最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 最新の活動報告に、少しだけ知っていただきたいことがあります。
 お時間がありましたら、閲覧のほどよろしくお願いします。


ハピバレ 六道骸

「お?眠っていたと思ったら、いつの間にか精神世界にいた。」

 

 大切な家族達にもバレンタインの贈り物を贈り終え、たくさんあった夕飯をみんなで食べて、寝支度を済ませてゆっくりと眠る。

 ほんのちょっとだけ、骸と会えないかなと思いながら、ベッドに潜っていたんだけど、どうやら、寝る前に考えたことは叶うようだ。

 とは言え、まだ骸が来ている気配はない。多分、わたしが精神世界へと落っこちてきたことは気づいていると思うんだけど、目を覚ましたタイミングは、普段より早かったらしい。

 それなら好都合。骸がここに来る前に、いろいろと遊んでやろう。

 

 そう思いながら、私は自身の精神世界に触れ、その場の景色を一気に変化させる。

 お店の中のような景色もいいけど、せっかくだし星空すら綺麗に映してしまう水鏡のような湖を見ることができる湖畔の屋敷みたいにしちゃえ。

 どうせわたしの精神世界だし、これくらいしても問題はないはずだ。

 湖が見えるバルコニー席も用意して、空には冬の大三角と、冬場でも見える天の川を。

 あとは、色合いとかも工夫して、神秘的な雰囲気をアップして、なんならオーロラも付け足して、それをハッキリと湖の湖面へと移し込めば、まるで星空がとオーロラが上下2つに存在している不思議空間の完成だ。

 最後に、これまでわたしが食べてきたチョコレートの洋菓子やチョコレートファウンテンも用意して……この世界が少しでも、今は暗闇にいる骸の憩いの場所となりますように。

 

「な……なんですかこの溢れんばかりの誘惑の数々は!?」

 

「あ、きた。」

 

 わたしのイメージもなかなか洗練とされてきたんじゃない?と自己満足に笑っていると、背後から聞きたかった声が聞こえてくる。

 すぐに振り返り、声の持ち主を視界に入れてみれば、その少年はオッドアイをキラキラと輝かせながら、バルコニーにできた、ちょっとしたチョコレートパーティー会場を見据えていた。

 

「奈月!!これは、どうなっているのですか!?とんでもない魅力的なバルコニーがありますが!?」

 

「これ?いやぁ……バレンタインだし、ちょっとしたチョコパでもしようと思って。

 現実で食べてるわけじゃないから、目を覚ましたらめちゃくちゃお腹減ってそうだけど、精神世界の中だから五感もハッキリさせたリアルなものもできるんじゃないかなと思ってさ。

 所詮はまやかしの夢……眠っている間だけと言う泡沫のパーティーだけど、今も暗い中で過ごしている骸に、少しでも楽しんでもらえたらなー……って。」

 

「バレンタイン……?なるほど……もうそんな時期でしたか。無機質な場所でずっと過ごしているものですから、日付も時間もわからなくなっていました。」

 

「だろうね……。」

 

 ケロッとした様子で言葉を紡ぐ骸に対して、苦笑いをこぼしながらそれは仕方ないと口にする。

 うーん……最早慣れていらっしゃる……。牢獄の中で長く過ごしていると、時間感覚の狂いも当たり前なのか……。

 

「しかし……バレンタインと言うと、恋人や夫婦が共に過ごす日となっていますよね?

