最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい 作:時長凜祢@二次創作主力垢
入浴中の桜の花は、今日1日の自分の気持ちや、感じていたことを思い浮かべながら、一つの迷いを芽生えさせた。
それに気づいた藍色は、その口元に静かに笑みを浮かべる。
side.主人公→side.MUKURO.
それぞれで行動を取ることにして、一旦は離れたわたし達。
その足で備え付けの風呂場に足を運んでみると、すでに浴槽にはお湯がはられていた。
どうやら、このホテルは客が部屋に入ることを登録した瞬間、その部屋のお湯がはられるようになっていたようだ。
なるほど……通りでホテルに泊まる時、すぐにでも入ることができるわけだと、少しだけかんがえながら、部屋に上がる前に購入した持ち運びタイプのシャンプーやコンディショナー……ボディソープがセットになっている宿泊キットを使い、髪も体も洗って湯船に浸かる。
沢山歩いたことにより、若干疲れていた足が緩やかに解されていく感覚は久々だ。
「……それだけ、骸と沢山歩いて楽しんでいたってことだよね。」
こんなに楽しいと思えたのはいつぶりだろう……。もう随分と長く感じていなかったような気がする。
もちろん、リボーン達と過ごすことも楽しいことがいっぱいあった。でも、その楽しさとはどこか違っている……どうしてかそう思ってしまうのである。
「……やっぱり、本来の自分でいることができるか、仮面の自分でいるかの違い……なのかな……。」
久々に心から笑うことができた。沢山はしゃぐことができた。
仮面を被る必要がないから、自由気ままに過ごすことができた。取り繕う必要がなかったから息がしやすかった。
まだ、純粋に何もかも楽しめたあの時のように、やりたいことがたくさんできた。
何かを気負う必要が無くて、体が羽のように軽かった。すごく気分が楽だった。
自分を見失うことなく、家族も揃っていたあの時のように。
「………………。」
そこまで考えて、わたしは無言になる。こんな風に何もかもかなぐり捨てて、自由に遊んで笑うことは、元の生活に戻った時、できることなのだろうかと、一つの疑問を浮かべて。
その答えは簡単だ。きっと、元の生活に戻ったら、ほとんどできなくなってしまう。
マフィアのボスという立場に腰を据えるため、きっと、その自由は捨ててしまうのだろう。
大きな組織の上に立つことは、その分責任を背負うことになるから、自由気ままに過ごすことなど、無責任以外の何物でもないから。
でも、わたしはそれでいいと思っていた。御先祖様が残したものは、きっと未来にも残した方がいいし、維持するためならば、きっとわたしは躊躇いなく背負って行く。
そう……背負っていける……はずなんだけど………。
「……………なんか、ちょっとだけヤダな……。」
無意識のうちに紡いだ言葉は、これまでの自分からは考えられない言葉だった。
ジョットさんが残したもの……それを守るためならば、大きな責任も背負っていこうと思っていたはずなのに、自由に楽しむ生活を経験して、自分を隠す必要がないこの時間を、捨ててしまわなくてはならないという事実は嫌だった。
残されたものは維持しないと……その考えは間違いじゃないけど、何か違うような気がした。
それは本当にわたしが望んでいることなのだろうか?マフィアを継ぐ未来は、本当に自分がやるべきことなのだろうか?
そもそもマフィアなんて存在を知ったのはつい最近だ。1年前に突然知ることになってしまった話だ。
本来ならば知るはずのなかった組織のはず。本来ならば、わたしが継ぐ必要なんてなかったはずなのに、ボンゴレの血を引いている最後の人間がわたしだからという理由で、候補として挙げられてしまったにすぎない。
「……本当にこれは、わたしがやらないといけないことなの?わたしじゃないとできないことなの?」
一度浮かべてしまったら、次々と出てくる疑問。
血縁だからという理由で、ボンゴレを継げと言われているのであれば、それは別に父さんでもよかったはずなのに、どうしてわたしの方に流れて来たの?
父さんが断ったの?父さんが相応しくなかったの?わたしの方が相応しいの?
多くの人と触れ合って……他愛もない話をして過ごして、最後は笑って終われたらって……最初はそうやって生きて来たはずなのに、結局何かを背負わされるの?
