聖錬北方開拓異聞   作:きちきちきち

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初めての狩り

 

―――『開拓町:レスロバ』

 

 そんなこんだで、なし崩しに組んだ彼女らが臨時の冒険者徒党(パーティ)は丘陵町の門を抜けて、

 街の外、"調律機"(ハーモナイザ)の範囲の外に足を踏み出す。

 流れる風。大地に芽吹く脈動。

 豊災の荒廃というべきか、この世界における森は自然に在るべき形に落ち着くわけではない。

 

―――ゴゴゴゴゴ……!

 どこかで遠く地響きの如く鈍い音が響く。

 何処かでむせ返る様な"森属性"に膨らんだ樹根に、大地が圧迫され悲鳴を上げている音だろう。

 

 そこに向き合う小柄な少女。

 目の前に拡がる自然そのもの、その光景と新鮮な空気を肺一杯に吸い込んで。

 

 少女は地平に叫ぶ。

「んー!流石開拓地むせ返る様な"森属性"!この青々しい森の匂いと突き刺す冷気!きっと"氷属性"も比較的高そうねー」

「新人か。はしゃぐなみっともねぇ……ここでは新人だったなそういえば」

『迷彩外套』【土狼人】(アドウォルフ)【荒野の嗅覚】

 背を伸ばして、青々布く拡がる野原に耳をひょこひょこ躍らせながら。

 獣人としての本能からか一人先行き、両手を広げて震える心を言葉に漏らす。

 対して野外活動の外套を根深く被った男は、溜息をつき悪態を呟くだろう。

 

「あら、こーいう感覚も大事よ?"自然"にだって表情があるんだから、感じるままに動いて危険を避けられる事もあるわ」

「やり方がちげぇんだよ。そーいうのはわからねえな。仕事だ羽伸ばすのもほどほどにしとけ」

「はーい、その不審者な見た目に似合わずお堅いわねぇ」

『バッカ―Lv1/3』【野狩人Lv2/5】

 亜麻色の少女は、吹き付ける風に野外帽を抑えながら。

 バッカ―資格者に与えられる拡張カバンから、属性検知器を手に取り開いて測るだろう。

 

 ぐるぐる回る指針の螺旋、それぞれに濃くなる色の具合を見ながら。

 少女は肩に掲げる飼育箱にポンポンと叩いて。

 

「―――確認するが今回うちの"マスター"が斡旋した依頼は、街道の行商人から通報の調査だ。おそらく森の根の膨張で地盤が断裂し崩れた。そんな轟音を街道通るときに聞いたらしい」

「おおう、やっぱりそんな事が起きる位に"森属性"が強いのねー。やっぱり開拓地は凄い場所だわ、その崩れた場所の特定と調査って事かしら」

「ああ、それに露出した山肌地層に例えば資源が見つかる可能性があるらしいってな。よくはわからんが」

『迷彩外套』【ミイラ男】【鉄面皮】

 亜麻の少女の経歴からこれがいいだろうと斡旋された目的、依頼内容の確認に読み上げる。

 ここは未開拓地、濃き"森属性"から植物が急成長して時々大地を割り、最悪地滑りを起こす。

 そう言った事例が幾度か報告されていた。そして露出した地層調査が彼等に受けた仕事である。

 マナという色に溢れた金魚鉢の世界において、木々は土壌を安定させるもの、そんな常識は通じないのである。

 

『多目的複合式羅針盤』

 さておいて、周囲の属性値の観測が終わるだろう。

 

「さて、この属性値と雲の動きと風の機嫌、この天気ならしばらくは大丈夫そう。さぁ皆!さっそく出発しようか」

『っぴーっ!』

 亜麻の少女が使役闘争士(トレーナー)としての号令に、飼育箱から応える様にハガネガニの鳴き声が上がる。

 包帯男は、それを無言で無視してぶっきら棒に、先導する様な歩調に足を踏み出す。

 小さな少女はその道案内に従って、その後に続いてちこちことついて回るだろう。

 

(調子が狂うな)