 僕は奈月と特別な関係でもありませんし、バレンタインを過ごしてもよろしいのでしょうか……?」

 

「そこら辺は大丈夫。日本のバレンタインは友達やお世話になった人にもチョコレートを渡すようなイベントになってるから。

 もちろん、大切な人や好きな人へ贈り物をする恋人達の日として満喫してる人もたくさんいるけどね。」

 

「なんと……日本のバレンタインは神イベントですか?」

 

「ちなみに、日本だと基本的に女性から男性にチョコレートを贈るよ。好きな相手にあなたが好きです、付き合ってください!って感じにチョコレートを渡す女子が結構いる。

 そしてイケメンはめちゃくちゃもらって男子から恨まれてしまうこともある。」

 

「つまり、僕がバレンタインの時、日本の学校で過ごしていた場合、チョコレートがたくさんもらえるわけですね。」

 

「とんでもない自己肯定かまされて笑ったんだけど。」

 

「クフフフ……僕がもらえないわけがないでしょう?顔がいい人間だと自負しておりますので。」

 

「それはそう。」

 

 骸の発言に軽く笑いながらも、わたしはバルコニーの方へと足を運び、セッティングしていたテーブルまで足を運ぶ。

 そして、めちゃくちゃソワソワしている骸の方に目を向けて口を開いた。

 

「ま、そんなわけだから、わたしも何かやろうと思ってね。でも、現実の方の友達や家族、先輩達にはチョコレートを渡すことができるけど、骸はどっか遠くの牢屋の中っしょ?

 だから、こんなことやってみた。こっちきなよ。わたしが前世で食べてきたものや、今世で作って食べてる奴のオンパレードで、味は保障するからさ。

 ちょっとでも、無機質な世界で過ごしてる骸にとって、素敵な時間になればいいんだけど。」

 

「ならないはずがないでしょう!?そのチョコレートが溢れてる奴はもしや……」

 

「そ。チョコレートファウンテン。レストランとかに置かれてることがあってね、見ての通りミルクチョコレートが絶え間なく流れてる。

 ここに果物やマシュマロ、パンなんかを刺せる道具があるから、これに食べたい食材をピックに刺して、こうやって流れるチョコレートへと潜らせて、ん……食べればいいだけ。」

 

「面白そうですね……!僕にもやらせてください!」

 

「いや、むしろきみがやらんでどうすんのよ。これ、全部きみのために用意したんだから、早くこっちで食べな。満足するまで甘い夢、見せてあげるから。」

 

「……奈月。それ、素で言ってます?」

 

「?」

 

「素で言ってるんですね、わかりました。言葉選びが少々独特なのでしょうか……。」

 

 なんかちょっと貶されているような気がするんだけど、気のせい?

 ……気のせいであってほしいな。

 

「近くで見ると本当にチョコレートづくしですね。」

 

「ん。まぁ、バレンタインだし、骸ってチョコレート好きなんでしょ?」

 

「ええ。前にお話ししたように、チョコレートは好きな食べ物ですよ。」

 

「だからたくさん用意したんだよ。牢屋の中じゃ、必要な食事しか食べることができないだろうからね。」

 

「クフフフ……ありがとうございます、奈月。実際、生活に必要な食事しか食べることができないのですごく嬉しいです。

 ところで、チラホラとみたことないものがありますが……」

 

「ああ……まず、そのちっこくてカクカクしてるのはパイの○って言って、何重にも重ねたパイ生地の中にチョコを挟んでサクッと焼いた向こうのお菓子。

 そっちの丸いのはチョコ○イって名前で、パイって名前がついてるけど、実際はクリームを挟んだケーキをチョコまみれにした感じの向こうのお菓子だね。

 こっちの長細いのはキッ○カッ○で、こっちはトッ○。そんでこれはポッ○ー。

 そこにある紅色のチョコはルビー○ョコって言ってなかなかにお高いチョコだね。

 ベリーが使ってあるチョコみたいな酸味と甘味が特徴的なんだけど、これがまた美味しいんだ。

 次にその皿に乗ってるのはじゃがいもを使ったしょっぱめのスナックにチョココーティングがしてあるお菓子で、これも向こうの奴。

 チョコばかり食べていたら、甘さで味覚が狂ってくると思うから、口直しに食べてみるといいよ。

 他は見ての通り、ケーキや、タルトと言った洋菓子のオンパレード。全部、これまでわたしが作ったことがあるもので、今でもよく作ってるよ。」

 

「長い長い長い長い。長いです奈月。しかもどれも美味しそうで迷いますから勘弁してください……」

 

