しくない」

「級が変わる新年明けを待っているとか、3月4月の春から始動するのを予定しているとかではなく?」

「あぁ」

「あー………」

 

 基本的に断る理由がないので、地方ウマ娘がスカウトを受けたらまず中央に行く。数百を超える実数もある。

 つまり今、その基本に当て嵌まらない例外が起きているのだ。

 進展がないならまだしも、返事が芳しくないという事は何かしらの齟齬が起きているという事。

 例えば、トレーナーとウマ娘側の齟齬とか。

 

 ——い……いえ、むしろ此方こそというか……。

 ——そう畏まらず。我々はあくまで招請を乞う立場です。もう少し裃を脱いで頂けるとありがたい。

 ——いや、そんな……。

 

 シンボリルドルフは以前、目をかけたウマ娘のトレーナーと通話越しに会話した事がある。

 その時は、生徒会長の自分に緊張しているのかと思った。

 シンボリルドルフは立場柄そういう相手と接する機会は多いし、故に親しみやすく気さくな態度を心掛けている。

 功を奏しているかは兎も角として、そもそも心掛けなければ改善していかない。

 

 ——それで—————の返事は?

 ——あぁ……それが………まだ考えている最中で………。

 

 だが明らかに、緊張しているだけではない。

 通話越しに分かった。あの反応は、何か含むものがある人間の返答だと。

 

「……エウロス。私が目をかけたウマ娘は、お前と同世代なんだ。

 それでここからが頼み事なんだが、明日そのウマ娘のレースが地方の、笠松で行われる」

「……………」

「少し付いて来てくれないか?」

「分かった——良いよ」

 

 地方と中央の交流は、まだ盛んではない。

 この時代、まずはと地方同士の連携を進めている段階であり、中央との交流重賞はほぼなく、条件や規則は大きく異なる。

 

 それを変えていく、狼煙のウマ娘。

 芦毛の怪物。

 静かに、その邂逅が近付いていた。

 

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