有効射程距離25バ身   作:sabu

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 今更ながら、前々話のルナお姉ちゃんの一文に集まったここ好き者数とここ好き総数が、4月9日時点で前者は152、後者は1046と見た事もない記録を叩き出していました。
 (前者は6で赤評価。後者は30で赤評価)
 もしもここ好き総数大会が開催された場合、私はルナお姉ちゃんを切り札にして戦いに挑もうと思います。
 ルナお姉ちゃんに、ここ好きを押してくださった方々、大変ありがとうございます。
 


4/1 春のファン感謝祭 2/3

 

 過去最大の規模。比例した歴代最高の集客率。

 今までで一番力を入れましたが人は全く来ませんでした、などと全く笑えない状況になる事はなく、まずは好調な滑り出しを見せた春のファン感謝祭。

 しかし予想して然るべきだったと言うべきか、彼女達クラスメイトの企画の執事喫茶は、ある問題に直面した。

 

「うわぁぁぁああっっ!!?? 行列が永遠に捌ききれないぃぃぃっっ!!!」

 

 端的に言うのなら、めちゃくちゃ忙しい。

 一人のウマ娘が頭を抱えて絶望していた。

 

 本当に、人が途切れない。

 春のファン感謝祭そのものが凄まじい規模の集客率を誇り、故にその人数分だけ食事所が必要になった結果である。

 シンボリエウロスとメジロアルダンの発案により、この執事喫茶は当日一般開放されたカフェテリアと連携しているしで、それは顕著であった。

 

「来年から整理券を配ったり抽選式にしたりと、まだまだ改善の余地はありそうですね」

「っ……エウロスさんッッ!!」

 

 数えるのが億劫になる人の数を前にしながら、元凶の一因を作り出した側のシンボリエウロスは何処となくのほほんとしている。

 彼女に向かって放たれた若干の焦りと怒気は、軽く躱された。

 

「今からなんとかしましょう」

「エ、エウロスさん………?」

 

 まさか本当に、余裕なのか。

 希望はちゃんとあるのか。

 彼女は徐に携帯電話を取り出し、何処かに連絡を始める。

 

「大丈夫です。当てはあります」

「エ、エウロスさん……!!」

 

 ガバッ……と腰にしがみ付いて来るクラスメイトの頭をポンポンしつつ、ひとまずシンボリエウロスは万能の才覚者である樫本トレーナーに事の詳細を伝える。

 体力と運動神経を除けば、と枕言葉に付くが、樫本理子は万能である。

 逆に身体能力のセンスを大幅に犠牲にするという縛りで、その他あらゆる分野の才能を手に入れてしまったと表現して良い。

 しかもURA職員。更には幹部。

 

 そんな人材を結構軽く動かせる事実に、実は自分凄まじいコネを持っているな、と思いつつシンボリエウロスは続けた。

 

「今から人員を増やすのは難しいですが、他のクラスメイトや空き時間の子に協力を募るよう連絡網を回しておきます。並んでいる方々には他の文化系の催しを勧めつつ、人数超過の旨を伝えましょう」

 

 急拵えだが、前者はまずやっておかなくてはならない。

 後者は、今から急に締切や人数統制を行う都合上ファンの善意に頼る事になる訳だが、ここは如何に不満を分散させるか、心情を上手く慮れるかが鍵だ。

 

 取り敢えず自分は、時間交代をやめる。

 午後で午前で、執事喫茶を行うウマ娘とファン感謝祭を回って遊ぶウマ娘が交代する方針が取られている訳だが、別に自分は見に回りたいものがないから、これは必要ない。

 

 喉への負担も恐らく問題ない。

 

 休みが消えるという事は、接客業で喋らないといけない時間が延びる事になるが、それでもレースやウイニングライブと比べたらマシだ。

 絶対的に心拍数が上がり、故に必要な酸素量が増大するこの二つと比べたら、会話する程度なら心拍数は上がらない。

 いってしまえば、大声を上げたり声を張り上げたりしなければ問題なく、小声で囁くような会話を心掛けるなら会話の量は普通の人と同じで良いのだ。

 

 ならもういっそ、昼休憩も自分はなしで良いか。

 