「わざとだよー。」

 

「わざとはちょっとひどいです……」

 

 揶揄うように言葉を紡げば、骸が少しだけ拗ねたような表情を見せる。

 そんな彼に、マシュマロといちごを同時に刺してチョコレートの噴水に潜らせたものを差し出せば、半ば反射的にそれを口に入れていた。

 

「!美味しいです!」

 

「でしょうね。ほら、自分でもやってみなよ。きみが満足するまで付き合ってあげるからさ。」

 

「では、遠慮なく満喫させてもらいますね。」

 

 キラキラと目を輝かしながら、見様見真似でチョコレートファウンテンを始めた骸の姿は非常なまでに微笑ましい。

 なんと言うか、普段の大人びた様子から一変して、年相応の姿と言えばいいのだろうか?

 ここまで楽しそうな姿を見るのは、わたしの誕生日の遊園地体験ツアー以来だろうか?

 まぁ、今んとこ初対面に、遊園地体験ツアーに、このチョコパくらいでしか彼とは会ってないのだけど。

 そんなことを思いながら、わたしはなんとなく用意していたアフタヌーンティーセットのマカロンを一つ取り、そのまま自分の口へと運んだ。

 サクッとした食感に、甘酸っぱいラズベリーの味、そして、わたし好みの甘さ控えめなそれは、夢とは思えないほど現実味を帯びたものだった。

 

 

 *:・゚*.+ ❀ *:・゚*.+ *:・゚*.+ ❀ *:・゚*.+ *:・゚*.+ ❀

 

 

「……結構食べたね。」

 

「ええ。一生分とは言いませんが、軽く数ヶ月分くらいは食べた気がします。

 と言うか、奈月。あなた、いつのまに精神世界をここまで操作できるようになったんですか?

 誕生日の時に見たものと比べたら、遥かに上達しているような気がします。もしや、幻術を身につけることができたのですか?」

 

 骸の質問に対して、数回瞬きをする。でも、すぐに小さく口元に笑みを浮かべ、わたしは静かに頷いた。

 

「実を言うと……ね。わたしも、幻術を扱う才能があったみたいなんだ。

 それで、わたしの精神世界(この世界)にいるからなんとなくわかると思うけど、わたしには、誰にも教えてない友人が複数人いるんだ。

 少しだけ開示するとしたら、その人達はすでに命を落としている人達で、わたしに深く関わっている人達なんだけど……そのうちの1人が、幻術を扱える術士だったんだ。

 だから、その人に幻術を今教えてもらってる。まぁ、触媒がないと強力な術は使えないけどね。

 精神の主導権が、奈月()ではなく、前世(わたし)の時でなければならないって条件もある。」

 

「割と条件が厳しいのですね。幻術が使えるのは僕の前にいる今のナツキ(あなた)の精神が主導権を持つ必要がある……ですか。

 多重精神をしているからこそ起こった奇跡であり、多重精神をしていなければなし得ることがない力……。

 まぁ、僕も六道を全て回った記憶を持ち、この目を持ったようなものですからね……。そのようなことがあってもおかしくはない話です。

 ですが、幻術が使えるようになったのであれば、もっと早く呼びかけてくださればよかったのに。

 前は奈月が幻術が使える状態ではなかったので教えることできませんでしたが、使えるようになったのであれば話は別です。

 この世界で学び、現実世界で使えるようにするとことも可能なはずですよ。」

 

「はは。まさかそんな風に言われるとは思わなかったな。でも、ありがとう。そう言ってくれるのはすごく嬉しいよ。

 骸にも教えてもらえたら、もしかしたら、もう少し幻術を使うにあたり、必要なスキルをもっと上げることもできたかも。」

 

「なんなら、これから教えても構いませんよ。奈月と相見えた時、幻術が通用しなくなりそうですが、そもそも僕は、あなたに幻術を使ってまで何かする気はありませんし、別に問題はなさそうですから。」