【ソロ冒険者】

 一人(ソロ)の時とは違う。好奇に満ちた目線に、そんな騒がしさに心中呟いた。

 包帯男は一人のやり方しか知らないし、できない。融通の利かない道具故に。

 

 だから危険溢れる街の外に、いつもの自身のやり方で向き合うだろう。

 

「―――ふぅ……―――」

【ギアス】【影を駆け抜ける者】【調息:仮生釈】

 息を吐く、いつも通りの手癖に、周期的な呼吸、そも生命活動を抑圧する。

 文字通りの息を潜める気配遮断、その為の衰退技術。調息、身体能力を衰弱化させる。

 大凡が戦士が行う錬気とは真逆、身に刻まれた条件付け、呼吸機能を落とし、生命力を果ては気配すらも衰弱化させる外道の御業である。

 

『……ねぇ』

 目の前の景色に意味が削ぎ堕ちる、

 感情が削ぎ堕ちる思考が単調になる。ただ条件反射に道具としての在り方に仕込まれた歩みに。

 

『ねえってば』

 その歩みは敵には反応する。

 危機に反射に身体を急活性する技術もある、虐待の様にそう仕込まれている、

 何より意味条件反射に、そう言う反応を刻みこまれている。

 

 しかし。

 

「ねーツヴァイ、聞いてるの。なーにやってるのさ!」

「……ぶっ!?」

バッシン!

 自分の世界から、いきなり引き戻される。

 背後の少女に背を思い切り叩かれたのに、理解するにしばらくかかっただろう。

 

「いきなり何しやがる!?思いっきり"調息"が乱れたじゃねぇか!」

「こっちの台詞よいきなり黙り込んじゃって。何それ歩きながら"瞑想"できるのもびっくりだけど。それでアンタ"匂い"が弱ったんだもん」

 身長差に覗き込む様な、蠱惑的な黄土色の瞳に、心配そうに覗き込まれた。

 

「……っち調息、仮死に近づいての"気配遮断"だ。邪魔すんじゃねぇモンスター共相手にしてたらきりがないだろうが」

「うんわかった。健康に悪いからそれ禁止ね。次潜ったらあたしが引き戻すから」

「おい、ちんちくりん俺の話聞いてたか?」

【我意■器ナレバ】

 それは包帯男のいつものやり方、ルーチンである。

 説明して当たり前のように却下され、歩きながら抗議に睨むだろう。

 

「あったりまえでしょー、そんな急停止と急発進繰り返したら身体が焼き付いちゃうわ。ただでさえアンタは"感染者"なんだから、しかも二人で行動してたらあたしにもそれと同じレベルの隠形が必要じゃん。獣相手(モンスター)には効果薄いし」

 確かにこれは本来にヒト相手の技術である。唯人の五感を司る感覚器は鈍い類だろう。

 だから危機感知に道具や技術に頼る事が多い。

 下手な道具、生命活動感知の結界ならすり抜け、一部の異能者の第六感をすり抜ける。

 そういう暗殺者の業である。

 

 しかし、モンスターにはそんな理屈は通用しない。

 例えば鳥がいる。高所の視野、死肉狩りが多い、死に体に見えればまさしく恰好な餌だろう。

 例えば獣がいる、多様性の元に様々な感覚器に獲物を探す、騙し切れる方法ではない。

 端に引っかかればその"隠形"自体が、弱り目だと獣を引き寄せるだろう。

 

 つまりは賢いやり方ではない。彼には"鉱石病"もある。

 この世界には祝福(ギフト)に寄り自己の屍解道士、身体機能だけはぎりぎり常人レベルで維持させ振舞う。マナ干渉すら全て無視する暗殺者もいるが、もちろん例外である。

 

「っち、やり方の違いだ。お前に指図される筋合いはねぇぞ」

「そうね。でも集団で行動するなら効果薄いから手を抜いちゃえって言ってるの、あたしも多少隠形の心得はあるからそれは凄いとは思うけどさ」

 そして、亜麻色の少女は笑いながら言う。口調に似合わず何処か真面目な気質はわかる。

 手を尽くすに越したことはないそれでも賢いやり方があるのだ。

 

