最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 菊花が咲く夜空が見守る中、藍色は桜に想いを告げる。
 藍色の未来の妨げにならぬよう、無事を願って離れようとした桜を、逃さぬように強く引き留め、自身との繋がりを何よりも固いものへと昇華するために。

 ……はい、やらかしてます。めっちゃ後半やらかしています。
 誰かこの骸を止めてください……泣
 なんかいつのまにか勝手に動いてるをですよこいつ!!(高濃度どころじゃない骸桜描写注意!!)


菊花照らす藍の恋着

「そう言えば、花火って何時から始まるんですか?」

 

 わたし達って、結構思考回路とか認識が似通ってるのかな……なんて、ここ最近、骸と同じ気持ちになりやすい自分のことを分析していると、暗い話題を変えるように、骸が別の話題を口にする。

 

「20時からだよ。」

 

 せっかく祭りに来ているのに、確かにこの話題は良くないなと思ったわたしは、すぐにその話題に対する答えを口にする。

 すると骸は一瞬キョトンとした表情を見せた後、少しだけ苦笑いをこぼした。

 

「20時……結構遅い時間から始まるんですね。」

 

「いや、だって19時代ってまだ明るいじゃん?」

 

「……確かに。まだ完全に暗いと言うわけではありませんね。」

 

「夏場から夏の終わり辺りまでは、まだちょっと明るいからね。基本的に花火は20時くらいから上がるんだよ。

 秋になると、だんだん日の高さが低くなって、日の入りも早まってくるから明るい時間は短くなるけど。」

 

「そう言えば、授業でそのようなことを言ってましたね。ほとんど桜奈しか見てなかったので、聞き流していましたが。」

 

「うん、授業くらいはちゃんと受けようか?」

 

 道理で授業中も骸からの視線を感じ取るわけだよと呆れながらも、腕につけている時計に目を向ける。

 屋台の説明をしながらも歩いていたからか、すでに祭りに来て2時間近く経っていることがわかった。

 ……今の時間は19時前。そろそろ花火を見るための席を取っておくべきだろうか。

 

「桜奈。ここの花火ってどこから上がるのでしょうか?」

 

「パンフレットによると、あの水辺みたいだね。川が大きいから、水上花火になるみたいだよ。」

 

「なるほど。」

 

 どこが一番綺麗に見えるかな……と考えていると、骸が花火はどこで上がるのかを聞いてきた。

 すぐに花火が上がるのは祭り会場となっているここの近くにある大きな川の上だと教えれば、彼は花火が上がる川と、辺りを見比べたのち、わたしの手を取り移動し始めた。

 

「骸?」

 

「花火が上がる位置とここら辺の地理を見比べて、穴場となりそうな場所を見つけました。少し距離があるので急ぎますよ。」

 

「へ?」

 

 そう言って骸は、人ごみをすり抜けるように足早に移動し、かなりの早さで祭り会場の範囲から離れる。

 そして、手にしていた食べ歩きの際に出たゴミを、祭り会場の側にあったゴミ袋の中へと捨てたのち、わたしのことをサッと横抱きにする。

 

「桜奈は幻術の展開を。僕とあなたの姿を周りから見えなくしてください。」

 

「え?……って骸?なんか右目の漢数字が変わってるけど……。四?て言うか、なんで死ぬ気の炎……とはちょっと違うみたいだけど、炎が灯ってるけど……熱くないのそれ?」

 

「やはり桜奈にはこれが見えるんですね。これは僕が持ち合わせている能力の一つでして。

 六道輪廻の話はわかりますよね?前に話したはずですし。」

 

「確か、人が生の終わりを迎えた時、また新しく生を受け、地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天界道のどこかに行くって話だよね。」

 

「ええ。ここからは、まだあなたに話してないものです。前に僕は、あなたより多く前世を持つと話しましたよね?

