最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 この話の途中、Dが花を主人公に渡しますが、もし興味がありましたら花言葉を調べてみてくださいね。
 主人公の返答の意味も、わかると思います^ ^


ハピバレ 了平、初代組

 恭弥さんの不意打ちに若干照れさせられながらの仕事を終え、学校からの下校時間。

 

「む?奈月ではないか。」

 

「ん?あ、了平さん。ちょうどよかった。」

 

 校舎の外へと向かうため、正門の方へと歩いていると、了平さんから声をかけられた。

 先輩側の教室に行くのは少しだけ気が引けていたため、作ってはいたけど渡すにまで至らなかった贈り物を渡すことができそうで、少しだけ安堵の息を吐く。

 

「ちょうど良いとはどう言う意味だ?」

 

「こう言う意味です。」

 

 そう言って私が取り出したのは、黄色いリボンでラッピングしていたバレンタインの贈り物。

 それをすぐに了平さんへと手渡せば、彼はキョトンとした表情を見せる。

 

「今日はバレンタインですから、お世話になっている人には渡しているんです。

 ボクシングって、割と体型維持やらなんやらがめんどくさいと聞いているので、カロリーも甘さも控えめなガトーショコラとビターナッツトリュフが入ってます。あとはアイシングクッキーですね。」

 

「この、植物と思わしき見た目をしてる奴だな。」

 

「はい。それはカンナと呼ばれる花をかたどったものでして。」

 

「極限に聞いたことのない花だな。」

 

「まぁ、植物にあまり興味がなければあまり見ないかもしれませんね。」

 

 不思議そうにアイシングクッキーを見つめる了平さんの姿に少しだけ笑い声を漏らしそうになる。

 でも、今は笑いはとりあえず飲み込み、私は静かに口を開いた。

 

「植物には様々な花言葉があります。カンナももちろん、例外なくありましてね。」

 

「花言葉?」

 

「はい。カンナの花言葉は“情熱と快活”。私は、ボクシング部に入るつもりはありませんが、ボクシングに向き合う了平さんの姿はかなり尊敬しているんですよ。

 誰にも負けないボクシングへの情熱……それに突き動かされてひたすら向き合う快活な姿勢……その姿は、正直言ってかっこいいと思っています。」

 

「か……!?」

 

「クスッ……驚き過ぎですよ。……私もかつては向き合っていたことがたくさんありました。でも、結局は道半ばに終わらせてしまい、全てを失いました。

 あの時の喪失感や気力の低下は、どのような表現も合わないくらいに悲惨なものであり、寂しいものでした。

 心配はないでしょうけど、私は、了平さんに同じような気持ちにはなってほしくないと思っています。

 だから、これは一種のエール。その情熱と快活さは決して忘れぬよう、未来へと走り抜けてください。」

 

 “私は、それを応援しています”と伝えれば、了平さんは一瞬目を丸くしたのち、手元にある贈り物を見つめる。

 そして、小さく笑みを浮かべたのち、彼より低い位置にある私の頭を優しく撫でてきた。

 

「うむ!ありがとう、奈月!極限に嬉しいぞ!だが、それと同時に、オレから言いたいことがある!

 もし、今、何かやっていることがあると言うのであれば、決してそれを諦めるな!道半ばで足を止めてしまうことや、壁に阻まれるようなことがあったならば、我が部に足を運ぶと言い!

 オレがスパーリングの相手をしてやろう!もしかしたら、少し体を動かすだけでも、何か越えるためのきっかけを得るかもしれんからな!!」

 

「!」

 

 そんなことを言われるとは思わず、私は一瞬目を丸くする。

 でも、その言葉はどことなく私の心に響き、少しだけ明るい気持ちにしてくれた。

 

「ありがとうございます。では、もし、そのようなことがあった時はお願いしますね。」

 

 “その時は、思う存分胸をお借りします”……この言葉は、歪曲して伝わりそうだから口にすることなく飲み込んで、小さく笑いながら言葉を紡ぐ。

 私のこの言葉を聞いた了平さんは、世界を眩く照らす太陽のような、頼もしい笑顔で頷いた。

 

 

 *:・゚*.+ ❀ *:・゚*.+ *:・゚*.+ ❀ *:・゚*.+ *:・゚*.+ ❀

 

