最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 こちらの話はリボーン視点で進行します。
 そして、リボーンは奈月=桜奈を把握している人間であり、同時に桜奈が本来の人格であることを理解している存在として、主に桜奈と呼び始めます。
 ナツ呼びはみんなの前だけになりますのでご注意ください。


銀と黄色の夜想曲

 一時的な呪解と言うひとときの奇跡があった日から一週間が経った。

 ……あれからと言うもの、ナツはオレの前で桜奈を見せることが度々増えてきた。

 普段以上に大人びた雰囲気……普段以上に落ち着いた口調、大人の女だとハッキリとわかる柔らかな気配……2人だけの時や、周りの視線が外れている時、ふと顔を上げたら桜奈が顔を覗かせている。

 

 たまには奈月を休んで、桜奈としての自分を見せてくれと頼んだのはオレ自身だが、まさか、本当に桜奈を見せてくれるようになるとは思わなかった。

 だが、ようやく外れた一つの仮面。それを知るのがオレだけじゃないと言うのは少しだけ不満だったが、桜奈の名を知るのは今のところオレだけであると言うのは、なんとも心地いいものだ。

 そんな風に感じることができる程、オレが女にうつつを抜かしているのだと考えると、我ながらどうかと思いたくもなるが、それでも、桜奈を愛せるのであれば……奈月としての桜奈を支えることができるのであれば、こんな恋も悪くない。

 まぁ、最終的にはいつか夢のように覚めてしまう恋ではなく、あいつの最初で最後の男になるつもりではあるが。

 

「……水月輝石商店……あいつが言っていたのはここだな。」

 

 あいつの最初で最後の男になるにはどうするべきか……。そんなの考えるまでもない。

 一時的にでも呪いを緩め、干渉することにより夜だけの呪解をしてみせた“月のような男”の元に足を運ぶだけである。

 本当に信じていいかはわからない。だが、あの夜オレは、確かに自身の呪いが一時的に解かれ、桜奈と顔を合わせた。

 確かな言葉を交わし、確かな温もりに触れ、これが続けばと願ったりもした。

 ……桜奈を揶揄い、桜奈を励まし、穏やかな寝息を立てる寂しがり屋で頑張り屋な愛する女の姿を見つめたあの夜は、夢などと形容することができるチンケな幻想なんかじゃない。

 

「よく見たらここ……桜奈があの時出てきた店か。あの時はこんなところにアクセサリーショップがあるとは思わなかったってだけだったが、まさか、自ら訪ねることになるとはな。」

 

 ……男から訪ねるように言われた店は、オレの誕生日があった時、桜奈が出てきた場所だった。

 特になんとも思ってなかったはずの店が、呪いを解くヒントを得る場所になるとは思いもよらなかった。

 ……なんの変哲もない、少しボロい外見の店。人が本当にいるのかと言いたくなる場所ではあるが、間違いなくここにあの男がいると確信できた。

 殺し屋としての勘なのか、それとも月に導かれたのか……その答えを得たいと思わなくもないが、思案している暇はない。

 

「邪魔するぞ。」

 

 一言告げ、名前の割には洋風の扉を開け、店の中へと足を踏み入れる。

 カランカランと来客を知らせるベルが鳴り、まるで一種の喫茶店だ。

 

「……いらっしゃい。割と早い来店じゃないか、アルコバレーノ、リボーン。」

 

「いろいろと調べたかったからな。つか、お前はオレの名前も知ってやがったのか。」

 

「もちろん知っていたとも。僕は、こう見えてなんでも知ってるからね。君のことも、ボンゴレのことも、君が愛しいと思っている彼女のことも。

 そして……あの子が辿ってきた過去と、あの子の最期……その全てを知ってるよ。」

 

「……なんでお前がその全部を知ってやがる。ただのアクセサリーショップの店員だろ。」

 