 

「それは助かるけど……」

 

「ただし、受講料としていくつかチョコレート系統のお菓子を所望します。」

 

「ん゛っまさかそんなお願いされるとは思わなかった……。」

 

「仕方ないじゃないですか。何か娯楽が欲しいんですよ僕は。毎回見るのは同じ景色と同じ連中ばかりで、たまに疲れることがあるんですから。

 だから奈月にそれを軽くしてほしいんです。そうすれば僕は奈月に幻術を教えることができますし、チョコレートを食べることもできますし、無機質な景色以外を見ることができますから。」

 

 拗ねたような表情を見せる骸に、少しだけ苦笑いをこぼす。どうやら、相当参っているらしい。

 まぁ、話から聞くに、骸ってかなり小さい時から牢獄に入れられているみたいだし、そんな風に思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。

 

「わたしもそれは別に構わないし、かなり助かるんだけどね。骸は大丈夫なの?」

 

「大丈夫……とは?」

 

「多分、精神世界に足を運ぶのも、それなりに力を使うんでしょ?それ、牢獄の監守とかにバレたりしないのかなって。」

 

「そこら辺は問題ないですよ。いくらでも穴を突こうと思えば突けますし、やろうと思えば脱獄できるので。

 

「うん、なんかとんでもないこと言ってんね?

 

 骸の衝撃発言に引きつった笑みを浮かべる。サラッと脱獄してやるって言ってるんだけどこの子。しかもめちゃくちゃいい笑顔で。

 ……将来的に本気で脱獄してしまいいそうだな。こう言う性格の人ってやる時はやるからね。

 

「んー……まぁ、問題はないと言うなら、幻術の精度上げるのちょっと手伝ってもらおうかな。

 幻術を使ってわたしに何かするつもりはないってハッキリ言ってるし、その言葉が嘘だとは思えないから。」

 

「クフフフ……信じてくださりありがとうございます。ええ、もちろん。僕は幻術を使って奈月に危害を加えるつもりはありません。

 それは今も、これからも。なぜならあなたは、ご自身で思っている以上に繊細な方ですからね。

 それに、少しだけ僕と境遇も似ており、こうして話せるほどに近い距離にいる……そんなあなたに、なぜ、精神を傷つけるような危害を加えることができると言うのでしょう。」

 

 穏やかな声音でそう言ってくる骸に、わたしは何度か瞬きを行なう。

 しかし、向こう側からいつのまにか繋げられていた繋がりにより、それが本心であり、本当にわたしを思って行っていることが理解できた。

 これが、本心ではない偽りだったら、彼はとんだ策士であり、詐欺師だ。

 でも、どうしてか今の骸とわたしは、軽く繋げたものではなく、どこか、かなり深いところまで繋げられているようで、彼の偽りすらも見抜ける状態だった。

 

「……どこまで精神を繋げたわけ?」

 

「そうですね……やろうと思えば、あなたの目を通し、あなたが見ている景色を把握することができるくらいには、強く繋げてあります。」

 

「それ、下手したらわたしの体まで奪われそうなんだけど。」

 

「クフフフ……やってみましょうか?もっと強く繋げれば、できなくもないですよ。」

 

「それはやめてもらえる?無断で他人に体を好き勝手されたくないからさ。」

 

「それは残念。ですが、気持ちはわからなくもないですよ。誰かに自分の体を好き勝手に使われるのは僕も嫌いです。」

 

「でも、きみなら普通に人の体も自由に使おうとしそうだね。なんとなくだけどそう思う。」

 

「バレましたか。ええ。必要とあれば僕は他人を利用します。そうでなくては、僕は目的を果たすことができないと思いますから。」

 

「きみの目的?」

 

「ええ。ですが、今はまだ内緒です。然るべき時に、奈月にも話しましょう。きっと、あなたにも深く関わる話になると思いますから。」

 