 

 了平さんとわかれ、いつものように帰路に着く中、私はある場所を目指して移動する。

 

 向かった場所は、私がよくアラウディさんやジョットさんに訓練をつけてもらっている場所。

 人通りが全くと言っていいほどになく、訓練に明け暮れていようとも、誰も気づくことがない場所。

 ついでに言うと、この場所には常にDさんの幻術がかけられている。正確には私が足を運んだ瞬間発動するもので、常にと言うわけではないのだけど。

 

「……ジョットさん達、受け取ってくれるといいんだけど。」

 

 なんて、誰に説明してるかもわからないナレーションを内心で行いながら、私は自身の精神の主導権を“わたし”の方へと移行して、大鎌を触媒にして幻術を発動させる。

 この幻術は、Dさんに教えてもらったもので、幻術で覆う場所を自身の意思で限定し、少量の炎の消費で初代ファミリーやDさんを現界させることができる。

 この技術は相当幻術に精通してなくてはできないものだと彼から聞いたが、どうやらわたしは幻術方面の才能は、一流の術師にも匹敵するものだったらしく、師がいいこともあり、身につけることができるものだ。

 

「幻術の展開に約10秒……ヌフフフ……またかなり成長しましたね、ナツキ。

 ですが、この範囲程度なら、もう少し展開までの時間を詰めることは可能ですから、後一息頑張りましょうね。」

 

「D……ナツキを育てることかなり楽しんでいないか?」

 

「楽しいに決まってるじゃないですか。私の言葉に耳を傾けることなく、最終的にその穴を突かれて最悪の事態を招いたプリーモに比べて、彼女はしっかりと私の言葉に耳を傾け、私の望んだ通りの成長を迎えているのですから。

 まぁ、まだ少々意思などがフラフラと彷徨っている部分がありますが、彼女はまだ人生の5分の1も生きていませんからね。

 最終的に軌道修正は行うにせよ、ある程度は許容するのも師と言うものです。

 最終的に起動の修正はしっかりと行うつもりではありますが。」

 

「おい、こいつ2回同じこと言いやがったぞ。」

 

「言ったものね。」

 

「言ってたな。」

 

「言っておりましたなぁ……」

 

「くだらない。あまりナツキを変な方向に向かわせないでくれる?うざいんだけど。」

 

「約1名辛辣なのですが……?」

 

「むしろ辛辣にならねー方がおかしいっての。」

 

 有幻覚により肉付けされた初代組が顕現するなりわちゃわちゃし出す。

 相変わらずこの7人は賑やかだな……なんて思いながらも、わたしは地面に下ろしていたスクールバッグに両手を突っ込んだ。

 掴んだものは、橙、赤、青、黄、緑、紫、藍などのリボンでラッピングした7つの贈り物。

 

「みんなの炎の色に合わせたリボンでラッピングした。ハッピーバレンタイン、わたしの師匠(せんせい)達。

 それぞれの炎と同じ色のリボンでラッピングしてるものを手に取って。」

 

 わたしの言葉に、初代組は目を丸くする。

 しかし、すぐに小さく笑い、自分達の死ぬ気の炎と同じ色の贈り物を手に取った。

 

「ありがとう、ナツキ。」

 

「まさか、もらえるとは思わなかったな。」

 

「私も思わなかったでござる。嬉しいものですなぁ……」

 

「オレ様はちょっと期待してたものね。」

 

「僕はもらえるって確信してたけど。」

 

「まぁ、明らかに作ってる量がおかしかったですからね。私達のも混ざっているなとは思っていました。」

 

「究極に嬉しいぞ、ナツキ!感謝する!」

 

 それぞれの反応に、どこか気持ちが満たされる。彼らに受け取ってもらえたことや、喜んでもらえたことは、すごく嬉しいものである。

 ……死んでいるはずの彼らに、こんな風にものを贈っていいものかと悩んだりしたけど、どうやら杞憂だったらしい。

 

「みんなはどんな味が好きかわからなかったから、甘過ぎず控えめ過ぎない中間あたりのものを用意したよ。

 チョコマドレーヌとミルクチョコトリュフ。あとは、見ての通りアイシングクッキーね。」

 

「そのようだな。」

 

