聖錬北方開拓異聞   作:きちきちきち

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悪意と日常

 

 

 

―――【開拓町:レスロバ】

 

 とある場所、建物の中。

 厳かで立派な業モノや魔具を飾り付けて、訪れた者をその武力に威圧する様な空間である。

 そこ肘をつきながらに机に座り、厳かな鎧を纏った男が一人いた。

 

 ここは『開拓町:レスロバ』にて新興の二大傭兵ギルドの一つ『王冠狩り』(クラウンスレイヤー)

 その建物(ギルド)の最上階の一室である。

 もちろんそんな所で偉そうにふんぞり返っているこの大男は、

 そこに座するべき長に準ずる立場の人間であるだろう。

 

「ふん、小さなメスの獣人、使役闘争士(トレーナー)だとお?」

「へ、へぇ見た感じ年端もいかねえ子供に見えるでやんす」

【傭兵王:カリスマ】【豪腕の覇者】【無窮の武錬】

 それに相対するのは怯えて小さく縮こまった男である。

 昨日、支援物資と供に届いた入植団の連中、偵察に行かせた奴からの報告を纏めて聞いている。

 

 それはギルドが大きくなるために、取り込むべき相手を人材を値踏みする様に。

 今はそこで目立った一人の新参者の話である。

 

「あっしは獣の世話は詳しくはないでやんすが、完璧に手懐けてやんしたね。身振り手振りでサーカスの様な芸まで披露してやした」

「ははそりゃ使えるな。『使役闘争士』は家畜の世話でも、騎乗獣の調教でもいかでも使える。中央からってのもいい。北部に関してとんだ世間知らずだろう」

 本来に人類の敵対種であるモンスターを手懐ける、それは容易なことではない。

 固有魔法の延長に才能からそういう親和性を持ち得る類もいるが、それは極めて稀である。

 大概にノウハウによる物、しかし土地に根付いてカビが生えたように出てこない類も多い。

 

 小男からの報告を聞いて、経験から傭兵長の男は知識に寄る後者であると判断した。

 

「―――欲しいな。モンスター相手は下っ端にやらせようとしてもテンでダメだ。獣人というのも都合がいい」

【傭兵王】【政治知識Lv3/5】【経営の才】

 その報告を聞いて男はニヤリと、卑下た感情に頬を歪ませるだろう。

 男にとって"差別"は便利なものだ。人を束ねるのにもこれほど便利なものはない。

 人間、己より下の物がいれば、安心するモノであるのだから。

 半面に、居場所のない人間はそれを得る為になんでもする。

 故に安く使える。誰でも気兼ねしなくてもいい、公然とした便利な奴隷である。

 

 それはさておいて、気になったことはある。

 

「しかし、この使役獣(ペット)は聞いた事もねぇな。なんだ『ハガネガニ』だぁ?」

「は、はぁ。本当に小蟹の様な見た目にしてる生き物でやんす。これに相当入れ込んでるみたいで、なんでも"これからこの子達をよろしくっ"て、自分の使役獣(ペット)を広めるつもりでやんすかね?」

「ふは、ふひゃひゃひゃひゃ!!なんだそりゃ、夢見の現実知らずか!!」

 男は心の底から笑う、見下すような嘲笑である。

 騎乗獣による移動手段であればチョコボがあればいい。他の運搬手段であっても同様だろう。

 食料を生み出すでもない。供に戦うにしても生態系の捕食者を使役すべきである。

 

 そんな小さく、非力で、ノロマな生き物に何の価値があるというのだ。

 

「そりゃあ勿体ないよなぁ?俺らが"保護"してその能力の"使い道"を教えてやるとしよう。わからなければ懇切丁寧に身体にな」

「へ、へぇどうするんで」

「余所者は居場所さえなくしてやれば、俺等に頼るほかない。そうだろ?鼠亜人(マゥシー)