「何よりツヴァイもさ、何処でもそんな歩き方してたらさ、そんなの息が詰まるでしょう……?」

 亜麻色の少女は言う。適度に融通を聞かせて楽すればいい。適度に手を抜いてしまえと。

 一つの不運に命さえ失う残酷な世界に、それでも全て不器用に我慢して歩く必要はない。

 

「それに今はあたしがいるんだから必要ないでしょ」、 

 恐ろしくも残酷なれど、これだけ広い世界が拡がっているのだ。

 

 息が詰まるのは御免だ。自由に息を吸ってこその人生だ、愉しまなきゃもったいないと。

 

「あたしも一端の野狩人(レンジャー)なんだから。ルート取りは信じて任せて」

「……ふん確かに効果は薄いのはわかった。下手に見つかって足を引っ張るなよ」

 亜麻の少女はサイドテールを揺らして、典型的な野外服を主張する様にそう胸を張るだろう、

 小さな身体をくるりと回って自身に溢れて言う。

 

 包帯男は釈然としないながらも、一人だけの隠形に効果は薄いと理解し、歩き始める。

 

 彼は初めて、息を潜めないで街の外を歩く。

 移り変わる景色を初めて眺めるだろう。

 

「ねえ、ねぇやっぱり伸び伸び息すって歩いた方が気持ちがいいでしょ?今日はいい天気だし、適度に風もあるわ」

「わからん。気持ち一つで風景の意味が変わるものか」

「えー」

 やはり、包帯男には亜麻色の少女が言う事はわからない。

 自己が抱く夢というものを理解できない故か、ただただ、息を吸えば鼓動が増して。

 

 ああ、陽中の陽が肌を刺す、そよ風が髪を首を通り抜ける。

 彼にとって、全てがどこか慣れないむずかゆさに溢れているのだった。

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 そして冒険者の二人は、徒党は目的に向かって拡がる平野を歩き続ける。

 

 方角頼りに途中までは整備された街道を使って、すれ違う馬車に挨拶して見送って。

 同業者だろう"傭兵"が違う目的地へと向かうのを会釈して。

 歩いて歩いて、そうこうするうちに。

 

 特に大きなトラブルもなく、土砂崩れの報告の合った周辺にたどり着くだろう。

 

「うー寒い。天気が良くても風が強いわね」

 風に氷属性が強い大地だ。体温はじわじわと奪われている。

 とりあえず一旦、小休憩足を止めて、亜麻の少女が簡易的な焚き木に湯を沸かすだろう。

 

「……寒いのか。ほら、これ湯に溶かして飲め」

「ん?なにこれ」

「桂皮松"と"苦虫"の混合粉末だ。この辺りで"寒さ対策に重宝されてる」

「へーあんがと!……んぐっ?な、なかなかし、痺れる味ねぇ」

 包帯男にぶっきら棒に渡された。

 渡された粉末を混ぜた温かい飲み物を、口にしながら体を温めてほうと、その傍で話す。

 

 確かに強烈な苦みはあるが、後からぽかぽかと、体の芯から込みあがるような温かさがあった。

 

「思いのほか、早く着いたな」

「でしょー。風向きに合わせて匂いを誤魔化して、獣道の見分けてモンスターの縄張り周回ルートを推測する!あとは迷彩に気を付ければなんとかなるものなんだから」

 

 どうだと自慢気に尻尾を振って、へへんと、得意げに尻尾を振る。

 

「そうだな素直に見直した。俺のやり方より効率がいい。いや、このやり方が賢いんだろう」

「な、なによ素直にあんたが褒めるなんてさ」

「悪いか、あいにく俺には"コレ"しかやれることがないんでな」

【ソロ冒険者】【鉄面皮】【夜鴉の如く】」

 包帯男は素直に感心を表す。結果を示したのだ。

 "気配遮断"中は基本的に足が遅い。

 音を殺すのはそういう事であるし、生命活動を弱めてるのだから当然である。

 