「これまでナツキが友人達に渡したのを見てたが、確か、花言葉と一緒にその植物をかたどったクッキーを渡していたよな?」

 

「うん。だから、みんなに渡したものにもちゃんと意味がある。」

 

 最初にわたしが視線を向けたのはGさん。彼に渡したアイシングクッキーに含まれている花言葉は……。

 

「Gさんに渡したのはストックの花。赤のストックに含まれている花言葉は、“わたしを信じて”。」

 

「?お前のことは信じてるぜ?」

 

 キョトンとした表情で言葉を口にしたGさんの姿に、わたしは小さく笑いながら知ってると口にする。

 でも、この信じてと言う言葉に含まれているのはそれだけじゃない。

 

「これはわたしの決意表明。Gさんは、わたしがDさんに変なことを吹き込まれていないかといつも心配してくれているよね?

 だから、わたしはこう言いたいんだよ。“仮にどのようなことを言われようとも、わたしの思い描く未来にそぐわない場合は決して彼に従わない”って。」

 

「!」

 

「おっと……随分と言ってくれますね……。」

 

 わたしの言葉を聞き、Gさんは驚いたような表情を見せる。対してDさんは面白いものを見たと言うかのような表情を見せた。

 少しの苛立ちが含まれているのは、多分気のせいではない。まぁ、堂々と反抗しますって言ってるようなものだから当然だろう。

 

「安心して。今はまだDさんに反抗するつもりはない。ただ、わたしはあなたの記憶をある程度見ている。

 それがあなたの理想であり、ボンゴレに必要なものであると言いたいこともわかってるし、否定するつもりもない。

 でも、もしも、それがわたしの宝物や大切なものすらも奪うようなことだったら、わたしは絶対に従わない。

 向こうで手に入れることができなかった、確かな幸せを得られる可能性がこの世界にあるのだから、それは絶対に手に入れたいから。

 だから、わたしの幸せを脅かすような考えが最終的に見えてしまったら、わたしは決して従わない。必ず反抗してみせる。

 だから、Gさんには、わたしのこの思いを信じてほしいんだ。心配してくれているからこそ、わたしの決意を信じてくれる?」

 

「……ああ。信じるぜ。まぁ、もしも悪い方向に引っ張られそうになったら、オレやジョットが必ず軌道を直せるように引っ張り上げるつもりだが、ナツキ自身も流されねぇようにな。」

 

「うん。」

 

 Gさんへと花言葉と込められた意味を伝えれば、彼は口元に笑みを浮かべてわたしの頭を撫でた。

 対してDさんの機嫌は、ぴりぴりと伝わるほどに不機嫌だ。

 

「さっきも言ったように、今はまだわたし自身どんなボスになって、どんな未来を描けばいいかわからない。

 だから、しばらくの間は流れに身を任せて、必要なものを会得していく。

 Dさんの思いや理想は、否定するつもりもない。ただ、わたしは誓いたいだけ。」

 

「誓い?」

 

 誓いと言う言葉に、Dさんが反応を示す。それを聞いたわたしは力強く頷き、静かに口を開いた。

 

「今はまだ、Dさんの理想をすぐ側で目指してみる。だけど、それはわたしが完全な考えをまとめることができるまでの期間限定のもの。

 いつかは自分のボスとしての未来像と考えを見つける。見つけてみせる。

 そして、その未来像と考え……わたしの理想が定まった時、わたしはDさんの考えと自身の考えを秤にかける。

 それにより、Dさんと目指すものが一緒であるならば、わたしはこれまで通りDさんの考えを尊重する。

 逆に、Dさんと目指すものが違ったり、Dさんの理想をたどらなくても達成することができると判断したならば、わたしはあなたの考えに賛同しない。

 例えそれが、Dさんと衝突しなくてはならないとしても、必ず反抗し、打ち勝ってみせる。

 この誓いを、オオデマリの花に含まれている花言葉とともに、Dさんへと贈らせてもらうよ。」

 

 オオデマリの花言葉……“わたしは誓う”。

 この言葉の通りに、はっきりした声音でDさんに告げれば、彼のイライラが霧散する。

 同時に彼は驚いたような表情を見せ、何度か瞬きを繰り返すが、程なくして口元には笑みが浮かんだ。

 

