最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい 作:時長凜祢@二次創作主力垢
片方は穏やかな少女を探す貝と跳ね馬。もう片方は闇に囚われた1人の青年が率いる者達。
2つの組織は遠く離れた中で、少しずつその距離を静かに近づけていた。
No side.
イタリアにて始まった情報集めは数日間に及んだ。
集団の脱獄を起こした者。襲撃事件を起こした者。脱獄した者はどれだけいたのか。脱獄したのはどのような人物達なのか……それらを徹底的に洗い出し、門外顧問の家光と、キャバッローネファミリーのボス、ディーノは、ある1人の人物にたどり着く。
その人物の名前はムクロ。幾度もマフィアや警察の命を奪い、凶悪犯罪を犯したマフィアを収監している監獄へと囚われた少年。
これまで重ねてきた罪状から、死刑判決が確定していた存在の名前だった。
「こいつが……集団脱獄の主犯格……」
手元にある書類に目を落とし、ディーノは静かに言葉を紡ぐ。
彼の手元にある書類には、ムクロ率いる脱獄囚達の写真と、これまでどのような罪状を積み上げてきたのかが記されていた。
「そのようだな。だが……本当にこいつがムクロって奴で合ってんのか疑問が残る。
どう見ても少年ってツラじゃねーだろ。いや、まぁ、こっちの方面ってガキの割には見た目が大人に近い連中多いけどさ。」
手元にある書類に写る1人の男を見ながら、家光は怪訝そうな表情を見せて頭を掻く。
いくらなんでも実年齢よりは上の見た目をしている人間が多い外国とは言え、流石にこれだと本当に少年なのか疑わしくなるもんだ。
そう言って写真に写る傷跡を持つ男を見つめる。
「……つか、本当にこいつがムクロって奴なのか?なんか違うような気がするのはオレだけか?」
「ん〜……ちょっとオレに言われても困るな……」
「そうかよ……。」
うんうんと頭を悩ませる家光に、ディーノは静かに視線を向ける。いろいろと疑いの眼差しを向けている貝の姫君たる少女の父親が最近起こしている一つの変化……それに関して9代目から言われた言葉を思い浮かべた。
─────……ディーノ。少しいいかのう?
─────……ん?
─────……最近の家光に関してのことじゃが、少しだけ君に伝えておきたいことがあってな。
─────……?家光さんのことで伝えたいこと?
─────……ああ。最近、彼の勘があまりにも鋭くなってきているのはわかるかのう?
─────……ええ。それに関しては、こっちもなんとなくは……。
─────……それなら話は早い。これは、わしの直感に過ぎんのだが、家光はおそらく、本来目覚めるはずだったこちらの血に含まれている力が少しずつ芽吹き始めている。
─────……こちらの血……!「ブラッド・オブ・ボンゴレ」の超直感か……!
─────……ああ。もしかしたら今回のこの事件、彼にも何か確かな役割があるのかもしれん。だから、もし、その兆しがハッキリと見えたら、すぐにわしに知らせてもらえるかのう?