 それの詳細でして、僕の体には前世に六道全ての冥界を廻った記憶が刻まれているんですよ。

 そして、僕はその6つの冥界から6つの戦闘能力を授かった状態にあるんです。」

 

「……冥界巡りで戦闘能力を得るってどんなファンタジー………?」

 

「クフフフ……確かに、あなたからするとフィクションでしょうね。ですが、僕からしたら、これはノンフィクションでして。

 普段はマインドコントロールを施すことが可能な第六の道、天界道の状態となるのですが、任意で数字を変えることができて、その冥界に沿った能力を使えるんですよ。

 今、あなたの目に映る数字は第四の道、修羅道のもので、効果としては肉体強化などを施す格闘スキルとなりますね。」

 

「なるほどね……修羅は確かに、武人を示す言葉でもあるから、それで格闘能力か……。あとわたしが見てるとしたら、地獄道……になるのかな?」

 

「よくおわかりで。その通りです。地獄道は幻術……永遠の悪夢により精神を破壊する能力となります。

 まぁ、使い方によっては悪夢ではなく、目眩しにも使える便利な能力ですので、使い勝手はいいですがね。」

 

 “しっかり掴まってください”と言われ、両手を骸の首の後ろに回してくっつけば、彼はわたしの体をしっかりと抱きしめる。

 そして、軽く地面を蹴り飛ばした瞬間、先程まで視界にかなり大きく映っていたはずの祭りの会場が一気に小さくなってしまった。

 

「うえ!?」

 

「クハハハ!!驚き過ぎですよ桜奈!!これくらい、僕のスキルの前では朝飯前に過ぎません!!」

 

 軽く蹴り飛ばしただけに過ぎないはずなのに、ぐんっと離れた祭り会場との距離に驚いていると、骸は大きな声で笑う。

 その様子から、本当にこれは、骸にとっては大したことがない行動であることがわかり、彼の能力の強大さに目を丸くする。

 

「これならば、花火が上がる前に見えやすい場所に向かえそうですね。桜奈。幻術の展開をお願いします。最短距離で行く以上、少々目立つ行動を取らなくてはならないので。」

 

 骸に言われ、わたしはその場で幻術を展開する。武器の代わりに触媒として使ったのは、ジョットさん達に作った首輪兼ブレスレットの試作品となっているネックレスだ。

 マフィアのことから少しだけ離れようと決めた時、自主的に武器をあまり見ないようにするため荷物の奥に納めているため、その代わりにつけるようにしていたのである。

 そこにインディゴの死ぬ気の炎を灯すことにより、今のわたしは幻術を使用することができる。

 

「幻術の展開、完了したよ。」

 

「ありがとうございます、桜奈。では、少々道が荒々しくなるので気をつけてくださいね。」

 

「荒々しくなる……?」

 

「はい。」

 

 わたし達を周りから見えなくするための幻術を展開したことを告げれば、彼は道が荒々しくなるから気をつけるように忠告をしてきた。

 不思議に思い首を傾げるが、その忠告の意味はすぐに理解することとなった。

 

 ある程度道を走り抜けた瞬間、骸はおもむろにすぐ側にあった一般家庭の家の塀に足をかけ、そのまま家の屋根の上に飛び乗ったのである。

 

「は!?」

 

「確か、パルクールと言うスポーツが世界にはありましたね。これはそれを応用したものです。

 まぁ、本来のパルクールに比べたら、少々高低差が激しくなりますが、真っ直ぐ走り抜けるにはちょうどいいと思いまして。」

 

「だからって他所様の家の屋根の上に飛び乗るんじゃない!!猫かあんたは!?」

 

「猫はあなたの方だと思いますが。」

 

 軽い身のこなしとかなりのスピードで他所様の家の屋根や庭、さらに言うとアパートなどの高さのある建造物すらも道のように扱って移動していく骸に大して思わずツッコミを入れる。

 しかし、かなりの高低差のある道をハイレベルパルクールで移動され、時には片手だけで抱えられた状態になっているにも関わらず、大きな揺れや、気分の悪さを感じることはなかった。

 

「桜奈。キツくないですか?なるべく桜奈の体に負担がかからないように体の使い方は工夫していますが、かなりの高低差がある道のりを走っているので、気分が悪くなったら遠慮なく言ってくださいね?」