……なんで、わたしは………
「……普通の女の子として過ごせないのかな………。」
考えてみればずっと疑問を浮かべるべき問題だったと今なら思う。
本当なら普通の女の子として過ごして、なんの変哲もない本当の日常って奴を過ごすはずだったのに、後から出て来た事実の数々のせいで、わたしは思考を放棄していた。
それならば仕方ない……昔から口癖のように使って来た言葉。
マフィアのことだってそうだ。自分の方に話が回って来たから仕方ないで色々済ませて、ひたすら敷かれたレールを歩いていたようなものだ。
本来ならば選べるはずだった自分の道……それを一本にされたと言ってもおかしくないことだったのに。
─────……あなた自身はどうしたいのですか?
骸に言われた確かな疑問……よくよく考えてみれば、歩いていた道に、わたしの意思はあったのか……。
「……余計なことは考えないようにしていたのに、骸と一緒に過ごしていたからかな?
本来ならば抱いてもおかしくなかったはずの疑問を思い出した。」
わたしがやりたいことは何?
本当にマフィアのボスになることが、わたしのやりたかったことなの?
だとしたらこのまま歩けばいい。気にすることなく歩き続けて、たどり着くべき玉座へと到達すればいいだけの話だ。
でも、疑問を浮かべてしまうということは、本当にわたしがやりたかったことではない……という証明にならないだろうか?
わたしが歩きたかった道は何?
わたしがやりたかったことは何?
わたしが目指そうとしていたものは?
どんな生活をしたかったの?
……わたしはまた、自分の意思を放棄してるんじゃないの?
「……責任は確かにある。責任は全うすべきものだし、途中で投げ出すような無責任なことはしたくない。
でも……この責任って、わたしが自ら背負ったもの?それとも周りに背負わされたもの?」
自分の願い……本当に求めていたものは、骸に告げたもので間違いはない。
でも、何か見落としてしまっているような……他にも思い描くものがあったような……そんな気がしてならない。
「……わたしのやりたいこと……歩きたい道は…………?」
ポツリと呟き、言葉を失う。わたしは……わたしが……歩きたかった道ってなんだっけ……?
本当にマフィアになることだったかな……?
「……小さい時は警察になりたいと思っていた。リョウ達の影響もあったけど、何より警察になれば、どこか放って置けない母さんを守ることができるから、確かになりたいと思っていた。
でも、それはもう叶えることができない。父さんが裏の世界の住人の1人……マフィアに関わる人間だとわかってしまったから。
ああいう立場の人は、親族の中にマイナスの経歴を持つ人間が存在していたら、なることができないものだから。
だから警察にはなれない。でも、マフィアのボスになることが、わたしの道かと問われたら……正直言って、違う気がする。」
確かに、目指してはいたけど、自分の意思が明確に存在していたのかと問われたら……わからないとしか返せない。
「…………ごめんね。みんな。」
様々な疑問、沢山の迷い……歩いていたはずの道筋が、暗く闇に塗り潰される。
自分勝手な気がする。無責任な気がする。だけど抗いたいような気もするし、この歩みを止めて、別のことをしたい気もする。
なんともひどいボス候補だ。中途半端に投げ出して、このまま終わりたいと思うなんて。
小さく溢れた謝罪の言葉。それは、わたしに様々なことを教えてくれた人達や、期待してくれた人達へと向けたもの。
だけど、それを聞く人なんていない。今この場にいるのはわたしだけ。
そう思っていた。そのはずだった。
だけど、わたしのこの迷いは、黄昏と青天を持つ彼の元にも届いてしまっていた……。
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side change MUKURO.