【交渉術・悪悦】

 現実知らずの夢を抱いた若者というのは、それがぽっきり折れた時にえらく従順になるだろう。

 『王冠狩り』(クラウンスレイヤー)は新興のギルドだ、専門家は足りない。目的に沿って学ばせればいい。

 しかし目的の役に立たないモノへの使役はいらない。それこそカネの無駄である。

 

 なんと滑稽で、えらくバカバカしい夢を抱いている。

 

「"ガウシアン"の奴にやらせろ。チンピラ紛いの意地汚い手を使うなら奴の手の物の仕事だろう」

「へ、へい御意に」

 しかしだからこそ、都合がいいと。

 

 彼女等の知らない所であざ笑う。

 そんな悪意と、交わるのはそう遠くない事の事となるのであった。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 ところ変わって、凸凹の彼等彼女達のお話に変わって。

 

 

 

 農作地を縄張りに荒らすモンスターの調査と排除。

 土地に詳しい包帯の男の案内の元、詳細を確認する為に依頼人の元を訪ねて、戸を叩いた。

 亜麻色の少女が立ち、仕事の挨拶自体は軽く終わっただろう。

 

『おお、せっかく依頼を出したんにだーれもこんと思うとたら、あんたらが依頼を受けてくれるのか、助かるだよ!』

【開拓地の農夫】【農筋】

 戸を叩いて、出迎えるのは痩せていながらも引き締まった男と、その家族と思わしき人影。

 受諾の意志を伝えに訪れ出迎えた依頼人は、家族の集まりであるらしい。

 どうやら複数の家族が、共同で開拓地の土地を開墾している。

 

 貧しさに新天地で夢見て一念発起、良く在る話だろう。

 依頼人が貧しい故に、これは割の悪い依頼だ。専門性も場合によっては討伐も求められる。

 

『せっかく一からこつこつ石を除いて、水の道を引いて地道に耕した畑を荒らされちゃたまった物じゃないねぇだ。どうかよろしく頼むだよ』

 

 ここ『レスロバ』は新鋭の開拓地である。

 下地はない。畑作りは土作りである。そもそも適正のある土地にするのも地道な作業だ。

 石を砂利を除く、水が通る道を引く、肥をどこからか調達して馴染ませる。

 

 ああどこまでも地道で地道な苦労だった。

 

 そこにモンスターが通り道を作っては、溜まった物ではないのだ。

 たとえそれが、もともと獣の縄張りであったとしてもである。

 

 そんなこんなで、案内されて辿り着いたそこで彼女等は―――

 

 見えるのはまだ整備されたばかりの、不格好な農道のあぜ道の光景そこに立っていた。 

 ここから拡がる只管のほっ返された平原である。

 風はそよ風、属性値も安定したこの頃、匂いも特段平穏な土と青草が混じった匂いをしている。

 

「ついたぞ」

「とりあえず足取りの調査ね。ここはあたしの仕事よ任せておきなさい」

【土狼人】(アドウルフ)【野狩人Lv2/5】【荒野の嗅覚】

 亜麻色の少女が、周囲を特徴的な野外帽から耳をぴくぴく覗かして伺っている。

 自然に対する五感に棲ます様に。

 

 もちろん今は、着替えていつもの緑を基調としたストライプを飾った野外服姿である。

 そんな事で彼女は―――

 

「まずセンパイも手分けして足跡を探す!それらしいものを見つけたら教えて頂戴な♪」

「こんだけ広い中を、か。……っち、それが賢いやり方なんだろ、仕方ねぇな」

『迷彩外套』【包帯男】【夜鴉の如く】

 その隣で同伴する包帯男は、外套に相変わらず気配を隠して。

 しかし、どう考えても己には不向きな仕事に、露骨に不機嫌な声で応える。

 目の前のやるべき事、仕事自体は黙々とやる。相変わらずそういう質だった。

 

 しぶとい雑草を攫いながら、露になった地面を探り続けて―――

 