 

「いや、まぁ、そこは問題ないんだけど……。」

 

「それはよかった。それにしても、ちゃんとご飯……食べてますよね?いつもしっかり食べてるのは把握してますが、あまりにも軽過ぎると言いますか……。」

 

「あー……多分、平均よりは若干軽いかも……。本来なら50kg以上あるのがわたしの身長の理想なんだけど、測ったところ50kgに満たない体重なんだよね……。

 でも、わたしはみんなの前で食べる量以上の量の食事は入らなくてさ。多分、そのせいだと思う。」

 

「なるほど……。言われてみれば確かに、桜奈は他の人に比べたら食べる量が少なめの傾向にありますよね。

 無理に食べろとは言いませんが、気をつけないとダメですよ?下手したら倒れてしまいますから。」

 

「はーい……気をつけまーす……」

 

 ちゃんと気遣った上での移動をしてくれているのだと思っていると、まさかの発言が耳に届いた。

 どうやら骸は、わたしの体が異常に軽いものだから少しだけ困惑していたようだ。

 それにより、わたしは自身の今の体重を思い出しては、本来あるはずの体重に比べたら、軽い傾向にあることを告げる。

 すると骸はわたしに心配そうな目を向けてきた。倒れたりしないか気になって仕方ないらしい。

 とりあえず倒れないように気をつけることを彼に告げれば、骸は小さく微笑んで、他所様の屋根の上から、かなり離れた位置にある崖の上に飛び移った。

 かなりの勢いで飛び移ったことにより、若干地面を滑る骸だったが、すぐにわたしの体をしっかりと抱きしめた状態になり、そのまま地面に受け身をするように転がって、わたしへの負担を0にしながら勢いを殺す。

 

「とと……最後だけ少し失敗してしまいましたね。大丈夫ですか、桜奈?怪我はないですか?」

 

「ん。大丈夫。骸が守ってくれたから、擦り傷一つないよ。」

 

「それならばよかったです。」

 

「骸は?わたしに負担がかからないように転がってたけど、怪我はしてない?」

 

「問題はありませんよ。僕は体が丈夫なので、この程度では怪我をしたりしません。受け身も取りましたからね。」

 

 “まぁ、砂埃はついてしまいましたが……”なんて言いながら、わたしを地面に降ろしてパタパタと砂を払い始める骸。

 すぐにわたしも骸の背後に回り、彼の背中についた砂をパタパタと払い落とす。

 

「ありがとうございます、桜奈。」

 

「どういたしまして。こっちこそありがとう。わたしに負担をかからないようにしてくれて。」

 

「クフフフ……これくらい当然ですよ。桜奈は僕にとって、何よりも大切で特別な女性なのですから。」

 

 笑顔を見せながら、わたしに手を差し伸べて来る骸の瞳は、いつも通りの六の文字。ここから先は、あそこまで派手な移動をしなくても問題ないようだ。

 そこまで考えて、わたしは差し伸べられた骸の手に自身の手を重ねる。それを確認した骸は、わたしの手を優しく握りしめたあと、少しだけ走るように崖の先にある山道へと移動し始めた。

 手を引かれるままに移動してみれば、程なくして開けた場所に出る。どうやらここは山の中のようだ。辺り一面が木に覆われている。

 

「こっちですよ。」

 

 骸が案内するように、山の道を走り抜ける。いったいどこに向かっているのか……沢山の疑問符を頭上に浮かべる。

 ……しばらくの間、山の中を走り抜けると、大きな展望台にたどり着いた。展望台の先の方には、祭り会場が近くにある大きな川が広がっていた。

 

「あの川って……。」

 

「祭り会場があった川です。日本にはこんなにも大きな川があるんですね。側から見たら湖のようです。

 ですが、ちゃんと岸の向こうには黒曜中がある町があって、しっかりと明かりが見えていますね。」

 