 しかし包帯男はそれしか知らない。

 だから、単独(ソロ)に戻れば、また同じように息を潜めて歩むのだろう。

 所詮に、今しばらくこの場限りの付き合いである。

 

 そして小休止を切り上げ、焚き木に土をかけて、火の始末をして活動を再開する。

 

 また周囲を探索する。

 目的は地滑り箇所の特定、および露出地層の調査である。

 地滑りだそもそも地形が変わっている、それ自体はすんなりと見つかった。

 

 それを遠くから観察する。

 

「……地滑りの場所はここか。道には被害は出てない。休眠中の巨獣が起き上がったって事もないな」

「そうねー。差し当たっての緊急性はない、依頼の第一目標は完了ってわけだけど……」

 そこは森を構成する樹木が膨張して地層を貫いていてひっくり返していた。

 森属性の波及を肌に感じる、圧倒される生命力である。

 更にその露出した山肌からは幾つかの霜柱が立っている。この地滑りは"氷属性"による氷結の体積膨張も手伝ったのだろう。

 

 そしてそこにはいくつかの先客がいるらしい

 

「モンスターが屯してるわけだけど、地層の調査はモンスターを排除しないと出来ないわね」

「そうか」

 亜麻の少女が声を潜めて言う。

 その言葉の通りに、地滑り跡には人の体躯より一回り大きい獣が群れを成していた。

 

「……アレは"おおありくい"の仲間かしら。鋭い爪と鞭のような強靭な舌が特徴的なモンスター、崩れて露出した巣からアリとかミミズとかの分解者を食べに来たのかな」

【研究者】【生物学知識】 

 おおよその特徴から、おおよその種別を推測する。

 その数は6匹、その発達した長い口吻、固いものを削り取る様に一指に発達した鋭い爪―――

  

 

 それは中型のモンスターの類だ。相応の危険度だった。

 中型となれば、一般的に"冒険者単独で相手すべきではない"。それが常識である。

 基本的にモンスターはフィジカルは強靭であり、人は脆い。

 その畏れを忘れた奴から死んでいくのである。

 

 亜麻の少女が耳を伏せて、相方に目配せする。

 獣人である彼女が状況を活かしても、安全に対処できるのは一匹・二匹が限度である。

 その夢中に地面に舌を伸ばし貪る様子から、きっと食事終わるまで待っていては日が暮れる。

 

 だから冒険者としての選択時間である。

 

「どうするツヴァイ?あたしは戦闘特化じゃないわ。今の段階でも最低限依頼は成功だし判断は任せる―――」

「一つ確認するが、お前は地層の調査は出来るんだな?」

「へ?まぁ専門じゃないけど、最低限調べられる」

「なら仕事の範疇だ。アレくらいなら"一人"で問題ない。始末する邪魔するなよ」

『教会の杭:ウォーピック』【ファストアクション】【影を駆け抜ける者】

 しかし、包帯男はそのモンスターの群れを、大した問題でも何でもないかのように言い。

 背中にマウントしたウォーピックに手にかけて、風の強く吹くタイミングに飛び出した。

 それは木々の騒めきに、気配を音を環境音に極力殺しながらの疾走だった。

 

 その行動に目を丸くして。

 

「あのおバカ、仕掛けるにしても速いでしょ!?こっちまだ準備で来てないのに!!」

『合成樹脂のクロスボウ』【クイックドロー】

ぐ、ギギギギっ……!

 その身勝手に亜麻の少女は焦る。 冒険者がモンスター相手するときに連携は基本である。

 単独は無謀でしかない。急いでクロスボウのボルトを装填する。

 しかし、その機構に装填が時間がかかる。そういう威力と扱いやすさに代償にした武装である。

 

 だから、並行してベルトにセットされた"現代技術で再生させた簡易捕獲兵器"。

 通称、モンスターボールを地に落として。

 

「ごめんね"ストロング"ちゃん、急だけど突撃!!」

『ぴ?ぴーっ!』

【使役闘争士】【プロブリーダー】

 そこから大型のハガネガニが飛び出して、いきなりの指令に困惑しながら突撃する。

 この子は"ストロング"、その図体は大型犬ぐらいの大きさだろう。

 彼女が育てているハガネガニの中で、一番大きい個体であるそれに応じた頑強さも力もある。

 