 いつのまにか、外の景色はそのままに、しかし、確実に湖の近くにあるベンチに隣り合わせで座る状態になっていることに驚きながらも、手を握り締め、額をくっつけてくる骸。

 そんな彼の言葉に耳を傾けながら、「そっか……」と小さく呟く。

 骸に施された繋がりから、それが嘘偽りのない言葉であることは理解できたから、記憶の中に入れておこう。

 もちろん、この話はDさんにバレないように、決して見えないように隠しながら。

 

「互いに目覚めるまでまだ時間はありそうですし、どうでしょう?一緒に湖畔でも散歩しませんか?」

 

「ん。いいよ。じゃあ、歩きながら話そうか。きみには、もう一つ見せたいものもあるから。」

 

「それは楽しみですね。」

 

「期待はしないでね。」

 

 わたしの言葉に骸は小さく笑ったのち、ベンチから立ち上がる。わたしの手は握りしめたままだったため、必然的にわたしも立ち上がる。

 それを確認した彼は、穏やかな笑みを浮かべたのち、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。

 

「こんな風に、穏やかに散歩するのもいいものですね。現実では決して歩いているわけではありませんが、幻術を扱う者が2人もいると、実際に歩いていなくても、五感が歩いたと認識しますね。」

 

「サラッと言ってるけど、わたし達、結構すごいことやってない?」

 

「クフフフ……術者であるなら、これくらいは朝飯前と言うものですよ。まぁ、それでもここまでの現実感は、並大抵の術者では出せないと思いますがね。

 奈月がいつも歩いているからでしょうね。本当に、精神世界とは思えない程現実味があります。」

 

「それはよかった。外にいる人間の特権だね。」

 

「ええ、そうですね。」

 

 穏やかな会話を続けながら、岸辺を歩くわたしと骸。

 長々と話さなくても、彼といる静寂の時間は気まずさを感じることがなく、むしろ心地良く思える。

 目を覚ますまでのゆったりとした限定品だから、何だかちょっぴり寂しいものだ。

 

「このまま……時間が止まってくれたらいいのに……」

 

 現実で会うことができれば……現実でもこんな時間が過ごせたら……そんなことを思っていると、骸がポツリと小さく呟く。

 繋がりを通して感じ取れた心からの望みと同じ言葉だったため、わたしは驚いて骸に目を向けた。

 

「クフフフ……叶わないことであることは理解しているのですが、どうも僕にとっては、この時間が何よりも愛しく、何よりも大切で、なによりも必要な時間のようですからね。

 このままあなたが目を覚さなければ、僕はあなたを独占できるのですが……眠りと言うのは必ず終わりを迎えるもの……。

 あなたをずっと閉じ込めておけるわけではないことが、余計にそう思わせるのでしょうか。」

 

「洒落になんないからやめてほしいな。繋がりのせいでそれが本気だってわかるんだから。

 こっちはドストレートに監禁してやるって言われているような気分なんだけど?」

 

「もちろんわざとです。あなたはストレートに物事を告げた方が、想いを理解しやすい人のようですからね。

 それならばと、あなたの周りにいる方々とは違うやり方で先手を打っておくまでです。

 割と手を焼かせてるようですからね。現実世界の方のお友達に。」

 

「手を焼かせている?」

 

「おやおや……。クフフフ……やはりあなたにはストレートが一番のようだ。」

 

 面白そうに笑う骸の感情がしっかりと伝わってくる。本気で楽しんでいること、これなら勝機があるということ……そんな感情だ。

 ここまでドストレートに好意を向けてくるのは、ランボくらいだろうか。

 あの子の場合は、子供ながらの勘違い………いや、大人のランボからもたまに甘いものを感じるような気もするけどさ。

 

「ところで、奈月が僕に渡したいもう一つの贈り物と言うのはいったい?」

 

「それなら、そろそろ見えてくるよ。」

 

「?」

 

 骸が不思議そうに首を傾げる中、前を見るように伝えれば、彼は驚いたような表情を見せる。

 そこにあったのは花畑。一面に咲く、ミヤコワスレの花。

 