 展望台の柵に寄りかかりながら、笑みを浮かべて言葉を紡ぐ骸。わたしはすぐにそんな彼の隣に歩み寄り、同じように柵へと寄りかかる。

 その瞬間、木々に覆われていたことにより押し止められていた強風が体を撫でて、少しばかり寒さを感じてしまった。

 

「桜奈。これを羽織ってください。」

 

 やっぱり9月になると、風は結構冷たいな……と少しだけ腕をさすっていると、骸が手にしていた荷物の中からショッピングモールで購入していたアウターを取り出して、羽織らせて来る。

 ……視界の端で、値段が記されているタグを引きちぎる手が見えたような気がしたが、別にアウターに被害は出てないし、とりあえず見なかったことにした。

 

「ありがとう、骸。そっちは寒くないの?」

 

「そうですね……高台なだけあり、下に比べたら冷え込みますが、牢獄の中にいた時に比べたら全然マシなので大丈夫ですよ。」

 

「いや、冷え込むと思ってるなら大丈夫じゃないよ。全く……」

 

 少しだけ呆れながら、わたしは骸と柵の間に体を滑り込ませ、そのまま自身の体の前に骸の腕を回す。

 急にわたしが腕の中にすっぽりと収まってきたからか、骸が驚いた様子を見せていたが、すぐにわたしの体の前に腕を回して、優しく、だけどしっかりと密着するように抱きしめてきた。

 

「ちょっとはマシ?」

 

「……ええ。すごく暖かいです。」

 

 ぎゅっと優しく抱きしめて来る骸から上機嫌な雰囲気を感じ取る。彼が口にした暖かいと言う言葉には、体の密着による物理的なものと、くっつき合うこの状況による精神的な温もりの両方が含まれているような気がした。

 その様子に少しだけ目を細めたわたしは、抱きしめてくる骸の腕に自身の腕を絡ませて軽く彼に寄りかかる。

 真冬の夜のように冷え切ったその心に、少しでも沢山の春を残せるように。

 

「今、時間はどれくらいですか?」

 

「んと……19時59分だね。あと1分で花火が上がるよ。」

 

 腕時計で確認した時間を骸に教えて、川の方へと目を向ける。

 骸のカイロ代わりを務めながら、心の中で秒針を刻む。そして、5秒を切った頃に、わたしは静かに口を開いた。

 

「5」

 

「4」

 

「3」

 

「2」

 

「「1……ゼロ……」」

 

 交互に紡いだカウントダウン。最後に同時に始まりと終わりの数字を口にした瞬間、空へと昇る煙龍は、笛の音を高らかに咆哮しながら、高く高く舞い上がった。

 そして、天高く昇った煙龍は、程なくして大きな音と共に、大輪の菊花を咲き誇らせる。

 

「………これが、打ち上げ花火…………」

 

「そ。綺麗でしょ。」

 

「ええ。すごく綺麗です。夜空に大輪の花を咲かせて辺りを照らしている……。初めて花火を見ましたが、これ程までに色鮮やかなものなんですね。」

 

 川の上に広がる夜空に花を咲かせては消え、鮮やかな光を辺りに広げる花火に、骸は穏やかな声音で感想を告げる。

 花火の音はすごく大きいが、互いにくっつきあってるからだろうか?花火の音にその声はかき消されることはなく、わたしの耳に確かに届く。

 きっと、祭り会場では歓声が上がっているのだろう。わたし達が逃避している町から見える人達も、鮮やかな花火に笑っているのだろう。

 

「……ねぇ、骸。わたしは今、きみが見ている世界に、もっと彩りを添えることができてるかな?」

 

 そんなことを考えながら、わたしは静かに骸に話しかける。

 ずっと暗闇の中で過ごして、憎悪に塗れた過去を生き、世界が鮮やかな色でできていることを忘れてしまっていたであろう男の子……そんな彼が見る世界に、一生の鮮やかな彩りを取り戻すことができていれば……ただひたすらにそう願って。

 

「何を今更言ってるんですか?とっくに僕は、桜奈と過ごすことで、極彩色の世界を取り戻すことができていますよ。

 きっと、あなたと共に過ごす思い出が記憶から薄れない限り、僕は彩りに満ちた世界を忘れることはありません。」

 