 今から樫本トレーナー経由で連絡して、昼休憩の時間に簡易的な握手会を捩じ込んで貰おう。

 恐らく、勝負服で給仕するシンボリエウロス目的で執事喫茶に来ている人は多い。

 そんな方々を説得して、昼休憩時の企画に流せば、待機列の人数は幾らか減る。

 昼休憩中は、在校しているウマ娘達がカフェテリアを利用する時間になり、ファンの方々が執事喫茶目当てで来る人が減るので、タイミング的にも丁度良い。

 

 よし、何ならもう、余裕のあるクラスメイトの何名かも握手会に巻き込もう。

 筆頭はオグリキャップにして巻き込むか。

 オグリキャップは何気に女性ファンが多いから、そこも効果があるだろう。

 なら次は——

 

「エ——エウロスさん……っ!!」

 

 というように、自らのトレーナーの協力も借りて急速に形作っていく姿に、彼女達は思った。

 もしかしたらシンボリエウロスは、意外と優しいウマ娘なのかもしれない。

 何なら結構、世話焼きなのかもしれない。

 頭をポンポンされているクラスメイトの一人は、そう思った。

 

「ここが踏ん張りどころなので、頑張っていきましょうか」

「うん!!!!」

 

 ほどなくして良い方向に人が減り始め、他の屋台や文化系の企画、現在グラウンドで行われている球技大会へ人が流れ、待機列が捌けるようになってから、ある変化が訪れた。

 今度は、ウマ娘が多くなって来たのである。

 在校するウマ娘ではない。

 学園外の幼いウマ娘、もしかしたらいずれ中央に入学するかもしれない若駒達だ。

 

「いらっしゃいませ、御客様。お一人様でよろしいでしょうか」

「……わぁ」

「よろしければ御手を。私がご案内します」

 

 ウマ娘と言えど小さい子が一人で来るのは大丈夫なのか。

 いや……人数制限の事が広まった関係で、親御さんが是非この子だけはと送り出したのかな。

 と思いつつ、念の為ちゃんと手を繋いで案内する。

 幼少期、病弱だった頃に自分が如何にエスコートされていたかを思い出しつつ、彼女は執事の業務を繰り返した。

 尚全くの余談であるが、ここに来ている若駒のウマ娘達の大半は、別に親御さんが送り出した訳ではなく、単にシンボリエウロスが目的の子である。

 

 実はだが、シンボリエウロスは女児人気が高い。

 物心付いたばかりのウマ娘からは特にだ。

 

 まず一例の一つが、彼女の脚質と走法にある。

 

 総合的に見て、脚質は先行と差しが一番強い。

 だが言葉を選ばなければ、この二つは分からないがいつの間にかスルッと勝っている、という印象になりがちである。

 かの『皇帝』が正にそうであった。

 ウマ娘レースに於いて最も重要なレース展開は、傍から見ると大半は良く分からないのだ。

 

 しかしシンボリエウロスはどうだろう。

 追込。最後方。最速の末脚。

 更には最後方のみならず、数十バ身近くの差を、最後の最後で一気に覆す。

 これより豪快な勝ち方はない。

 対となるのは大逃げくらいだが、大逃げは強さの証明である。

 そしてシンボリエウロスの追込は、弱さへの反発、逆転の証明だった。

 

 圧倒的に不利。どう考えても届かない。普通ならもう終わっている。

 そんな状況から勝つのは、とにかく映えるのだ。

 米国に於いてのみ、『彗星』シルキーサリヴァンが、マンノウォーやセクレタリアトを凌駕しかねない、ある種狂気的な人気を誇るのはそういう理由が強い。

 

 無論、一応それだけなら大衆的人気があるに留まる。

 

 勝ち方が分かりやすいから幼いウマ娘でも印象に残り易く、唯一無二の走法に憧れを抱く、という面はあるが、圧倒的女児人気を獲得するにはもう一押し足りない。

 その、もう一押し。

 二つ目の例。

 

 シンボリエウロスは、見た目が矮躯な少女であるのが大きかった。

 

 小柄。身長が小さい。

 一応シンボリエウロスより小さいウマ娘はいるが、小さい以外にも細く、矮躯である事も考慮すると、シンボリエウロスより体が発達していないウマ娘は中々いない。

 クラシック路線というトゥインクル・シリーズの中心ど真ん中を歩み、敗北知らずで圧倒し続けている事を加味するなら唯一と言っても良い。

 