千種との連絡を済ませ、桜奈と泊まることになった部屋の方へと戻る中、繋がりを通して届いた彼女の迷い。
それに気づいた僕は、その場で足を止め、繋がりの先にいる桜の花の方角へと目を向けて口元に笑みを浮かべる。
どうやら、上手くいったようだ。彼女を甘やかすだけ甘やかして、本来ならば存在していたはずの彼女の自我を芽生えさせる……桜奈を確実に僕のものにするために、なんとしても達成したかったことだった。
桜奈の記憶を見る限り、彼女は明らかに周りのせいでマフィアのボスへと至るための道を歩かされているようだった。
ボスになるに相応しい才能がある、誰よりも強いボスになれる……ことあるごとにそう言われ、英才教育としか言いようのない環境に置かれていた彼女は、次第に複数あったはずの道を閉ざすようになってしまった。
責任感の強さや、周りに影響をされやすい、真っ白な絵の具のような女性である彼女には、自身の環境に疑問を抱くという自我……当たり前のようにあるはずのそれが欠落していたのである。
ならば、疑問を抱く程の自我が生まれたら、悪癖となっていた諦観を一気に覆せるのではないか……その答えはすでに目の前にある。
「……ようやく目を覚ますことができたようですね、桜奈。」
甘やかすことに徹して正解だった。彼女のやりたいことを少しずつ引き出し、それを叶えるという行動は、間違いではなかった。
最初はかなり心配したものだ。自分自身の声を聞くことは、少しずつできるようになってはいたが、それでもやはり、彼女自身の声は小さ過ぎて、なかなか自身が置かれていた環境に対する疑問を抱いてくれなかったのだから。
しかし、今は確かな疑問と迷いをその内に抱き始めている。決められた道に縛り付けているその足枷を外す準備が整い始めている。
「全く……随分と長い寝坊をかましてくださいましたね。当たり前のようにあるはずだった自我が抱く疑問……それを引き出すまでかなり時間がかかってしまいました。」
マフィアのボスになること……それが正しい道だと認識し、ひたすら線路の上を歩くことに対する疑問は、かなり大きな枷の緩み。
少しでも緩みを広げることができてしまえば、あとはそれを壊すのみ。
「責任感の強さや、あなたの真面目さは評価します。それは、簡単に身につけることができる程、軽くはありませんから。
ですが、その責任感の強さと真面目さに影響されて、道を閉ざしてしまうことは大きな間違いです。
確かに、世の中には責任が溢れており、真面目なあなたはそれをしっかりと全うするし、それは正しいことかも知れません。
でも、他の世界に向けるはずの目を盲目にしてしまうというのはおかしなことでしょう?」
─────……あなたの目の前には沢山の世界が広がっており、沢山の道筋が存在しているのですから。
ようやく目を覚ました桜の花の自我に、安堵の息を吐く。これでやっと、本格的にあなたをこちら側へと迎え入れるための準備が整いました。
あとはあなたが望むだけ。広い世界を見ていきたいという言葉を引き出すだけ。
それを引き出すことさえできれば、マフィアの世界からあなたを完全に隔離して、遥か遠くへと連れ去ることができる。
……僕の目的を一つ果たすことができる。
「あなたの心を奪うのは、そこからでも十分できること。だから、まずはよく考えて、何が正しいのかを見つけてください。
もし、その過程でもっと遠くへ行くことを選ぶというのであれば……広い世界へと飛び出したいと願うのであれば……僕はどこまでもついていきますよ。
あなたと共に見る広い世界は、きっと、今日見た景色以上の色鮮やかな輝きに溢れているのでしょうね。」
自身でもわかってしまう程に、穏やかな甘さと温もりを含む声音に一瞬だけ目を丸くする。
しかし、すぐにその驚きは笑いへと塗り替え、僕は自身の胸元へと手を置いた。
「……このような自分の声を聞くのは初めてですね。きっと、あなたからの影響を、僕も知らず知らずのうちに受けていたのでしょう。」
誰かと共に過ごしていれば、共に過ごしていた相手の方へと少しずつ似て来るとはよく言うが、まさかこうまで早く影響を受けるとは思いもよらなかった。
しかし、これはこれでどこか心地良く、不思議とあなたの温もりに包まれている感覚に陥る。
……その感覚に抱かれながら、僕は一つの望みをその場で口にした。
「……桜奈。このまま僕をあなたの温もりで染めてください。僕もそれと同じくらい、あなたのことを染め上げましょう。」
互いに相手を染め上げて、2人一緒に広い世界へと飛び出す……そうすればきっと、僕達はもっと明るい方へと行けるはずですから。
それに、互いに相手に染められてしまえば、必然的に共にいることになるでしょう?
ずっと一緒に歩き続けて、時には歩き疲れることもあるかもしれませんが、その時は一旦寄り添うように、その場でゆっくり休めばいい。
「そういえば……桜奈は、僕に何色のイメージを抱いているのでしょうか……。
僕自身は黒のような気がしますが、同じなのか違うのか……。髪の色からいくと、藍色ですけど……。」
もし、藍色と思われていたら、ますますあなたを染めたくなりますね。
周りの色に影響される真っ白な絵の具のような存在ですし、藍色と白を混ぜたら、晴れやかな青天になりそうでしょう?
