聖錬北方開拓異聞   作:きちきちきち

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開拓町「レスロバ」

 

―――『鶴の機織り亭』

 

カーンカーン♪

 時世は日が昇り、町全体に時報を告げる鐘が鳴り響いた。

 そんな昼の訪れの頃である。

 喫茶店も兼ねる冒険者宿の様子は時間帯に応じて程よく賑わいを見せ、穏やかな時間(モラトリアム)を形成しているだろう。

 

 そんな中、宿の中二人の男女が言い合っていた。

 

「っち、こんな子守さっさと終わらせるぞ。準備してくるから待ってろ」

「むー、このおバカ!いった通り私は15よ立派なレディなの!」

【チンピラ】【ソロ冒険者】【夜鴉の如く】

 不審者の如く男は、外套を翻して不機嫌そうに宿の階段を昇って行くだろう。

 『鶴の機織り亭』の自分の借り部屋に、一度戻ってどうやら準備を整えるらしい。

 

 仮にもそんなこんなで話が纏まって。

 ギルドマスターであるナイスミドルの男はどこか苦笑して。

 

「はぁ、まったくもうツヴァイの奴も意固地だねぇ、あの子こそ徒党行動(パーティ)初心者なんだから、胸を借りるつもりでいけばいいのにさ、気を悪くしないでおくれよ」

「ううん。気にしないわ。全部全部私たちの力で見返してやるんだ」

 それはさておき、張り合ってた少女も力を抜いて。

 

 がやがやと騒がしい周囲の中、メニューを見て一番手軽なのを指さして注文する。

 

「ねぇ、マスター」

「なんだいビーンストーク君?」

【ギルドマスター】【料理人】【相儒の梟】

キュキュ……

 亜麻色の少女は昼飯を兼ねて軽食を、それはモンスターの肉を挟んだサンドイッチである。

 野生モンスターの臭みが微妙に残るそれをを口に運び、小動物のように頬張りながら。

 食器を洗う、ギルドマスターの彼に疑問を尋ねただろう。

 

「ちょっと知りたい事があってね、アイツが言ってる『鉱石病』(オリパシー)ってどういうってどういう物なのかな?」

「あぁ、中央から来た君はそういえば知らないんだね」

 彼女はそう、近くに知り聞きなれない単語を訪ねた。

 きっと"病気"の一種、反応から察するに知らない事を意外に思われる程の常識なのだろう。

 なんにせよ、知っておくべきことである。 

 物事を知らない事は罪ではないが、知ろうとしない怠惰でしかない。

 

 ましては。

 

「そう!子ども扱いしてくるいやな奴だけど、仮にも一緒に仕事するんですもの!」

 亜麻色の少女は、その大きな獣耳を揺らして、あくまで軽い調子に尋ねる。

 彼女は聖錬を旅をする中で知った。人には様々な"根"がある、と。

 相手を知るそれは基本だ。群れて生きていく全てにおいて、少なくともそう考えている。

 

「相手の事は知っておきたいの、それはあんな包帯でグルグル巻きで隠さなきゃいけない事なの?」

「まぁ、基本的には歓迎されてはいないものだね。だけど、ツヴァイのあれは大袈裟さ。警告を兼ねているのさ露骨に俺に近づくなって」

 彼女は近しいマスターの反応から、その包帯男を不審者と思いながらも恐れてはいなかった。

 きっと、亜人と同じで、付き合う適切な距離感のある話なのだろうと。

 

 マスターはやはり作業をしながら、少し考えて。

 

「さて、難しい事だから何処から話そうかね……、お察しの通り『鉱石病』(オリパシー)特殊な病さ、この『ユニオン連合』における風土病と言ってもいい」

「うん」

 彼はそして、一般に知られている様な概要をつらつらと並べていくだろう。

 聖錬北部『ユニオン連合』にて風土として根強く存在し、社会構造に根付いた鉱石病という存在を。

 

「症状としてはこれにかかった人間は、血中に属性金属が微量に流れ、身体の一部から属性結晶が生成され蝕み生えるんだ。その浸食源は患者によって様々、重要臓器果てには脳にまで、重症化すれば最終的にそれは肉体の殻を破って命を奪う」

「うげぇ想像するに痛々しいのね。致死性の感染症……?飛沫感染、接触感染、それともマナによる属性汚染かしら」

【研究者】

 亜麻色の少女は探究者として、サガからか事実を纏めて冷静に特徴を整理する。

 

 明確な病であるなら、次に重要な事はその感染経路(キャリア)である。

 それを知らねば対策の立てようがない。

 