 では矮躯なのがレースで如何なる影響を生むのかの話だが、まずウマ娘は体が大きい方が有利である。デメリットよりもメリットの方が多い。

 勿論、度が過ぎれば話は変わるが、あまりにも例を逸脱しすぎればその限りではないのは、あらゆる分野に纏わる話だ。

 

 まず体が大きい方がパワーが出せる。

 競り合いにも強く、消耗戦にも優位に立ちやすい。

 体が丈夫なので怪我や故障に繋がり難く、安定しやすい。

 

 そして、いっぱい食べられる。

 

 いっぱい食べられるから体が大きいのか、体が大きいからいっぱい食べられるのかの話になるだろうが、これは相乗効果だ。

 厳しい言葉にするのなら、富める者は富み、貧しき者はますます貧しくなる。

 これはブラッドスポーツと呼ばれるウマ娘レースの世界の縮図とも似ている。

 名門はどんどん発展し、寒門生まれはどんどん縮小していく非情な現実と。

 

 そんな中で、シンボリエウロスは体が小さく、生まれ付き不利を背負っている幼いウマ娘達からの人気が高かった。

 尤も彼女はシンボリという名門中の名門出な訳だが、じゃあなら何で矮躯で小食なのに強いんだよと、シンボリ家という血統から見ても突然変異種としての側面が強すぎて、得てして彼女は名門から見ても寒門から見ても、幼く小さいウマ娘の星になっていた。

 

 一種の英雄性とでも言うのだろう。

 

 奇しくもその『英雄』という言葉は、後の世でとある小柄な追込ウマ娘にも付けられる。

 最強の追込ウマ娘は誰だという話題で、必ずシンボリエウロスと対になって名を挙げられるウマ娘。

 大地に衝撃を残し、再び空を飛んだウマ娘へと。

 

 ——あの……ありがとう、ございます。

 

 それは午前の執事喫茶が終わり、急遽一つの教室を借りて行った握手会。

 握手会になっても幼いウマ娘達が大半で、どうなってるんだろうなぁ、ファンの方々の民度なのかなぁ、凄いなぁ、とシンボリエウロスがぽやぽや思っている途中の話だった。

 

 淡い鹿毛。体が小さく幼いウマ娘。

 特徴を挙げるとするなら、耳が大きい。

 一人を好むだろう気難しい雰囲気をしたウマ娘が、シンボリエウロスの握手会に現れた。

 

 ——力になれたのなら嬉しいです。何かありましたか?

 

 握手を求める訳ではない。

 笑顔を浮かべて、出会いを喜んでいる訳でもない。

 聞き返す。

 

 自分が、明らかに今までのウマ娘達とは態度や雰囲気が違った事を察したのだろう。

 貴方には全然関係ない話だし、これは自分の問題だったんですけど、と前置きして、小さい鹿毛のウマ娘は俯きながら言った。

 

 ——アタシ、チビを理由に学校でイジメられてて……。

 

 同級生の男子からは揶揄われ、女子からは仲間外れにされる。

 私はウマ娘じゃないけど、タイシンちゃんには走るの勝てそうとも言われた。

 そんな過去。

 

 ——だけど、貴方が活躍するようになってから、それがなくなって。

 

 そう、過去だ。

 今じゃなくなった。

 

 そのウマ娘の活躍を知らない者はいない。嫌でも絶対に目に入る。

 小柄で矮躯だった。聞くに食も細いらしい。

 事実、レースの場では一番小さい。周りにいるのは10cmも20cmも大きいウマ娘達。腰付きや体付き、バ体と俗称される体周りの体格は本当にすらっとしている。

 だけど彼女が一番強い。一番速い。

 遥か彼方。一つのカメラでは映り切らないほどの最後方から、鬼のような末脚で逆転する。

 ゴールを迎えた後、全員のウマ娘が膝を突くか息を切らしている中、一人だけ当たり前のように立っている。

 

 何より近寄り難く、一人を好む雰囲気を隠しもしないものだったのが、恐らく大きかったのだろう。

 今日この場に来た、鹿毛の幼いウマ娘が正にそうだったからだ。

 

 驚くほどぱたりと、イジメはなくなった。

 周囲からは距離を置かれるようになったが、悪意ある存在達とは関わりたくもなかったし、自分の性分にもあっていたから別に良かった。

 噂に聞く彼女も、孤高な存在として距離のある関係を周囲と築いていると聞けば、何ら苦ではなかった。

 

 ——だから、ありがとうございます。ずっと、応援します。

 ——………………。

 