 わたしの問いかけを聞いた骸は、バカだなと言うように呆れたような……だけど、今まで以上に穏やかで、とても優しい声音で言葉を紡ぐ。

 そのことに少しだけ安心したわたしは、よかったと言うように笑い声を漏らす。

 わたしの記憶が彼の中にある限り、彼が彩りと温もりを忘れることはない……その言葉は何よりも嬉しかった。

 

 ……骸は何度も言ってくる。他人の幸せを願うより、自身の幸せを掴み取ってほしいと。

 そのためならば力を貸すし、逃げたいと思うのであれば、いくらでも遠くへと逃がしてあげるから、だからもう他人に尽くさなくていいと。

 まるで過去のわたしのように、わたしの幸せを願ってくれる骸……そんな彼の幸せを、わたしもずっと願っているのだから。

 

「……なんか、いつのまにか骸もわたしの幸せをばかりを願ってるね。他人の幸せを願わなくていいって言ったのはきみだったのに、きみがそうなってどうすんの。」

 

「確かに僕も幸せを願う者となってはいますが、あなた程見境なしではありませんよ。」

 

「そうなの?」

 

「当たり前でしょう?僕が幸せを願うのは、僕が優しさを向けるのは、僕が恋慕を捧げるのは、これまでも、これからも、桜奈だけに決まってるでしょう?」

 

「そっか……。骸のそう言った感情は、わたしだけが受け止めることになるんだね。」

 

「ええ。ハッキリと肯定の言葉を返します。僕が深く想い、深く想われたいと望むのは、ずっと桜奈だけですよ。

 他の人間は、正直言ってどうでもいいんです。利用価値があるかないかで判断するだけの有象無象に過ぎません。

 これは犬と千種にも言えることです。もちろん、僕についてきた人間達に対しても、この考えは変わりません。

 桜奈以外で僕に関わっている人間は、僕自身の分身に過ぎず、情をかける対象ではない。

 ですが、あなただけは……桜奈だけは違うんです。僕にとって桜奈は自分自身などではなく、僕自身が求める唯一の春……初めて僕が心から求めている愛しい女性なんですよ。」

 

 囁くように、だけどハッキリとした声音でわたしへの想いを語る骸に、わたしは短く相槌を打つ。

 これじゃあ骸は弱くなってしまう。情を向ける者がいると言うのがどれだけ弱点を広げてしまうのか……骸は知っているはずなのに。

 

「……情で繋ぐ人がいたら、きみは弱くなってしまうよ。」

 

 思わず口にする情の危険性。骸がこれまで様々なことを退けることができた理由は、情を向ける存在がいなかったからのはずだ。

 だからこそ、情を向ける存在であるわたしがいたら、これから先の彼の道のりに、厄介な弱点を作ってしまう。

 わたしにとって、既に大切な身内となっている彼に、そんな弱点を与えたくない……ゆえにひとつの警告を。

 

「……確かに、1人でこなしていた時には戻れないかもしれません。ですが、それでも僕は桜奈を愛したいと思ってます。

 まぁ、仮に幻術を利用して、桜奈の幻影を出されたとしても、僕はいつも通りでいられると思いますがね。」

 

「え?」

 

 しかし、彼から返ってきた言葉は、私の予想に反するものだった。例え幻影のわたしがいたとしても、いつも通りに振る舞えると言うのは、いったいどう言う意味なのだろうか?