「さっきまで近くに接してたというのに冷静だねぇ、ビーンストーク君。たださっきも言ったようにこれは特殊な病気なのさ属性症のようであり、それでいて生物的な振舞いもする―――」

 マスターはただ事実を客観的に整理する彼女に感心しながら。

 一呼吸おいて、重い話を続けるだろう。

 

感染経路(キャリア)は死体さ。『鉱石病』患者の死体。その生成された鉱石、大きくなるまでは周囲に拡がらない。まるで生物的な理性があるかのようにさ」

「……なるほどね。それで生物的な性質かぁ、仮に生者と死体を分けるなら"生命力"の有無なのかしら」

「おそらくね。そういう仮説はある。偉い先生に聞けば違う事実が出てくるかもしれない」

【生物学知識】【薬学知識Lv2/5】

 亜麻の少女は、少ない情報から推測する。

 感染者の治療を掲げる『ロドスアイランド』など団体はあるらしいが、それでも根治の方法が確立されていない"風土病"だ。

 

「……そして質の悪い事に、この『鉱石病』は、感染者に力を与えるのさ。必然か偶然か身体の中から宿主由来の属性結晶が生えるわけだから属性(オド)純度も高まり、利用できるわけだ」

 

 憂鬱に悩ましく、マスターはため息をつく。

 生まれに魔術知識による『設計魔術』(モールドマジック)などなくても、才能依存の比率が強い『精霊術』への適正は高まる。自身が高効率のマナの媒体を製造する。

 

 しかし、その事実は必ずしも祝福とは限らない。

 

「開拓地だからかここはまだましだけど、『ユニオン連合』全体では鉱石病の感染者は根強い差別の対象さ、ある日突然、不治の感染症へとかかった不安と周囲の排斥、その二つが合わされば暴力の訴えかける者も珍しくはない、その手段を、この病気は与え使えば使うほど病状は進行する」

 実に悪質な事だと、嘆くだろう。

 あぁ互いに不幸なことだというのに、どうしてと。

 ある意味暴力行為は普遍に平等であり、良くも悪くも現状を変えうる手段である。

 

 人は弱い。孤独となり不安を抱けば、そこに寄与してしまうのは仕方ない事だ。

 

「……。いやな話ね。争いが起きれば死体が増える、死体が増えれば感染者が増える。そのループかしら宿主に力を与えるのが、生物的な適応でも理性でも質が悪いわ。よくできてる」

「お察しの通りさ。お嬢ちゃんは本当に頭がいいね」

【老成たる経験】

 彼女は想像力に俯瞰して、覗けた知らない世界の流れに。尻尾をしぼませる。

 きっと、大体感染するのは運が悪い奴か、大半に予防対策を取る余裕がない"底辺層"である。

 そもそも、そこに元々から差別の土壌がある。差別の断裂を加速させる。

 

 暗くなった雰囲気に気を取り直して。

 耳を逆立て、尻尾を揺らし、快活に彼女らしく礼を表現する。

 

「とにかくありがとマスター!にしても何さ、やっぱりわざと目立ってるのねアイツ。一言言ってやらなきゃ、人に無駄に目立つななんて言っておいてさ!」

「あっはは、ツヴァイにも色々あるのさ『鉱石病』な事を含めてね。噂を信じて触っただけで鉱石病が移るなんて信じてる輩もいるわけだねぇ」

 彼女は難しい事を蹴飛ばして、感じるままにそのダブスタっぷりに憤慨するだろう。

 確かにと、ギルドマスターは苦笑する。

 ただ、何処か少し自慢気にフォローを入れる辺り、相当付き合いが長いようであった。

 

「ただ根は悪い奴じゃないんだ。今もこうやって良かれと思ったことを自然にやってくれる奴さ、頼んでもないのに入植者の観察のようにね、私が保証する」

「それはこれから決めるの!互いに"プレゼン"よ、アイツは少なくとも獣人を人として扱ってくれるみたいだしねー」

【家出娘】【荒野の嗅覚】

 ピッと。

 宣言する。あくまで彼女は彼女らしくである。

 彼女のやり方である"プレゼンテーション"という言葉を使うあたり、期待は高いのが伺えるだろう。

 

 

 そして彼女は最後のサンドイッチの一欠けらを、口に放り込んで呑み込むのだった。

 

 

 

●●●

 

 

 

―――そして、30分後。

 

 しばらくして。

 

 少年はこの冒険者宿の借部屋から降りてきた。彼とで合流する、

 そして二人は軽食を片付けて、テーブルの上に地図を広げて向き合い打ち合わせするだろう。

 