 そんな事を小学一年生のくらいの子から聞いて、思う。

 この子めちゃくちゃ良い子だなと。

 

 人間がウマ娘に向かって、走っても勝てそうと言う。

 これはこの人間が、如何に世間知らずで現実を知らないかが浮き彫りになる言葉だ。

 子供という一面を切り取ったとしても。

 

 当たり前だが、人類という種族は100mを10.00秒で走るのがほぼほぼの限界である。

 だがウマ娘は1F……ようは200mを11〜12秒で走破する。

 どんなに遅くとも、才能がなくても、幼少期でも、まず16〜17秒で走れる。

 つまりウマ娘は、種族単位で100m9.00秒を簡単に切れる。

 人類の最高位が、才能を持たざるウマ娘の本格化すら始まっていない時期に、手も足も出ず身体能力で敗北するのだ。

 

 ………理解出来ません。ウマ娘に人間が勝てる訳ない。

 

 仮にこんな言葉をウマ娘から言われても、人間は甘んじて受け入れるしかない。

 つまりだ。

 この子は、如何なる言葉を投げ掛けられても、決して力で訴えなかった。

 一度だって、自分がウマ娘という種族である事を誇示しなかった。

 自分が本気で手を出したらどうなるか分かっていて、どんな仕打ちも耐え続けて来た。

 

 だからこの子は、信じられないくらい優しくて、良い子なのだ。

 今まで本当に良く頑張って来ましたね。偉いですよ。たとえ周りが貴方を否定しようと、私は必ず貴方の味方になりますからね。

 

 ——…………っ。

 

 そんな事を口にした瞬間、泣かれる。

 ずっと抑えていたものが、遂に決壊したように瞳を涙で濡らす。

 唯一功を奏したのは、そのウマ娘は静かに泣いていた事だろう。

 声を押し殺すように、彼女はぐすっと泣いていた。

 

 ——う゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!!! 感゛動゛的゛た゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!

 

 功を奏してはいなかった。

 慌てて泣き出した鹿毛の子の背中をさすって泣き止ませようとしていると、付近にいた黒鹿毛の幼いウマ娘が、凄い勢いで泣き出したのだ。

 凄まじい絶叫。集まる注目。

 先程まで泣いていた、耳の大きな鹿毛のウマ娘が逆に泣き止み、うっさ……何コイツ、と言うような目で見るほどの声量は、当然周囲からの視線を集める。

 

 もはや抑え切れない。というか泣き声を抑えられない。

 シンボリエウロスは慌ててその子の背中をさすったり、屈んで頭を撫でたり、声をかけて泣き止ませようとしたが、極めて無力であった。

 

「あの……どうすれば良いですか、これ」

 

 その姿が如何に映ったのかは分からない。

 が事実として残ったのは、複数名の幼いウマ娘に囲まれ、足をペタペタと触られているシンボリエウロスの姿である。

 

「ふふふ……もしかしたらエウロスさんは、意外と懐かれやすいタイプなのかもしれませんね」

「あらあら」

「クラスメイトの皆さんからも、いつの間にか慕われていらっしゃるみたいですし」

「あらあら」

 

 のほほんと呟くメジロアルダンは、恐らく力にはならない。

 周りのクラスメイトは我関せずを貫いているか、へへ……ウチらのボスにも案外カワイイとこあんじゃん……と言った態度である。一体どうしたのか。

 

 後さっきから、いつもの頬に手をやる淑女スタイルで、あらあらと微笑んでいるスーパークリークは何なのか。

 耳が後ろに反り返っているのも何なのか。

 子供に囲まれているのがそんなに羨ましいのか。

 

「………楽しいですか」

「うん!!!!」

 

 自分でどうにかするしかないらしい事を悟り、目線を下にやれば、勢い良く返って来るのは肯定の言葉。 

 執事喫茶の時間中、他クラスメイトは自らのファンや親族の人との関わり合いが多かったというのに、小さいウマ娘達に囲まれてばかりのシンボリエウロスは明らかに異様である。

 

「…………もう」

 

 小さく溜息を吐いて、付近の座椅子に座る。

 なすがままにされる事に選んだシンボリエウロスは、とりあえず一人のウマ娘を抱き抱えて、背中をさすった。

 傍から見ると子供をあやしているようにしか見えず、実際にそうなのだが、これが意外と好評らしい。

 当然その間も、勝負服から覗く素足はペタペタと触られている。

 耳はさわさわされているし、ほっぺはむにむにされている。

 