「うーん……確かにそうなんだけど、それだけと言うわけでもないんだよね。

 ……なんにせよ、僕は君より桜奈ちゃんのことは知ってるつもりだよ。あの子は僕の大切な親友だからね。

 まぁ、でも、この認識は正直言って一方通行の片想いなんだけどさ。ああ、言っとくけど、僕のことを探ろうと思わないでくれよ?もちろん、桜奈ちゃんのこともね。

 確かに僕は桜奈ちゃんの全てを知ってるけど、話すつもりはないし、僕のことは調べたところで、まともな情報は出てこない。

 なんせ僕は、選んだ人の前にしか現れないし、まともなデータは残さない。

 ああ、でも。これだけは言えるかな?僕は全部知ってるとも。君のことも、彼女のことも、あの子のことも、この世の情勢も……ね。」

 

「……情報屋だとでも言いてーのか?」

 

「情報屋なんて大層なもんじゃないさ。ただ、あの子のいろんな話を聞いていただけだよ。

 最近はからっきしだけどね。話を聞く役割を、8つの炎に奪われちゃったし。

 楽しかったんだけどなぁ……あの子の話を聞くの。まぁ……よく泣いていて、寂しさと苦しさ、悲しみや辛さをよく吐き出す子で、最期を迎えるまで、楽しさや嬉しさは希にしか明かさなくなってしまってたわけだけど。

 生憎と、僕は誰かと話をすることはできなくて、ずっと寄り添って、穏やかな夢を願うことしかできなかったんでね。」

 

 どこか掴みどころがなく、質問には答えてもらえてるようで、はぐらかされているような感覚。

 意味がわからないことも口にして、答えになってるかもわからない言葉を紡いでくる。

 

 “月のような男”……神谷幸弥。

 あの時は見た目だけで月のようだと思ったが、どうやらそれは、見た目だけじゃなかったようだ。

 鏡花水月と言う四字熟語のように、水鏡に映り込んでは揺らぎ、触れようとしたところで触れることができない月のような性格をしている。

 ああ、だが、これだけは言えるな。

 

「桜奈のことは探るつもりはない。どれだけ時間がかかろうとも、オレは桜奈が自ら話してくれるのを待つつもりだからな。

 他人から聞いたところで、寂しがり屋な桜奈の心を満たすことはできねーからな。

 まだ距離があることは理解してるが、お前がくれたあの一夜の逢瀬で少し縮まったんだ。

 引き換えに桜奈に辛い過去を話させちまったがな。だが、それでもようやくあっちからもオレに近づこうとしてくれたんだ。

 だったら最後まで待ってやるさ。それも女を愛してやるための手段だろ?」

 

 口元に笑みを浮かべながら、神谷幸弥に宣言すれば、神谷幸弥は一瞬だけ目を丸くする。

 しかし、すぐに口元に笑みを浮かべて、レジが乗せてあるカウンターデスクに肘をつきながらオレを見つめてきた。

 

「君ならそう言うと思ったよ。まぁ、じゃなきゃここに呼んだりもしないし、協力なんてものをするつもりもなかったんだけど。」

 

 どこか子供っぽい表情を見せながら、他人に聞くような奴に協力するつもりはないと口にした神谷幸弥。

 安堵などを見せるわけでもなく、まるで知ってたと言わんばかりの態度を見せるこいつの姿から、こっちの性格まで把握されているのだと理解する。

 予想通りだと言わんばかりの様子に少しだけ腹を立てる。全てを見透かすようなこいつの言動は、正直言ってあまり好ましくない。

 

「呪いを完全に解呪することはできなくても、一時的に弱めることができるってのはどう言う意味だ?」

 

 これ以上、神谷幸弥のことについて聞き出すことは難しい……そう判断したオレは、旅館で告げられた言葉の真意を問う。

 ……呪いを必死に解こうとしてる奴らではなく、何もかも諦めていたオレがそのヒントとなるであろう情報を得られる手前にいると言うことに、思わないところがないと言えば嘘になるが、少しでも早く、ナツを支え、桜奈を守れるようにしたいのも事実。

 得られるものは得ておきたい。

 

「旅館で話したように、月は呪いを弱めることができると言う話だよ。満月なら尚更ね。

 それは全て、過去に語られてきた月と呪術を結びつけような話が長らく語られてきたことにより、結果として世界に根付き、同時に僕に根付いた力と言うわけさ。」

 

「まるで自分が月だとでも言ってるようだな。」

 

「まさか。僕はツクヨミやアルテミスのように月に連なるような大層な存在じゃないんだよ?月そのもののわけないだろう?

