最強の愛され系ボンゴレ♀は、今を全力で楽しみたい   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 桜の花の記憶の旅に身を任せる藍色は、記憶の桜に寄り添うように、流れゆく景色に目を向ける。
 少しでも抱きしめて、その傷を癒せたらと何度も思いながら……

 MUKURO side.

 桜の花の過去 苦しみの記憶と温もりの記憶


桜ノ記憶 温モリ抱ク哀桜

 自身の声と温もりを届けることができない歯痒さに、何度も拳を握りしめながら、学生であった時から、すでに精神が摩耗していた桜奈に寄り添うように、桜奈の記憶を辿っていく。

 あれから彼女は何度も記憶の中で期待と絶望を交互に浴びながら、前世の世界を歩んでいた。

 どれだけ頑張っても父親は自身と母親を重ね、周りからは期待を乗せられて、彼女の心は少しずつ押し殺されるようになっていた。

 周りなら自分を見てくれている……父親は見てくれないけど、周りだけでも見てくれるなら、失敗するわけにもいかないと、周りの期待に答えるように、彼女は努力を惜しまなかった。

 

 しかし、やはり辛いものはあったようで、彼女は学生という立場を終えると同時に、父親の元から離れるようになった。

 頭が聡く、自身の容姿が母親によく似ていることを理解していたために、自身が父親の側にいては、父親を苦しめてしまうだけだと思いながら。

 そんなことはないと伝えたかった。だが、そのように桜奈が考えてしまう程に、彼女の父親は、彼女と言う個人を見ることがなかった。

 

 ……社会に出て、父親から離れた彼女は、泣くことが少なくなった。

 社会に出てから知り合った者達と言葉を交わし、共に過ごすことにより、父親が自身を見てくれないと言う現状から抜け出せたからか、幾分か気持ちが楽になったらしい。

 それはそうだと考える。自立したことにより、父親が自身と母親を重ねると言う現状がなくなったのだから、気が楽になるのは当然だ。

 これならば自身は周りに見てもらえる……自分を見てほしいと言う渇望を、唯一の肉親に満たしてもらえなかった彼女にとって、周りから見られる現状は、何よりも気が楽だっただろう。

 だが、そんな彼女を狂わせる原因が、その会社にも現れた。

 

『すみません、小鳥遊さん!この書類なのですが……』

 

『小鳥遊さん。この仕事なんですけど……』

 

『小鳥遊さん!すまない!少し手伝ってもらえるかい?』

 

 周りから呼ばれる彼女の苗字。仕事ができてしまうと言う彼女の長所が、仇になった瞬間だった。

 彼女が入った会社は、あまりにも能力の低い人間が集まりすぎている場所だった。

 仕事ができる人間も、それなりにいたようだが、それ以上に仕事があまりできない者が多かったのだ。

 

 普通に考えたら、すぐにでもやめたくなる程に散々な場所……しかし、桜奈はそんな場所であっても気にすることなく……いや、むしろ、自身に目を向けてくれる人間が多くいると言う環境下であったがために、次々と能力の低い人間の手を貸していた。

 もちろん、1人で何でもかんでも回せるはずはないため、彼女なりに新人の育成を行って、その負担を本能的に避けていた。

 しかし、それであっても彼女の能力の高さに縋りつく者は絶えることがなく、彼女も手助けを止めることはしなかった。

 

 ……彼女の能力は正当に評価され、早い段階で立場は上へ上へと上げられていく。

 その分仕事も増えていき、彼女は確かに疲労を感じていた。だが、それよりも自身に手を伸ばしてくる人間を放って置けない性格が上回り、誰よりも仕事ができて、誰よりも優しい上司へと変貌していった。

 “理想の上司、小鳥遊桜奈”……彼女に新たなレッテルが貼られてしまった瞬間だった。

 

 新たな立場に縛られて、徐々に雁字搦めになってくる茨により、彼女の自我は封じられていく。

 仕事ができて、優しい理想の上司……そのレッテルに相応しい存在へとなるために。

 例えその道が、自身が壊れてしまう道だとしても……。

 