「二本足、オーソドックスに弱点は頭か?」

 包帯男はそんな背後のドタバタなど気にもかけずに、獲物目掛けて踏み込み飛ぶ。

 そして、迷彩外套を翻して、機巧槍を変形させ、回転する様に宙に跳ぶ遠心を振り回す、

 大凡真っ当ではない、そんな曲芸じみたアクロバットである。

 

 獲物は異変に気が付いたようで、

 発達した口吻の先、鼻をひくひく動かして周囲を右に左と見まわすだろう。

 

 その隙だらけの頭蓋を。

 

「遅い」

『―――ガギャア?!』

『教会の杭』【片手持ち】【古狼の挽歌】

バギッガァン!!

 そこに長柄のウォーピックがただ淡々と、遠心力を先々に乗せた一撃が炸裂する。

 刃先に地属性の鉱石が使われているのか、落下円弧の振り下ろしの衝撃を倍加するだろう。

 もはやそれは破砕音の如く、一撃で頭蓋を粉砕していた。

 

 脳漿が血飛沫が飛び散る。そしてもはや死んだとも気が付かない獣の上で、軽業のように乗り。

 

「一つ」

『シャアアアアアア!?』

 軽業にそのまま獣を足場に見下ろす。

 包帯男はウォーピックを引き抜きながら、無感動にポツリと呟いた。

 

【アントベア】【打芯舌】【首振りの鞭】

 突然の襲撃に反応して威嚇が木霊する。

 しかし人類に剥ける敵対心のままに導かれるままに、殺意に叫んで。 

 木々をも切断する、もはや強靭な鞭の如く舌を、振り回して空気を引き裂くだろう。

 

『閃光玉』【冷徹逸徹】

ガッ、ピン。

 包帯男は死骸を蹴りだして脱力、そのまま転げ落ちる様に死骸の影を壁にする。

 そして流れ作業のように、閃光弾を放り投げて。

 

『グアアアアアアアアア』

 そのまま注目を、仇目に視界を晦また。

 

 その隙にどうやってか接近、足元を斬り体勢を崩し、その目に槍突き立てて脳漿をかき回す。

 

「ふたつ」

 まるで機械のような、その淡々とした声が結果を教えていた。

 

「……なに、あれ?」

 亜麻の少女は困惑の声を漏らす、呆気に取られる。それは彼女の知ってる狩りとは違う。

 群れで生きる獣人である土狼人(アドウォルフ)にとって、何処か狩りは神聖なものだ。

 "獲物"は生きる為の糧であり、連携の大切さを学ぶ。

 そう"生き方"を教えてくれる対等な相手である。

 

 だからこれは違う、まさしく作業のようだ。

 どこか怖い。そう感じてしまうほどの淡々とした作業に思えた。

 

しかし。

 

「……ストロングちゃん!!」

『ぴーっ!』

【出勤指令】

 今は呆気に取られる場合じゃない。一匹はこちらに気が付いて向かってきてる。

 それを押し殺して指示をクロスボウを構え直す。

 

『グオオオオオ!』

ガシャン!ガシッ!! 

 彼女の使役獣である"ハガネガニ"と"アントベア"が衝突する。

 おおありくいの体躯を、6本足に大地に強く捕まえながら、鋏に掴み掛り拘束を、その見た目通りに外殻は頑強である。

 しかし硬い蟻塚を削るその爪は。ハガネガニの外殻を削り取る位に鋭さがあるらしい。

 

 時間は掛けられない。その足止めの間に、急所へと狙いを定めるだろう。

 スコープ付きのクロスボウを覗き込む

 それは彼女の未熟を補うためだ。彼女の腕では、初撃でピンポイント急所への狙撃は出来ない。

 

「当たれ!」

『ぴぎゃアあああ?!』

【先鋒射手】【クロスボウマスタリー】【ハンティングアイ】

 一射目、わずか逸れて、その右目を貫いた。

 これがモンスターに対する普通だ、中型となれば急所に当てようと構わず暴れ回るだろう。

 

 亜麻の少女は、急いで次のボルトの装填して。

 その合間におおありくいが大きく発達した首を振って―――

 

ヒュン!!

