闇鍋の宴パロ   作:椒 朔月

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良いタイトル!浮かばない!


掃き溜めた闇鍋④ ~自由落下、迎撃戦~

 巻き上げる風。円柱状に岩盤を貫く景色が下から上へ駆け抜けていく。

 

 ――マジでめちゃくちゃ深いんだな。

 

 呆気ない落下死の危機だというのに、椒の頭にはそんな呑気な言葉が浮かんでいた。寧ろそんな言葉が浮かぶほど、深さに果てがなく感じられたからこそ、そんな言葉が浮かぶ。なんて言えるかもしれない。

 だが、この世界(ゲーム)が現実に即した舞台設定である以上、本当の意味で果てがないことはあり得ず、もたもたしていれば、全員慣性に圧し潰されてペシャンコである。

 

 耳を埋めるような風の音に交じり、頭上から叩きつけるような羽音の大群。鳥の羽ばたく音なら、或いは心地良かったのかもしれない。だが、残念なことにそれは人間大の蟲共が、こちらに襲い掛からんと羽ばたく音だった。

 

「――凍え(グレイス)貫け(プランテ)!」

 

 奏雨が呪文を唱え、形成した氷柱(つらら)を絶え間なく、蟲の群れへ向けて乱射。迎撃をかける。氷柱が蟲の体を捉えれば、凍結と共にHPを確実に全損させる。魔法の威力自体が飛躍的に上がっている訳でもなく、むしろ弾数を増やすことにリソースを割いているので、穴の中の蟲は地上の者よりも耐久性が低く見えた。よく見れば体も一回り小さい。幼体のようなものだろうか。

 

 適宜、魔法を変更しながら放ち、何とか一定のラインで蟲の群れを抑えつつ、奏雨は白金に視線を向けず声を投げる。

 

「上の迎撃はする!白金、下お願い!」

 

 下、とは要するに着地のことで。落下死する運命を何とかしろという、ある種投げやりな指示だった。

 

「おっけ……、ぅんや――」

 

 それを軽く了承しかけて、白金は言葉を切って、上下に手を掲げる。

 

「――()()()()やるよ」

 

 白金の伸ばした糸が、頭上では穴を塞ぐ大きな形で、下では半円状に穴を遮る形で、それぞれが蜘蛛の巣を展開した。

 頭上の物は地上で披露した物と同様、『大蜘蛛の暗糸』としてのデバフ効果を持ち、蟲の群れの進行を阻害する。

 下の物は、間もなくして三人とテイムモンスターの体を受け止め――ぷつ――てはくれなかった。

 始めに巣に着地した冰熊の重みには何とか耐える頑強さだったが、次々と落ちてくる椒、奏雨、白金。流石にそれらが立て続けてなお堪えるほどの耐久性はないらしく、ぷつりぶちりと音を立ててパーティの落下した位置に穴を開いた。

 再び始まる自由落下。一瞬とは言え受け止められたためか、目に見えて落下の速度は緩まっている。

 

 下を見れば、ようやく。いや、()()大穴の底が見えている。

 

「おいこのままだとやっぱ死ぬって!」

 

 速度が緩まったとは言っても、すぐに落下死する程度には加速するし。

 底が見えているとは言っても、充分に落下死できる高さは依然とある。

 

「分かってるって」

 

 白金に焦った様子はない。再び下に手を向ければ、今度は連続して糸を放ち、同じような蜘蛛の巣をいくつも、そこら中に張る。

 

「あー、なるほど」

 

 いきなり落下を止めれば、むしろダメージが入る。それを見越した策として、このように徐々に速度を落とす方法を考えたらしい。

 

ぶぶっぶぶぶ

ぶちッ ぶちッ

 

 そのチープな音は頭上から聞こえた。もう聞き飽いた無数の羽音に加え、糸の断ち切れる音。

 蟲の群れが、白金の『大蜘蛛の暗糸』を断ち切り始めていた。いくらデバフが乗っても、穴に蓋をせんばかりの個体数とその重量に任せて突破することも可能らしい。

 

「あれも分かってたよな」

「やっべ」

「おい」

 

 感覚麻痺に近い呑気さで漫才じみた会話をする椒と白金を尻目に、奏雨が掌で杖の先端を支えるように、頭上へと掲げる。

 

凍り流れる氷の華よ(グラスィエ・ジーヴ)――結べ(コンジェレス)――凍てつき尽くせ(メェル・ドゥ・グレイシエル)――ッ!」

 

 杖に青白い光が灯り、先端へ集約する。奏雨が杖を振ると同時、一際強く輝いた。

 そうして放たれる冷気は稲妻のような体裁で、加速度的に増長しつつ、蟲の群れへと迫る。

 