「これは……壮観ですね。」

 

「だろうね。……この花はミヤコワスレと言って、日本の天皇様の1人が、敗れた争いの末、どこか遠くへと流されてしまった時、この花を見ていると都への思いを忘れることができると言う話から名前をつけられた花なんだ。

 この花の花言葉は『別れ』、『しばしの慰め』、『しばしの憩い』でね。わたしは、そのうちの『しばしの憩い』と言う言葉を骸に贈りたいな。」

 

「しばしの憩い……ですか。」

 

「うん。きみにとってこのひと時がちょっとした憩いになればと思ってね。

 だから、わたしは骸にこの花を贈りたいと思った。この花言葉を贈ろうと思った。

 どこか暗い感情を纏い、それに突き動かされるように何かを成し遂げようとしているきみに……少しの安らぎと光をもたらしたいって言う、わたしのお節介だよ。」

 

 足元にあるミヤコワスレを一つ摘み、隣にいる骸に差し出せば、彼は静かにそれを受け取ったのち、小さく笑みを浮かべる。

 

「お節介などと言わないでください。少しでも寄り添わんとしてくれているあなたの想いは、僕にとって穏やかな時間となっています。

 あなたのおかげで、あれだけ大嫌いだった人間道も、少しだけ悪くないと思っているので。

 まぁ、だからと言って、全てが全て悪くないと思っているわけではありません。むしろ、悪いと思う方がまだ強いので。

 ですが、あなたのおかげで息苦しさはだいぶ無くなりました。このような奇跡と時間があるからこそ、呼吸がしやすくなったのです。」

 

 そう言って骸は、手にしていたミヤコワスレを優しく撫でたのち、その花びらを一枚取り、それをふわりと花畑の方へと優しく投げる。

 その瞬間、辺り一面にあったミヤコワスレが、次々とその姿を変えていき始めた。

 クリスマスローズ、三色菫、ニワトコ、ハナミズキ、フレンチラベンダー、蓮華草、カリフォルニアポピー……そしてガウラ。

 花言葉を順番にあげるとしたら『私の心を慰めて』、『私を思ってください』、『私の苦しみを癒す人』、『私の想いを受けて』、『私に応えてください』、『心が安らぐ』、『私を拒絶しないでください』、『繊細な心は傷つけない』……だったかな。

 

「……ちょっと想いが強すぎるんじゃない?」

 

「クフフフ……否定はしません。ですが、今の僕の想いを伝えるには、これらの花がちょうどよかったんです。」

 

 ちょうどよかったからと言って、こんなレパートリーの花畑を作るのはどうかと思うと苦笑いをこぼす。

 思っていた以上に、骸からは強い感情を向けられていたようだ。

 

「全部を受け取るのは流石に無理だって。」

 

「ええ。わかってますよ。でも、少しくらい受け取ってくれても良いじゃありませんか。」

 

「じゃあ、クリスマスローズとニワトコと、蓮華草とガウラくらいは受け取らせてもらうよ。」

 

「もう少し受け取ってくださっても良くないですか?」

 

「流石に他の花には今のところ受け取りかねる。なんせきみは牢獄の中だし、きみの目的やら何やらは聞かされていないからね。

 それらを知ることができたら、他の花を受け取るか否かを判断することもできるんだけど……」

 

「……そうですか。では、他の花に関しては、頭の片隅にでも入れておいてください。僕の目的や僕の考えは……いずれ直接お話しします。」

 

「直接……?」

 

 気になる単語が聞こえてきたため、聞き返すように言葉を紡ぐ。

 すると骸は小さく頷き、その言葉について説明してきた。

 

「……先程も教えた通り、準備を整えてしまえば、脱獄は不可能ではないのですよ。

 そして、その準備は着々と整っています。だから、精神世界の僕としてではなく、本当の僕として……今年中にでも奈月と会うことができるでしょう。」

 