【打芯舌】【首振りの鞭】【剛毛の皮】

 

「あぶな!」

 そう、弾丸のように舌を飛ばして攻撃してくる。

 それを生態に予測してた彼女はステップに躱した。

 ハガネガニの"ストロング"が体当たりに態勢を少し崩したのも大きいだろう。

 

 バシュン!!

 

『あぎゃあああああ!』

「あと何発、ボルトがいるかしら、あっちは……?」

 御返しのボルトをごちそうして、距離を空けて対峙する。

 "ストロング"もその力自慢に、鋏で締め上げてダメージを与えているだろう。

 きっと、こちらはあと数本ボルトを突き刺せれば殺せる。

 

 そんな中でも包帯男、残りのモンスターに全てを受け持っている方へ、目を配る。

 

 しかし、繰り広げられるのは相変わらずに作業のような光景だ。

「3つ」

【壊し屋】【二刀流】【見切り】

 前掲姿勢のまま突っ込み、こちらに貫こうと射出された舌を槍の穂先に斬り飛ばす。

 あまりの痛みに叫ぶ”アントベア”喉奥を目掛けて、機巧槍をもって貫いて脳髄ぶちまけて。

 

 しかし、挟撃する影が迫る。

 

【アントベア】【クロスバッグ】【ギャンブルカウンター】

 大きな体躯両腕を高く掲げて、掴みかかろうとする顎を蹴り上げてバランスを崩した。

 

ズッ、ガン!!

 

「4つ」

 その隙を逃さず機構槍が変形したウォーピックで頭蓋カチ割った。

 それと亜麻の少女に対峙していた個体も、急所に幾多のボルトが突き刺し息果てたのである。

 

""ドシーン!!""

 獣が倒れる音が重なる。

 

『―――ぐ、ぐもぉ?』

 いつの間にか群れの仲間の全滅、生き残りは最後に一匹。

 流石に不利を悟って、畏れて逃走しようと明後日の方向に一目散に駆けだすだろう。

 

「逃がさないで、”ストロング”ちゃん!!」

『ピー!』

『ハガネガニ:ブロッキング』【ハンティングアイ】・ 【壊し屋】

 それをハガネガニが道を阻んで、止まった足を。

 亜麻色の少女と包帯男が、互いの獲物に急所を射り、壊す。挟んで狩るだろう。

 

「終わったな」

「うん、お疲れ様ツヴァイのおかげ、ね。アンタそんなに強いんだびっくりしちゃった」

「これしかできないからな。あとの調査は任せた」

【鉄面皮】

 包帯男は変わらず結果に無感動に、仕込み武器の血を払い背負いなおす。

 亜麻の少女は抱えたもやもやを飲み込んで釈然としないまま、示した結果に礼を言う。

 

(さすがの戦闘特化の冒険者かな、でも)

【荒野の嗅覚】

 彼女は体験して感じた。彼は強いのだろう。そこに疑いの入る余地はない。

 しかし、荒野の嗅覚に理解する。作業のようであるが、圧倒してるわけでない。

 迷わないだけ紙一重の先、ただ畏れていないだけである。

 

 獣人らしく育った価値観に、少女は押しつけがましく思う。

 

(その目、そのやり方は道具、ただの凶器みたい)

 家出娘の身ではあるが、彼女は土狼人(アドウォルフ)である。狩りともに育った。

 "狩り"の成果は誇らねばならない。それが相手への礼儀であるし、狩人自身の"価値"となる。

 身に着けた"価値"は人を寄せる重力になって、己の率いる"群れ"を作るだろう。

 

 それが、土狼人(アドウォルフ)にとっての"強さ"というものだった。

 

 それなのに好んで孤独(ソロ)のやり方で動く、無感動、何一つ誇らない。

 それでは、殺す事だけが目的のようである。

 