─────……わかりました。
“極力家光と共に行動をとってくれ”……そう言われたディーノは、しばらくの間、家光を見つめたあと、再び手元にある写真へと目を向ける。
そこに写るのは顔に2本の傷のある男に、野生味のある一文字傷がある男……そして、頬にバーコードのようなものがわかる帽子を被った男の3人。
書類によると、真ん中に立つ男がムクロと言う囚人であると言う話だが、家光はそれに疑問を抱いている状況にある。
─────……オレにはよくわかんねーけど、家光は違和感を覚えてるってことだよな……。
それが9代目が言う超直感なのかはわからない。しかし、なんとなくだがディーノも家光には何か別のものが見えているのだとわかっていた。
「なぁ。オレにはなんの違和感ってのもわかんねーけど、アンタには何が見えてんだ?」
「何って同じ写真と書類だろ。ただ、なんとなくこいつはムクロじゃねーって思うんだ。
多分だが、本物のムクロは別にいて、こいつは錯乱するための影武者だ。
……そんで、この影武者は本当のムクロがどこにいるのかを知っている……まぁ、勘にすぎねーんだがな。」
家光が口にした言葉に、ディーノは驚いたように目を丸くした。
勘に過ぎないと口にしているくせに、その言葉にはどこか確証が含まれていたのだ。
「家光……アンタ……」
「ナツの奴……いったいどこに連れて行かれちまったのかね……。きっと奈々も心配してるし、ナツの周りにいる奴らも心配してるよな……」
「………ああ。隼人も武も2人揃ってナツのことを大切に思ってるからな。それに、ナツの先輩って言う恭弥も……あ、いや、恭弥の場合は荒れてるかもな。
アイツ、明らかにナツに対して恋愛感情持ってるし……」
「は?」
「あ、やべ……」
明らかにこれまでの家光とは違う言動に、思わずディーノはその変化に関して言及しようとしたが、攫われた貝の姫君たる少女を心配する家光の言葉に、思わずそれを飲み込んでしまう。
しかし、すぐにそれは焦りへと変わり、鋭い眼光で睨みつけてくる家光から視線を逸らしてしまう。
「おいこらディーノ。そりゃどう言う意味だ?ナツに?恋愛感情を持ってる?ナツの先輩がいる……だとぉ!?」
「ちょ、ま、家光!!今はそれどころじゃね……」
「うっせぇ!!どこのどいつだウチの娘に惚れてる何処の馬の骨かもわからん奴は!!
確かにナツは可愛いししっかり者だし優しいし料理も菓子作りも上手いしとにかく奈々に似て可愛いし魅力的だがな!?
オレの目が黒いうちはどこぞの馬の骨野郎なんかに娘はやらんぞ!?誰だそんな命知らずは!?」
「だぁ─────!!今はそれどころじゃねーだろーがぁ!?今起きてるマフィアの襲撃事件に関しても調べるんだろ落ちつけ─────!!」
それどころじゃないことをわかっているはずだと言うのに、娘の交友関係に関して言及してきた家光に、ディーノは怒鳴りつけながら静止の声を上げる。
─────……これ……オレもナツに惚れてるって言ったら息の根止められねーか……?
表情を引きつらせながら、未だに御乱心の家光に、自身のナツに対する感情がどんなものか言った場合を思い浮かべ、少しばかり顔を青くする。
超直感に関して言及しようとしていたと言うのに、娘可愛さに暴走する家光が落ち着くまで、それなりに時間を有することになったのは言うまでもない。
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イタリアにある一つの廃墟にて、その青年は仮眠を取っていた。彼について回る数人のうち、1人はこの場から離脱している。
廃墟なんかで寝れるわけがない。時間が来たら合流するから放っておけと青年に告げ、どこかへと行ってしまったのである。
残りの3人は青年と同じく廃墟にて休んでおり、寝息を立てていた。
眠っている青年は、しばらくの間は普通に眠っているだけだった。しかし、次第にその表情はひどく歪み、脂汗を流し始める。
……青年は夢を見ていた。
視界いっぱいに広がる赤に生気のない瞳、力なく倒れ込み、中には人だったのかも怪しいほどに原型をとどめていないものもある。
倒れ込む人々は全て青年の方を向いていた。真っ暗闇の空洞のような、悍ましい程の多くの目が、青年をずっと見つめている。
青年の耳には怨嗟の声がとめどなく届き、その思考を塗りつぶし続けている。
お前が殺した、お前がやった、お前が全て壊したのだと。何もかも奪ったお前を許さないと。
繰り返し繰り返し紡がれる言葉は、青年が耳を抑えようとも突き抜けるように響き渡り、青年の呼吸は荒くなる。
そんな彼が最後に聞いたのは……
─────……今、楽にしてあげますよ、先輩?