「そのような啖呵を切られるとは思いませんでしたが……まぁ、いいでしょう。

 それならそれで、わたしの考えが正しいものであることをあなたに思い知らせるまでです。

 そうですね……そこまで言うのでしたら、私からはこの花を贈りましょうか。

 花言葉を調べ、アイシングクッキーにかたどった花々とともに贈り物を渡してたあなたならば、意味合いがわかりますよね?」

 

 そう言ってDさんが有幻覚で作り上げたのは、紫色のオダマキと、黒に近い赤色をしている一輪の薔薇の花だった。

 すかさずその言葉の意味を理解し、一瞬だけ目を見開いてしまうが、すぐに口元には笑みが浮かんだ。

 

「……弟子に対して贈るには、随分と重さと湿度があるんじゃない?Dさん(せんせい)。」

 

「ヌフフフ……それはこちらのセリフですよ。師に対して随分と生意気な誓いを告げてくるではありませんか、ねぇ?ナツキ(バカ弟子)。」

 

 互いに宣戦布告とも取れる言葉を吐き、高専的な笑みを見せ合う。

 これがわたしとDさんの一つの誓い。譲れないものを見つけたならば、その時はどちらがそれを諦めるかの勝負をしよう。

 

「さて、Dさんへの宣戦布告は終わったから、みんなの花言葉も説明するよ。

 まず、アラウディさん。あなたの贈り物の中に入ってるのはマスタードの花。花言葉は、“チャレンジと挑戦”。」

 

「へぇ……?随分と好戦的な花言葉だね。」

 

 そんなことを考えながら、わたしは花言葉の説明を行う。

 最初に花言葉を伝える相手はアラウディさんだ。

 

「アラウディさんはとても強い。食らいつくのがやっとだと思う程に。

 だからこそわたしはこの花言葉をアラウディさんに贈りたいんだ。わたしにとっての一つの目標……わたしにとっての一つの到達点。

 いつかは追いつきたいと思うけど、きっとそれは長い道のり。だけどわたしは、何度もアラウディさんにチャレンジして、挑戦して、いつか必ず追いついてみせる。これにはそんな想いを込めてみたんだ。」

 

 わたしの言葉を聞いたアラウディさんは、面白いものを聞いたと言わんばかりに、楽しげな笑みを浮かべていた。

 

「なかなか威勢がいいね。じゃあ、僕は越えられないようにするとしようか。ナツキとの手合わせは、暇潰しにちょうどいいし、終わったらちょっとつまらない。」

 

 ハードル高くしようとしないで……と少しだけ言いたくなったが、アラウディさんの退屈凌ぎにこれからもわたしはなるらしい。

 あれ?いつになったら越えられるようになるんだろ?

 

「次にナックルさんの贈り物の中に入ってる花。その花の名前はムラサキツユクサ。花言葉は“尊敬しています”。」

 

「尊敬か……。」

 

 そんなことを思いながら、わたしは次にナックルさんへの言葉を口にする。

 彼は一瞬目を丸くしたのち、どこか寂しそうな笑みを浮かべた。

 その笑みの意味は知っている。ジョットさんから教えてもらったから。

 

「うん。ジョットさんから聞いたけど、あなたは過去にとんでもない過ちを起こし、拳を封じたんだってね。

 でも、一度だけ危険が訪れた時、3分間と言う短い時間の間その力を振るったとも聞いた。

 一度封じてしまったり、辛い記憶を持っているものがあると、縛りをつけるにせよ、再び力を振るうのは、かなり怖いと思う。

 それでも、その恐怖とも戦って、友人達を守り抜いたナックルさんは、とても素敵な人だよ。

 だからわたしは、あなたにその花言葉を贈りたい。」

 

「……そう言ってもらえて、究極に嬉しいぞ。無論、思うところがないと言うわけではない。罪があることは変わりなく、これからもオレは、拳を封じつけるだろう。

 だが、少しだけ気持ちは軽くなった。こんなオレにも尊敬と言う言葉を贈ってくれて、ありがとう。」

 

 わたしの言葉に、ナックルさんは穏やかな笑みを浮かべた。この人は、こんな笑顔を見せることもあるのだと、新たな一面に、少しだけ気持ちが穏やかになる。

 きっと、彼はこれからも辛い思いをするのだろう。でも、それは全て贖罪のために、彼はきっと耐え続けるのだろう。

 それならわたしは、少しでも彼が許されるように、その姿を見守りたい。

 