(それは正しい"狩り"じゃない。……どうしよう押しつけがましい、かな。)

 彼女とて土狼人(アドウォルフ)のしきたり全てが、外の世界に通じるとは思わない。

 だから悩み、胸にモヤモヤと秘める。

 ただ目の前の彼が、運が悪いだけで死ぬ、後手に回ればあっさり死ぬだろうそれだけがわかる。

 

 亜麻の少女はそんなモヤモヤを抱えながら、

 彼等の最初の共同の狩りは、無事に終わったのだった。

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 そして一段落ついて。

 調査の段階となると言っても彼女は専門家でもない。大したことは出来ない。

 

 まず、目視にて大まかに地層を分類分け、軽く杭を打ち込んで目印に区別しながら。

 あとは土いじりだ。それぞれの地層のサンプルを削りとる。

 ベルトにセットされた小瓶に、削り取った試料を採取して詰めていくだろう。

 

「………」

【夜鴉の如く】

 その一方で、包帯男は外套を深く被りながら、案山子のように周囲を警戒している。

 気配を殺してただ黙って。その最初の申告通りに戦う事しか考えていない。

 

 その一方で。

『ぴっ♪』

 ハガネガニ達もそこらへんにテコテコ自由に歩いて土を突いて、もぐもぐと食事タイムだ。

 傍で好奇心旺盛な子が、御主人の真似して、変わった物を見つけて自慢する様に持ってくる。

 ただ、大体は少し綺麗な石とかそんなものだった。

 

「あらいい子、ありがとー"トレイちゃん"、"ハンマーちゃん"」

『『ぴぃ!』』

 亜麻色の少女はうちの子達をその手で愛でて、更に張り切る小さなハガネガニに癒されながら、

カリ、カリカリ……。

 ご機嫌に試料採取の作業を続けるだろう。

 

「ふんふん♪なるほど。ここらへん地下水脈が通ってるみたいね。それが"氷属性"のせいで凍ったのかしら、でも仮にも流れがあるならそこまで属性値じゃ―――ん?」

【野狩人Lv2/5】【研究者】

 そしてサンプルの瓶詰め中、薄ピンクの岩の層を見つけるだろう。

 見覚えあるそれにぴんと来て削り、確かめに口に含みその塩っ気に顔を顰める。

 

「しょっぱ!やっぱり『岩塩』の鉱脈だぁ、なるほどねぇ!これが地下水に溶け滲んで凝固点が下がった訳ね。そして"属性現象"の相乗効果で大きな霜柱で堆積は増えて、"森属性"の爆発的成長と合わさって土砂崩れが起きたんだ」

「……言ってることはよくわからねぇが、崩れたここら辺は"塩"が取れるって事でいいか」

「とりあえずはねー。後は水脈の調査が必要になるかしら、万が一でも、この水脈の流れに沿って同じ事が起きかねないって事なんだから」

 地下水に対して、岩塩程度の凝固点の低下など、普段は気にする様なものではない。

 しかし、"属性現象"と偶然でも噛み合わされば、土砂崩れだって起きる放ってはおけない。

 故に、この水脈が重要な場所―――街道や砦の予定地の下を通っているかの確認は必要だろう。

 

 当然、それに対する技術もある。

 事前に判明していれば、『風水術』などの地形操作で対応は可能なのである。

 

「よっしっ!試料はこれだけあれば十分ね、これ以上は『専門家』とか『風水術師』とかの仕事よ。調べてもらいましょ」

「そうか、なら町に戻るぞ」

 試料採集も一段落ついて。

 

 陽の落ちかけた帰り道を歩く、歩く、その最中に緩やかな時間ができる。

 

「……ねぇ、ツヴァイ?こんな"狩り"のやり方いつもやってるの」

「ああ?どういう意味だ」

【獣人:獣人種(アドウォルフ)】【家出娘】

 彼女の思う"狩り"について、胸の内のモヤモヤを話しかけるだろう。

 育ちとして培った獣人としての価値観をぶつける。

 

