狂愛の成層圏 作:◆nfBCCxnKFit4
──よ、よし! 今のは結構いい感じでは……?
「うむ、確かに今のはいい感じだった。だが、それでもまだ性能の高さに頼り切っている部分があるな」
──そ、そう言われても……
学校に行かなくなって1年くらい経ったかな、俺はISの操縦の練習や、学校で習うはずだった勉強を頑張っていた。たまに今日みたいに千冬さんが来てはISのこととか、学校で習うはずだった授業の内容とかを教えてくれたりしてる。千冬さんはIS学園の先生をやってて忙しいはずなのに、頭が上がらないよ。
「最も、性能向上が著しいその機体では、ある種仕方ない部分もあるがな……」
──元々の性能の倍くらいですよ、今……力加減が大変です……
「もうそんなにか!? 思っていたより成長が早いな……」
俺の専用機……えっと、『束さんとソリダスくんの子』……は、まだ
──…………これ以上は動かすなとか言わないでくださいね? 動かさないと練習ができないんですから
「そ、それはそうだが……一体束は何を考えてるんだろうな……?」
──さ、さぁ……?
「と、とにかく! やらねばならない以上、とことんやるぞ! ほら行くぞっ!」
──え、ちょっ……まっ……!?
ザシュッ
その時、俺の右腕が装甲ごと斬り落とされた。
──なっ……こんなにも、あっさり……!?
「あ、す、すまんっ! つい、やりすぎて……!?」
だけど、次の瞬間には。俺も千冬さんも、起きた出来事に目を疑った。
斬り落とされたはずの腕が装甲ごと、まるで何事も無かったように復活していた。
確かに斬り落とされたはずなのに、だよ? 事実として斬り落とされた装甲が、手が床に落ちてる。なのに、なのにだよ。ちゃんと斬り落とされたはずの手の感覚があって、本当に何もなかったように無くなったはずの手がそこにあるんだ。本当に、よくわからない。
「な、何が起きた!?」
──お、俺に聞かれても……
あまりにおかしな出来事に、千冬さんは束さんを呼んできて、束さんと一緒にクロエさんも来て。みんなでてんやわんや騒ぐことになった。
「床に落ちてる手も、新しく生えてきた手も……ちゃんと、ソリダスくんの手だよ……間違いない」
「い、一体何が起こったのか分かるか?」
「さっぱり。多分、
失った手をその場で生やす。どう考えても普通じゃないことが、実際に起きてしまった。怪我とかなら、ナノマシンで治療したって例があるみたいだけど、欠損を治療した例は流石に無いって。その場の誰もがワタワタしてた。
「あ、もしかして……脳に入ってる傷も治せてるんじゃ……!」
「「!!」」
束さんがそう言い出したことで、俺はCTスキャンに掛けられた。……どうしてラボに医療器具があるんだろう?
「…………全然、変化が見られないや」
「そ、そんな…………」
……だけど、
「な、何故だ!? 腕の欠損は治せたんだぞ!? 脳の傷だって……!」
「ちーちゃん。……脳筋のちーちゃんには分からないかもしれないけど、脳みそってとっても複雑なんだよ……?」
いまいちよく分かってない千冬さんに、束さんが悲しい顔をしながら、頭の傷を治す難しさを教える。その説明は、俺にはとっても難しくて、全然分からなかった。あ、あの……一番よく分かってないのは俺なんですけど…………?
「な……なるほど……腕を生やすのとは話が違うってことなんだな……」
「……だけど、こんなのって……」
「やっと、光が見えたと思ったんだがな……」
説明が終わったと思えば、みんな落胆してしまった。あ、あの、さっきから俺は置いてけぼりなんですけど……。
「…………」
「…………束様?」
「…………ね、ねぇ、ソリダスくん…………?」
──……え、な、なん……ですか?
そして、今の状況を飲み込めないまま、やたらと挙動不審になってる束さんから話を振られる。なんだろうと思って返事をすると、束さんは「ちょっと待っててね」とだけ言って、走って部屋を出ていっちゃった。
──…………?
「お、おまたせ……それでね、ソリダスくん。話なんだけど…………脳みそ、これに交換しない…………?」
そう言って、震えた手で見せてきたのは超大容量SSDとか超高速CPUとかを適当にくっつけただけのやっつけコンピュータ。本当に急いで作ってきたって感じの、誰が見ても分かるくらいにはお粗末な、殆どガラクタって呼べるもの。……それを、俺の脳と交換しようって言い出した。
「お、おい束……流石にそれは、どうかと思うぞ…………?」
「じゃあ何だよ! 他に何かいい方法がちーちゃんには思いつくって言うの!? こうでもしないと、ソリダスくんの頭はずっと悪いままなんだよ!?」
「くっ…………」
流石にそれはって思った千冬さんが止めに入るけど、目に涙を浮かべた束さんが叫ぶように言って。…………何か思うところがあったのか、千冬さんはすぐに折れてしまった。
「…………な、ならだ。え、えーとプロジェクトモザイカなら、いやここはデザインベイビーか……!?」
…………訂正。千冬さんまで迷走した。こうなっちゃったらもう止めようがない……と思ったけど、もう一人、クロエさんが居たんだった。俺はクロエさんに、なんとか止めてもらえるように視線を送る。すると、一瞬何かを考えるような仕草をしたクロエさんが言う。
「……束様、お言葉ですが……」
「クーちゃんまで文句言うの!? いい加減にしてよ!」
「いえ、脳をコンピュータに交換するのは確かに素晴らしいと思います。ですが、脳をコンピュータに替えてしまえば、介護という建前でグヘヘすることも出来なくなりますが、それでも良いのですか? 私は嫌です」
「あ! 確かに!! ナイスクーちゃん!」
止まった。…………止まったよ。でもなんだろう? なんか今、変なこと言ってた気がするんだけど……まあ、止まったんだからいっか。
だけど……なんかこの日から、束さんとクロエさんからのやらしいスキンシップが明らかに増えた気がするんだ。いや介護してくれるのは嬉しいんだけどさ、なんというか、気になるっていうか……。……気のせいだといいんだけど。
「ソリダスくん! ちょっと専用機借りるね?」
──あ、はい。またデータ取りですか?