「……これか、これが獣爪痕だろう。この畔に幾つか続いている」

「あんがとー、確かに新しいめの足跡ね、ちょっと調べてみるわ」

【夜鴉の如く】

 亜麻色の少女が腰を下ろし、崩れかけの足跡を周囲を払って触って、輪郭を観察する。

 彼には何をしているわからない。興味もない。

 ただ調べ物に熱中する少女の背後に立って、護衛の如くその間の周囲を警戒するだろう。

 

 それだけである。

 

「さてと、この足型は……牙獣種の類かしら爪の形が特徴的ね。大きさは中型くらいかしら」

「牙獣……イノシシの類か、わかるのか?」

「うん、大体はね。四足歩行で牙を持って地中の根やキノコを掘り返して食べ物にしてる、悪路と土を掘り返す力が強い蹄の形よコレ」

【研究者】【生物学知識】

 

「さて、これ辿ってけば縄張りを回る為の道筋はわかる。じゃあお願いねみんな」

『『『『ぴーっ!』』』

【使役闘争士】【戦術家】【出勤指令】

 ぱんぱんと彼女の掛け声に応じて、飼育箱の中から複数のハガネガニが飛び出て来る。

 それぞれ周囲の足跡の近くに、ばらけてテコテコテコと歩いていき。

 

ザクザクッ!

『ハガネガニ』【あなをほる】【カモフラージュ】

 小さな彼等は鋏を器用に用いて、地面を掘って埋まり風景と同化するだろう。 

 ぞれぞれの土壌の殻に矯正している一凛の華がなければ、まるで見分けはつかない。

 これはハガネガニは野生本来の習性である。元々土壌に根付き隠れ住む生態をしているのだ。

 

 それを見て包帯男は意図を察して呟いた。

 

「―――生き鳴子(トラップ)か」

「あったりー、大概の嗅覚の鋭い"モンスター"は縄張りを持っている。それを維持する為の巡回路もね。これで後は待つだけよ」

 少女はくるりと一回転、サイドテールと尻尾を揺らして、得意げに答える。

 

 これは調査と討伐を含む割に合わない依頼ではあるが、それでもやり方次第でもある。

 そう工夫次第だと、目の前の頑固者に見せつける様に。

 しかし。

 

「そうか高所、後は丘に登って待っていればいいな」

「ちょいちょーい融通利かずか!ふつーはやり方とかコツとか聞くものでしょ!!」

「興味がねぇ、賢いやり方は、どっちにしろ俺がやる事は一つだけだ」

【ソロ冒険者】【元・武器壊し】【後天限才】(ギアス)

 包帯男は結論を短絡的に伝えて、そのあとは口を閉ざしてしまう。

 やはり彼は貪欲さからは程遠い。後は案山子の様に佇んでいるだけである。

 それにまさに、今しばらくの付き合いであるとばかりだった。

 

「……―――」

「むー」

 亜麻色の少女は不満そうに膨れながら、上目使いに睨みつける。

 いかに優れた狩人であろうと、やはり徒党(パーティ)行動は初心者なのだろう思う。

 そのまま丘の上に昇って、その後はやる事はない。ただ時間が流れていく。

 

 風は流れ続ける、比率の高い氷属性に葉に着いた霜は吹き上がる。

 そんな不思議な現象を眺めながら、時は流れて。

 

 

『―――ピーッ!!』

ピクッ

 突然鳴き声がした。少女にとっては聞きなれた子供たちの鳴き声である。

 

「!、引っかかった」

「北北西か、先に行く―――荒事は俺の仕事だろ」

【我意暗器ナレバ】【影を駆け抜ける者】【超俊足】

 包帯男は使役闘争士である彼女より、早く反応し駆け出すだろう。

 大地に擦るような独特の歩法、障害物をものともしない周囲の音と同化するがごとく疾走である。

 

「まっ、はやツヴァイまた一人で」

【獣人:土狼人】(アドウォルフ)【俊足】

 亜麻色の少女とてハイエナ混じりの獣人である。

 脚には自信がある。それでも追いつくのがやっとだ。

 まさしく、大地を滑るような歩法、人の身体にあるまじき歪な動きである。

 

 

「ついてきたのか、休んで待っていればいいのに」 

「ぜぇ……!ったり前でしょ馬鹿ツヴァイ!!」

ダッ!