「だから"狩り"の仕方の話よ!あたしがついてけないのはわかる。だけど、あたしを囮に併せればもっと安全に狩れたでしょ。腕に自信があるかと思えば全然誇らないし」

 亜麻の少女が声が自然に張る、例え押しつけがましいとしても、やはり心配なのだ。

 そのまるで作業のような狩りへの姿勢に対して、畏れない無感動、その結末をである。

 

「死んじゃうよ。あんなやり方一人でやってたら、全部全部一歩遅れたら死んだのアンタだった」

「だろうな、知ってる。いいだろ誰にも迷惑かけてるわけじゃねぇんだ。『感染者』は外で野垂れ死んだ方が喜ぶ奴も多いだろ」

【元・武器壊し】【■意暗器ナレバ:後天限才(ギアス)

 包帯男は外套を深く被り揺らしながら、心底めんどくさそうに返答する。

 無気力、己の事に何処までも無頓着である。

 

―――『武器壊し』―――

 聖錬においてまことしやかにささやかれる都市伝説のような何か。

 そういうノウハウに闇に蔓延る組織があった。

 

 対人殺傷、ある特定の実力者限定への"暗殺者"。

 そこら辺の石ころを拾い投げて、研磨して使い捨てに国の誇る"武貴"を破壊する暗殺者である。、

 

 そこに製造された彼等は"パブロフの犬"、虐待の如く反復に刻む条件付けに人間性を削落とす。    

 自ずと自然に効率よく研磨する様に、幾つもの"縛り"(ギアス)を刻まれてる。

 

「バカバカしい。折れるまでこうしていればいい。うちの"マスター"に拾われた恩があるからこうしているだけだ」

 そんな中、包帯男は九つも齢を重ねた頃、任務の最中を晦ませた逃亡者である。

 理由はそれこそ彼にしか知れない事だが、確かに彼にとって何もかもバカバカしくなるそういう事があったのである。

 

 もちろん彼女はそんな事は知らない。何処かかっこつけているようにさえ聞こえる。

 

「はぁ~?!生きてるのに、なにもったいないこと言ってるのさ!」

「何を怒ってるんだよ。わけがわからん面倒だな」

 同情ではない。ただただ、色々な意味でもったいないという感情もあった。

 その生き方は窮屈だ、空を見上げる事もなく、息を潜め続けて、優れた狩人として狩りの成果を身に付ける事もしない。

 

 そんな生き方は勿体がない、だから―――

 

「ふふん決めた。放っといたら死んでそうだし、アンタを放っておけない。強い狩人は間違いなく掘り出し物の人材だし。明日からあたしと組みましょう!」

「おい。何勝手も決めようとしてんだ。やり方が違う、断るに決まってんだろ」

【ハンティングアイ】

 彼女はサイドテールを揺らして、どこか、獲物を定めた如く蠱惑的な目が包帯男を追いかける。

 包帯男は困惑に眼を逸らして距離を取るだろう。

 昨日出会ったばかりの印象の悪い人間だ。しかも『感染者』相手にと、ただ困惑する。

 

 その拒絶もどこ吹く風と少女はそのまま追い抜いて、くるりと身軽にターンして。

 こっちを見ろと包帯男が歩く前を塞ぐだろう。

 

 黄昏の赤い光景、夕日にくっきりと影を作りながら、少女はこちらを指さし宣言する。

 

「えぇ、もちろん今はただの勧誘よ。ただ覚悟してね、一度狙ったらハイエナ(あたし)はしつこいんだから」

【家出娘:夢追い人】【土狼人】(アドウォルフ)

 亜麻色の少女はそんな困惑も知ったことじゃなく、彼女の価値観に"群れ"になろうと宣言する。

 

 人間社会にかぶれた夢追い獣人と、、ただただ生きているだけの"暗器"の初仕事は。

 一方的な熱に困惑を遺して移り変わるのだった。

 

 

 





なんか割と強くなった。
ツヴァイ君は十数えるころに【武器壊し】から逃亡しているので。
拾われてそれから曲がりなりにも対獣に適応した動きをしている為、
武器壊しとしての対人戦の腕はやたら鈍っていたりします。トレードオフです。
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