 まぁ、とは言え全くの無関係と言うわけでもないんだけどね。だからこそ、月と呪術の繋がりの昔話の影響を受けてしまっているわけだし。

 いい迷惑……ではあるけど、だからこそ桜奈ちゃんから話を聞くこともできていたし、こうやって手助けもできるから、今は悪くないとすら思ってるよ。」

 

 ちょっと待っててねと言って、店内の奥にある部屋の方へと引っ込んでいく神谷幸弥。

 その背中を見送りながら、オレは静かに店内を見渡す。辺りにあるのは様々な天然石にビーズ、アクセサリーを作る際に使用するのであろうアイテムの数々。

 桜奈もこんなの持ってたな……と思いながら、なんとなくその場にあった踏み台に乗って眺めていると、カウンターデスクの方に気配が戻ってきた。

 

「店の商品に興味があるのかな?」

 

「桜奈もこんなの持ってたなって眺めていただけだぞ。」

 

「なるほどね。うん。あの子はこの店の上客だよ。よく贔屓にしてもらっていてね。

 ほら、あの子ってアクセサリーやストラップなんかの小物をハンドメイドするのが趣味だろう?

 実を言うと、あれは奈月ちゃんになる前の桜奈ちゃんの趣味だったんだよ。」

 

「桜奈は昔からアクセサリーを作るのが好きだったのか?」

 

「まぁね。詳しくは今度桜奈ちゃん本人に聞いてみるといい。アクセサリー作りに没頭した理由は、なかなか悲しいものだと思うけど。」

 

「……おい。ヒントを与えたかと思えば即行で聞き難くするんじゃねー。」

 

「それは申し訳ない。わざとだよ。」

 

「……………。」

 

 シレッとわざと聞き難くしたのだと語る神谷幸弥に、一瞬だけ殺気を向ける。

 こいつ……桜奈と結ばれたいとオレが思っていることや、桜奈のことを知りたいと思ってるのを知っていながら……。

 

「桜奈がオレに取られるのが嫌だからって、随分な妨害をしてくるじゃねーか。」

 

「そりゃそうさ。さっきも言ったように、桜奈ちゃんは僕の大切な親友なんだから、妨害くらいするよ。

 あの子を心から幸せにすることができる人間じゃないと、隣を任せられないからね。」

 

「安心しろ。その役割はオレが果たしてやる。」

 

「その心意気に嘘がないことを願ってるよ。そうじゃないと、これを渡す意味がないからね。

 まぁ、君にはそれなりに期待させてもらってるよ。8つの炎と夢幻ノ霧、寄り添う浮雲に天翔ける空……そして、黄色のアルコバレーノである君に彼女はすごく心を許しているからね。

 ……あと期待できそうなのは……忠誠の嵐と朗らかな雨……幼き雷……熱き快晴と快晴の妹……無邪気な少女に紫毒の華……星の王子と雷の幼馴染み……現在の彼女が出会してる面々だとこれくらいかな。

 これから先の未来……無垢なる霧や荒々しき空、銀鋭の嵐や恋焦がれる空……白翼の空と優しき大地とも出会すだろうし、繋がりを持つと思うけど……さて……どんな道をあの子は辿るのかな……。」

 

「何の話だ?」

 

「こっちの話だよ。ほら、さっきも言っただろう?僕は全てを知っている。

 なんせ、いろんなところに出ては消えてを繰り返しているんでね。あらゆる事象を知っているし、あらゆる記憶を記録として保有してるんだよ。

 まぁ、あまり気分がいいものではないけどね。なんせハッピーエンドが少な過ぎる。

 出会した人間の数だけそれは一応、存在してはいるけれど、そこに行き着くためのレールは、これまた複雑なものなんだ。その上バッドエンドが多過ぎる。」

 

「バッドエンドだと?」

 

「そう。バッドエンドだ。生きているが幸せになれず、精神が完全に摩耗するバッドエンドに、幸せになる前に命を落としてしまうバッドエンド。

 周りの妬みや嫉みのせいで、命を奪われるバッドエンドに、自ら命を絶つバッドエンド……。

 それらの全てが今の桜奈ちゃんの未来には必ず付き纏っており、死へと誘う影の手も沢山ある。その全てを断ち切れる程の幸せをあの子に与えることができなければ意味がない。」

 

 “君にできる?それら全てを断ち切り、幸せな最期へと連れて行くこと”と口にして、わずかに目を細める神谷幸弥。

 死へと誘う沢山の影の手……その全てを桜奈から断ち切れるか……だと?