 大きなひび割れが視界に映る。彼女の精神はすでに、押し殺してはならない量の苦しみを抱えていた。

 

 

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 景色が代わり、新たな記憶が姿を見せる。それは、彼女が一人暮らしをしている家の景色だった。

 記憶の中の彼女の様子がおかしい。明らかに嘔吐しているようだった。

 いったい何があったのか……心配しながら辺りを見渡すと、机の上に重ねられている贈り物が視界に映る。

 歩み寄ってみれば、それは誕生日プレゼント。カレンダーへと目を向けてみれば、彼女の誕生日であり、彼女の母親の命日の日が記されている。

 

「まさか……っ」

 

 慌てて僕は、記憶の彼女を探し出す。彼女の姿は洗面所にあり、水が流れ続ける流し台の側で俯いていた。

 

『……はは。何やってんだろ……わたし……。』

 

 苦し気な声音で言葉を紡ぎ、その場にしゃがみ込む桜奈。すぐに彼女の側により、無意識のうちに彼女へと手を伸ばすが、すぐに僕は手を止める。

 この世界は桜奈の記憶の世界。いくら声を彼女にかけようとも、触れようと手を伸ばそうとも、それらは全て届かない。

 

『……誕生日は祝わなくていい……母さんの命日だからって、さっさと言えばいいのにね……。』

 

 しかし、彼女はそれを決して言おうとはしなかった。自分の身の上を話したら、確実に周りの人間に不快な思いをさせてしまう……暗い気持ちにさせてしまう……そのようなことにはしたくない……周りの人間を想うがゆえに、自身だけが我慢してしまえばいいと考えてしまっているために。

 

「なんで……そんなことまで我慢してしまうんですか……あなたは……っ」

 

 タガが外れた自己犠牲……誰にも迷惑をかけたくない……誰にも暗い気持ちになってほしくない……暗い気持ちが辺りに降りてしまったら、父親の姿を思い出してしまうから……。

 それは、ある種の自己防衛のためだった。悲しむような目は見たくない、その目は嫌なことを思い出す……それならば、どれだけ辛いとしても、どれだけ苦しみを味わったとしても、周りにはそれを悟らせないように、周りにマイナスな感情を抱かせないようにしなくては……流れ込む彼女の強い諦観に、僕は思わず歯を食いしばる。

 “そんなことまで我慢しなくていい”と、口にすることができたなら、届けることができたなら、彼女を止めることができるはずなのに、それは結局無意味にしかならず、吐き出したい言葉を飲み込んだ。

 

『……大丈夫……大丈夫だよ。誰もいないこの部屋で、吐き出すものを吐き出せば、明日にはいつも通りのわたしになれるから。

 みんなには悲しい思いをさせない。暗い思いをさせたらダメだ。部下にも上司にも、心配させたらダメだ。

 そんな感情を覚えさせたら……また、周りから暗い目を向けられてしまう……。

 もう……父さんが見せていたような暗い目は…………っっ』

 

 自身に言い聞かせるかのように言葉を紡いでいた桜奈は、再び流しに嘔吐してしまう。

 もう2度と暗い目は向けられたくない……光のある目だけをみていたい……頑ななまでの彼女の望みが、ひび割れていく世界に広がっていた。

 

 

 …………………

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 また……記憶の景色が変わる。

 彼女の精神体に触れるまで、僕はどれだけの記憶を見ることになるのだろうか……。

 疲弊してきた自身の精神に、少しだけ吐き気を覚え始める。それでも僕は、彼女の記憶を辿り続けた。

 少しでも多くの彼女に触れて、彼女にどのような環境を与えるべきかを見極めるために。

 

 その記憶は、夜が色濃く映る景色とは違い、明るい景色へと変わっている。

 相変わらず諦観が広がっているようだったが、この景色に含まれているのは、それだけではないようだ。

 

『話を聞いてくださりありがとうございます。此度の取引は、とても有意義な取引となりました。』

 

『こちらこそ、鷹坂グループと取引ができたこと、心より感謝いたします。お忙しい中、わざわざ時間を工面していただいて……』

 