「っち、新米の案内なんて俺にまるで向いてねぇ仕事だが、うちのギルドマスターの言う事だ。手早く終わらすぞ」

「……アンタ書いたのこれ。凄いじゃん、少し見直しちゃった」

 

 引っ張り出した地図は―――

 開拓町であるゆえに、更新されるこの開拓町レスロバの地図……その概要図だった。

 どうやら丘陵都市に作られている影響からか、聖錬の都市によくみられる碁盤目でもなく、起伏に倣って中心から拡がる歪な車輪の様な拡がり方をしていた。

 

「多少古いがな、一度聞いたもの、見た者は忘れねぇだけだ。そう仕込まれたからな」

【探索者Lv2/5】【記憶術:マッピング】

 少女はへーっとその構造に興味深そうに声を上げる。

 彼は説明の為、冒険者宿の自身の借部屋で、これを準備していたらしい。

 いやな気の向かない仕事だろうと、手を抜くという発想はない。

 冒険者らしからぬというべきか、思ったより真面目な気質らしい。

 

 少女は、素直な賞賛に評価を一段階上げる。

 それはそれとして。

 

「やるからにはこれ以上手間かけないよう最低限覚えてもらう……、おい、なんだちんちくりん。何か言いたい事があるのか」

「べっつにー、あたしに下手に目立つなんて言ってさ。やっぱりその恰好は譲らないのねー」

 亜麻の少女がジト目で眺めるだろう。

 部屋に戻った関わらず彼は相変わらずに包帯で肌を隠して、深く野外活動用のフードを被った不審者スタイルである。

 

 傍目に怪しい事この上ない。周囲の客の目線が突き刺さる。

 今回は年端もいかない様に見える、小さな女の子を連れているのも大きいだろう。

 

「このミイラ男、不審者」

「だろうな。知っているほっとけ」

【ミイラ男】【鉄面皮】

 そんな言葉を意にも介さず、肯定して男はどこ吹く風である。

 『鉱石病』(オリパシー)の事を知ったが、感染経路(キャリア)を知った。

 だからこそ感染の危険性がないのに、無駄に周囲を威圧するそれは、少女には賢いとは思えない。

 

 だから。

 

(―――いつかひっぺがしてやる)

 

 亜麻色の少女は心の中でそう決心しながらも、

 自分を意固地に固める事はないのだから、今は教えてもらう立場に大人しく聞く態勢に入る。

 

 

 一呼吸おいて

 

 

「とりあえず聖錬北部の『ユニオン連合』は、俺達冒険者のやり方は主流じゃねぇ」

「それは聞いてるわ」

【冒険者】

 冒険者宿を探す過程で小耳に挟んだ情報に応えるだろう。

 

「『傭兵団』―――独立したそれが有力者の仲介を経て"問題解決"を担っているんでしょ?そして力のある『傭兵団』はそのまま"後継人"の影響力そのものになるって事」

「なんだそれがわかってるなら、手間が省ける」

 

 少女はどこか得意げにピコピコ獣耳を跳ねる。

 包帯男は、気にも留めずに答えに応じて包帯男は地図の上に、2つの石を置くだろう。

 その位置は中心地から街のはずれ、町の出入り口である門の近くである。

 

「雑多な自称連中を無視すれば、この開拓町『レスロバ』の町には現状、二つの傭兵団がある。ここがその本拠な」

「ふーん」

 どうやら、その石は『傭兵ギルド』の位置を指しているらしい。

 北と南の街はずれ、緊急時の戦力としても期待がされているのか、北南の門それぞれにそんな場所に置かれている。

 

「開拓地だから仕事は幾らでもある。まずこれだけは知っておけ、困りごとがあるにしても、何処かに身を置く選択としても知っておいて損はないだろ」

「なるほどね。にしても変な感じねー。冒険者は労働力(マンパワー)の吸い上げ口だけど、ここではお貴族様の紹介と保証で成りたってる辺り、そう言う仕組みは"集権化"の一手段なのかしら」

「難しい事は知らねぇよ。ただアイツらには後ろ盾がありこっちが少数だ。ただそう覚えとけ」

【研究者】

 包帯男は挟まれる文化の合理性という難しい話は放り投げて、

 ただただ淡々と目の前の事実を並べるだろう。

 

 きっと、おおよそ生きていくためには必要のない事である。

 

 そして南門近くに置かれた石を指をさして。

 

「特に、注意する必要があるのが南の『王冠狩り』(クラウンスレイヤー)の連中だ。こいつらは後ろ盾に"元貴族"を持つ新鋭だ、手段を択ばず活動している」

「……アンタが忠告していた連中?そんなにヤバいの?」

「ヤバいというより行儀が悪い。強引な仕事の取り方と勧誘のうわさは絶えない」

 

