闇鍋の宴パロ   作:椒 朔月

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短いです。次は長いかな


掃き溜めた闇鍋③ ~トラウマもの~

「まさか奴ら、ここまで一直線に向かってくるとはな」

 大穴を覗き込む青年ら。それを遠目に眺め、くつくつと笑う武人然とした無骨な男。

 昂る心に呼応し震える右手を、押さえ込むように握り、胡坐の膝に拳を立てる。縦肘をついた左手で顎を支え、正しく高みの見物といった風体。傍らには、これもまた無骨な愛刀が鞘の中で静かに眠る。

「さて」

 唐突を演じる声をあげ、男の座る相棒の頭部を軽く撫でた。愛刀を拾い、腰の帯に差しつつ立ち上がる。

「そろそろ備えるとしようか。待たせても興が覚める――」

 自身のインベントリを開こうと、少し落とした視界に映り込んだ光景に眉をひそめ、首を傾げた。

「奴らは……何をしているんだ……?」

 

 

 ******

 

 

「椒、あんま動くなって」

「糸握ってんの大変なんだよ」

「支えてる方が大変だが??」

 真っ直ぐに下る大穴の壁伝い。命綱というには不安定な蜘蛛の糸に追い縋り、穴に潜っていく一行。そのほとんどの命を背負う白金のHPゲージは、ほんの少しずつ減少していた。

 

 結局、大穴の周囲を調べても入口らしいものは見当たらなかった。いや寧ろ、入口が確定した。“初めから大口を開けて迎えているだろう”そんな揶揄いの色すらある意図を感じ取り、大穴そのものを入口と認識した。

 そして今、その入口から白金の糸を頼りに降下作戦を決行中である。

 奏雨の氷魔法など、他の方法もあったが、著しく確実性に欠けるか、リソースの消耗が激しいかのどちらかだった。

 地上からは確認できなかったが、恐らくこの大穴の底ではボス戦が待っている。それが分かっていて、激しい消耗や大穴内でのデスは避けたい。そんな訳で、白金に負担を押し付け少々頑張ってもらう作戦に相成った。賛成2:反対1の多数決である。

 

 糸をなるべく太く縄状に編み、それを命綱に大穴を降下する作戦。結論で言えば、それは成功していた。多少揺れつつも、順調に大穴をの底へ向かって降下中である。

 

 だが一つ、穴の深さが分からないという、重大な問題があった。

 試しに石や苦無、氷塊を投げ込んでみたが、途中で壁に当たるらしく、底までの距離を測ることは叶わなかった。得られた答えは、果てしなく深い。と、それだけだった。

 

 予め糸を長くするにしても、長過ぎては命綱の意味を成さない。そのため、適宜糸の長さを伸ばさなければならない。

 そのために必要な糸は二本。

 まず一本、大穴側の糸に白金以外の全員がぶら下がる。もう一本の糸は、白金が自身の脚から出したまま切らず、地上の木に括りつける。この糸を白金が少しずつ伸ばし続けることで、大穴を降下するという寸法。

 大穴側の糸の先を冰熊の胴に巻き付け、重石を担ってもらうことで命綱の安定性を少し上げつつ、白金が糸を伸ばせばその重さで勝手に降下するようになっている。

 

「そろそろやばいかも、回復してもらっていい?」

「おっけー」

「回復くらい自分でやれよ~」

 

 椒の滑稽で無意味な野次を無視しつつ、奏雨は器用に片手でインベントリから回復結晶を取り出して白金に使用した。

 

「カンダタの気持ちが分かるな」

「その場合お前も落ちるぞ」

「巻き込まないでもらっていい?」

 

 トーンを落とした声で奏雨が制止する。

 AGI偏重INT・TEC上質デバッファー(頭のおかしい変態構成)である白金のSTRは、パーティメンバー全員を支えられる程高くはない。というか、自重を支えるので精一杯程度である。

 とてもではないが、t(トン)に肉薄するかというこのパーティの総重量を支えられるものではないのだ。それを、八本ある脚と二本の華奢な腕を全て巧みに操作し、装備で高めた地形踏破能力を全力で行使することで何とか支えている。

 それでも、貧弱な膂力を完全に誤魔化せはしない。持てる技術とアドバンテージを駆使しても尚足りなすぎる肉体強度のしわ寄せは、分かりやすくHPダメージとして現れる。それを白金の体が引き千切れないように定期的に回復し続けるゴリ押し作戦である。

 

「そういやさ」

 なんだかんだでかなり深くまで降下したところ。椒が唐突気味に声を上げた。

 

「これ、途中で敵に襲われたらどうなんの?」

「落ちるね」

「まぁそりゃ」

 

 迎撃をしようにも、そんなアクションを起こしてこの状態を維持できるとは到底思えない。近接型の椒は勿論、白金も 命綱で精一杯である。望みがあるとすれば、奏雨の魔法による迎撃だが、近接戦に対してはやや不安がある。群れで飛び掛かられてしまえば迎撃しきれない。そうなれば、白金が重量と揺れに耐えかね、一行は大穴の底までのスカイダイビングならぬ地底ダイビングを味わうことになるだろうか。

 

「まぁでも、すぐそこに、モンスターが詰まってる横穴でもない限り大丈夫でしょ」

「確かに。大丈夫か」

「変なとこ心配性ダナー」

 

 降下中の三人の乾いた笑いが空虚な大穴に響いた。

 呼応する甲高い奇声。ちょうど、霧を抜けた時に聞いた時のそれと酷似していたそれは、桁違いの数だった。

 

「「「あ。」」」

 

 目が合った。横穴があった。蟲の群れが在った。それはもう、びっちりと。列をなしているのではなく、横穴を埋め尽くしている。虫が得意だなどと嘯く豪胆であっても、よほどで無ければトラウマものの光景だ。

 

「えっと……」

「あーん…?」

「っすゥー…」

 

 一時停止した思考でわざとらしい瞬き。しかし何度見直しても、光景に変わりはない。やがて、瞳の受けた情報を脳が理解した。

 

「「「ぎぃぃやああうぉおえくぁwせdrftgyあぁあああ」」」

 

 鉤爪を剥き出し、飛び出す蟲の群れ。絶叫に紛れる甲高い鳴き声と耳障りな羽音。

 糸にぶら下がるそれぞれが暴れだし、命綱のキャパシティを越える。するりと抜けるものと、ぷつりと切れる物。

 

「やっべ」

 

 間の抜けた誰か、或いは全員の声。そして浮遊感。それが自由落下の感覚だと理解するのには、さほど時間を要さなかった。




幼少時代のリアルなトラウマとほとんど同じものを書いているよっ!
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