『お気になさらず。弊社にとってもプラスになるとわかっていたので、時間を作ったまでですので。では、これからよろしくお願いいたしますね。』

 

 記憶の中に現れたのは、今の桜奈としての肉体である、沢田奈月によく似た金糸の髪と、薄氷を思わせるアイスブルーの瞳を持つ青年と、顔がわからない中年ぐらいの男……そして、スーツを身に纏い、やるべきことをこなしている桜奈の姿だった。

 

 金糸の髪の青年と、中年ぐらいの男は、どうやら仕事の関係で取引をしていたようだ。

 そして、桜奈はその取引のために、秘書のような仕事をこなしていたのだろう。

 彼女の能力の高さを評価していた会社のため、彼女がそのような立場に抜擢されるのも当然であると言えるかもしれない。

 

『それにしても……あなたが連れてきた彼女は、とても仕事ができるのですね。あなたの秘書の方ですか?』

 

『いやいや、彼女は秘書ではありません。何度か秘書として昇進しないかと誘ってはいるのですが、なかなか頷いてくれなくてですね。』

 

『ほう……。では、なぜ彼女がこの場に?』

 

『それが、お恥ずかしながら、私の秘書が流行病にかかってしまいまして……。健康に気を遣っていた者ではあったのですが、どうやらクラスターに巻き込まれてしまったようで……。

 そのため今回は、特例として彼女に秘書の役割を担っていただいていたんですよ。』

 

『なるほど……。それは災難でしたね。』

 

『ははは。ええ。まぁ、確かに大変でした。彼女が快く引き受けてくださって安心しましたよ。』

 

 “このまま本当に秘書になっていただけると嬉しいのですが”……と呟き、桜奈へと目を向ける中年男の目は、明らかに邪な光が宿っていた。

 桜奈もそれに気づいているのか、一度だけ中年の上司へと目を向けたあと、張り付けたような笑みを浮かべる。

 

『そのお話は受けることができません。わたしにも部下がおりますし、今の秘書の方の方が、社長のことをよくご存知なのですから、浮気するような発言はよくありませんよ?』

 

 誰でもわかってしまう程の猫撫で声と、感じ取ることができる不快感。

 それでもなお、彼女は笑顔を見せながら、自分よりは今の秘書の方が何倍もいいと告げている。

 

『相変わらず手厳しい……!私としては、小鳥遊さんも十分秘書としてやっていけると思うのだがね。』

 

 桜奈の猫撫で声と笑顔により気をよくしたのか、中年の上司は笑いながら、引き下がるように桜奈の秘書の適性を説く。

 そのことにどれだけ寒気を感じていようとも……どれだけ吐き気を覚えようとも、彼女は愛らしい部下を演じている。

 

『……オレから見ても、君は素敵な人だと思うよ。もし、興味があるようであれば、オレの会社に来ないかい?

 君ならば、こちらの会社に来ても問題なく仕事をこなせると思うし、君が望む仕事があれば、すぐにそれを当てがうこともできる。

 無論、オレの秘書になってくれても構わないよ。どうだろう?悪い話ではないと思うのだけど……。』

 

『え?』

 

 そんな中、紡がれた突然の言葉に、記憶の桜奈は呆気に取られたような表情を見せる。

 感じ取れる感情は、驚きと、期待、そして、わずかに感じ取ることができる懐かしいと言う感情。

 なぜ、懐かしいと言う感情を抱いたのか、一度だけ僕は桜奈の記憶を探る。

 それにより見えたのは、大学と思わしき教室の景色と、横に並んで座っている、桜奈と目の前の青年が、挨拶を交わしている姿だった。

 しかし、その記憶は一瞬にしてガラスのように砕け、再び先程の会社の景色が視界に広がる。

 

 桜奈が抱いた驚きと期待……それはきっと、今いる場所から離れるためのきっかけが、姿を現したからだろう。

 彼女も本当は、今いる現状から逃げ出したかったのだと、すぐに僕は理解できた。

 それならばいっそ、逃げてしまえばいい……その背中をすぐにでも押したくなる衝動に駆られる。

 