 少し面倒そうに包帯男は、声のトーンを提げながら言った。

 過去に、トラブルになったのかもしれない。

 

「腕の立つ連中もそこそこいるが、何より数が多い。開拓地に夢見た連中を勧誘して吸収し、『商店』の後ろ盾にしていた小さな『自称傭兵団』も、狙い撃ちする様に背後の『商店』に安く売り込んで仕事を奪って、半ば強引に吸収した。依頼を選ばないという事は行儀の悪さに比例してやがる」

「うへぇまるで、人の狩場を土足に踏み荒らすヤクザみたいやり方ねー。そりゃ一番と二番には大きな差があって急いで大きくなろうっとするのはわかるけどさー」

 亜麻の少女は聞いた話にため息を漏らす、やり方自体は旅の中でもよく聞いた話だ。

 しかし、この場所で聞きたくはなかった。

 数の暴力が幅を利かすのはどうにも夢のない話である。

 夢見た新天地にすでに出来上がりつつある縄張り縄張り争いの一面に尻尾を垂らす。

 

 彼女自身も、真っ新な新天地に夢を抱いている一人だ、同類ではある。

 いち早く大きくなる、その意欲は理解できるが、そのやり方には嫌悪感を覚えるだろう。

 

 

 そんな個人の感傷は、いったんはさておいて。

 亜麻色の少女は、テーブルに乗り出しそのサイドテールを垂らして北に置かれた小石を指した。

 

「じゃあさもう一方、北の『傭兵団』はどんなとこかしら?」

「北の『真銀の腕』(シバルバー)は、ただの傭兵団と言ったら少し語弊があるな、元々軍人や騎士が分離して人を集めて再編したらしい。そのまま出向させるのは政治的な問題があったとかな」

「……へ、騎士?」

 包帯男は変わらず淡々と語る。

 少女は、特におおよそ傭兵とはむずびつかない騎士という単語に首を傾げて。

 

「なんでも牽制し合って開拓が進まなかった現状打開する『三ヵ国共同合意』って奴らしい。詳しい事は知らねぇがな」

「ふーんまぁ長い間国境沿いの空白地がどこの領有か決まってなくて、互いに手を出せなかったって感じかしら、それで緩衝組織を作って周辺国からの投資と干渉を集めた、と」

「いちいち難しい事ばかりに結び付けんじゃねえよ。わかるわけないだろう」

「そうね。推測は手を付けるべき当たりつけるだけだし、政治的な話は、空いた時間に調べてようかな」

 

 亜麻色の少女は推測を口にする。

 

 その推測は遠からずおおよそ当たっている。開拓町『レスロバ』の街は、

 北に革命により古き体制が崩壊し、しばしの小康状態を取り戻しつつある『シベリア』。

 東にユニオン連合における軍事最前線たる『ローエングラム』。

 南に水運の中継地たる『イルスク』。

 

 その三国が結んだ妥協という協定により存在する新天地(フロンティア)である。

 

 互いに国が力を付ける事を牽制し合いながらも、本音で言えば開拓は進めたい。

 モンスターの脅威溢れるこの世界、未開拓地それ自体が大きなモンスター害を生む脅威となる。

 未開拓のそこから殺戮本能に従ってモンスターは常に牙を向けている。

 本音で言えば、人の住む領域にして潜在的脅威の低減、予想される脅威の方角を絞ってしまいたい。

 そして、『大襲撃』(スタンピード)においては雑多な村や町は言ってしまえばデコイでもある。

 

「基本少数精鋭、手堅く町の警邏や用心護衛や大規模護衛なんかに食い込んでくいっぱぐれがない。"門番"の連中も『新銀の腕』(シバルバー)所属の傭兵だ」

 

 一呼吸おいて。

 

「行儀はいいが、なに頼むにしてもお高く留まってカネがかかるし、誰かの紹介がない限り傭兵団に応募する権利すらない。そして目を付けられると面倒な連中だ」

「そりゃアンタそんな恰好してればさー、自業自得じゃない?」

「んなもんわかっている」

【鉄面皮】

 再度、少女がジト目に直接的に姿の否定を言っても、相変わらず取りつく島もない。

 身を振り返っても変える気はないらしい。変な所で意固地である。

 

「あとは慎ましく活動している徒党規模の自称『傭兵団』だ。俺は感染者という事で声かけられた『赤松林』(レッドパイン)とか言う連中に位しか知らないが」

 