 そんなもの決まってる。

 

「決まりきったことを聞いてくるな。桜奈は、オレがちゃんと幸せにしてやるし、ナツはオレが支えてやる。

 最悪な人生にしないためにも、しっかりと守り抜いてやるさ。」

 

 いちいち聞いてくるなと言うように、自身の意志をハッキリと見せる。

 すると、神谷幸弥は小さく笑ったのち、オレの目の前に何かをチラつかせた。

 よく見るとそれはブレスレットで、何かしらの模様が刻まれた水晶なども使われていた。

 

「ブラックムーンストーンに、エンジェルフェザーフローライト、それと、ムーンクォーツとシルバービーズを組み合わせた僕お手製のブレスレットだよ。

 このうちの一つ、ムーンクォーツには特殊な細工を施してあるから、元の姿に戻りたい時に、このブレスレットの内側に手を入れたらいい。

 見ての通り、サイズは大人用だけど、本来の姿に戻ったらサイズがピッタリになるから気にする必要はない。

 ああでも、一時的な呪解ができるのは、満月から半月の間の夜のみで、三日月になったら効力は失われる。

 月光が弱いと上手く使えなくてね。まぁ、呪いを弱めるのが月光であり、その力を使用して呪いを外す力である以上、仕方ないと言えば仕方ないのだけど。」

 

 “必要だと思った時にでも使うといい”と告げ、こちらにそれを手渡してくる神谷幸弥。

 少しの警戒を抱きながらも、そのブレスレットを手に取れば、ムーンクォーツと呼ばれた透明感のある天然石のビーズに、ほのかに輝く何かが刻まれていた。

 

「何だこれは?」

 

「ん?ああ、呪解するための細工だよ。もう少し細かい細工を施せば、完全な呪解もできるんじゃないかとは思ってるんだけど、それを刻む時ってそれなりにこっちも疲労するからね。

 満月から半月までの強めの月光がある夜の間のみの呪解用細工だけでも手一杯でさ。

 それに、これで上手く行くかどうかまでは僕であっても確信が持てていないんだ。」

 

「……つまりオレはモルモットか?」

 

「まぁ、そんな感じ。でも安心して。呪いは確実に弱まる代物で、強くなることは絶対にない。それだけは自信を持って言えるよ。

 呪いを解くための協力はしてあげるから、君にはそれのモニター……サンプリング収集を手伝ってもらいたいんだ。

 だから、無償でそれをあげるよ。協力を承諾してくれるならね。」

 

 やけにアルコバレーノの呪いを外すことにこだわる神谷幸弥の様子に、オレは一瞬だけ首を傾げる。

 こいつからはアルコバレーノの気配を感じ取ることができないと言うのに、なぜ、そこまでして呪いを無くすことを考えているのだろうか?

 桜奈の幸せを願っているからこそ、オレの呪いを解こうとしているのか……それとも、別の理由が存在しているのか。

 

「……一時的とは言え、呪解できるかもしれないし、お前に協力するなら、完全に呪解できる道のりも見えてくるかもしれない。

 だから、協力することに関しては別に構わねーし、むしろ、何か得られる可能性が高い時点で断る理由もねーが……なんでそこまでして呪いを外すことに拘っているんだ?」

 

 ここまでよくしてもらうと、本能的に警戒心は抱くもの。ヒットマンとしてのサガではあるが、やはり気になるものは気になるし、ここまで美味い話があると言うのも疑問が出てくる。

 それを示すように、オレは静かに神谷幸弥へと呪いを解くことにこだわる理由を問う。

 すると、神谷幸弥は一瞬だけキョトンとした表情を見せては、小さく口元に笑みを浮かべた。

 