『はははは!鷹坂社長も人が悪い!確かに彼女は類稀なる仕事処理能力を持ち合わせており、周りに気配りすることを得意とし、優しく優秀な社員です。

 そのような力を持つ彼女に目をつけるところは流石ですが、彼女はこちらの重役の1人ですし、責任感も強い子なんです。

 引き抜かれてしまっては困りますな。なぁ、小鳥遊さん?』

 

 しかし、彼女の上司である男が、桜奈が何かを言う前に、さっさと言葉を紡ぎ、作業をしていた彼女へと目を向ける。

 その瞳には、責任感が強いお前ならば、このような話に乗ったりはしないだろう?と言う明らかな圧力が含まれており、その目を見た桜奈は、一瞬だけ空気を詰まらせる。

 だが、すぐにそれは作られた笑に塗り替えられ、一瞬にしてその動揺は消されてしまった。

 

『……そうですよ、鷹坂社長。わたしは今の立場に不満は抱いていないんです。

 能力を評価してくださったことや、是非ともうちにと言ってくださったことは、嬉しく思いますが、こう見えてわたしは主任の立場を与えられております。

 流石にそのような立場を与えられていると言うのに、投げ出すわけにもいきません。』

 

 笑顔を見せながら言葉を紡ぐ桜奈。しかし、その言葉の中には感情がどこか含まれておらず、機械的に紡いでいるようにしか見えなかった。

 だが、そんなことすら気づかずに、圧をかけて同調を促した彼女の上司は、満足げな表情を見せて、ほら見ろと言わんばかりの雰囲気を纏う。

 青年のアイスブルーの瞳に宿る桜奈に対する心配と、桜奈の上司に対する怒り、そして、軽蔑の光に気づかずに。

 

『そう。それは残念だ。オレならば、君に合った仕事を与えることができると思ったんだけどね。』

 

 ゆっくりと座っていたソファーから立ち上がり、言葉を紡ぐ金糸の青年……鷹坂(たかさか) 秋良(あきら)と呼ばれる一つの会社の取締役は、諦観に塗り潰された瞳をしている桜奈に近寄り、彼女の手を優しく持ち上げたのち、その手の甲へと唇を落とす。

 

『それならば、プライベートではどうだろう?君さえ嫌でなければ、仕事以外での繋がりを得たい。

 ……オレは君に惚れているんだ。例え君が覚えていなくとも。』

 

 愛おしい人を見つめる穏やかな目を向け、桜奈へと言葉を紡ぐ鷹坂秋良。

 まさかの言葉に桜奈は驚き、黒の瞳を丸くする。同時にあたりに広がったのは、悲しみすらも打ち消すかのような、穏やかで温かな喜びだった。

 

 

 

 




 六道 骸
 桜奈の記憶を辿りながら、精神の疲労を感じ始めていた記憶の旅人。
 苦しい記憶がほとんどで、記憶を辿ることしかできない自分自身に歯痒さを覚えていたところで、一つの温もりの記憶に触れる。

 小鳥遊 桜奈
 仕事ができる能力の高さが仇となり、本来ならば抱え切ることなど不可能な程の精神疲労を抱え込んでいた奈月の前世。
 しかし、どれだけ抱え込もうとも、理想の上司と言うレッテルに見合った自身を作り上げ、ずっと生活し続けていた。
 周りが暗い感情を抱かないように……二度と父親から向けられていた、暗い感情を宿した瞳を向けられないようにするために、自身の生い立ちを隠し通す。
 そんな生活を送る中で秋良と出会い、彼女の生活は少しずつ変わっていく。……変わっていく……はずだった。


 鷹坂 秋良
 もう一つの名を、フェリクス・アキラ・レオンハート。
 日本人の母親と、フランス人の父親の間に生まれた青年で、母親の会社、鷹坂グループの若き代表取締役。
 桜奈が勤める会社との取引で桜奈と出会い(再会し)、自身の想いを告げて、手を差し伸べる。
 全ては彼女を助けるため……彼女を幸せにするために……。


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