「ふぅん、にしてもまるで正反対ね。絶対仲悪いでしょ、本拠の場所が極端に離されてるのトラブル防止の側面もあるのかしら」

「だろうな。たまに下っ端が縄張り争いしてるのを見る。馴染みがないからか俺らは『冒険者ギルド』という名の傭兵団と思われてる節がある、どっちのやり方でも巻き込まれると面倒だ」

「うん」

 

 亜麻色の少女は忠告の意味を飲み込んだ。

 それはおおよそ彼等にとって、飯の種と関わる競合相手(ライバル)の話である。

 

 包帯男は新たに地図の上に複数石を置いて。

 

「―――あとは"商業区画"と、"井戸"と"ライダーズギルド"それだけ場所を覚えておけ、『使役闘争士』(トレーナー)のおまえならよく使う場所だろ」

「ふんふんふん、あんがと!おかげでこの町の事色々分かったわ」

「仕事だ」

 亜麻色の少女は快活に尻尾を揺らして、声を張り上げて笑みと供に礼を告げるだろう。

 この新天地で、これから彼女は彼女のやり方で夢に挑むつもりなのだから。

 きっと既にそこで暮らす先達からの話は値千金の価値がある。

 

 パン!と手を叩いて。 

 いったん話をそこで区切って切り替える。

 

「ならじゃあ次は冒険者として仕事の話ね。役割(ロール)『壊し屋』(クラッシャー)てことは前衛でしょ?基本後衛の『先鋒射手』(アドシューター)のあたしとは相性がいいはずよ」

「っち随分と張り切ってやがる……、俺は一人の方が動きやすいんだがな」

 包帯男は未だ不満そうにため息をついた。

 その振舞いと話を聞く限りに、彼は戦闘特化の冒険者なのだろう、

 きっと彼には彼のやり方があるのかもしれない。

 

 しかし。 

 

「ほらやってもなくて決めつけない!一人より二人、二人より三人、群れた方が強いのが人間(私達)なんだから」

「うるせぇな、やり方が違うって言ってるだろ。俺は"感染者"だぞ。誰が好きよって近づくか」

「あら、あたしだって獣人だわ。それがどうしたっての物は試しでしょ?」

【土狼人】(アドウォルフ)

 亜麻色の少女は冗談交えて力強く断言する。

 彼女はハイエナ混じりの獣人である。狩人たちの群れを捨て去ったとはいえ、そう生きてきたのだ。

 

 だから、目の前の意地っ張りに手を伸ばすのである。

 

「私だって多少腕には自信があるんだから。今度はあたしとこの子たちの力、見せてあげる」

『ハガネガニ防衛隊』【使役闘争士】【野狩人Lv2/5】

 そして小さな身体を椅子から降りて、陽が落ちる前に早くとせかすのだ。

 確かに病にそれぞれ対する距離の取り方はある。

 感染経路(キャリア)は知った。距離はすでにもう測ったのだから気にする事ではない。

 

 そう言わんばかりに。

 

「ふん、とことん調子狂うなお前……、まぁいい俺も稼ぐ必要がある」

【元・武■壊し】【影を駆け抜ける者】【我意■器ナレバ】

 日向に輝く身振り手振り、実力で見返してやる。

 きっと夢追いヒトとして、そういう自負が小さな体に溢れているだろう。

 

 外套のフードを眼深くに被り、溜息をつきながらただ眼を逸らす

 嫌うでもない。ただ、理解できない。

 日陰に拾われてただ研磨され、一つの病にその全てを否定された彼は、"夢"というもの自体を理解できないのだから。

 

 与えられた天命があると言われた。天命を果たせない人間は"失敗作"でしかない。

 人は道具だ、そして己は『暗器』である。

 逃げ出して広い世界に迷い出た彼は、他の人間は違うというのは理解している。

 

 だが、幼い頃から刻み込まれた価値観は変わらない。

 

 物心つくころからただ一つ持ち合わせるだけの身体を、練磨した調整した練磨した調整した。

 ただ歩法の一つとっても、真っ当の磨かれた国の武貴を価値ある"一瞬"を騙し壊す為―――

 

 疑問に一つも挟まず、研磨した研磨した。

 ただ鋭く、道具たると認められる為に、昨日まで、一つの銘(ツヴァイ)を賭けて飯の窯を食べていた相手の肉を裂き合い首をネジ切った―――

 

 そういう過去が過って、静かに席を立つ。

 

「まぁいい。今しばらくの付き合いだ」    

 

 無気力に気を取り直して呟いた。

 己に与えられた天命は既になくても腹は減る、眠くなる。

 だから、拾われた恩だけ返して、朽ちるまでそれを引き延ばして繰り返すつもりだった。

 

 だから慣れない日向の匂いに、再び深い溜息をついたのだった。

 

                                        

 

 

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