 しかし彼女は負けず嫌いである。

 それでも彼の独りよがりなふるまいに、憤りの反骨心で追いすがるだろう。

 

 

 そして、辿り付いたその先にいたのは。

 

『ブルルルルっ!!』

【牙獣種:ドスファンゴ】【白鬣の牙獣】

 牙獣種、ブルファンゴ……いや群れのボス(ドス)となり掛けと呼べる巨体な猪である。

 その蹄で先の鳴き声の先を探そうと、辺りを掘り返し続けてるのが見えた。

 駆け付けたこちらを見つけて、威嚇の咆哮をあげるだろう。

 

「お待たせ、ハンマーちゃん!!」

 『ハガネガニ』は擬態混じりに、土中に縮こまっている。

 その様子に安心する、まだ見つかっていない様だ。

 

 亜麻色の少女は クロスボウを構える互いにどう動くかを考える。

 牙獣種しかも中型以上の敵である。正直報酬に割に合わないターゲットだ。

 

「どうするセンパイ」

「お前がいなければ、身を隠して不意でド頭カチ割りに行ったんだがな」

「このおバカ、モンスターの嗅覚を舐めんな、しかもあれは土属性由来の感知もあるタイプなんだから」

『合成樹脂のクロスボウ』【クイックドロー】

 亜麻の少女は呼吸を整えて、手早くボルトを番える。

 彼女のクロスボウでは中型以上のモンスターの骨は抜けない。

 この世界における代表的な片手間(サブウェポン)、扱いやすさの代わりに鍛えても威力に反映されないのがこの武器である。

 

「血気盛ん猪突猛進、脚をやればいい」

「あいよー、じゃああたしが気を引くからアタックは任せた!」

【戦術家】

 少女は駆け出す、あいつらはまず動く者によく反応する。

ザッザ!!

【猪突猛進】

 駆け出す少女に釣られて、とっしんの準備動作に前足で勢いよく大地を掻くだろう。

 それは入念だ自慢の突貫で砕かねば、気が済まないと言わんばかりに。

 

「右掻きに右牙が短い……ならっ、あの子は右利きね、そこっ!」

【生物学知識】【ハンティングアイ】【キルゾーンスナイプ】

 彼女は牙獣種の習性に先読んでいた。そのタイミングならば彼女の腕でもあたる。

 流石に、止まった相手には百発百中である。

 

『ブギュアアア!』

 突き刺さった矢の痛みに豪快にバランスを崩して、それでも勢い付けた右足で強引に突進する。

 しかし、流石のモンスターの頑強性というべきか、やはりその矢は骨を抜けていない。

 負傷した足をただ支えにそれでも突き進むだろう。

 

 しかしもちろん、そこに元来の速度(キレ)は出ない。

 

ばっ

「十分だ」

『教会の杭;ウォーピック』【壊し屋】

 包帯男がその突進の先に、角度とタイミングを併せて躍り出る。

 すれ違いの様な衝突に瞬間、人には引き飛ばされた様にすら見えるだろう。

 しかし跳ぶ、空中に回転しながら獲物を振り回して―――

 その実、重力、遠心力、相対速度さえ破壊力に変えて、その杭槌は振り下ろされる。

 

 

―――バ ゴ ン!!

『ヴブギャアアアアああ!!』

 

 牙獣の野太い悲鳴、陥没、破砕音が聞こえ空間に木霊する。

 とっしんを大きな武器とする、牙獣の類の頭蓋は大概に酷く頑丈である。

 

【鉱石病】【精■術】【冷徹逸徹】

 それを一撃で粉砕するのは並みの技量ではない。

 しかし対象を殺したとて慣性は消えない。包帯男は振り下ろしの反作用に浮いている。

 バランスを崩した巨体に勢いのまま撥ね飛ばされ、受け身をとって、勢いよく大地を転がっていくだろう。

 

 ズドォン……!