「次に、ランポウ君。ランポウ君に贈った花はニチニチソウ。その花含まれている言葉は“楽しい思い出”。」

 

「楽しい思い出?」

 

「うん。」

 

 少しでも早く、彼に安らぎの時が訪れますように……そんなことを思いながら、今度はランポウ君に言葉を伝える。

 

「ランポウ君と過ごすゆったりとした日々や、ランポウ君が教えられる精一杯のことを教えてもらえる時間をたくさん過ごさせてもらってる。

 その時間や日々は、何者にも変え難い大切な宝物であり、楽しい思い出の一つとなってる。

 だから、これからもたくさんいろんなことを教えてほしいし、いっぱいのんびりした時間を過ごしたい。

 いつかは思い出として宝箱の中に収まるものであったとしても、きっとその日々はある種のわたしの息抜きにもなるから。」

 

「そっか。そう言ってもらえてよかったものね。知っての通り、オレ様はプリーモやアラウディ、DやG、雨月やナックルみたいに、戦いに関して教えられるわけじゃないけど、少しでもナツにとって、大切な時間になるのなら、いくらでもいろいろ教えてあげるものね。

 だから、オレ様からも言わせて。これからもよろしくね。」

 

「うん!」

 

 穏やかな声音で告げられた言葉に、笑顔を見せて頷く。すると、ランポウ君もそれが嬉しかったのか、にへっとやわらかい笑顔を返してきた。

 彼とはこれからも、穏やかでのんびりとした時間を過ごしたい。いつか、思い出へと昇華して、忙しく、苦しい日々へと身を投じることになろうとも。

 

「次に雨月さん。あなたに贈ったアイシングクッキーがかたどっている花は、カスミソウ。贈る花言葉は“清らかな心”」

 

「清らかな心……でござるか?」

 

 次にわたしは雨月さんへの贈り物の話をする。彼は、わたしが口にした清らかな心と言う言葉に首を傾げながら言葉を紡いだ。

 その言葉に小さく頷いたわたしは、静かに口を開く。

 

「雨月さんは、剣の腕がすごいけど、それと同じか、それ以上に綺麗な笛の音を奏でてくれる。

 その音はとても澄み渡っていて、どこか気持ちが安らぐような……どこか気持ちが癒されるような……そんな印象を抱く笛の音。

 その音を聞くとさ、まるで森林の中にいるような……川のせせらぎを聞いているかのような……そんな気持ちにさせられて、明日からも頑張ろうと思えてくる。

 この音はきっと、雨月さんがそれだけ清らかな心を持っているからだと思うんだ。

 決して雑念を持ち合わせている人ではきっと、奏でることができない癒しと浄化の笛の音。

 これからも、その音をわたしは聞いていたい。だから、こっちに留まっている間は、また聞かせてほしいな。」

 

 “雨月さんの、優しい雨に降られているような清らかな心の音色を”……と呟くように言葉にすれば、雨月さんはとても優しい微笑みを見せてくれた。

 

「私の笛が……私の心が……奈月にとってのひと時の癒しとなっているのであれば、私はいくらでも奏でましょう。

 実を言うと、剣を振っている時よりも、笛を吹いている方が、私は安心するのでござる。

 平穏なひと時……平和な時間……笛の音を奏でる余裕があると言うことは、それだけ今がゆったりとした穏やかな時を過ごせていると言うことでござるからな。

 ならばこそ、この穏やかで平和な時間が続く限り、私は笛を奏でましょうぞ。

 それで少しでも、奈月にも心穏やかなひと時になると言うのであれば、いつでも聞きにきてくだされ。」

 

 雨月さんの穏やかな言葉に目を閉じて、緩やかに頷きを返せば、雨月さんは明るい笑顔を見せた。

 その姿を見つめたわたしは、最後にジョットさんへと目を向ける。

 

「最後にジョットさん……。あなたに渡した贈り物の中に入っているアイシングクッキーがかたどっているのはナツメの花だよ。」

 

「ナツメの花……聞いたことはあるな。」

 

「割と聞くことがある花かもね。」

 