「桜奈ちゃんの幸せの一つが君の呪解と生存だからね。その望みを叶えるため……と言うのもあるけど、主な理由としてあげるとしたら、君達をアルコバレーノへと変える原因を作り上げた鉄帽子の守人君への抗議だよ。

 なんせ僕は、全ての人間が幸せに人生を歩み、眠るように息を引き取ることを祈る者だ。

 幸せに満たされることなく命を落とした桜奈ちゃんの幸せを特別視して願っていることは否定しないけど、それ以前に僕は全ての人に幸福な未来を望んでいるんだよ。

 だから、アルコバレーノの呪いと、呪いにより迎えるアルコバレーノ達の末路も見過ごすことができないのさ。」

 

 オレの質問に、神谷幸弥は静かに答えを紡ぐ。

 だが、オレは桜奈の幸せよりも先に、ある単語に反応を示していた。

 

「!?お前、鉄帽子のことを知ってるのか!?」

 

「おっふ……意外に食いついてくるね。ちょっとびっくりしたよ。」

 

 鉄帽子の守人と言う言葉に強く反応したオレを見て、神谷幸弥は苦笑いをこぼした。

 だが、すぐに先程からずっと浮かべている穏やかな笑みを見せ、静かに口を開く。

 

「何度も言ってるだろ。僕は全てを知っている。確かな記録として世界情勢を把握しているとね。

 だから、君達がその姿になる原因になる存在のことも知ってるし、その目的もある程度把握してるんだよ。

 ただ、話したところで今どうにかなるわけじゃないし、むしろ悪い方角へと動いてしまうかもしれない。

 だから、まぁ、この話はまたの機会にだ。今はまだ、この話をするには君らの出会いと力が不十分なんでね。」

 

 “出会いと力が不十分である以上、この話をすることはできない”と告げ、口を閉ざす神谷幸弥。

 そのことに少しだけ舌打ちをしそうになったが、裏を返せば、それら全てを揃えることができたら、あの鉄帽子の情報を得ることができると言うことのため、なんとか苛立ちの溜飲を下げる。

 

「……それらを揃えたら、お前から鉄帽子の話を聞けるのか?」

 

「出会いと力を揃えたら……?まぁ、それらをちゃんと揃えた上で、いろいろと詰んだ時ぐらいはヒントを教えてあげるよ。

 でも、答えだけは教えない。これらは全て、君らがちゃんと見つけて乗り越えてこその壁だからね。

 君の周りにいるみんなの出会いと成長がなければ、これから先の未来で必ず詰んで終わりを迎えてしまうよ。

 それを防ぐためには、自分達で乗り越える力も必要だ。その過程は決して省いてはならない。

 だから、あの子を幸せにしたいと思うのであれば、ちゃんと必要な過程を共に越えていくこともしてくれよ。」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、真っ直ぐとオレを見据えて言葉を紡ぐ神谷幸弥に、オレは無言を返す。

 こいつの瞳から感じ取れるのは、桜奈に対しての強い親愛。大切な友を想い、その幸せを願う愛情だった。

 

「……お前が桜奈に恋慕を向けなくて安心したぞ。これ以上、厄介な恋敵はいらねーからな。」

 

「恋慕?僕が?桜奈ちゃんに?ああ……彼女を特別に想ってることをハッキリと見せたからそう思ったのかな?

 それに関しては安心するといい。あの子のことは誰よりも大切な女の子だとは思っているけど、君ら人間が抱く様な熱く甘い恋情は絶対に抱かないと断言できる。

 …… もちろん……かつては僕が幸せにすることができる存在ならば……と少し思うこともあったけど、いざと言う時、側にいてあげることができない僕では、その役割を担うことができない。

 だからこそ、桜奈ちゃんの側にいることができる君達に期待をしてるんだ。

 僕なんかよりも、ずっとあの子を幸せにしてあげることができるのだから。

 ……あの子と話すだけで、僕は十分幸せだ。幸せのお裾分けをもらうだけで、全て満足できる。」

 

