闇鍋の宴パロ   作:椒 朔月

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掃き溜め組がボス攻略クエストに行きます。
この回ではボス戦しません

※虫系モンスターの描写をしてるよ。実在の虫ではないけど苦手な場合注意。



掃き溜めた闇鍋① ~ボス攻略に行きます~

「ボス攻略に行きます」

 話を切り出したのは、この場に他二人を集めた蜘蛛の下半身を持つ少女、白金縁(しろかね えにし)だった。

 

 事の発端は三日前。普段から利用している狩場の一つで、些細な環境の変化がみられていた。よくある森林エリアで、通常なら肉食獣モンスターが多く、資源の充実した環境なのだが、その頃から全く別種のモンスターが見られるようになった。以来、急激にその数を増やし、この三日でとうとう生態系を占領されてしまっている。

 一部では、環境の変遷を起こす仕様であるとすら嘯かれ、手を出すべきではないと主張するプレイヤーたちもいる。

 だが、普段からそのエリアを利用するプレイヤーからすれば、やけにレベル帯の高いモンスターに突然のさばられては、生態系が変化することで元の狩場としての機能を失い、移動のためのルートも塞がれてしまう。

 この場の三人にとっても、それは死活問題だった。

 

 そして昨晩、件のモンスターが、卵から孵るところを見たという目撃証言があった。それまでの情報と照らし合わせた結果、“奴らには親玉がいる”という仮説が打ち立ったのだ。

 

「マジで居たんだ」

 少し驚いてみせた凍星奏雨(いてぼし かなめ)が言う。

 

 仮説に基づき、情報屋ギルドプレイヤーが上空からの偵察を行なったところ、森林の中心部にクレーターのような大穴を発見。その底に佇む大型エネミーの存在を確認した。情報屋ギルドは、それを突発的なレイドボスであると断定し、それなりの報奨金を積んでクエストを貼りだした。

 今回はそのクエストを白金が請け、報奨金を減らす代わりに情報をいくつか貰ってきたらしい。

 

「けど、そいつ倒したとして、それで解決すんの?」

 声音に疑念を乗せ、怪訝そうに縦肘をついた椒朔月(はじかみ さつき)が問いを投げた。

 環境が変化するほどの事態。ただボスを倒したとして、既にポップしているモンスターは残る訳で。完全解決とはならないのではないかというのは、当然に浮かぶ疑問だった。

 

「まぁすぐ解決とはならんけど、大元を断たないとキリないってことでしょ」

「なるほど、確かに」

 冷静に反論する奏雨の言葉に、素直に納得して引き下がった。

「それに多分、ある程度数減らせれば、元々いたモンスターたちが勝つ気がするんよね。単体はそんなに強くないっぽいし。ボスの影響で湧いてるなら、無限湧きする狼とかにその内淘汰されるでしょ」

 白金がそう付け加え、その話はまとまった。“ボスエネミーさえ討伐できれば、この問題は解決する”と。

「話が分かりやすくて助かるな」

 椒は鬼面の下で静かに笑う。問題提起した張本人ではあるが小難しい話より、倒すべき対象がはっきりしている方がずっと楽しい。

 話がまとまったことを確認した白金が小さく頷き、話を進めようと口を開いた。

 

「そんじゃ、準備して出ようか。マップの確認は道中で――」

「え、待って他の人は?」

 しかし、白金の話を奏雨が遮って疑問符を立てる。ギルドメンバーは十人強。この場には三人しか集まっていない。

「こんな突発で、日程合う訳ないじゃん」

「あぁ……うん…」

 

 議論の余地は無かった。

 そんな訳で、この場の三人での攻略になるという認識を共有した。尤も、同じように困っているプレイヤーだっているし、ギルド外のプレイヤーに協力を求めることもできる訳だが――

 

「ま、久しぶりにこの三人でってのも悪くないでしょ」

 

 その台詞もまた、それぞれが共有した認識だった。

 

 

 

 そんなこんなでやってきたのは、件の森林にほど近い街の道具屋だった。ポーションなどの一般的な消耗品に加え、スローイングダガーや苦無のような投げ物などの簡易武器も並べている。出撃直前の準備には打って付けだ。