 “精神世界であなたと会ってから、必ず会いに行こうと思っていましたから”と、真っ直ぐ伝えてきた骸にわたしは無言になる。

 それは、一種の骸の宣言であり、向き合うまでの時間の猶予を告げるものだった。

 

「奈月の記憶をたどり、そのまま会いに行くことはできると思いますが、何分、お尋ね者ですからね。

 奈月の元に訪問することはしません。ですが、僕は僕なりにあなたに伝えられるようにするためのメッセージ……あなたに、会いにきたことを伝えるための行動を起こします。

 それにより、あなたの周りにいる人を、多少傷つけることになるとは思いますが、加減はするつもりです。

 数人の徒党を組んでいくと思いますが、あなたの大切な方……いわゆる、戦う術を持たない方はなるべく傷つけないように伝えますが、ちょっと、問題のある性癖持ちが混ざる可能性がありますので、その時は容赦無く殴り飛ばしても構いませんから。」

 

「……自分と徒党を組む奴を問題性癖を理由に売るリーダーがいるとは思わなかったんだけど?」

 

「だって、ちょっとアレな奴がついてきそうなんですよ。切りたくとも切るのは難しくて……」

 

「骸すらドン引きってどう言うこと?」

 

 怖いわとツッコミを入れたくなるが、とりあえず、骸の言い分は理解できた。

 つまり、戦う技術を持ち合わせている人間は襲撃すると言いたいわけだ。

 わたしのところにいる技術持ちと言えば、風紀委員会と隼人くらいだけど、そこら辺に何かしらの危害が発生したら、それが合図と言うことか。

 

「なるべく穏便にすませてもらいたいけどね……」

 

「こちらもそうしたいのは山々です。しかし、何かしらの合図があった方が、僕の存在を知らしめることもできると思うので……」

 

「……あまり傷付けるようだったら、そのすまし顔を問答無用でぶん殴るよ。」

 

「……それは、重々承知の上です。僕としても、あなたのご友人を傷つけなくてはならないかもしれないことは、かなり心苦しいですから。

 僕を殴ることで多少は落ち着くと言うのであれば、いくらでも。」

 

「……まぁ、できれば、おイタはほどほどに頼むよ。わたしも、あまり骸を本気で殴りたくないしね。」

 

 少しの静寂が訪れる。衝突しなくてはならないかもしれない未来が来るのは、あまりにも苦しいものだ。

 特に、骸はわたしに特別な情を向けている。そんな相手とぶつかるのは、かなり嫌だな。

 

「……雨?」

 

「ああ……僕とあなたの心境が、少々反映されましたかね。互いにぶつかりたくないと思っているからこそ、残酷な現実に対して、曇天に見舞われた心境にある。」

 

「そうかもね。」

 

 ポツポツと降り注ぐ冷たい雨に、わたしと骸は静かに打たれる。

 ここまで複雑な感情を抱いたのは、初めてかもしれない。

 

「……奈月。」

 

「……何?」

 

「あなたを傷つけてしまうかもしれないことを、謝罪させてください。」

 

「……きみの考えがあってこそなんだろう?確かにすごく嫌だけど、骸の中に宿る感情は、わたしにも伝わってるから、否定するつもりはないよ。

 だけど、やっぱり思うところはたくさんあるよね。」

 

「クフフフ……ええ。僕も同じことを考えています。僕達はそれなりに気が合うようですね。」

 

 ゆらゆらと花々が揺らぐ花畑。そこに座り込みながら、再びわたし達は無言になる。

 互いに互いの想いをぶつけて、複雑な思いを抱いているにも関わらず、相変わらず気まずさはあまりなかった。

 

「ですが、これが僕達の運命と言う奴なのでしょう。本当に、あなたとこのようなところで会いたくはなかった。」

 

「わたしも同じ気持ちだよ。何で出会しちゃったかな、わたし達。これも全部運命だと言うのなら、本当に運命を呪いたいよ。」

 

「ええ。そうですね。」

 

 吐き捨てるように告げた文句に、相槌を打つ骸。

 それに対して言葉を紡ごうとしたが、不意に、自身が足元から消え始めていることに気づく。

 