 “ならば僕はいざと言う時の止まり木でいい。少しだけ休むための、休憩場所で構わないんだよ”と、穏やかな声音で、しかし、確かな強い意思を乗せて、紡がれた言葉に一瞬だけキョトンとしてしまう。

 だが、すぐにオレは口元に笑みを浮かべて口を開いた。

 

「それならいい。久々に本気になっちまったからな。これ以上、あいつに惚れるようなヤツは増えてほしくねーんだ。」

 

「久々の本気ね……。うん。それに関しては応援しているよ。だって、君と結ばれることによりハッピーエンドを迎えるあの子もいるからね。

 あの子が心から幸せだと言えるような未来を約束できるのであれば、誰であろうとも応援するつもりでいるのが僕だから。

 でも、気をつけた方がいいぜ?桜奈ちゃんは、これからも多くの人を惹きつけていくからね。

 誰と結ばれる道になろうとも、それだけは絶対に変わらない。本気で幸せにしたいのであれば、ずっとあの子の心を捕まえておける程の恋と愛が必要だよ。」

 

「心配しなくても、本気になった以上、オレは桜奈を逃すつもりはねーし、必ず桜奈をハマらせてやるさ。

 絶対に桜奈の心は撃ち抜いてみせる。オレは、凄腕のヒットマンだからな。

 ブレスレットは貰っていくぞ。サンプリングくらい手伝ってやる。」

 

「助かるよ。またね、アルコバレーノ、リボーン。次は桜奈ちゃんと一緒に来店してくれ。

 あの子に似合うアクセサリーも、扱っているからさ。」

 

 ご来店、ありがとうございました、と笑顔を見せて手を振ってくる神谷幸弥。

 一瞬だけ、本当に一瞬だけだったが、黒い羽のようなものが見えた気がした。

 多分、気のせいだろうと思いながらも、受け取ったブレスレットを持って店の外へ出る。

 

「あれ?リボーン?」

 

「ん?ああ、桜奈か。1人で買い物か?」

 

 すると、私服姿の桜奈が1人、街中を歩いているところに出くわした。

 その片手には、最近できたと噂になっていたコーヒーショップで販売されているフラッペと思わしき飲み物が入ったプラスチックカップが握られている。

 

「もうすぐ並盛町の夏祭りで少しだけ忙しくなるから、しばらくは呼び出しはないって恭弥さんから連絡をもらってね。

 せっかくのお休みだし、って新しくできたコーヒーショップに行くついでに適当にウィンドウショッピングでもしようかと。」

 

「なるほどな。」

 

「リボーンは……輝石商店に寄ってたんだ?」

 

「ああ。店員に呼び出しを食らってな。どこまで効果があるかは知らねーが、呪解のヒントなりそうなもんを引き取りに行ってたんだ。」

 

「……やっぱり、あの時リボーンが言ってた月のような人って、神谷さんだったのね。」

 

「みてーだな。」

 

「んー……だとしたらますます謎が深まるね。なんで神谷さん、あんなところにいたんだろう?」

 

 ズズッとフラッペを飲みながら、首を傾げる桜奈の姿に、軽い苛立ちを覚える。

 桜奈の目と、頭の中にオレがいないってことがこれ程までにイラつくようになるとは思わなかった。

 

「桜奈。お前、また、オレが目の前にいながら他の野郎のこと考えやがったな。浮気すんじゃねー。」

 

「浮気って何よ。別にわたしとリボーンは付き合ってるわけじゃないでしょうが。ていうか話題に出してきたのそっち……」

 

「ショッピングモールに行くんだろ。ほらさっさと行くぞ。」

 

「人の言葉遮らないでよ……」

 

 どことなく呆れたような様子を見せてくる桜奈を無視して、すかさず桜奈が向かおうとしていたであろうショッピングモールへと行くことを告げる。

 オレの様子に、やれやれと言わんばかりの反応を見せているが、神谷幸弥のことを少しでもその頭ん中から追い出せるなら、どれだけ呆れられようと構わない。

 

「目的はコーヒーショップとウィンドウショッピングだけなのか?」

 