 

「僕にとっての桜奈は、今、僕の腕の中にいる桜奈だけです。僕を想ってくださるあなたしか、僕にとっての桜奈は存在しません。

 確かに、人は誰しも情を持つ者が突如現れたりしたら動揺するでしょう。ですが、僕の精神はそこまで弱くはありませんよ。

 それに、例え幻術を利用して、桜奈の姿が目の前に現れようとも、僕と桜奈にしか把握することができない特別な繋がりがあるのですから、僕は決して見間違いません。

 偽物が目の前にいたら、容赦なく手にかけるくらいの気概はありますよ。」

 

 あっさりと答える骸を見上げると、彼はわたしを見下ろしながら、穏やかな笑みを浮かべていた。

 まるで、心配する必要はないのだと、わたしに言い聞かせるように。

 

「……何それ。」

 

 漏れ出すように出た言葉は、呆れと優しさが含まれた声音だった。ハッキリと口にしたわたしとの繋がり……それは絶対に途切れることはなく、どれだけ離れていても、わたしと彼を繋ぎ続ける。

 例え幻術による檻に囚われようとも、この繋がりは、他の繋がりとは全く違い、失われることはなく、偽ることもできない……。

 繋がりを通して感じ取れた自信……いや、これの場合は信じるの文字など必要がない、決定付けられているものであるとでも言うかのような思いと言葉に、返す言葉が出てこない。

 

「そんな風に言われたら……そんな風に思われたら、何も言い返せなくなるよ。」

 

 突き放すための言葉は消え、彼を引き離すことができなくなる。本当は引き離さなくてはいけないと言うのに、これじゃあ……

 

「どうして、離れようとするのを止めるかな。」

 

 離そうにも離すことができないじゃないかと……苦笑いをその場でこぼす。

 離れようとする口実を、ことごとく潰されていくなんて、全くもって困った話だ。

 

「僕が桜奈を離すわけがないでしょう?あなたは僕の大切な桜。暗闇の中に咲き誇った、色鮮やかな春の花なのですから。」

 

 緩やかに頬を片手で撫でられ、少しのくすぐったさに身を捩る。

 しかし、骸はわたしの体をしっかりと抱きしめ動きを封じ、くすぐるように触ってくる。

 

「そんなものは無用だと……これまでの僕なら言っていたでしょう。ですが、この温もりと優しさと、何よりも穏やかな心地よさを知って、切り離せるわけがないじゃないですか。」

 

 頬を撫でていた手が滑り落ち、わたしの肩に優しく触れる。そしてわたしを腕の中に閉じ込めるのをやめて、静かに隣の方に立たせて肩を抱いてくる。

 

「離れるなんて寂しいことを言わないでください。僕は、ずっと桜奈と一緒にいたいです。

 桜奈と一緒にいろんな場所を見て、桜奈と一緒に沢山笑って、桜奈と一緒に同じ世界を歩いて過ごしていたいです。

 許されるのであれば、このままずっと、命の灯りが尽きるまで、僕は桜奈の隣に並び続けたいんです。」

 

 愛おしさが滲み出る甘い声音。その声に少しだけ熱に浮かされるような感覚を覚えながらも、咲いては消える菊花を眺める。

 ここまで想われていると言うのに、受け入れている自分がいると言うのに、その言葉に答えを返さないのは、我ながらどうかと思わなくもないけど、応えることができなかった。

 もし、互いに立場が特殊じゃなくて、ちゃんとした普通の子供だったのなら、きっと応えることができたのに。

 

 ─────……でも、特殊の立場にあったからこそ、わたし達は出会うことができたんだよね。

 

 ─────……普通の子供だったのなら、きっと巡り会うこともなく、互いの存在も知り得なかった。

 

 ─────……普通だったら共に過ごせた、だけど特殊だからこそ巡り会えた……なんとも皮肉な運命だ。

 

 ため息を吐きたくなりながら、わたしは骸に身を寄せる。

 応えたいけど応えられない。だけどきみは大切で、その想いは嬉しくて……そんな葛藤を示すように、無言のまま彼の体に寄り添う。

 

「……なかなか難しいものですね。恋愛と言うものは。手を伸ばせば届く距離にいるのに、いくら手を伸ばしてもすり抜ける。

 あなたの精神世界の中でしか、桜の花は見たことがありませんが、本当にあなたは桜の花びらのようです。

 空から舞い落ちて手の届きそうな位置を漂っているのに、掴もうとして手を伸ばしたら、ひらりと舞い上がって捕まえさせてくれないのですから。」

 

「随分とロマンチックな表現だね。わたしは桜の花びら程綺麗じゃないのに。」

 