 また、この店はNPCではなく、プレイヤーが自主営業している店としても知られている。そのおかげで何かと融通が利くため、近くの森林を狩場にしていた面々も普段から世話になっており、店主とも顔見知りなのだ。

 

「いやぁしっかし。お前さんら、マジにあの森入んのか?」

 椒の注文した品を用意しつつ、店主が声をかけた。

「あぁ。早いとこ解決しちまわねぇとだろ」

「そりゃそうだけどよ。嬢ちゃんはいいにしてもだ。お兄さんら、虫系モンスターはNGなんじゃなかったか?」

 

 時が止まった。

 このゲームで時間停止なんてぶっ壊れスキルは発見されていないはずだが、それでも、確かに約二名の時間が一瞬完全停止した。

 

「虫系モンスター…?」

「何が……?」

 

 鬼と獣人が顔を強張らせる

 

「何って、そのモンスター。甲殻類の虫系だったはずだろ」

 

 一瞬の間を置き、二人の視線はアラクネの少女へ集中する。その瞳には分かりやすく憤りが灯っている。

 

「白金?」

「知ってただろお前」

 

 クエストを請けたのは白金であり、そこで情報を仕入れたのも白金だ。目撃情報も多数。モンスターの系統を把握していないはずがなかった。

 

「言ってなかったっけ」

「「お前さぁ!!」」

 

 

 ******

 

 

 洞窟の奥地。特別大きく広がった空間の中心で、二人の男が顔を合わせていた。

 

「手筈通り、クエストを受注したようです。そろそろこちらへ向かい始めるかと」

 黒の外套に身を包み、フードに陰る表情はへらへらと軽薄な笑みを浮かべている。

「そうか。来るか、奴が」

 簡素な着物と袴に太刀を佩く、正しく流浪の剣士といった風体の男は、威風堂々たる姿で大穴の先、狭い空を見上げている。

 

「っと、失念する前に渡しておこうか。そら、此度の報酬だ」

「えぇ、確かに」

 外套の男は、投げ渡された包を両手でそっと受け止める。

「それでは、また御贔屓に」

 中の代金を確認し、左手を添えて小さく礼をすれば、溶けるように闇に消えた。隠密スキルを併用した転移魔法。彼が仕事を終え帰還する際はいつもそれを使う。アジトを探られぬための工夫らしい。

 

「さて……間もなくだな、相棒」

 広間の中心に佇む巨大な黒影に視線を送り、剣士は抑えきれぬ高揚を乗せた声で言う。その太い腕を緩やかに伸ばし、相棒と呼んだモノの牙を優しく撫でる。

「私とお前の渇き。今の奴らならば応えられような」

 昂る笑みで空を見上げ、森を進む強者たちを今か今かと待ち望む。

 

 

 ******

 

 

 本来ならば白昼は木漏れ日が落ち、心地良いはずの森。だが今は濃霧が落ち、辺りには不穏な敵意が漂う魔の森となった。

 

 現在、この森林エリアは大きく三つに分かれている。

 外周からおよそ1km内側までは濃霧が立ち込めており、比較的モンスターが少ない。方向を見失いやすく迷いやすいが、モンスターとの遭遇率はむしろ元来よりも低い。

 そこを抜ければ、ぱったりと霧はなくなるが、昼でも薄暗いため視界が良いとは言えない。そして、濃霧の中よりもはるかにモンスターが多い。最短で中心へ向かっても、まず遭遇は避けられないと考えた方がいい。

 更にその奥。森の中心をごっそりとくり抜いたように大穴が空いており、その直径は500m強。

 

 足元も覚束ないほどに視界の悪い道を、しかし迷うこと無く進む。レベリングに素材集め、圏外戦闘なんかで散々通い詰めた場所だ。濃霧の中を真っ直ぐ進むくらいのことで、今更迷うなど有り得ない。

 頭上を飛ぶ半透明の霊鴉を見上げつつ、奏雨もまた自身の耳を立て索敵に気を配る。霊鴉――鴉魂(あこん)には、上空から周囲を監視させつつ、範囲隠密スキル≪三途の傍観≫を行使させ続け、ただでさえ低いモンスターとの遭遇率を極限まで低くする。