 

「終わったぞ」

「おわーったてアンタ、完全に足潰す為に仕掛けるかと思ったら、あっさり撥ね飛ばされてなにやってんの!」

「どうせ頭蓋が固い。突撃の勢いを利用した方が速い」

 包帯男は跳ねられた事にはあくまで無感動に。

 土煙の後、埃まみれになった外套を払い、のそりと立ち上がるだろう。

 

 亜麻色の少女はため息をついて。

 

「早いからてまったくほんと仕方ないわねー。ほら専門じゃないけどケガがあるなら見せなさい」

「あんくらいでケガなんかねえよ。余計な世話だ。……不用意に俺に障れば鉱石病がうつるぞ」

「あらそう」

 それを包帯男は差し出される手を余計な世話だと拒否し

 亜麻色の少女は、その言い草に呆れた溜息を深くするだろう。

 狩りは成功したのだ。自己責任の冒険者どうしだ。今はまだそこまで深入りはしない。

 

 ただ既に彼女は『鉱石病』を調べているのだから、その距離の取り方はあまりに短絡的である。

 不用意な威嚇なのにと、内心に寂しく思う。

 

ぴーっ!

【使役闘争士】【プロブリーダー】

 集合の笛の合図の口笛を吹く。身を隠していたハガネガニ達がもこもこと地面より顔を出した。

 ぞろぞろ集まってくる。

 

「まぁそんなことより!」

ぱん。

【獣人:狩りの儀礼】

 合掌、亜麻色の少女は本当に嬉しそうに、それでいて慎む様に手を併せる。

 獣人が価値観の根本にある狩り、その結果の獲物だ。

 例えそれが不倶戴天足る、人類の敵対種である"モンスター"相手も変わりない。

 

 先日は"属性災害"というべき、土砂崩れがあった場所であるから諦める他なかったが。

 

 生き方を教えてくれる対等な相手である。粗末には扱えない。

 故に。

 

「おい、何やってるんだ。討伐は成功したんだ。後は報告に帰るだけだろう」

「何言ってるのそんな勿体ない事、ひゃっはー貴重なお肉よお肉!剥ぎ取りの時間よ。ツヴァイも手伝いなさい!」

「は?」

『剥ぎ取り用ナイフ』【野狩人Lv2/5】【器用な指先】

 無駄にできない。

 亜麻の少女は尻尾を振って嬉しそうに、バックから剥ぎ取り用のナイフから取り出して。

 この大猪の遺骸にルンルンにナイフを入れて、出来る範囲で解体していく。

 

 この『聖錬』は『王国』と比べて比較的平和だ。

 少し歩けばモンスターに忽ち遭遇するモンスターパニックではない。

 だからこそ悠長に剥ぎ取りもできるのだ。ある種の贅沢ともいえるかもしれない。

 

『ぴぃ』

『ぴっぴ』

つんつんもぐもぐ。

 そんなご主人たちの背後で『ハガネガニ』が鋏で地面突いて。

 それはそれで食事をしているだろう。

 

「割に合わない依頼なんだから、こーゆう所で帳尻併せていかないとねー♪」

「おい、やけに楽しそうだな」

「そりゃ楽しいわよ。狩りの成果は誇るべきだもの!それは身に着けるのも食べるのも一緒の礼儀なの」

 頚を斬って血抜きを行い。毛皮に、肉に切り分けて袋に拡げる。

 包帯男は、予備のナイフを仕事の一部だと強引に持たされ、怪訝な顔をしている。

 

 彼は"人間"の解体はしたことはあるが、獣の解体は初めてだ。

 軽く終わらせようと思えば、脂の質のがまるで違う、皮の弾力がまるで違う、苦労する。

 