「うん! 箒ちゃんの専用機を作るのに使うんだー。あ、クーちゃん解析お願い」
「畏まりました」
あの事件から更に数ヶ月経って。束さんは最近、新たにISを作ってる。俺の専用機と同じ第4世代らしい、真っ赤なIS。俺のISから稼働データを取って、第4世代としての性能をより成熟させたISを作るんだって。
──箒ちゃん?
「束さんのかわいいかわいい妹だよ! 今度、機会があったら会わせてあげるよ」
──そうなんですか。……妹さん想いなんですね
俺やクロエさん以外にも大切に思っている人が居るなんて思ってなくて、少しびっくりしちゃった。だって、普段の束さんは俺にベタベタだからね、俺とギリギリクロエさんしか見てないのかと思ってたよ。
「うん! でも、そんな箒ちゃんを束さんの勝手な行動で寂しい思いをさせちゃったから、仲直りしたくて」
──……え、嫌われてるんですか?
「最近は会えてないけど、そうなんじゃないかな? 箒ちゃんが大好きだったいっくんとも離れ離れにさせちゃったからね……」
だけど、あまり仲は良くないみたい。せっかく妹想いの束さんなのにそもそも会えてなくて、しかも束さんがやったことで嫌われてるかもしれないってのはちょっとかわいそうだって思った。
──……なら、その妹さんといっくんって人を再び会わせてあげればいいのでは?
「それだ! ……でも、どうやって?」
「……箒様は、保護の目的でIS学園に通われることが決定しているのですよね?」
「そうだよ? それがどうしたの?」
──あ、俺がISを動かせるようになったみたいに、いっくんって人もISを動かせるようにして、IS学園に通わせれば……!
「なるほど! その手があったか!」
だけど、束さんとその妹さんを仲直りさせれそうないい案を思い付いたよ。
「ただ、これをしてしまうとソリダス様もIS学園に通わないといけなくなってしまいますが……」
「うげっ……それはちょっと困るかなぁ……?」
──俺は全然いいですよ? むしろ行ってみたいです、IS学園
「……ソリダスくん。今までろくに学校行けなかったからって、ちょっと楽しみにしてない?」
──してます! ちょっとどころかすっごくしてます!!
そのついでで、俺もIS学園に通えるかもってなった。今までろくに学校に行けなかったから、やっとまともに通えるってなって楽しみになってきたよ。
「あ、束様。データの解析が終了しました」
「クーちゃんありがとー! どれどれ〜? …………うげぇ、またインフレしてるよ……」
…………ちなみに、俺の専用機を超える性能にしてやるぞと張り切ってたりもしたけど、動かせば動かすほど性能が上がる、俺の専用機のデータ解析データを見る度に、束さんが真っ青になるのは俺とクロエさんだけの内緒。
「束さん、これに打ち勝つIS作らなきゃいけないのぉ……?」
──べ、別に無理しなくてもいいんじゃ……
「ぜ、ぜぜぜ全然平気だよこれくらい! 束さんならよ、余裕だもん!」
プルプル
「……見るからに震えていますが」
──……俺は応援しますよ
「ありがとうソリダスくぅ〜ん……束さんすっごく辛いよ〜」
こんな事を言っちゃったせいで、夜に束さんに激しく求められちゃったのは言うまでもないかな。死ぬかと思ったよ。
「うーん……そろそろ、かな?」
更に数ヶ月くらい経ったある日、束さんがいきなりそんなことを言い出した。
──何が、ですか?
「いやさ、前に言ってたいっくんにIS動かしてもらおうって話したよね? それの決行日が今日なんだ」
──昨日話で言ったばかりですよね、それ
「うん。今日がいっくんの受験する藍越学園の試験日で、そこで偶々ISの試験をやるからさ、ここがチャンスかなって思ったんだ。それで色々施しておいて、そろそろ仕掛けが上手く作動していっくんがISを動かしてテレビで放送される頃じゃないかなーって思うんだ」
カチッ
そう束さんが言うと、流れるようにリモコンを手元に呼び出しテレビを付ける。普段は束さんがテレビを見る事はないんだけどね。……そして電源が付いたテレビは、男性操縦者が発見されたという速報を流していた。それも全部のチャンネルで、世界中のほぼ全ての国で。
──わぁ……どの国を見ても、どのチャンネルを見ても同じ事やってますね
「そうだね、それくらい大変な事だから、当然だよ」
男性操縦者。それは女性にしか動かせないはずのISの常識を根本から覆す存在。俺がその一人なんだけど、ISを動かせることが日常だったから、これが普通じゃないことをすっかり忘れていた。
「…………ソリダスくん、束さんたちもテレビに出よっか」
──…………え?
すると、ふと束さんがとんでもないことを言い出して。
「テレビの放送ジャックして、ソリダスくんが男性操縦者ってことと束さんと婚約してることを、全世界に放送するんだよ! ほら来て、放送やるよ!」
束さんに手を引かれるがままに、放送機材の部屋に連れてかれて。
「はろはろー! 訳あって姿変わっちゃったけど、天災の束さんだよー! ぶいぶいー」
ニカッ
女神様のような笑顔で、カメラに向かって叫んだ。
うさぎさんは、2人の少年を送り出す。