「!!?」
耳元で囁くように聞こえてきた声に、青年は目を見開いて起き上がる。同時に辺りを見渡すが、先程の声の主はおらず、静寂のみが広がっていた。
それを確認した青年……ランチアは、すぐ側にある壁に寄りかかり、荒くなった呼吸を整える。
「………クソッ……いつになったらオレは…………!!」
この悪夢から解放されるんだ……その疑問に答えるものは誰1人として存在しておらず、未だに明るさを帯びた空のみが彼を見下ろしていた。
「……………。」
自身の両手をランチアは見る。武器を使用するためについていた豆が潰れたあとなどはあれど、映り込むのは肌色に染まった手のひらのみ。
だが、先程の悪夢の影響か、彼の目にその手は赤く染まっているように見えてしまい、憎悪と罪悪感に耐えるかのように、その場で静かに頭を抱えた。
漏れ出そうになるのはうめき声。様々な感情が混ざりに混ざって、精神が崩壊してしまいそうになるのを防ぐために、その場で叫びを上げたくなるような苦しさを帯びた何かに襲われる。
だが、それは今の彼にできなかった。まるで何かに封じられたかのように、叫び声を上げることができないのである。
それは今はいない少年のせいか、それとも自分自身が抑制しているのか、その理由はわからない。
理解したくとも理解できない。考えることを全て抑え込まれているかのように、思考にノイズが走り続ける。
「クソ…………!!」
自身にかかる暗闇の呪縛。本来ならばできるはずのものが、幾つも制限されており、決められた行動しか取ることができない。
なんとか抜け出したいと思っていても、させまいと言うかのように悪夢と闇に囚われる。
「………誰か…………!!」
早くオレを止めてくれ、早くオレを助けてくれ、早く道を照らしてくれ……自身が望むものは全て、彼の口から出ることはない。
マフィアを殺せ……終わるまで死ぬな……その命令を遂行すること……それ以外の行動は、呪縛によって封じられているのである。
「…………」
苦しみから逃れるには、出された命令を遂行するためだけの機械になることしかできない。
命令を遂行することのみが、彼の悪夢を退ける。無論、そのようにしたのは彼を捕える闇の元凶……イタリアから遠く離れた日本で行動を起こしている、かつての孤児だった少年だ。
「…………………。」
六道骸としてマフィアを襲撃し続け、マフィア達を撹乱しろ……下された命令を脳裏に浮かべながら、ランチアは再び目を閉じる。
本来の骸から指定された、大して周りに影響を及ばさない中小ファミリーは、すでにこの手で壊滅している。
わずかに残された生存者達は、一生癒えることがない傷を負い、襲撃した者を知る手がかりとして残されている。
神の域とも言える直感力を持ち合わせているボスが率いるボンゴレファミリーならば、いずれ必ず自分の元に辿り着くだろう……そんなことを考えながら。
「………ここからは、ボンゴレに関係するファミリーの襲撃か。」
思考した中に混ざっていた複数の命令は、すでに次のフェーズへと移行していた。
大した影響力を持たない中小ファミリーを襲撃を終え、手がかりを残してその場を離れろ……これは、骸から出された最初の命令だった。
そして、その命令を遂行した今、彼には次の命令が開示される。それは、骸が調べたボンゴレに関係している小規模のファミリー……それの襲撃を開始しろと言うものだ。
この命令が下されたのは、骸が別行動で日本へと赴く直前だった。
─────……僕は奈月の元へ向かいます。彼女はマフィアになるには心が純粋過ぎますから。
─────……だから僕が彼女を逃すんです。どこまでも遠く離れた場所に。例え彼女を攫うことになろうとも。
─────……それさえできればあとはどうでもいいです。それはあなたにも言えることですよ、ランチア。
─────……なので、これは最後のあなたの仕事とします。中小マフィアを襲撃し、壊滅状態に陥れたあと、ボンゴレに関係しているファミリーを襲撃してください。
─────……一番してほしいことは、それらすべてのファミリーを壊滅ではなく殲滅することではありますが、ボンゴレは侮れませんからね。
─────……一生癒えぬ傷を与える程度で構いません。とにかくボンゴレファミリーに関係しているファミリーを再起不能に陥れ、ボンゴレの勢力を削ぎ落としてください。
─────……あとは……まぁ、中小とは言え、ボンゴレに関係しているファミリーが再起不能になれば、ボンゴレ側も動いてくると思うので、可能であればボンゴレの勢力も削いでくれますか?