「…………」

 

 無論、全員がそうという訳ではなかった。

 非常にモッフモッフした髪の毛を持つ、デカイ芦毛。

 その後ろに隠れながら此方の様子を伺っている黒鹿毛。恐らく姉と妹。

 そんなウマ娘達もいたりもしたが、とにかくシンボリエウロスは非常に子供に懐かれていた。

 

「そろそろ時間です」

「えぇー!!?」

「えぇーではありません」

 

 拒絶。かなりの。

 もっと遊びたいのに! と抗議している子供と何ら変わりない。

 実際にまぁ、遊ばれていた訳だが。

 

 しかしここで甘えたり、流されてはいけない。

 シンボリエウロスは心を鬼にして、足にしがみ付いているウマ娘達をひっぺがした。

 鐘の音が鳴っているのだ。

 チャイムの後に響く学内放送が、昼休憩の時間の終わりも告げている。

 

「今から午後の部、執事喫茶の催しです」

 

 ブーイング。

 若干泣いているウマ娘もいるかもしれない。

 こんなにも短期間で懐かれるものなのか……と言われたら、まぁそうなのだろう。子供だし。

 

「つまりこれは、どういう事かと言うと」

「………?」

 

 ふわふわと適当な事を考えながら、悲しい表情をしている子の頭を撫でつつ、シンボリエウロスは毅然と呟いた。

 

「お嬢様方。今からエスコートをします。御手を」

 

 一瞬の、間。

 次いで上がるちびっ子達の歓声の中心で、シンボリエウロスは一人のウマ娘の元に向かった。

 正確には二人。終始近付かず、遠巻きにこちらの様子を窺っていたウマ娘。

 

「ではまず最初は、貴女からですね」

「…………(ビクッ)」

 

 本当にあまりにも毛がモフモフしている芦毛のウマ娘の背中から、此方を窺っていた、実に臆病そうな黒鹿毛のウマ娘。

 恐らく姉妹であろう内の妹は、此方が近付いた瞬間、肩を震わせて姉の白い毛の中に隠れてしまう。

 

 何となくこれは自分が話しかけるより、姉の子が宥めるか妹の方が落ち着くまで待った方が良い事を悟ったシンボリエウロスは、目線を合わせる為に屈みつつ、彼女達の反応を待った。

 

「………なんで」

 

 ほら呼ばれているぞ。折角の機会じゃないか。

 そんな姉の声が届いたらしい。

 姉の髪の毛から半身だけ姿を現し、黄金色の瞳がシンボリエウロスを見据える。

 

「私の事が気になっているような気がしたので。違いましたか?」

「………違くない」

「では、御手を」

「…………」

 

 手を伸ばす。

 おずおずと、黒鹿毛のウマ娘は手を取った。

 

 傍らには沢山の幼いウマ娘。

 片手には黒鹿毛のウマ娘を連れて、カフェテリアに向かう。

 

 傍から見れば異様でしかないその光景だが、それを批判するような人はいなかった。

 ファンの方が空気を読んだのもあるだろう。

 結局、午後の部でも未だ幼いウマ娘が中心となった執事喫茶が始まった。

 

 未来、この体験を受けたウマ娘達が中央に入学する。

 後のファン感謝祭にて、代表的な恒例行事となるこの執事喫茶は、恒例行事になるだけの好況さと注目度を見せた。

 

 最終時間、隙間時間を縫って来店したシンボリルドルフの登場と、注文したオムライスに【お姉ちゃんへ】と描いて欲しい、という厄介発言に騒動が起こったりしたが、サービスを求められた妹が【大好きなルナお姉ちゃんへ】と描く事による一撃必殺のカウンター技によって事なきを得た。

 

「……………」

 

 再び、マルゼンスキーとミスターシービーの生徒会メンバー(仮)によってズルズルと引き摺られていく姉を見送り、嘆息する。

 春のファン感謝祭は、粛々と終わりに向かっているのだ。

 だから何となく、最後の客がアレはやだな、と思って新たな来店客の対応に向かう。

 

「こ、こんにちは……!」

 

 最後のお客様は、ウマ娘だった。

 姉——シンボリルドルフと瓜二つの三日月の流星を、額に持っている。

 

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