「何を言っているのですか。桜奈は十分綺麗ですよ。桜の花も、夜空を照らす花火の菊花さえも霞んでしまう程に。」

 

 綺麗じゃないと口にするわたしに、綺麗だとすぐに返してくる骸。

 そんなはずはないと言い返したいのに、そんなことはさせないと言わんばかりのハッキリとした声音に、思わず花火から視界を外し、眼下に広がる町の明かりへと目を向けた。

 

「桜奈。」

 

 不意に骸に名前を呼ばれ、反射的に顔を上げる。

 同時に広がるのは視界いっぱいの彼の顔と、唇に触れる柔らかな感触だった。

 

「!」

 

 名前を呼ばれ、反射で顔を上げ、そのタイミングに合わせて骸が顔を近づけて、わたしの唇に自身の唇を重ねていたことを理解するのに時間はそんなにかからなかった。

 

「……すみません。ずっとこうして触れたかったので。本当ならば、ちゃんと場を踏むべきだとは思っていたのですが、あまりにもあなたが自信を感じない表情をしていましたから、少しだけムカついてしまいました。」

 

 そっと離れた柔らかな感触。突然触れて、突然離れて、だけど余韻はそのまま残して……これまで一度もされたことがなかった行為に、わたしは何度か瞬きをして、自身の唇に軽く触れる。

 しかし、自身の唇の方へと向いていた意識は、すぐに骸の方へと戻されることになる。

 そっと頬に触れてきた、彼の手のひらの温もりによって。

 

「桜奈は本当に綺麗な女性ですよ。容姿もそうですが、何よりも、僕のような人間のことすらも純粋に想い、幸せを願ってくださるその心が綺麗です。

 あなたの精神世界の穏やかな春の温もりは、僕に沢山の光をもたらしてくれています。

 その温もりを、全て僕だけのものにしてしまいたいと望む程に、僕は桜奈と言う春に恋焦がれているんです。」

 

 わたしの耳に頬まで垂れていた髪をかけ、両手で撫でるように触ってくる骸。

 遠くにある花火の光をわずかながらに反射しながら、キラキラと輝く青天と黄昏は、吸い込まれてしまいそうなくらいに綺麗だった。

 

「愛しています、桜奈。どうか、迷うことなく僕を選んでください。あなたと言う春の陽だまりを、僕だけのものにさせてください。」

 

 流れ込んでくる恋慕の洪水。同時に降り注ぐ春に焦がれた藍色の口付け。

 本来ならば拒絶するべきだと言うのに、わたしはその熱を強く突き放せなかった。

 近くで咲き誇っているはずの菊花の音は、不思議と遠くで聞こえているような感覚に陥り、意識は完全に骸へと囚われてしまう。

 それを知ってか知らずか、骸はわたしの体をしっかりと抱き寄せて、わたしを離すまいと体を密着させてくる。

 恋慕の海の流入と、わたし達の繋がりを強く結びつけるかのように施される深い口付けは、最後の大輪が咲いて散るまで、止まる様子はなかった。

 

 

 




 桜奈(沢田 奈月)
 突き放さなくてはならない、離れなくてはならないとわかっているはずなのに、骸を強く突き放すことができない転生者たる桜の花。
 骸とずっといると言うことは、骸を弱くしてしまう原因となり、彼の未来を妨げてしまうと思い、彼の無事を願って離れようとしているのだが、骸本人が離そうとせず、それどころか深く繋ぎ止める道を選ぶ彼の想いを拒絶すことができない。

 六道 骸
 自身は妨げになってしまうからと離れようとしていることは理解しているが、手放すつもりは毛頭もない前世持ちの術士。
 自身の無事や未来を願ってくれる彼女の純粋な想いや彼女の優しさ、その温もりが愛おしく想い、繋がりより自身のことを強く突き放すことができないことを把握した上でキスを落とした。
 深く繋ぎ止めるようにと言う桜奈の考えは間違いではなく、この際桜奈と自身の繋がりに細工を施していることを、彼は秘密にしている。


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