─────……ボンゴレが健在なら、間違いなく奴らは奈月をボンゴレのボスにするでしょうし、奈月も踏ん切りがつかなくなってしまいます。
─────……ですが、ボンゴレの勢力がガタ落ちになれば、彼女がボスに就任する前に、そこら中にいるであろうボンゴレの転覆を狙おうとする別の者達が動くでしょう。ボンゴレを潰すために。
─────……そうなってしまえば、奈月に立場を継承することはできなくなりますし、奈月もやっと踏ん切りがつくはずです。沈没寸前の船になど、誰であろうと乗りたくありませんから。
─────……そこまでできたらあなたを悪夢から解放してあげましょう。あとは好きにするといい。
─────……では、僕は日本に向かいます。これまで長い付き合いでしたが、あなたはなかなか使える駒でしたよ。
─────……ああ、そうそう。奈月に関係ある人間が来た時、彼女の身の安全は保障してあると伝えておいてくれますか?
─────……彼女の精神に関しては……別の方向で保障しかねるともね。
─────……彼女は僕だけの桜の花……僕だけの春の陽だまりです。初めて僕が心から求める大切な片割れ……僕にある隙間を埋めてくれる大切な温もりですからね。
─────……誰であろうとも、それを汚すことは許さない。彼女は僕のものです。
─────……例え、あらゆる人間を敵に回そうとも、奈月は僕だけのものにします。その命の灯火が尽きるまで。
「……………。」
あの時に骸が見せた目は、大切な女を想う1人の人間のものだったと、ランチアは少しだけ思い返す。
あそこまでハッキリとした恋慕の目を見たのは、どれだけ遠くの過去だったか……そんなことを考えながら、小さく息を吐く。
“ボンゴレの勢力を削ぎ落とせ”……その命令は、確かに最後の命令だろう。
ボンゴレに属する中小勢力など、これまで襲撃してきたどの勢力よりも強力なものばかりだ。
それを襲撃しろと言うのは、少人数による勢力だけでは到底できるはずがない。
仮にできたとしても、すぐにボンゴレ側が嗅ぎつけて、向こう側の勢力の勢いに押され、そのまま敗戦するしか道はない。
だが、ランチアはそこまで考えたあと、自身を嘲笑するように、しかし、どこか安堵したように、その口元に笑みを浮かべる。
ボンゴレに接敵した時、自身の命は戦闘の末に終わらせることができるだろうと。
それは、諦観し続けた道のりの先にある一つのゴールだった。
どのみち自身は終わりを迎える……最後の命令と言うのは、ある意味で自身を切り捨てると言う骸の答えだったのだ。
だが、ランチアはそれでも良かった。やっと悪夢から解放されるのだから、当然と言えるだろう。
─────……できることなら贖罪を……と思わなくもなかった。だが、これまでやってきたことを考えれば、死を以って償うのもありだろう。
そこまで考えランチアは、もう少しだけ休息を取ろうとそのまま仮眠に移る。
不思議とその時は、いつもの悪夢は見なかった。
沢田 家光
愛娘を見つけるため、ディーノと共に情報を集めていた門外顧問。
かつては出来損ないと称していたはずの超直感が次第に目を開け始めており、9代目から何か大事な役割があるのかもしれないと言われる。
それどころじゃないことはわかっているのだが、愛娘に恋慕を抱く人間の話にかなり敏感で、少しだけ乱心した。
ディーノ
家光と共に情報集めに奔走しているキャバッローネファミリーのボス。
家光の超直感がわずかに目を開けていることを9代目から告げられ、彼の動向を常に見ている。
思わず口にしてしまった奈月に対する周りの感情に家光が過剰反応を示したため、口が裂けても自分も彼女に惚れていることは言えないと察する。
ランチア
1人悪夢にうなされながら、骸の代わりとして動いている脱獄者。
骸が告げた言葉から、彼にとって自分はすでに用済みの域に入っていることを悟り、ようやく足を止めることができるのかと安堵している様子がある。
例え、自身の終わりが碌でもないものであると理解していても……。