 戦闘になれば一気に方向感覚を狂わされる濃霧の中を、こうしてさっさと通り抜けようという算段である。テイマーである奏雨のMPは徐々に削られていくが、万が一に敵と遭遇しても、他二人が対処できるため無問題。

 せめての温存を兼ねてもう一体のテイムモンスター、冰熊(ひぐま)という名のシロクマに跨っている。尤も、大きな理由はテイムモンスターの召喚をできないために、連れ歩かなければ戦闘に参加させられないからなのだが。

 

 

「……敵は?」

「近くには居なさそう。あんまり喋ると消音貫通するよ」

 

 釘を刺され、自身の鬼面越しに素早く口を塞ぐ。

 この行軍方法は安全性をとる意味合いが大きいが、何より虫系モンスターとの遭遇を極力避けたいという私情が多分に絡んでいた。

 

「おもしれ~」

「マジでお前だけは許さねぇ」

 

 へらへらとふざけた笑いで二人を眺める白金に、椒は怒りを顕わに抗議的視線を向ける。これだけ規模の大きいクエストを、受注した以上は放り出す訳にもいかず、相当の紆余曲折あって、虫嫌いの二人は強制労働を強いられているのだ。

 

「いいのか、私は今ここで大声を出しても良いんだぞ」

「そうなったらお前の脚を全部落として全力疾走だな」

「うるせぇなお前ら二人とも口縫い合わすぞ」

「クゥーン」「こっわ」

 

 そんな漫才を交え、何度かモンスターと遭遇しかけながらも濃霧の中を進む。ほぼ最短距離を歩いたためか、十分程度であっさりと霧を抜けた。

 

「ほんとにこっから全く霧ねぇんだな」

「物理エンジンどうなってんだろ」

 

 くだらないことをのたまっている椒と白金を他所に、奏雨がキッと眉根を寄せた。上空を飛んでいた鴉魂は、いつの間にか主人の肩で羽を休め、冰熊が低く唸り威嚇している。

 

カタ、カタ

 

「あんま呑気に喋らない方がいいかも」

 その声に、背後の霧を見ていた二人も周囲を見渡した。

「うーわ……」

 あからさまに嫌がって見せて、太刀に手を掛ける椒。

 

カタカタカタ

 

 飽くまでも平静に、緩やかに双剣を抜く白金。

 

カタ、カタカタ

 

 取り急ぎMP回復のポーションを飲み込んで杖を構える奏雨。

 

カタカタカタ、カタカタ

 

 全員が、合図なしに戦闘態勢をとった。

 

カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

 一見、その影は人型にも見えた。だが、人の形というには、あまりにも甲虫の面影を色濃く残しすぎており、シルエットはむしろ蟷螂(かまきり)に近い。

 人一人ほどの背丈。どこか水生虫を思わせる甲殻が全身を覆っている。

 大きく発達した鉤爪を持つ長い腕が、頭部と一体化して見える肩から伸びる。

 黒く濁った眼は、あまりに虫らしく、後方にまで視野は広がっている。

 蜘蛛にも似た複数の脚を生やしており、機動力は高いと見え、壁面すらも踏みしめるらしい。

 更に悍ましくは、蜻蛉(とんぼ)のそれに似た羽を背に携え、飛行も可能なようだ。

 

 ソレ――否、()()()は木の幹や枝、地面から空に至るまで。正しく全方位から、一行を取り囲み、睨みつけていた。

 その数は、十か二十か。もはや数えるのすら億劫に思える。

 

「に、しても……多くないかな」

「鴉魂を飛ばしてたのが裏目に出たかな。もっと早く下げるべきだった」

「数も含めて、マジできっっしょくわるいな」

 

 平静を保ちつつも冷や汗を見せる白金。

 表情を強張らせつつも冷静に分析する奏雨。

 鬼面の下で嫌悪感丸出しの椒。

 

「けどとりあえずは――」

「うん。突破するしかないよな」

 

 精一杯の痩せ我慢か、勇ましく言って見せれば、奏雨は前方へ力強く杖を構えた。




多分こっから2~3話くらい続きます。
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