「そうだな。……ナツメの花は、どのような花言葉を持ち合わせている花なんだ?」

 

 贈り物の中に入っているナツメの花のアイシングクッキーに袋越しに触れながら、ジョットさんは呟く。

 この花に含まれている花言葉……それは、少しばかりわたしの弱音にもなる言葉だ。

 それでもわたしは伝えたかった。本当は、こんな弱音は言いたくないのだけど。

 

「……ナツメの花言葉は……“あなたの存在は、わたしの悩みを軽くします”……。」

 

「!?」

 

 紡いだ言葉に、ジョットさんが驚いたような表情を見せる。この言葉が弱音であり、わたしが彼に対して向けている信頼と信用のカタチであることがわかったのだろう。

 

「まずは謝らせて……。これまで、わたしはいろいろと気の強いことや、真っ直ぐと歩くことを躊躇うことなくやってきたけど、本当のところを言うと、怖いと思ったり、苦しいと思ったり、こんな道を歩くことになるとは思わなかったと思っていたんだ。

 でも、一度引き受けた責任は全うしたい……前世では最終的に全てを投げ捨てて、自分自身の終わりを選択して、自ら未来を絶ってしまったわたしが、また新たな生を受けたのは、きっと、やりたいと思ったことをやり遂げてみろって、背中を押されているからだと思ってるから。」

 

 わたしの話は誰も遮らない。言いたいことはたくさんあるのだろうけど、それでも全員、無言でいてくれる。

 そのことに少しだけ感謝しながら、わたしは再び口を開く。

 

「だけど、そう思っていても、やっぱり不安なものは不安だし、また道半ばで倒れてしまう可能性だってあるし、再び、終わりを選んでしまう可能性だってないとは言い切れない。

 何度も足を止めるだろうし、何度も悩んで苦しむだろうし、きっと、たくさん精神をすり減らすことだってある。

 でもね……わからないことだらけの世界でも、わたしにはちゃんと篝火がある。

 いつかは頼らずに歩かないといけないのかもしれないけど、まだ、今の間はジョットさん(あなた)と言う道標がある。」

 

 地面を踏み締める音が聞こえる。砂利が擦れる音がする。

 こんな弱音を吐いてしまったから、少しだけ軽蔑されてしまったのだろうか。

 ……それでもいい。どのような想いを抱いているのか、それを知ってもらえるならば。

 

「どんな思想になるのかはわからない。Dさんと同じ思想になるのか、それともジョットさんが残したものを、正しいカタチで継承するのか、その全てを振り払って、わたしの思う未来を突き進むのか……どの選択になるかもわからない。

 でも、それが全て纏まる時は、きっと、未だに暗闇に閉ざされているわたしの道はきっとハッキリと見えるようになるはずだから……。」

 

 “だから、今はまだ、ジョットさん(あなた)と言う篝火に縋らせて……この苦しみを軽くさせて”……そこまで言い切った瞬間、ふわりとわたしの体は何かに包まれる。

 視界に映るのはスーツに包まれた男性の体。そして、わたしを覆うようにして被せられた、大きなマントだった。

 

「謝らなくていい。不安に思うのは……怖いと思うのは……当然のことなのだから。」

 

 ジョットさんに抱きしめられていると言うことはすぐにわかった。隼人と武が恭弥さんのところに向かった時や、落ち込んでいる時に感じ取っていた温もりと、全く同じものだったから。

 目の前の人は、とうの昔にこの世を去った人物だと言うのに、不思議と感じ取れる穏やかな鼓動と、頭上から聞こえてくる穏やかな声に、わたしは少しだけ泣きそうになる。

 

「ナツキがしっかり者だったから、すっかり忘れてしまっていた。お前は、つい最近、オレの子孫であることを知り、オレが残したものを継ぐと考え始めたばかりだと言うのに、まるで、昔から決めていたかのように頼もしかったからな。

 だが、実際は違ったな。ナツキはかつての過去でも、あの赤ん坊に出会う前も、こちらの世界とは全く関係がない一般の人間として過ごしていた女の子だ。」

 

 緩やかに頭を撫でられ、視界が少しだけ歪み始める。こんなことを言っていても、あなたはそう言ってくれるんだね。

 

「……軽蔑しないの?」

 

「するわけがないだろう。むしろ、これまでよく我慢していたな。」

 