 冷気の稲妻は、辛うじて穴を塞いでいる『大蜘蛛の暗糸』と接触した瞬間、瞬きよりも早くその全てを凍結。糸に触れている蟲や穴の壁面すらも巻き込み、直径500mの大穴を完全に塞ぐ、大きな氷塊の板が形を成す。

 

 それは氷雪系最上位魔法の一つ。比類なき効果範囲を持ち、強力な凍結に加え、一時的に凍らせた場所の環境を寒冷地帯に書き換える。寒冷地帯では、氷属性にバフが掛かり、逆に弱点である炎属性にはデバフが掛かるため、その後の戦闘も有利に進められる。

 今回に限っては、蟲が無数に群れていることも利用し凍結することで、巨大な氷塊を形成した、奏雨の発想勝ちである。

 

「詰めが甘いぜ白金~」

「割とマジ助かった」

「何回見ても最上位はすんごぉ~お~~、うぇっ」

 

 椒の発言の最中、丁度白金の張った巣に受け止められてキャンセルされた。落下の速度が大分落ちているせいか、糸の弾力でトランポリンのように跳ね返されて、それが三半規管を揺らす。

 

「なぁこれ急に揺れて酔わない?リアルで寝ゲロとか嫌だよ俺」

「ある程度いったら強制的に落とされるんじゃない?」

「それはそれで困るな……」

 

 そうこう言っている内に穴の底はもう目の前である。恐らくボス戦が待っているであろうところで、セーフティによるログアウトで時間を食うなどごめん被る。

 そう考えて、椒は手で口を抑えつつ、なるべく酔わぬ様に遠くを見ようと、氷の天上を見上げた。

 

 透明度の高い氷の向こう、その奥。つまりは上空に、何か物体が見える。

 それは徐々に大きく鮮明に――否、真っ直ぐに大穴へと迫っている。

 

「…………なんか降ってきてない?」

 

 訝しんでいるようですらある椒の声に、他二人も氷越しに空を見上げた。

 太陽を背にしていて、シルエットでしか分からないが、()()は一瞬身を捩ったように見えたかと思えば、一気に速度を上げ、こちらとを遮る氷の天上へと飛び込んだ。

 ガキンッ

 甲高く響く重い音を立て、()()の巨大な爪のようなものが氷塊を貫いた。

 

「マジ…?」

 

 奏雨が表情を引き攣らせる。

 一時的とは言え環境を、地形を構成する氷塊を貫く。それは、つまり岩盤を貫くのと同義。イコール、それを一撃で成した凶爪の貫通力は、この世界(ゲーム)において最上級である。

 そして、そこには急降下の重さが乗っている。一撃による貫通。そこに相応の重量もあるとくれば、ただ貫くだけに収まるはずはなく。

 

ピシッ――

 

 耐久の不和を告げる、幽かな音が響く。

 

パキ、パキパキ

 

 貫かれた一点を中心に、端から端へ亀裂が走る。

 

バキバキッ、バキ

 

 破壊は広がり、増殖し、やがて――

 

ガシャァァァーーンッッッ

 

 ――崩壊した。

 

「おいおいおい!おい!!」

「うっそでしょ!?」

「っははは!!でっけぇ~!!」

 

 姿を現したそれを、三人は未だ空中で見上げていた。

 有象無象の蟲同様、節足動物のような下半身に、人の上半身がくっついたようなシルエット。雑魚蟲に比べてはるかに大きく、人の三倍ほどの背丈でありながら、一層人らしい骨格も有す。

 装甲としか形容できぬ甲殻を備え、大きな頭部を持つその姿は、まるで巨大な鎧武者の様で。

 

「よくぞ辿り着いたな!!待っていたぞ!!」

 

 声は巨蟲、その僅か上から響いていた。目を凝らせば、その姿を捉えられる。推定ボスエネミーの頭部に、()()()()()()()()

 そして同時に、巨蟲の頭上に浮かぶカーソルも見えた。

 

「は?」

 

 素っ頓狂なその声は、誰のものだったか。人より五感の優れた椒か、テイマー職である奏雨か、クエストを受注した白金か、ともすれば全員か。

 ボスエネミーの――否、ボスエネミーだと思っていたモノを示すカーソルは、エネミーモンスターではなく、テイムモンスターと同じ色をしていた。

 

「くっ、ははははは――」

 

 驚く三人を嘲るような、又は高揚を抑えることを辞めたような、或いは狂喜に心身を委ねるような。高らかな嗤い声が天地を貫く大穴に響いていた。

 

 穴底への着地は――開戦の合図は、すぐそこだ。




ドンドン話数が伸びるのを感じてビビっている。
次はいよいよボス戦なんですけどね。
あと3~4話くらい続きそうだよ。

当初の予定だと4話くらいで終わる予定だったんだけど~!
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