 

「……っちなんでこんな面倒な。俺はお前が言う狩人じゃねーぞ」

「あら、こんだけのお肉よ。持って帰れば食堂を兼業してる"マスター"は助かるかもね?」

 

 包帯男は不満を漏らすが、その言葉に黙り込んで少し考え込む。

 そして溜息をしながらも―――

 

「……それもそうか、どーすりゃいい」

「♪、刃筋はこう、角度はこう、後は刃物が使えれば加減は―――」

【一宿の恩】

 軽く教える中で、ぴこぴこと少女の獣耳が躍る。

 彼は口では悪態付きながらも、こういう所は律儀である。

 亜麻色の少女は、己にどこまでも無頓着な男の、そういう反面を割と気に入っていたりする。

 そうでなければ間違ってでも、群れ(ペア)を組もうなんて言ってないのだから。

 

 

【バッカーLv1/3】

 そうやってしばらくして。

 流石に大型種になり掛けと見える個体は皮も肉の量も多い。

 袋に切り分けて包み、バッカ―資格者に与えれれる拡張カバンに詰め込んでいくだろう。

 

 背負えばずんと重さが肩にのしかかる。

 少女の笑みに獣人由来の犬歯のぞく、その重さ半面に成果を実感して上機嫌である。

 

「お肉―お肉ー♪今日は久しぶりのお肉ー!ねぇツヴァイは何にして食べたい?」

「火を通せばなんでも同じだろ」

「つまんないこと言わないの!ツヴァイが仕留めたんだから、ツヴァイが決める権利があるの」

「よくわかんねぇな。それも狩人のなんちゃらか、ちんちくりん」

 

 死骸は死肉漁りを寄せる。制限時間はある。

 つまりは剥ぎ取りは時間との勝負である。

 解体しきれない分はハガネガニの堀った穴に埋めて後処理して。

 

 今日の狩りを終えた凸凹の彼等は、その場を後にするだろう。

 

 

 

 

 ●●●

 

―――【鶴の機織り亭】

 

 

 その後、町と外を隔てる門を潜って開拓町へと戻ってきた。

カランカラン♪

 扉を開ける、吊り下げられた鐘の音が響く。

 

「おや、おかえり。お嬢ちゃんにツヴァイ、依頼の内容の割に早かったね」

「ええ勿論。あたしは優秀な野狩人(レンジャー)だし、ツヴァイは優秀な狩人なんだから当たり前よ」

「だから俺はちげぇって何度もいってんだろ。んなことよりマスター、土産だ」

 包帯男は相変わらず、押しつけがましい少女の言葉を呆れたように否定しながら。

 手土産に持ち帰った保存のきかない生物(ナマモノ)の類を、そのリュックごと渡すだろう。

 

「そう!獲物が大きなブルファンゴでね。仕留めた奴をバラシて持ってきたの、これ夕食にしてくれないかしら?」

「ほう牙獣種の肉と骨か、これはありがたいね。こういうのは骨が結構重宝するんだ。保存も効くし種類ごとに出汁の風味の差があるのさ」

「へーそうなんだ。じゃあ優先して持って来ればよかったかしら、"土狼人"(あたし達)は骨まで食べれるから持って帰った訳なんだけど」

【土狼人(アドウォルフ):頑丈顎】

 亜麻色の少女が興味深そうに話を聞く、それは違うモノに対する好奇心だろう。

 彼女はハイエナ混じりの獣人である。骨とて食料だ。

 多頭群れの死肉漁り由来に死骸から少しでも糧を得る為、骨もバリバリ食べるのである。

 

「骨を……か?似合わずワイルドだな」

「うっさい」

 包帯男は想像したのか思わず呟いて、

 彼女は、そのおそらくの想像に、女の子として少し羞恥があったぺしっと叩き返す。

 

「いやいや、骨で出汁を取るのはぼくたち料理人の話だからね。やっぱり蛋白源のお肉が一番さ、この町は料理に対する試行に飛びつくにはまだ余裕がないしね」

【相濡の梟】【料理人】

 だから、これは趣味みたいなもんさと笑って言う。

 そう、この開拓地においては今どちらかと言えば食事は、安い早いが重要視されるのである。

 

ガタンっ!