「時間切れか。」

 

「そのようですね。」

 

「まぁ、合図に関してはもう少し2人で考えてみようよ。出会したからこそ、別の方法を見つけることができるかもしれないから。」

 

「……そうですね。まだ脱獄するには多少時間がかかりますから、その間に良い案を一緒に探してみましょうか。」

 

「うん。その方がまだ、穏便に向き合うことができるかもしれないから。」

 

 そこまで言った瞬間、わたしの足元が花びらへと変化していく様子が見えた。

 現実世界のわたしが目を覚まそうとしているようだ。そのことにやれやれと笑っていると、骸に名前を呼ばれる。

 それに反応してみれば、骸がわたしの頬に手を添える。

 

「しばらくの間は、この世界での逢瀬を続けませんか?互いに傷つきにくい案を考えたり、奈月の幻術の訓練をするために。」

 

「……そうだね。しばらくの間はそうしようか。その方がわたし達にいい影響を与えるかもしれないから。」

 

「クフフフ……賛同してくださりありがとうございます。では、また次の夜に……あなたの精神世界へと馳せ参じましょう。」

 

 そう言って額をくっつけてくる骸に、待ってると伝えて目を閉じる。しかし、彼に頬を撫でられたため、わたしは静かに目を開けた。

 穏やかな笑みを浮かべながら、わたしのことを見つめてくる骸に、小さく笑みを返せば、彼は一瞬だけ目を丸くする。

 だが、すぐにその表情はなくなり、彼はわたしの頬を撫でつけ、どこか甘い熱を帯びた目を見せたあと、静かに顔を近づけてきて……

 

 

 ……そこで、映像が途切れるように、私の意識は浮上する。

 静かに目を開けて体を起こせば、見慣れた自分の部屋の景色が視界に広がっていた。

 何度か瞬きをしたのち、私の隣で寝ていたランボを起こさないようにベッドから起き、顔を洗うために洗面所へと向かう。

 いつものように顔を洗って、用意されていたタオルで水気を取る中、不意に自身の瞳が、片方だけ赤になっていることに気づく。

 

「あれ?これって……」

 

 骸と同じ赤い目……?と僅かに首を傾げた瞬間、ふわりとその色がいつもの琥珀色のものへと戻った。

 それを見て私はあることを思い出す。そう言えば骸は、“わたし”に自身の想いを伝えるために、深く精神を繋げていたと。

 そして、やろうと思えば私の体を自身の好きに動かせるとも言っていたことを思い出し、先程の赤は、その証拠と言えるものであることを理解する。

 

「……まだ繋がりが残っていたのか……それとも、あえて精神世界が消えるまで繋げていたのか。

 なんにせよ、骸からしたら、私の体はいつでも利用できるってわけか。」

 

 でも、なんとなくだけど彼は、無断で利用するつもりはないのだろうと思ってしまう。

 それこそ、私が苦しいとか、逃げたいとか思わない限り、手は出してこないんじゃないかと思う。

 

「……待ってるよ。きみの胸の内が聞ける日を。ただ、本当に私の大切な人達には、なるべく手を出さないでよ。」

 

 ポツリと呟くように口にした言葉……それは、誰かに聞かれることなく、ただ静かに空間へと溶けていくのだった。

 

 

 




 沢田 奈月
 骸とのんびり精神世界で過ごしながら、これからのことを話し合っていたボンゴレ10代目。
 目を覚ます寸前、骸とかなり急接近する出来事が発生したが、未遂のまま現世へと帰還した。

 六道 骸
 奈月に対して既にクソでか感情を抱き始めている囚人の少年。
 本気で奈月に幻術を使って何かするつもりはなく、本気で傷つけたくないとも思っているが、必要ならば傷つけなくてはならないと、あらかじめ彼女に伝え残した。
 目覚める前に彼女にキスをしようとしたが、未遂に終わる形で終わってしまった。

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