互いの色が交われば、青空のような蒼になる……それって素敵なことでしょう?
「少々クサイかもしれませんが、染まりやすいあなたを僕のアイで染め上げることで青天になるのは、ある意味僕らの未来を指し示しているような気がしませんか?
今はまだ、トンネルの中を歩いているようなものですが、その先には晴れやかな空が広がっている……僕は、そんな風に思ってしまうんです。」
まぁ、少しばかり恥ずかしいので、これは桜奈に言えませんがね……。
あまりキザな言葉は、僕には似合わないと言いますか……何度かキザなことを言ったような気もしますけど。
「……桜奈。どうか僕を選んでください。マフィアの道を歩むのではなく、広い世界を見たいと望んでください。
僕の望みは……願いは……僕が1番求めているものは……あなたがそれを望むことで、初めて叶えることができますから。」
ああ……トンネルの先にたどり着いた時、満開の桜の花が咲いているのもいいかもしれませんね。
もしも、本当に遠くへと……2人で遠くへと行けるのであれば、その先で穏やかに過ごせるのであれば……
「……満開の桜の花を沢山見ることができる、景色のいい場所で暮らしてみたいですね。
きっと、そこでの生活は、これまでの嫌なことを全て忘れて、どうでもいいと思える程の幸せに溢れていると思いますから。」
だから桜奈。早く僕だけの桜の花になってください。
僕だけが傍受することができる、僕だけの春の陽だまりになってください。
「その時は必ず、僕があなたを誰よりも幸せだと笑えるような女性にしてあげますから。
どうかそのまま、周りに歩かされていた道を切り捨ててください。あなたの本当の幸せは……その先の世界にはありませんから。」
桜奈に対する感情が、大きくて重たい物であることは自分自身でも理解している。
ですが、僕はもはやあなたから離れることなどできない程に、あなたに囚われてしまっているんです。
でも、桜奈に囚われているというこの状況は、不思議と心地良くて、手放すことなどできない状態になっているんです。
「……ねぇ、桜奈。どうか僕の手を離さないで……永久に共にありましょう。僕はもう……桜奈と一緒にいない自分の姿を思い描けなくなっているんです。
ええ……あなたの言う通り、僕はかなり弱くなってしまったのでしょうね。ですが、それでも僕は、あなたと一緒にいたいんです。」
少しの間目を伏せる。あなたに迷いが生じたことに、どうやらかなり興奮してしまったようだ。
自身が抱いていた桜奈に対する数多の感情を、このようなところで口にしてしまうのですから。
「……せっかく迷いを生み出すことができたのですから、これまで以上に慎重に……しかし、あなたの意思で僕を選んでくださるように、沢山の触れ合いが必要ですね。」
最後に決めるのはあなた自身ですが、沢山の道を用意して差し上げましょう。
安心してください。沢山の道を作り上げるのは得意ですから。かつて、黒曜中学校の生徒会長を勤めていた彼にそれを歩かせて、至るべき道へと背中を押した実績もあるんですよ?
ああ、でも、桜奈には彼の時のように、一本の道を歩かせるなんてことは致しません。それではマフィア共と何一つ変わりませんからね。
ただ、道標をいくつか置いておくだけです。ヘンゼルとグレーテルがやったように。
その道標を目指すか否かは、全てあなたの思うままに。僕はそれを尊重しますから。
─────……まぁ、マフィアの道だけは全力で潰させてもらいますがね。
桜奈(沢田 奈月)
骸と共に過ごした1日を振り返り、その身に迷いを発生させてしまった転生者のマフィアボス候補。
これまでの道に、わたしの意思は本当にあったの……?ただ、そう思っていただけじゃないの……?
わからない……わたしが歩くべき道は……?わたしのやりたいことって何……?
六道 骸
実は桜奈を甘やかすという行動に、確かな意味を持たせていた脱獄中の幻術士。
彼女の身の安全は保障するが、精神には何かしらの影響を与えておくという言葉には、彼女の自我の覚醒による迷いの発芽という意味が含まれていた。
桜奈に自身を染め上げて欲しい……桜奈を自分が染め上げたい……永久に手を取り離れずに、2人で広い世界へと飛び出して、穏やかな暮らしに身を落とすこと……それが彼の最終的な目的だった。
しかし、彼女に対する彼の想いには、何一つ偽りは存在しておらず、全ては彼の本心である。