 バッカ―の異次元カバンから、包みを一つずつ取り出した。

 彼は地下水を利用した地下の冷蔵保管庫に、受け取った肉と骨をしまい込む。

 改めて。 

 ナイスミドルの男は穏やかに礼を告げるのである。

 

「とにかく助かるよ。『開拓地』は仕入れ先もまだ不安定だからね。今晩の食事は期待して置いてくれ」

 『レスロバ』はまだ開拓の最中である。安定した仕入先も確定していないと言える。

 ここは"マナ"という不純物に汚染されている金魚鉢の世界だ。

 生態系の循環(サイクル)が逸脱して早いとはいえ、畑は根付いて恵みを安定させるのは先になるだろう。

 

 そして付近の生態系の調査も、まだ半ばの段階である。

 人類の力は知識に寄る所が大きい。

 つまり安定した採取場所も、モンスターを安定して狩って、食料を確保するのもまだ遠いのだ。

 

「そして依頼の報酬に多い分は、うちの仕入れとして別途乗せておくよ」

「ほんと!やったー♪」

 

 足りないものが多い。

 商人達は"仕入れ"を安定させる為、独自に有力な『傭兵ギルド』とコネ作っている側面もある。

 だからこそ、新参者たちが需要の隙間に食い込み、成功を夢を見てここにいる。

 

 優秀な傭兵自体が権力者のステータスであり、影響力の由来となる。

 

 そんな土地事情はさておいて。

 

「……そうか、役に立ったか」

「ちょっとーツヴァイ、ご飯楽しみにしてるとかないのー」

「必要ないだろ。やる事はやった。マスター、俺はまた騒ぎが起きるまで大人しくしている」

【チンピラ】【鉄面皮】

 包帯男は彼にとっての仕事は終わったと言わんばかりに、背を見せて。

 外套を深く被りまたいつもの定位置、冒険者宿の端の方に戻ってしまうだろう。

 いつも通りにギルドの案山子としての習慣である。

 しかし、その声はどこか緩んでいるようだ、自身の行いに少し安心したような声である。

 

「……本当にもう、なんというか不器用にも程があるでしょ」

「あはは、まぁツヴァイはなんというか余裕がない子だからね。もう少し余裕を持ってくれるといいんだけどさ」

 ギルドマスターは苦笑する。きっと評するなら、物事に対する切り替えが早い速すぎる。

 亜麻の少女も流石に、短い付き合いでもその性分も意図もわかるだろう。

 

 それはさておいて。

 

「実際の所ツヴァイとの徒党(パーティ)は、どうだいお嬢ちゃん」

「ん?まぁ彼は優秀な狩人よ本人が否定しても、そこに不満はないわ。だって、若い個体とはいえ大型になりかけのモンスターをこんな早く狩れるのは、故郷の同胞(みんな)の中にも、なかなかいなかったわ」

 突然の問いに亜麻色の少女は小首を傾げて思い返す。

 獣人としての価値観にまず思い浮かぶのは、優れた狩人に対する敬意である。

 

 しかし。

  

「それだけに勿体ないの。自分も相手にも死に無頓着だわ。危なかっしくて見てらんない」

「ふむ、それじゃあお嬢ちゃんはツヴァイが心配だから、一緒にいてくれるのかい?」

「まさか」

 ギルドマスターの男は質問を重ねる。包帯男を拾った彼は知っている。

 ある種、彼は完成されている事を、不条理にどうしようもなく安定してしまっている。

 自らを"暗器"と評するその体現、それを否定する矯正する事はそのもの否定するに他ならない。

 彼女はそんな事などつゆも知らないが、重ねられた問いを、笑って否定する。

 