「……そうだよな。オレ達もすっかり忘れてたぜ。」

 

「そうでござるな。仲間を大切にし、友を大切にし、真っ直ぐと道を歩もうとしている姿を見ていたがゆえに、少しだけ忘れてしまっていた。」

 

「うん……。オレ様も、ちょっとだけ忘れちゃっていたものね。ナツは、本当は誰よりも繊細な女の子だったのに。」

 

「……謝らなくていいよ、ナツキ。僕達は、その程度の弱音を聞いても怒ったりしないから。」

 

「……失念していましたね。あなたが我慢しがちな子であり、なおかつそれを悟らせないように、自然と弱音を隠して走り続けるタイプの子であることを。

 ……プリーモの言う通りです。あなたの過去を考えれば、情けないと言う言葉もかけるつもりはありません。

 これまでよく我慢しましたね。今はまだ、誰かに縋るのも一つの選択肢です。

 少しだけゆっくり歩きましょうか。走り過ぎては息切れを起こし、本当に道半ばで倒れてしまいますから。」

 

「よく、弱音を吐き出した。ようやくナツキも、少しだけ弱音を吐くことを覚えたな。究極に安心したぞ。」

 

 その場にいる7人の言葉に、わたしの両目から大粒の涙がこぼれ始める。

 流石に泣くまではしたくなかったから、その涙を止めようとしたけど、止まるどころか、それは溢れ続けるばかりで……。

 

「この場にはオレ達とナツキしかいない。ナツキが生み出した幻覚のおかげで、ここに繋がる道は消えているし、オレがこうしているから、声が外に漏れることもない。

 せっかく弱音を吐けたんだ。それならば、これまで我慢してきたものや、抱えていた不安を涙と共に外に流したらいい。

 大丈夫。例えオレ達の前で泣いたとしても、誰もお前を笑ったりしないから、吐き出せる時に吐き出せ。」

 

 その言葉を最後に、わたしは大きな声で泣きじゃくった。これまで抱えてきたものや、過去に溜め込んでしまっていたもの……その全てをそこに吐き出すように。

 その間、わたしを抱きしめていたジョットさんは、ずっと頭を撫で続けてくれた。

 大丈夫だと……よく頑張ったと……いくらでも弱音を吐くといいと……ずっとずっと口にしながら。

 

 

 

 




 沢田 奈月
 贈り物の中に弱音を混ぜて渡したら、かつて言われたかった言葉を告げられ、とうとう涙腺が決壊を起こしたボンゴレ10代目。
 これまで自分がどれだけ我慢してきたかを、今回のことでようやく理解することになった。

 D・スペード
 愛弟子からとんでもない宣戦布告を受けた、元初代霧の守護者。
 彼女から渡された花言葉付きの花に対して、黒の薔薇と紫のオダマキで応えたら、好戦的な笑みと一緒に、随分と重さと湿度があるなと言い返された。
 そのあとジョットを介して彼女がどれだけ我慢に我慢を重ねてきたかも理解することになり、今はまだ甘えておきなさいと見守ることを決意する。
 彼女に負けるつもりはないが、ことがくるまでは甘やかすことも必要だと判断し、これからも思想はそのままに、しかし、彼女の精神的負担を和らげるため、手のかかる娘を持つ父親のような心境を抱く。

 ジョット
 奈月から渡された贈り物と共に、彼女がこれまで抱えてきたものを深く理解することになった初代ボンゴレ。
 考えをまとめるまでは縋らせて、辛さを軽くしてと言う彼女の本音を聞けたことに安堵しながら、今は好きなだけ甘えてもいいし、縋ってもいいと告げる。

 初代嵐、雨、雷、晴、雲
 弱音を吐き、ようやく涙を流せた奈月の姿に、ようやく安心できると笑った初代組。
 自分達の前では弱音を吐いて、泣きたくなっても構わないから、もう涙を我慢しないでほしい。

 笹川 了平
 奈月からバレンタインの贈り物を贈られ、かなりドギマギしていたが、彼女が語った自分は諦めた側の人間だからと言う話に、詳しいことは理解できないが、その姿にどこか感じるものがあり、今、やりたいことがあるならば諦めず、辛いと思ったら体を動かしにくるといいと伝えた。


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