「んー……メインはそれだけど、ビアンキ姉さんからショッピングモールに、最近新しい服屋さんができたって聞いてね。

 ナツが好きそうなブランドが増えていたし、行ってみたら?って言われたの。

 だから、ちょっと足を運ぼうと思って。いつのまにか父さんがわたし用の銀行口座を作ってたみたいで、さっき、通帳と口座のカードが届いたんだよね。

 そしたら……うん……中学生が持つには明らかにおかしい大金が通帳に記されてて……。

 ついでに手紙が入っててね。これで好きなものを買いなさいって書いてあったし、ちょうどいいかなって。」

 

「……家光に先を越されたか。」

 

「うん、ちょっと待ってどう言う意味?」

 

「気にすんな。どうせ後日わかるからな。」

 

「ちょっと?ものすごく不安しかないんだけど?」

 

 何を企んでるのと言いたげな様子の桜奈を見て、オレは小さく笑うだけで反応を返す。

 いろいろと出費は発生すると思うだろうが、別にそれくらいは問題ない。

 なんせオレの名義で登録しているものが後日届くからな。桜奈がそれを知るはずもないんだが。

 

 ……にしても、家光の奴も似たようなこと考えてやがったか。まぁ、父から子へのお小遣いのようなものだろうとは思うが。

 どうせお前も、自分の名義で登録した桜奈専用の口座の通帳とカードを渡してんだろう?

 

「桜奈は気にする必要はねーぞ。使えるもんは使っとけ。」

 

「ええ……?」

 

 困惑する桜奈の姿が面白くて、少しだけ笑い声を漏らす。

 家光のおかげで金銭にかなり余裕ができたし、せっかくだから桜奈にオレの好みの服も教えて、試しに買ってやるとするか。

 

「ところでお前、さっきから何飲んでんだ?」

 

「ん?抹茶フラッペ。抹茶オレをシャーベット状にしたもので、冷たくて美味しいよ。飲む?」

 

「一口くれ。」

 

「ん。」

 

「……ちと甘いがうめーな。」

 

「でしょ?割と好きなんだ、これ。」

 

「そうか。」

 

「……まだ飲む?」

 

「ああ。もらうぞ。」

 

 桜奈が飲んでる抹茶フラッペをたまにもらいながら、オレはショッピングモールへと向かう道のりを移動する。

 オレにはかなり甘ったるいそれではあるが、桜奈を独占することができるのであれば、それも悪くないと思うのだった。

 

 

 

 




 リボーン
 幸弥から鉄帽子の話が出てくるとは思わず、かなり強く反応をしてしまった黄色のアルコバレーノ。
 だが、ヒントは時が来るまで教えないと言われ、渋々ながらも引き下がることにした。
 桜奈に対する想いは既にノンストップで、隙さえあれば彼女を独占する行動を取り始めるようになった。
 このあと桜奈と共にショッピングモールへと向かい、彼女に服を買い与え始めたのは言うまでもない。

 神谷 幸弥
 特性上、全ての世界の行き着く道のりや、さまざまな終わりの記録を持ち合わせているらしい月のような男性。
 普段は明るい店員として人に対応するのだが、リボーンの前でら本来の自身を出し、取り繕うことをしない。
 全ての人が幸せな未来を歩むことを願っており、中でも悲惨な最期を前世で迎えた桜奈の幸せを強く願い、執着している。
 謎多き人物ではあるが、人間かどうか疑わしい存在であることは間違いない。

 沢田 奈月(桜奈)
 リボーンの前では、桜奈としての自分を隠さなくなった転生者のボンゴレ10代目。
 後日、リボーンから一枚のカードを手渡され、悲鳴を上げることになることを知らない。

物語に関係ない好奇心からのネタ質問です。主人公に好意的な感情を向ける男キャラは、これから先も増えるのですが、主人公のファーストキスは誰が一番奪いそうだと思いますか?

  • リボーン
  • 大人リボーン
  • 獄寺隼人(事故チュー)
  • 山本武(事故チュー)
  • 雲雀恭弥
  • 六道骸
  • ディーノ(事故チュー)
  • ディーノ(意図してキス)
  • XANXUS
  • ベルフェゴール
  • 白蘭
  • 古里炎真(事故チュー)
  • させないよ?(女性陣の壁)
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