「あたしは打算的よ?ええ、ツヴァイを信用していいと思ってる、彼と組んでいれば"夢"に向かっていけると思ってる。それに彼がいれば"独りぼっち"じゃない」

【家出娘】【旅人】

 少女は短い間だが、一緒に仕事をして知っている。

 少なくとも、彼は"獣人"に対して何の感慨も抱いていないという事を。

 極めてフラットである。知識として知っていても誰でも同じように隣にするのだろう。

 『聖錬』という国にあっては、安定した土地であるゆえに獣人に対する差別意識は根強い。

 

「不思議よねー。豊かで安全であればある場所ほど、"獣人"に対する偏見大きいんだもの」

「そうさね。ぼくも旅をしていた経験があるからよく分かるよ」

【元・■ルヒア牧師】【教育者の伝道】

 彼女の故郷の同胞とて、"人類"と"モンスター"との混ざり呪われた存在だと差別され―――

 また"死肉漁り"ともいうべき食性から、病気呪いを運ぶ存在として石を投げられ、正義面した誰かに襲撃された事もある。

 彼女の自慢である筈の獣耳を尻尾を隠して、紛れて冒険者として生活していた事も少なくない。

 

 きっかけさえあれば、そう願う彼女が夢の為に渡り歩いた。

 獣人の粗野で愚かしい連中という先入観に、夢自体を鼻で笑われ足蹴にされた事も幾度もある。

 

 言葉にはしない。反骨心にこなくそと努力し続けて生きてきたのが。

 時折、はるか遠く同胞達の暮らしているだろう方角を見て想いを馳せる事がある。

 心が悲鳴を上げる事がある。群れる生き物だ。本能だ、仕方ない事である。

 

「その、えっと、独りぼっちはつらいわよ?だから―――ね」

 少女のその目が言外に語るだろう。

 一人は"寂しい"のだと―――彼女とて、夢見て身一つで飛び出した家出娘、年頃の娘である。

 亜麻色の少女は、恥ずかしいのか最後まで言葉にしない。照れ頬を少し赤らめながら言う。

 

「うん、安心した」

【ギルドマスター】【相儒の梟】【老成たる経験】

 ナイスミドルの男は食器を片付けながら、本心からの安堵の息を吐くだろう。

 哀れみでは破綻する。

 彼は求めていない。歪な形なれど、彼は彼なりに安定してしまっている。

 打算だけでは欲に道を見誤る。

 ただ利用するだけにあっても"暗器"として優秀で脆い。それは"杖"になり得ない。

 

 だから、その答えは満足いくものだった。

 ギルドマスターの彼にとっては、なりゆきに拾った彼はもう一人の息子の様なものである。

 なんだかんだ助けられた事も幾度もある。

 酷く不器用なだけの、選択肢を身勝手に奪われただけの若人なのだ。

 

「これからも、よろしく頼むよお嬢ちゃん」

「もちろん」

 しかし、若いだけでこれから幾らでも取り返しが効くだろう。

 少なくとも彼はそう信じている。

 あとは当人たちの問題だ。深くは聞かない。ただ一言それだけで締めるだろう。

 

 

 

―――悪意と裏表のそのあくる日は

   こうやってひとまず、何事もなく暮れていくのだった。

 

 

 




 ビーンストークちゃんが積極的にツヴァイ君と組みにいく理由。
 大きな打算と、普通の心配と、特大の寂しがりのブレンドとなります。

 群れで生きる種族なので、元々孤独に対するストレス耐性は強くないです。
 嘲笑を反骨心に変えて。
 ハガネガニの皆が一緒にいるとはいえ、それはそれとして一人は嫌だ。

 そこになんか狩人として優秀で、獣人に対してフラットで、夢を笑わない。
 なんか一人だとふらっと死んでそうな奴がいたので。

 拾わなきゃ色々な意味で勿体ない!群れになりましょう!と絡んでおります。
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